インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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第三十話 兎来訪

 アカツキ達が部屋を出てから少し経ち、一夏は少し旅館を歩くことにしてみた。

事前に旅館の情報は調べてあるが、やはり実際に見てみなければわからないことも多くある。

有事に際し、それを知っていると知っていないでは全く状況が違くなるのだ。調べておいて損はない。

 そのまま旅館の外の通路を歩いていた時にそれは起こった。

通路から少し離れたところに、少女が少し屈み何かを見ていた。

一夏はそれを見た瞬間に歩みを止める。

その少女は……簪であった。

簪はそこにある何かを不思議そうに眺めていたが、一夏の視線に気がついて振り返った。

 

「あ……織斑君……」

 

一夏の姿を見た瞬間、簪は会えたことに笑顔になった。

その笑顔は純真過ぎて、今の一夏には眩しく感じた。

流石にこう会ってしまっては避ける訳にもいかず、一夏は簪の方に歩いて行った。

それを見て簪は嬉しさと別の感情によってドキドキと胸を高鳴らせていた。

一夏が側に来たのを確認して、簪は見ていた物の方に視線を向けて一夏に聞く。

 

「これ……なんだろう?」

 

簪が見ていた物に一夏も目を向ける。

 

そこには……ウサミミが地面に刺さっていた

 

勿論、生の耳ではない。機械で作られたらしいメカニック的なウサミミである。

当たり前の話だが、まったくもって意味が分からない。

本来の用途がそうだから刺さっているのか、そうではなくたまたま刺さっているのか? 故意に刺したのかそうでないか?

それらが全くわからないのだ。

だが、一夏にはこのウサミミに少し見覚えがあった。

二年以上前に、ある人物が似たような物を身につけていたことを思い出したのだ。

それを思い出した瞬間、頭の中にISからの接近警報が鳴り響いた。

丁度今一夏達が立っている地点の真上、上空1800メートルから落下してくる物体を確認。

落下速度算出、数秒後にはここに落ちてくる。

 一夏はそれを理解した瞬間、簪の手を掴み凄い速さで自分の胸の方に抱き寄せる。

 

「ひゃっ!? お、織斑君!?」

 

 驚く簪を気にせず、一夏は簪を抱えたままその場からバックステップで少し距離を取る。

その後すぐに、そのウサミミが刺さっていたところに何かが落下してきた。

凄い衝撃に旅館が揺れ、もうもうと土煙が辺りに充満した。

衝撃の度合いから、結構なサイズの物が落下してきたのだろう。

一夏は簪に被害が出ない様に自分の後ろで庇うようにし、右手の袖から拳銃を出した。

一夏が銃を取り出した瞬間に、落下地点からけたたましい音が鳴り、そして一夏に向かって何かが飛びかかってきた。

 

「会いたかったよ~~~、いっくーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」

 

土煙の中から何かの人型が飛び出した。

簪はいきなりの事に息を呑んで怯んだが、一夏は無表情に右手を動かして殴るように銃口をその人型の頭部だと思われる部分に突き付けた。そのまま引き金を引こうとすると……

 

「待って待って、撃たないでーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

そう人型は両手を挙げて言って来た。

一夏がその言葉に反応すると同時に、辺りに満ちていた土煙が晴れてきた。

そして認識した。

一夏が銃を突き付けた先には、ピンク色の長い髪をした女性が両手を上げていた。

二十代後半くらいの年齢で、ニコニコとした笑顔を浮かべている。服装は歳に全く会わず、何やら衣装臭い。そしてその歳の女性にしては平均を遙かに超えるほどに胸が大きかった。

簪はそれを見た瞬間、少し暗い顔になった。それを一夏が気にすることは全くないのだが。

 一夏は目の前の人物が誰なのかを理解した。だが、照準は外さず、引き金から指も離さない。

一夏はいつでも撃てるよう構えながらその女性に聞く。

 

「…………何の用だ……篠ノ之 束……」

 

 一夏がそう言った女性。

それは、ISの産みの親である篠ノ之 束博士であった。

一夏とは、一夏が小学生の時に千冬との繋がりで知り合った。箒の実の姉でもある。

ISコアを467個作った後、自ら出奔し行方をくらませた変人である。

 一夏は久々にあった知り合いに、それでも全く感情を動かさない。

そのまま無表情に銃口を突き付けたまま動かない。

そんな状態だというのに、束はまったく気に留めずに一夏に言う。

 

「ひっどいよ、いっくん! 私はいっくんに久々に会えて嬉しいだけなのに~」

 

束は自分の状況などまったく気にせずにぶうたれ頬を膨らませる。

一夏はそれを見て自分がやっていることがバカバカしく感じてしまい、銃を下ろした。ただし、しまいはしない。いつでも撃てるようにはしておく。

そんな一夏を見て束は気分を良くしたのか、抱きつこうと一夏に飛びついたところ、また額に拳銃を押しつけられ断念した。

それすらまったく気にせずに束は言った。

 

「もうっ、本当に心配したんだからね~! いっくんは二年前に行方不明になっちゃうし、私でも行方が分からないってどれだけだよって感じ! その後も探してもまったく見つからないしさ~。ちーちゃんなんか危うく自殺しかけて大変だったんだよ! それで調べ続けてたら何! 今年IS学園にいきなり入学してきたじゃない。 すぐにでも会いに行きたかったけど、うるさいのが多くて動きづらくてさ~~」

 

 捲し立てるように束が笑顔で言うが、一夏はまったく聞く気も無く聞き流していた。

そして束は言いたいことを言い切ると、一夏から一歩離れた。

 

「まだまだいっくんと一杯話したいことがあるけど、この後も用があるから、バイバ~~イ」

 

そう言って凄い勢いでどこかに消えた。

それを一夏は確認すると、簪から手を離し、また旅館を調べる為に歩き始めた。

 簪はと言うと………

 

(織斑君に抱きしめられちゃった………)

 

そのことで頭が一杯になり、顔がポスト以上に真っ赤になっていた。 


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