インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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第三話 復讐の始まり

 一夏がエステバリスをしばらく眺めていた後に、今度はアカツキから別の説明が来た。

 

 「これ、何だと思う?」

 

 そう言ってアカツキは一夏の前にあるものを出した。

それは水色をした結晶体で、見た感じ水晶のようなものであった。

 

「何なんだ、これ? 只の水晶にしか見えないが」

「そう見えるのは仕方ないねぇ。いいかい、これは世紀の大発見の代物だよ。それこそISよりも凄い代物さ」

 

 そう勿体ぶった言い方をアカツキはするが、一夏はあまり興味なさげにしか反応しない。その反応があまり面白くなかったのか、アカツキは真面目な顔になって説明し始めた。

 

「これは我が社で研究中の『チューリップクリスタル』という代物だよ。略してCC。こいつはねぇ・・・空間移動を可能にする超技術の塊さ」

 

 自信満々に言うアカツキの説明を受けて、一夏は理解が追いついていなかった。

いきなり空間移動と言われても、そう簡単に理解出来るものではない。イメージとしては分かるが、あくまでもそれは漫画などの絵空事であり、実際に想像しても思い浮かばないのだ。

 

「む、その顔は信じてないなぁ。よし、では試しに使ってみよう。織斑君、これを持ちながら、そうだな~・・・あの端っこに行くイメージを強く持ってみて」

 

 そう言われアカツキからCCを渡される一夏。

取りあえず一夏は言われたとおりにこの部屋の端っこのイメージを強くしていく。

するとCCが光り始めた。

 

「する必要は無いんだけど、こっちのほうがイメージしやすいでしょ。行くときは『ジャンプ』て言ってみて。それで跳ぶから」

 

 言われた通りに一夏は口にした。

 

「『ジャンプ』」

 

その瞬間にCCの輝きが強くなり、一夏の視界が真っ白になった。

そして一夏は青白い光とともに・・・・・・消えた。

そう思った瞬間に、今度は部屋の端っこに青白い光の粒子が集まり人の形になっていく。

そして集まりきった瞬間に、それは一夏になった。

気がつけば一夏の視点は部屋の端っこからさっきまで立っていた場所へと変わっていた。

 

「え・・・・・・・・・」

 

 そのことに驚きを隠せない一夏。

アカツキはそんな一夏の表情を見て愉快そうに笑う。

 

「つまりこういうことさ。やってみてわかったでしょ、これが空間移動。僕たちはボソンの関係からボソンジャンプと呼んでいるけどね」

 

 アカツキが言っていること何とか理解する一夏。

ふと手に違和感を感じて見てみると、CCが無くなっていた。

 

「アカツキ、CCが無くなっているんだが」

「ああ、そうだよ。ボソンジャンプはCCを消費して行うからね」

 

 なるほど。

そう一夏は納得する。

 

「確かに凄い技術だな。これならISよりも凄いかも知れない。これなら世界を変えられるかもしれないな」

「そう何だけど、そうも簡単にはいかないんだよねぇ~これが」

 

 素直に関心している一夏にアカツキはばつが悪そうにそう応える。

 

「どういうことだ?」

「それがね~、実はこれ、使える人が限られてるんだよねぇ」

 

 そうアカツキが呆れ返るように言う。

 

「君が連中に拉致られた理由は知ってるよねぇ。寧ろこっちの方が連中の本題かな、『ある特殊な性質を持つ者を研究』。それがこの、ボソンジャンプを出来る者の研究なんだ。ボソンジャンプを出来る人間にはある特殊な性質があってねぇ、これを持つ者じゃないと出来ないんだよ。僕たちも連中もこれの研究をしているってわけ。どこで知ったのかは知らないが、連中は君にその性質があることを知って君を拉致し研究してたのさ。僕達はこの性質を持つ者を『ジャンパー』もしくは『ナビゲーター』と呼んでいる。ジャンパーにはランク付けがされてて、君は一番上のA級ジャンパーだ。だから奴等の拉致の対象になった」

 

 アカツキにそう言われ、一夏は何故自分が拉致されたのかをはっきりと知ることが出来た。

だからこそ、より北辰への憎しみが深まる。自分にそんな性質があったことも知った後では憎くて仕方ない。しかし、そんな性質があろうとなかろうと、こんな目にあったのは北辰達の組織のせいだ。だからこそ・・・・・・

 

(許さない、絶対に許さない! 殺してやる!!)

 

 アカツキは、そんな憎しみにより更に復讐に執念を燃やす一夏を見て、内心では少し申し訳無く感じる。

 実は一夏に話した情報にはいくつかの誤りがある。

ボソンジャンプは空間移動では無い。『時空間移動』である。

空間から空間へ移動するとき、実は少し時差があるのだ。そしてそれは意識すれば、過去でも未来にでも跳べる。そんな凄い代物を研究はしているが、発表出来ない。そんなことをすれば、それこそIS以上の騒ぎになり、下手をすれば世界が滅びかねないのだ。また、ボソンジャンプは実は意識しなくても跳べはする。これを『ランダムジャンプ』という。ただし、その場合は『どこのいつ』に飛ばされるか分かったものではないのだ。過去の実験では事故が起き、二週間前のアメリカに飛ばされた者も居る。危険過ぎて表には出せない代物だ。しかし研究は続け、ネルガルの役に立つようにはしたいとアカツキは考えている。

 そして・・・・・・もしクリムゾングループに拉致されていなければ、此方がやる予定だったのだ。

ただ違うのは、此方は強引にではなく協力を申し込む形で来てもらうだけで、実験内容はそこまで変わらなかったかも知れない。

 そのことはアカツキの中で死んでも墓に持って行くことにしていた。

 アカツキはその後も簡単にボソンジャンプの説明をすると、またエステバリスの方を向く。

 

「このエステバリスは実験試作機でね、フレームをCCに近い材質で作ってあるんだ。だからボソンジャンプも可能なんだ。ただし、戦闘中にボソンジャンプは危険だから、逃げるための奥の手だって考えておいてくれ。それ以外にも、この機体には色々と試験的なものが多く仕込んであるから、これらのデータも取ってもらいたい」

 

 アカツキの言っていることに一夏は理解して頷く。

テストパイロットとしてこの話を受けたのだから、戦うにしろ、ちゃんとデータは取れ、ということだ。一夏にとっては北辰と戦えれば何だっていい。

 

「問題無い」

 

 そう答えると、アカツキもそう答えた。

 

「わかった。ではテストパイロットをよろしく頼む」

 

 一夏はこうして自身の刃を手に入れ、復讐を開始した。

 

 

 

 操縦と訓練に一年の月日を費やした。

一夏はエステバリスを手足のように扱えるように成長した。

訓練を挟んでネルガルの裏仕事にも積極的に参加し、多くの人を殺し、どのような状態、状況下でも人を殺せるようになった。

 そして・・・・・・やっと北辰と戦える時がきた。

ネルガルの情報網を使って、北辰達の任務地先を特定することに成功した。

 一夏は逸る気持ちを落ち着け、外で北辰達が施設から出てくるのを待ち構えた。

そして五分後、北辰達が出てきた。

事前情報で聞いていたIS『夜天光』と『六連』。クリムゾングループが一夏の時のデータを用いて開発した、男用のIS。

 その姿を見た瞬間、一夏の頭の中は弾けた。

 

「ホォオオクゥシィィイイイイイイイイイイイイイイインッッッッッ!!!」

 

 復讐出来る喜びと憎しみによる狂喜の顔を浮かべながら、一夏は夜天光へと突撃していった・・・・・・

 

 

 

 そして約もう一年後。

 

「研究所内にボソン粒子反応! ボソンアウトします!!」

 

 ネルガル本社の地下研究所に悲鳴に近い声が響いた。

このことを言った研究員は最近配属になったばかりの者であり、この緊急時に慌て返っていた。

しかし周りの研究員は平常にしていた。彼等には毎度のことであった。

慌てる研究員の言った通り、研究所の中央にボソンの光が現れ、集まり始めた。

そしてそれは集まり姿を現した。

 それはこのネルガルで開発したIS、エステバリスである。

ただし・・・・・・原型が分かりづらいくらいの破壊され尽くしていた。

元々はショッキングピンクの色をした装甲が、殆ど色を見られないほどに焼け焦げていた。

装甲という装甲はひび割れ、ミサイルで爆撃された後が数多くあり火花をあちこちからちらつかせていた。足の先や腕の先など、操縦者に当たらない部分が破壊され、無くなっていた。

 そんなボロボロのエステバリスを量子変換による解除でなく、強制解除で解除して這い出る人物がいた。

 その人物も機体にたがわずボロボロで、額から血を流し、かけていたバイザーが半分以上割れていた。少し出たあと、その人物は床に倒れると咽せだし、血を吐き始めた。

 

「一夏君、また、みたいだね」

 

 そんな重傷人に、まるで散歩にいくかのように気軽に声をかけてきたのはこのネルガル重工の会長である、アカツキ・ナガレだ。

 

「・・・・・・・・・うるさい・・・・・・」

 

 ボロボロで血を吐きながらも、そう淡々とこの人物、織斑 一夏は言う。

まるで怪我などしていないかのように、痛みなど感じていないかのように。

 一夏がエステバリスを使って北辰達に戦いを挑み、約一年が経った。

その間に仕掛けた回数は七回。

そのすべてを一夏は負けていた。

そのたびにエステバリスと一夏は破壊し尽くされ、ボソンジャンプを用いての離脱による撤退によって生きながらえてきた。

破壊される度に一夏はエステバリスの改修を頼み、今では昔の原型も残っていない。

 一夏はストレッチャーに乗せられながらも、普通にアカツキに聞く。

 

「それよりも頼んだものは出来たのか」

「ああ、完成したよ。あんなぶっ飛んだ代物が使えるとは思えないけど、君なら使いこなせるだろうね」

「使いこなさなければ彼奴等には勝てない」

 

 一夏はそう応えながら医務室へと運ばれていった。

 

 

 

 そして治療を受けて現在はベッドで寝かされている。

アカツキはその病室に気軽に入ると、一夏に話かける。

 

「起きてるかい、一夏君」

「ああ」

 

 一夏はすぐに応えた。

アカツキは少し愉快そうに笑うと、一夏にある発表を行う。

 

「一夏君、約束の二年が過ぎた。それがどういうことかわかっているかな?」

「ああ・・・・・・IS学園に入学しろと言う話か。仕方ない、約束は守る」

 

 一夏は淡々と応える。そこに感情らしい感情は無い。

 

「しかし、俺は北辰を追いかけるのはやめない。彼奴がいるのなら、俺は其方を優先するぞ」

「別にそれでいいよ。君は君でやりたいことをやりたまえ」

 

 アカツキはそう明るめに言う。

一夏はそのことに何の感慨も持たない。

 

「では、来月にはIS学園へ行ってもらうから。学園生活を楽しむといい」

 

 アカツキがからかうように言うと、ここでやっと一夏の顔に表情が出る。

それは『笑み』だ。ただし、そんな軽いものではない、皮肉と自分への嘲笑が込められた笑み。

 

「冗談をいうな、アカツキ。俺にそんなものを楽しむ感性なんか無い」

 

 そう一夏は笑みを浮かべながら応えた。

 

一ヶ月後、一夏はIS学園へと向かった。

 

 


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