感想、じゃんじゃんお願いします。
一夏は今、IS学園の一年一組の前に立っていた。
窓から教室の中が覗け、中にはこれから始まる学園生活に期待で胸を膨らませる女生徒達がいた。
その中でキビキビと動き、授業を取り仕切っているつり目の女性が目に付いた。
彼女の名は織斑 千冬。
一夏の実の姉であり、IS世界大会の第一回優勝者にしてISの世界最強の称号、『ブリュンヒルデ』の称号を持つ女性である。
二年ぶりに見た姉は変わっていなかった。
一夏は千冬を見ながらそう感じた。しかしそれだけである。
二年ぶりに再会する家族に、一夏は感動のかの字も感じてはいなかった。
一夏の中で千冬はもう家族『だった』人であり、一夏には家族と呼べる人はいない。
別に千冬が悪いわけではない。ただ一夏には、もう復讐すること以外はどうでもよく感じているのだ。
負い目も何も無い。ただ、関心がない。それだけ。
「おや、どうかなさいましたか」
一夏に付き添いで来たのは、この学園の事務員をしている轡木 十蔵だ。
この老人の妻がこの学園の理事長だが、実質上はこの老人が学園を仕切っている。
そのことは既にネルガルで調べ済みであり、一夏はこの老人を学園のトップとして認識している。
「いや、なんでもない」
そう一夏は何の感情も見せずに答えた。
本来ならば敬語で話さなければならないことだが、一夏は敬語では話さない。
あまり敬意といったものにも関心が無いからだ。
十蔵に促され、教室の扉が開いていく。
一夏は開いていく扉を見ながら、少し前のことを思い出していた。
それは学園に行く手続きをしているときの書類手続きの時だった。
「あれ? 名前は本名でいいのかい?」
デスクで書類に目を通していたアカツキは一夏の入学書類を見てそう一夏に聞いてきた。
入学の書類の名前の欄には『織斑 一夏』の名前が書かれている。
アカツキが聞きたい事は一夏にも分かっていた。
二年前に行方不明になった人物がいきなり表に現れても大丈夫なのかと。
下手に騒がれて一夏のことが表に出たら一番困るのは一夏本人だ。
だからこそ、アカツキは一夏の偽名を考えていた。
要は『男性操縦者が動かしているのは我が社の商品だ』ということをアピールしたいのであって、名前はあまり関係ないのだ。
だからこそ、アカツキは一夏に聞きたいのだ。どういうことなのか、と。
一夏は淡々と話し始めた。
「別に本名だろうが偽名だろうが俺のやることは変わらない。ただ・・・・・・アカツキにはそれなりに感謝もしてはいる。だからこそ、本名にした。ネルガルのISを使っているのは、『あのブリュンヒルデの弟』だということにすれば、更に箔も付くだろう」
「恩返しのつもりかい?」
「彼奴等を殺さないと返せそうにない。だから前金だ」
そう一夏は言いながらアカツキを見て口元で笑みを浮かべる。
しかしそれは歪んだ笑みにしか見えず、むしろ恐怖すら抱かせるものになっていた。
「それにな、アカツキ。あの頃の俺はもう死んだんだ。ここにいるのはその残りカスだけだ」
そうアカツキに告げ、一夏は会長室を後にした。
アカツキはそんな一夏を見て、
「あまりなれないことをするもんじゃないよ、一夏君」
と内心少しだけ感謝した。
一夏はその時の事を少しだけ思い出した。
我ながらに可笑しな話であり、馴れないことはするものではないと思った。
しかしアカツキに恩があるのは事実であり、それはいつか返そうとは思っている。
その前に返せる状態ならばの話だが・・・・・・
その可能性も含めて、前倒しで少し返しただけだ。そこはきっちりしたいと一夏は考えている。
そして扉が完璧に開かれた。
「織斑先生、山田先生、急ですが急遽入った入学生を紹介します。どうぞ、入って下さい」
そう十蔵に促され、一夏は一年一組の扉を潜った。
「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」」
一夏の姿を見て、皆息を呑む。
理由は単純、この学園では有り得ない存在である『男』だからだ。
「「ッ!?」」
そして別の理由で驚愕する者が二人。
織斑 千冬と、一夏と幼馴染みだった篠ノ之 箒の二人。
もはや会えないと思っていた人物に会ったことで驚いた箒と、二年前に行方不明になった弟がいきなり現れたことに驚きを隠せない千冬。
特に千冬は一夏の姿を見て、言葉を出せなくなっていた。口からは、「ァ・・・ァ・・・」としか声が出ていない。
「彼は急遽見つかった『世界初の男性でISを動かした』人だよ。混乱を避けて世界には報告していないですがね。下手に報道すると彼の命や人権が危険ですから」
十蔵は皆を納得させるために一夏について説明し始める。
当然十蔵も本当のことを知って協力しているのだ。
十蔵の紹介を受けて一夏が教壇の前に立つ。
女子達は本来なら、テンション高めに叫ぶ・・・はずだった。
しかし一夏の自己紹介を聞いて出来なかった。
「・・・・・・織斑・・・一夏だ・・・よろしく・・・」
あまりの無表情にそう淡々と一夏は、まるで人形のように見えて、不気味だった。
そのあまりの不気味さに、女子達は口を噤んでしまった。
(な・・・・・・何で・・・一夏!?)
千冬はそう言いたくて仕方なかった。
周りの混乱の中、それでも一夏は何も感じない。
新しい学園生活への期待も、もしかしたらあるかもしれない恋愛への期待も・・・・・・
一夏にあるのは、ただ『北辰への復讐心』のみ・・・・・・