インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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気がつけばお気に入りが800を超えていました。
凄く驚きです!!


第二十九話 臨海学校の朗報

 北辰達と再会した一夏は、それ以降簪と会うことは無かった。

簪は一夏を心配して会いに行こうと教室を訪れるが、行ったところで一夏はいない。

一夏は休み時間になる度に、すぐどこかに行ってしまうからだ。

いつも通りに考えれば、簪が来ても無視すればいい。

だが、一夏はそれが出来なくなっていた。

未だに理由までは分からないが、簪のことを少なからず気にしてしまう。

それは、この二年間の自分からは考えられないことだった。

それを自覚すると、怨敵に言われた通りなのかもしれない。

 

『温くなった』

 

そう考えると、簪と顔を合わせるわけにはいかないと思ったのだ。

簪といる時間は嫌いではない。それが……己を温くさせる要因になっている。

一夏はそう判断した。だからこそ、簪から隠れるように教室から離れて休み時間を過ごすのだ。

 

「織斑君………」

 

簪は教室にいない一夏を思いながらそう呟くが、それは誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 そして時間は過ぎて行き、臨海学校となった。

旅館まではバスで行くことになっている。無論一夏もバスに乗り込んでいた。

北辰に会った後、そんな物に参加している暇などないとアカツキに抗議したが、それは通らなかった。アカツキは笑顔でそれを拒否したためだ。

流石にスポンサーでもあるアカツキにそう拒否されては、従わざるを得ない。

それに苛立ちながら、渋々了承することになった。

 仕方なく参加することになった臨海学校。

当たり前のように一夏は楽しむ気などなかった。

水着も持ってきていないし、娯楽品の類いも当然ない。

持ってきている物は、『ブラックサレナ』のペンダントにISスーツ、替えの制服、それと……各種火器類。

これから向かう先に必要がないものばかりである。

一夏はいつでも北辰達と戦えるよう準備を改めてしただけだ。

あの後、一夏はツキオミから聞いたが、北辰が日本のどこかに潜伏しているらしい。

それを聞いて一夏はすぐにでも戦えるようにした。

本音を言えば、今すぐにでも居所を突き止めて殺しに行きたい。

その衝動に駆られるが、それを必死に押さえ込む。

何だかんだと言っても、アカツキの命には逆らえないのだ。

 一夏はそういったどす黒い感情を表に出すのを堪え席に座っていた。

一夏が座っている席はバスの一番前の座席であり、その場所だけ遠足ムードからは遠く離れた雰囲気を放っていた。

 

 

 

 バスでの移動に数時間が経ち、一夏達は臨海学校で泊まる旅館に着いた。

早速出迎えにきた旅館の女将に挨拶をする教員。一夏はその光景に何も思わず、いつもと同じく情報収集をしていた。

千冬は挨拶を終えると、1組の生徒に挨拶をさせる。

 

「本日からお世話になる旅館の方だ。皆、ちゃんと挨拶をしろ!」

 

「「「「「「はーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!」」」」」

 

1組の生徒達から元気良い挨拶が辺りに響き、女将はそれを笑顔で聞いていた。

これも当たり前のことだが、一夏は一切言っていない。

そのまま千冬は旅館での注意事項を生徒達に伝えていく。

 

「今回の臨海学校では、他にも宿泊客がいる。なのでそこまで騒ぐなよ、お前等!」

 

千冬の言ったことに返事を返す生徒達。

明るく楽しそうに返すその返事には、真面目に聞き入れようとする意思は感じられない。

 一夏はそれを無視して勝手に行動を開始する。

別に他に宿泊客がいようとも、一夏がやることは変わらず、意識もしない。

それを咎めようとする者は誰もおらず、千冬は複雑そうな顔でそのことを女将に謝っていた。

 一夏はそのまま自分に宛がわれた個室にズカズカと向かう。

その後の行動は特に決めておらず、部屋で情報収集をするだけだろう。

そして部屋の扉の前に立った途端に、戸を開けるのを止めた。

バイザー越しの視界にISからの情報が加わる。すると、一夏に宛がわれた個室に生体反応が二つ出ていた。

それが何者かは分からない。だが、警戒するには充分であろう。

先程言っていた宿泊客というのはありえないのだ。何故なら、この旅館の作りは単純だ。部屋を間違えることはない。一夏の個室は旅館の端の部屋だ。間違えようが無い。

そして従業員でもない。客が来る時間は把握しているだろう。客が来る時間に従業員が作業していては仕事にならない。そのため、従業員という線も消える。

考えられるのは不審者だけである。

一夏はそのまま制服の袖から拳銃を出すと、扉に向ける。

ISのハイパーセンサーの御蔭で、戸を開けなくても人の位置は分かる。

威嚇射撃をするくらいは簡単に出来る。

一夏が引き金を引こうと力を込めた途端に戸越しの声がかけられ、一夏は中断した。

 

「待って待って! いきなり撃とうとしないでよ!」

 

そう声がした後に戸が開くと、そこにはアカツキが座椅子に座りくつろいでいた。

一夏はそれを見て、拳銃を袖にしまう。

ちなみに戸を開けたのはアカツキの秘書である、エリナ・キンジョウ・ウォンだ。

 

「………何故いる……」

 

一夏はアカツキを見ながらそう聞くと、アカツキは愉快そうに笑う。

 

「いやねぇ~、僕も結構働いているからさ~、たまには休みが欲しくてねぇ~。それで休暇というわけさ」

 

アカツキの言うことを聞いても一夏の表情は何も変わらない。いつも通りの無表情で、何も感情を感じさせない声で答える。

 

「………くだらない事は聞きたくない……」

 

 そのまま荷物を部屋に放り込むと、部屋から出ようとする。

 

「ああ、ちょっと待ってよ! まったく、もうちょっとはジョークも聞いてくれてもいいんじゃないかい」

 

アカツキはわざと慌てた感じにそう一夏に言って来た。無論本気ではない。

そのことに呆れつつ、一夏は内心で溜息を吐く。

そのまま話を聞くために部屋に留まった。

 

「……話は……」

 

そう聞く一夏に、また笑いながら答えようとするアカツキ。それを遮るようにエリナが一夏に説明する。

 

「会長がこの旅館に来たのは、わざわざ君にあることを伝えるためよ。そんな必要は無いと言っているのに、自分で話すと言って聞かないのよ」

「ま、そういうことだね。良い情報と悪い情報、どっちから聞きたい?」

 

そうふざけるアカツキ。

一夏はそれを見ながら平然と答える。アカツキが直に言いたい事ということは、重要な事なのだろうと分かったからだ。

 

「……悪い方からだ……」

 

そう一夏が言うと、アカツキがニヤリと笑った。

 

「まぁ、君ならそう言うだろうねぇ。うん、そうこなくてはね。まず悪い方だが……このIS学園の臨海学校だが……狙われているよ、奴等にね」

 

アカツキが言ったことを聞いた瞬間に、一夏の顔は凄惨な笑みへと変わった。

それは見ていた者ならば、誰もが恐怖で震え上がる程の笑みだった。

アカツキの言う『奴等』。それが誰なのかなど、言うまでもない。

一夏はその情報に心底喜びながらアカツキに聞く。

 

「……狙いは?……居所は分かっているのか……」

「そこまでは分かってないんだよねぇ。ただ、これはツキオミ達から入った情報だから、信頼性は凄く高いよ」

 

一夏の笑みを見てアカツキは実に楽しそうであった。

一夏はそのまま次の情報を聞くことにする。

 

「……良い方は……」

「うん。それはね……ブラックサレナのための追加パッケージが出来たので持ってきたんだよ。これでより戦況に応じることが出来るようになるよ」

 

成る程、と一夏は頷く。

それは確かに良い情報だった。

一夏の使うIS、エステバリス。その強化パッケージとして装着されたブラックサレナ。実はこのブラックサレナに更に装着されるよう開発されているパッケージがいくつかあるのだ。それの一つが完成したらしい。

 一夏はそれを聞いて笑みを深める。

その姿は最早人とは言えない。復讐に駆られた鬼そのものであった。

 その話を聞いた後、一夏はアカツキから渡されたパッケージをブラックサレナにインストールしていく。それはエリナも手伝った。エリナが一緒に来た理由には、これを手伝う意味合いも含まれていた。

そして用が済んだと判断したアカツキ達は部屋を出て行こうとする。

それを一夏は少しだけ呼び止めた。

 

「どうしたんだい?」

 

不思議そうに聞き返すアカツキに、一夏は凄みのある笑みを口元に浮かべながら答えた。

 

「……先程の情報……俺にとっては両方とも朗報だ……」

 

それを聞いてアカツキが満足そうな顔を浮かべた。

 

「そうかい。それは良かったよ」

 

そう言って、二人は部屋を出て行った。

 部屋には一夏だけが残された。一夏の顔は狂喜の笑みに彩られていた。

 

 

 

 

 

 

 


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