インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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第二十四話 パートナー

 一夏が生徒会長である更識 楯無と会ってから三日が経った。

その間、楯無からの接触は一切無い。一夏にとって敵対しなければ問題にはならない。

故に気にも留めず、今まで通りに情報収集に集中していた。

今のところ目新しい情報は出てこない。そのことに若干苛つきつつも、いつものことだと割り切り一夏は過ごしていた。

 その間に簪の稽古に一回だけ付き合ったが、いつもと同じように訓練を眺めているだけであった。

だが、それでも簪は嬉しそうであった。

 そして今、一夏は屋上に来ていた。

いつも通りの情報収集と、アカツキからの連絡が来たためである。

さっそく一夏はアカツキに通信を入れる。

 

「………何だ……」

『おいおい、いきなりな挨拶だね~。いやさ、あの後例の転校生達はどうなったのかな~って思ってね』

 

 アカツキは相変わらず愉快そうな笑顔を浮かべていた。

 

「……何も問題はない……」

『そう? データを盗みに来たり、危うくレールカノンで撃たれそうになったりしてるのに問題ないって言えるのかな?』

「………『問題無い』。その程度、問題にはならない」

「……ぷっ…あっはっはっは、まったく。そうだよね、君はそういう奴だ』

 

 そう言いながら腹を抱えて笑うアカツキ。

一夏にしても、既に知れていることであろうということは予想済みである。

その上で言ったのだ。『問題無い』と。

 

「……わざわざそんなことを言うために通信したわけではないだろう………本題は…」

 

 笑うアカツキを無視して一夏は本題を聞こうとする。

いつも通り、その顔には何の感情も感じられない。

 

『駄目だよ、せかせかして本題に行こうとするのは。女の子にすぐに迫る男は嫌われるよ』

「………………切る…」

『ごめんごめん、冗談だよ。だから切らないで』

 

 冗談を聞く気は無いと意思表示をする一夏に、アカツキは苦笑しながらそれに応じる。

 

『実は追加の情報かな。デュノア社はどうでもいいんだけど、ドイツの方だね。何でも、ドイツの一部が何か実験したいらしく、IS学園に送ったラウラ・ボーデヴィッヒのIS『シュヴァルツェア・レーゲン』に何か仕込んだらしい。どうもこれが違法らしいんだよね~』

「………それで……」

 

一夏はその話を聞いても何も感じてはいない。

いくらラウラが一夏に敵意を向けようが、一夏にとっては敵になり得ない。

それ程に……ラウラは一夏の眼中にない。

故にラウラに何があろうとも、一夏は気にしない。

 

『まぁ、君ならそう答えるだろうね。もうちょっとは驚いたり何かリアクションしてくれてもいいんじゃないかな』

「………必要ない……」

 

 そのまま一夏はアカツキとの通信を切った。

どうせこの後はアカツキが一夏をからかったりするのがいつも通りである。一夏はくだらない話を聞く気が無いので、すぐに切るのだ。

 そのまま屋上で風に吹かれながら情報収集をすることにする一夏。

肌を撫でていく風の感触を感じていく。一夏がよく屋上に行く理由は……もしかしたら風を感じるためかもしれないと、一夏は少し考えた。暑さも寒さも感じない、味も匂いも感じないこの体で感じる唯一の感触、それが僅かに治った触覚だ。それが感じられるのが、この屋上。風が肌を撫でる感触だけが、一夏の感じられる数少ないものであった。

 そう考えながら一夏は風を浴びていく。

相変わらず暑いのか寒いのかは分からない。だが、風は確かにながれていく。それが気持ち良いのかは分からない。だが、確かに肌を撫でていくのだ。

その感触を感じながら情報を集めている一夏の耳に、音が聞こえてきた。

まるで大量の群れを引き連れた水牛の如く、とてつもない足音が階下から聞こえてきた。場所は一夏のいる一組付近のようだ。

 その足音を聞きながらも、特に気にする様子もなく一夏はまた情報を調べようとした。

そうした瞬間、屋上のドアが開いた。

 

「や、やっぱり…ここにいたんだ…織斑君…」

 

 開いた扉の先には、簪がいた。

走って来たのだろうか、息を乱し、顔が少し赤くなっている。

簪は呼吸を整えると、一夏のいる方へと歩いてきた。

 

「…………何か用か……」

 

一夏はそんな簪を見ながらも、いつも通りに何の感情も出さずにそう聞く。

 

「あ、あのね!……そ。その……」

 

 簪は一夏の前まで来ると、顔を真っ赤にしながら手を胸の前でもじもじと動かし始めた。

その手には、何かのプリントが持たれていた。

そのまま少しもじもじした後に簪は決意を固めると、一夏に向き合う。

 

「こ、これ!!」

 

 大きな声で簪はそう言うと、一夏に持っていたプリントを渡す。

一夏は無言でそれを受け取ると、内容を読む。

簪が一夏に渡したプリントの内容、それは……

 

『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的に行うため、二人一組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする』

 

という通知であった。

どうやら急遽決まった話らしい。先程聞こえた足音も何か関係があるかも知れないと一夏は思ったが、考えるのは止めた。あまり一夏には関係が無いと判断したからだ。

一夏がプリントを読み終えるのを確認して、簪は一夏を見つめる。

 

「お、織斑君! わ、私と……ペアになって…下さい……」

 

 簪は一夏にそうお願いしてきた。

あまりの必死さに顔を真っ赤にして、今にも泣き出しそうな勢いであった。

一夏は少し考える。

別にペアだろうが一人だろうが一夏にとって問題は無い。一夏が簪とペアを組む必要はまったくないのだ。

だが……逆に断る理由も無いのだ。寧ろ知らない相手よりも、簪の方が一夏としては気が楽ですらあった。

ではどうするか……結果、

 

「………分かった……その話…受けよう……」

「あっ……」

 

 一夏はそう簪に答えると、さっさと屋上から出ていった。

あまり長く簪と一緒にいては、また楯無に何かしら言われるかも知れないと思ったからだ。

 そして簪は………

 

「っ…………!! やった………」

 

顔が喜びで真っ赤になっていた。

 

 


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