インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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第三十三話 追撃開始

 全てを巻き込み破壊し尽くす大爆発が起こり、基地は文字通り『壊滅』した。

辺りは建物の影一つ無く、瓦礫だけがその場を埋め尽くす。燃えさかる炎は全てを焼き尽くし、周りの全てを灼熱地獄へと変えていた。

全てが消滅した世界。何者の生存をも許さないその空間。

そんな空間の中、一部の瓦礫の山が急に崩れる。

崩れた瓦礫の山から、一つの影が起き上がった。

真っ黒い体に悪魔を連想させる翼と尾。周りの風景と合わせればまさに地獄の風景にぴったりだろう。

その悪魔の体はあちこちに罅が入り、一部からは赤い液体が流れぽたぽたと地面に垂れる。

少しふらつきつつその悪魔は立ち上がる。

そう、この基地にいる北辰達を殺しに来た一夏は立ち上がり辺りを確認する。

一夏が来た時の状態と比べ、明らかに違う風景に何があったのかを悟る。

そして時間に目を通すと、襲撃から随分と時間が経っていた。

一夏は襲撃が失敗したことを理解し、内心でかなり苛立つ。相手として取り合わせることも出来なかったのだ。簡単にあしらわれたと言っても良い。

その事実を苛立つなと言うのは無理な話だ。だが、いくら苛立とうとも事態が変わるわけでもない。

一夏はすぐに頭を切り換え帰投しようとしたが、動こうとした瞬間に体がいきなり倒れた。

段々と動かなくなっている体にそれでやっと気がつく一夏。

その時に通信が入った。

 

「一夏君、大丈夫かい? ついさっきそこの基地が自爆したって報告受けたんだけど」

 

アカツキがいつもと変わらないにやついた笑顔で一夏に話しかける。

その様子から一夏が生きていることは分かっているだろう。

一夏はアカツキに言われてから改めて機体のダメージチェックおよび、自身の体を調べる。

 

『機体中破。推進機関に問題は無いが、装甲が一部大破状態。生体に関して……腕や足、体に中度の火傷。各所に裂傷。腹部から刺傷、現在流血中』

 

 との報告結果が上がる。

流石はブラックサレナと言うべきか、丈夫に出来ている。通常のISならとっくに破壊されているだろう。一夏の体が即入院しなければならない程度で済んだことからも、ブラックサレナの防御力が窺える。

一夏は腹部の方に目を向けると、そこには黒い破片が突き刺さっていた。

サイズは40センチくらいで、そこから今も血が流れ出ていた。

それがブラックサレナの装甲だと気付くと、一夏は無造作にその破片を引き抜いた。

抜いた途端に、そこからおびただしい量の血が噴き出した。

常人なら痛みに悲鳴を上げるだろう。だが、痛覚のない一夏は声一つ上げない。

傷口からは未だに血が流れる。一夏は傷口に手を当てると、ブラックサレナに搭載されている生体応急措置プログラムを起動させる。

ブラックサレナに積まれているのは何も武器だけでは無い。

傷口などを塞いだりするための薬剤なども搭載されており、このプログラムはそれを使い生体の損傷を無理矢理に塞ぐ。あくまで応急であり、動けるようにするための最低限度の措置だ。

これの御蔭で今まで北辰との戦いから撤退することが出来てきた。

一夏の体のあちこちにある傷に何かが塗られていく。

塗られた後の傷からは血が一切流れず止血されていく。一夏は自身の体の状態を看終わると、アカツキに返答する。

 

「…………問題ない……」

 

何の感情も感じさせない声で淡々と一夏は答える。

とても怪我人とは思えないほどに、その声はしっかりとしていた。

 

「まぁ、君ならそう答えるだろうね。早速だけどね……少し面倒臭い事になったんだけど……」

 

アカツキは一夏がそう答えることを既に予測していた。

それを踏まえた上でさっそく新しい情報を報告する。

 

「君の襲撃が失敗したのは基地の自爆で分かってる。それで何だけど~、ちょっと面倒な事態になっちゃって。その基地にあった『シルバリオ・ゴスペル』が奪われちゃってね。別にこれは良いんだけどさ~、それが何と僕達がいる旅館に高速飛行で向かって来てるんだ。どうせ彼奴等の気まぐれだと思うんだけどさ。今から帰っても良いんだけど、エリナ君が帰ったら休暇は終わりだって言うんだよ。せっかくの休みをこんなことで潰されるのは流石に我慢がならないね。まぁ、君が仕留め損なったのにも一端があると言えばある。簡単に言えばまだ僕は休暇を満喫したいから、責任もって潰してきて」

 

アカツキが笑顔であっけからんとそう一夏に言う。

常人ならふざけるなとキレるところだが、一夏は何の感情も浮かべずに返答した。

 

「…………了解…………」

「うん、君なら絶対にそう言ってくれると信じていた。そういう訳で、後よろしく~」

 

アカツキがそう言うと、通信が切れた。

そして次にエリナから通信が入る。

 

「会長がわがままを言ってごめんなさいね」

 

エリナは少しだけ申し訳なさそうに一夏に謝る。一夏はこれを特に感謝するなりすることもなく、無言で聞くだけであった。

そしてエリナは表情を真面目な顔に変えると、一夏に改めて話しかける。

 

「ではこの後の話をするわよ。現在、通称『福音』は此方に向かって高速で飛行中よ。このまま行けば、あと3時間で此方に到達するわ。その前にあなたには福音を破壊してもらいます。今回、相手が常に移動中の為ボソンジャンプは使えないわ。有り難いことに、貴方には今回の作戦前に渡した強化パッケージ『高機動ユニット』があるわ。これなら超高速での飛行が可能になり、今からでも福音に追いつくことができるわ。これを使って」

 

 エリナから指示された通りに、一夏は追加されたパッケージを展開する。

途端に体が横に倒れるが、視界はISを通して真っ直ぐに正面を見る。

一夏は新たに加わったパッケージの情報に目を通していく。

追加されたパッケージによって、ブラックサレナの体は更に巨大になった。

翼のような大きなスラスターが更に追加され、頭の部分には機首のような物が取り付けられている。

腕は更に動きづらくなっており、真下にしか動かないようだ。

全体的に見て、それはもう人型ではない。航空機のようなシルエットをしていた。

これがブラックサレナの新たなる追加パッケージ『高機動ユニット』だ。

元々は敵の集団などに強襲をかけるための使い捨て装備として開発されたが、その異常な出力は単純に飛行するだけで現状あるどのISよりも群を抜いて速い。

 一夏はさっそくPICを使って浮遊し始めた。

機体は横になったまま浮かび上がり、空に飛び立とうとしている鷹のように待つ。

 

「時間はあまりないわ。遅くなるとIS学園側が動き出す。旅館に接近しているんだから、動くのはこの旅館にいる専用機持ちになるわね。そうされると、余計旅館が慌ただしくなるの。会長はそれを望まないわ。すぐに終わらせて」

「……了解…」

 

エリナは一夏にそう言い、通信を切った。

そして一夏はブラックサレナのスラスターに火を入れ、発進した。

その瞬間、まるでブラックサレナは解き放たれた凶鳥のように大空に飛び出していった。

 

 

 

 その頃、千冬達は海辺でISの訓練を行っていた。

日付は変わり、臨海学校は2日目に突入。臨海学校の2日目は専用機持ちが国から送られたパッケージや武器の試運転などをし、通常の生徒はいつもと違う環境でのISの運転などがメインとなる。

その際、授業に篠ノ之 束が乱入し混乱が起こった。

彼女は妹の篠ノ之 箒の為に『第4世代型IS』を持ってきた。

そう彼女は公言し、それによって騒ぎはさらに酷くなっていく。

その後、箒は束から第4世代IS『紅椿』を無理矢理受け取らされ、フィッティングを開始。

そして紅椿の試運転をそこで行い、その性能をその場の皆に見せつけた。

 それに驚いている最中、真耶が凄く慌てた様子で千冬に駆け寄る。

そしてその場に聞こえないように真耶は小声で千冬に緊急事態を話すと、千冬は表情を厳しいものに変え、生徒達に授業の中止を宣言。緊急事態に基づき専用機持ちを集め、ミーティングを始める。

その様子を見て、束は焦り始める。

 

(あれ、何で!? 確かにハッキングしてこっちに持ってこようとは思ってたけど、速すぎる!? 一体だれが!!)

 

 束は妹の晴れ舞台の為に戦う相手を用意しようと考えていた。

最新式のISに乗った箒が、このアクシデントの元凶である敵を見事に打ち倒す。

そう言うシナリオだ。ただし、流石に装着して間もないのでは流石に心配だったので最終日の朝に行おうと画策していた。だが、それがよりにもよって第三者が勝手に束が操ろうとしていたISを奪い此方に向かわせてきたのだ。

何の意図があってのことかは分からないが、予定外のことになってしまった。

それが束には非常に困るのだ。

 こうして、箒は新しいISと共に、専用機持ち達とミーティングに参加し作戦した。

 

 

 

 その頃、束が持ってきた紅椿の様子をモニター越しにアカツキは見ていた。

 

「ふ~ん…あれが篠ノ之博士が作った第4世代機ね。なんだ、この程度なの? これなら家の『ブラックサレナ』の方が上だね。やっぱり……人を信じていない者が作る物は駄作だね」

 

アカツキは皮肉を込めて、見ていたモニターにそう語りかけていた。

 

 

 

 

 

 


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