インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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推薦して下さったことは嬉しいのですが、流石に作品事態を貶されて推薦されるのはちょっと……と思ってしまいます。
まぁ、確かに自分は下手ですが。


第三十七話 夏休みの過ごし方 一夏の場合

 簪が実家で自分の気持ちに気付いていたころ、織斑 一夏はというと……

燃えさかる何処ぞの研究所で一人立っていた。

闇夜を照らす炎の明かりが辺り一面を照らし、一夏の顔や体を明るく照らしていた。

その体や顔は真っ赤に染まっている。

それは血だ。まだ乾き切っていないのか、足下には垂れてきた血がポタポタと落ちて地面を赤く染めていた。

しかし、それは一夏の血ではない。返り血である。

それがどこの誰の血なのかは、言わなくても一夏の後ろで燃えさかる研究所を見れば分かるだろう。

一夏は振り返り、研究所を少し見てその場を去って行った。

 

 

 

 臨海学校の騒動の後、一夏はネルガルの研究所で『いつもと同じ』ように目を覚ました。

北辰達との戦いではいつも死にかけてばかりであり、ネルガルの人間にとっていつものことであった。

いつもと同じ真っ白な天井を少し見つめた後、一夏はベッドから起き上がる。

そしてアカツキに連絡を取り、現在の状況について随一に聞く。

臨海学校から既に一週間が過ぎており、その間寝たきりになっていたこと聞いて一夏は内心で舌打ちをする。

北辰と再び相まみえたのに、もう一週間も時間が過ぎてしまったのだ。既に北辰達が日本を離れ、行方をくらませていることは言うに及ばずだ。

しかし、いつまでもそのことに囚われていても仕方ないと判断してこれからのことを考える。

幸い、ブラックサレナの修復は既に終えているとの報告は受けていたので、すぐにでも動くことは出来る。

まずは修復されたブラックサレナの試運転と慣らしが必要と判断し、一夏はブラックサレナを受け取りに行った。

 そして地下研究所に付き次第、ブラックサレナを受け取って試運転を開始。

一週間ぶりに展開したブラックサレナは元通りになっていた。

研究所の外で飛行し、異常がないかチェックしていく。

一夏はその飛行において、違和感を感じていた。

 

(何だ? ……反応が鈍い?)

 

一夏の反応にブラックサレナが追いついていないような感じを受けたのだ。気がするだけであり、そこまで酷い誤差はないのだが。

念の為にステータスチェックを行うも正常である。

一週間ぶりに飛行しているから感じている違和感だろうかと判断するも、やはり違和感が消えない。

それを感じたままに急上昇や急停止、アクロバティックな機動をして確かめていく。

すると突然、目の前に黒い何かが現れた。

いつもなら避けられたかもしれない。

しかし、一週間ぶりに動かす体とその違和感のせいで一夏の動きはいつも通りには動かせなかった。

結果、センサーにも察知しなかったそれを一夏は避けることが出来ずそれに飲み込まれてしまったのだ。

中は暗闇であり、何も無かった。

その中をひたすらに進んでいると、奥に一つだけ光を見つけた。

その光に向かって行くにつれて明るくなっていき、そして目の前が真っ白になった。

その光が収まると共に目の前に広がったのは、見慣れたIS学園であった。

しかし、周りの風景が違く周りの気温も違っていた。

一体何が起こったのかは分からない。だが、一夏は取り乱すことをしなかった。

ボソンジャンプの訓練をしていた時、度々転移先を間違えてしまうことがあったからだ。

今でこそまずないが、当初は結構取り乱していた。

しかし、今回一夏はボソンジャンプをしていない。ならば何故IS学園に移動しているのか?

先程の黒い何かが原因であることは予想が付く。

取り合えず一夏はこの場所が何処なのかをちゃんと知るためにを飛行して辺りを調べ始めた。

そして大体分かったことが時期の違い。

今、このIS学園は冬を迎えているということだった。

そのことに疑問を感じながら更に辺りを調べ、そして見つけた。

自分と同じ姿形をした人物を。

何が何やらと分からなかったが、まずは調べることにした。

そして結果、その人物が自分と同じ人物であることが分かった。

それが時間の疑問と結びつき、一夏の中で答えが出た。

 

それは……ここが違う世界で、自分とは違う織斑 一夏がいる世界だということ。

 

滑稽だが、それが一番近いと一夏は確信した。

その理由までは分からない。だが、目の前でどこか楽しそうに笑っている織斑 一夏を見ていると苛立って仕方なかった。同じ織斑 一夏なのにここまで違うということをまざまざと見せつけられた気がした。それが一夏には許せなく思えた。

そして同時にもう一つ気になることがあった。

それはこの織斑 一夏からは何とも言えない威圧感を感じることであった。

それは一夏の知る限り、ツキオミなどから発せられる威圧感に近い。

つまり強いということだ。それならば、目の前の織斑 一夏はどれだけ強いのかを知りたいと思ったのだ。

だからこそ、仕掛けた。

結果、一夏の予想以上に強かった。

一対一の戦いにおいてISではない別の兵器を使ってきたが、それ自体の運用方法は単純な物だった。だが、その馬力や近接戦での手管はかなり凄かった。

それがあの謎の兵器の性能とは思えない。あの躍動感のある動きは人間だからこそ出せる物だと判断した。つまりツキオミと同じように何かしらの武術をやっているということだろう。

腹を大型レールカノンで撃ち抜いても、怯まず此方に攻撃をしかけようと言う気迫。その鬼気迫る迫力はまさに武人のそれだ。

その堂々とした姿が一夏には眩しく見え、同時に疎ましくも見えた。

だからこそ、消し去りたいと思い仕掛けようとしたら突如他から声を出され中断。

中断させたのは、全身装甲のこれまた見たことのない兵器であった。

一夏は即座に大型レールカノンを撃ち込むが、寄りにも拠ってその兵器は素手でその砲弾を此方に撃ち返してきたのだ。

誰が高速で飛んでくる砲弾を素手で打ち返してくると予想しようか。

そんなことはあの北辰でさえ不可能だろう。

これにはさすがの一夏も呆気にとられてしまった。

そんなことを平然とやってのける相手が此方に近づいてくるのだ。一夏はすぐに顔を引き締めて距離を取ろうとする。

だが、その兵器の操縦者が何かを叫び手を上に上げると、そこから重力異常が発生してブラックホールが出来上がった。

その吸引力に捕らわれそうになるのを何とか堪えようとする一夏。

そのため、動きが止まってしまった。それを見計らってか、敵はその技を解除。

そして一夏の目の前から消えた。瞬間に体に走る衝撃に驚いたが、その時には既に目の前が真っ暗になっていた。

一体何が起こったのか、一夏は全く分からなかった。

 そして最初の時と同じように光を見つけそこに向かって進んでいった結果、元の研究所の敷地内に戻っていた。

時間を確認するも、あの黒い何かに巻き込まれる前から殆ど変わっていない。

それにより白昼夢かと思われるかもしれないが、機体に刻まれた損傷がさっきのことが現実だと証明する。

一夏にとって、この出来事はさらに力への渇望を起こさせることとなった。

 

 

 

 その後、研究所に戻ったら研究員から何事かと驚かれたが一夏は何も言わなかった。

実際にISの記録媒体に一夏が経験したことは一切何も記録されていなかったからだ。

一夏は慌てふためく研究員を尻目にアカツキにブラックサレナの改修をさらに進言した。

それを受けてアカツキはやれやれだと呆れ返っていたが、素直に頷き周りの研究員にその指示を出す。その改修プランに全員一夏の正気を疑ったが、元から狂っているといってもいい一夏に何を言っても無駄であった。もうネルガルでは常識になりつつあることである。

アカツキはそのプランを見て愉快そうに笑い、一夏のプランを進めることにした。

改修に掛かる期間は二ヶ月近くであり、それまではブラックサレナは使えない。

一夏はそのことを了承する。

 ではその間何をするのかというと、ネルガルシークレットサービスの手伝いであった。

主にネルガルの敵となる相手を裏から処分する部署。

ここで一夏は夏休みの全部を過ごすことにした。

違法研究をしている研究所やらに襲撃をかけ、その情報を入手すると共に研究所を人員もろとも処分する。

一夏はあの出来事以来、その仕事を一人で引き受けてきた。

ボソンジャンプを使い研究所内に潜入。

その後はエステバリスのセンサーを使い中にいる人間を片っ端から殺してまわる。

 

「や、やめろっ! 殺さないでくれ!!」

 

そう命乞いをしてきた人間も数多くいた。

しかし、一夏はそれを聞き入れない。

より自分という刃を研ぐために、より甘い感情を消す為に。

 

何も言わずにその引き金を引いた。

 

全ては北辰を殺す為に。ただそれだけを考えて。

そうでなければ、一夏は一夏としての全てを取り戻すことができないから。

 

そうしながら一夏は研究所にいる全ての人間を殺し、研究所に火を付けて去って行った。

 

 

 

 これが……織斑 一夏の夏休みの過ごし方であった。

 

 

 

 

 


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