インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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感想まってますよ~。


第二十二話 シャルルの正体発覚。しかし復讐人は気にしない

 放課後にあった騒動もそのままに、一夏は寮の自室へと戻っている。

その際、真耶が来て部屋の調整の件を伝えられた。箒が一夏の部屋から出て行く形となり、箒は何とも言えない表情でこれを受け取り退室した。

今の一夏と一緒の部屋にいることに、箒は精神的に参っていたのだ。

その後は入れ替わりでシャルルが部屋に入るようになり、シャルルは一夏と同室になった。

 

「これから一緒の部屋だね。よろしく、織斑君」

 

 シャルルは一夏に笑いかけながらそう言う。

その笑顔は、女性ならば赤面して喜ぶようなものだが、一夏はそれに反応するわけもない。

何も言わずに一夏はシャルルの言葉を聞きながら無視を決め込んでいた。

誰が同室であろうと一夏にとっては何も変わらず、己がやるべきことも変わらない。

いつも通りに情報を収集するだけである。

 そんな一夏を見ながら、シャルルは苦笑していた。

 

 

 

 それから3日が経った。

シャルルは相変わらず一夏に話しかけては無視され苦笑する日々が続いていく。

たまに簪が来て一夏に話しかける以外は特に変わったことはなく、ラウラの一夏を睨み付ける眼差しに、より殺気が込められている以外はまったく変わらない。

 その日の放課後も一夏はふらっと教室から出て行った。

これを追いかけようとシャルルも動くが、当たり前のように一夏を見失ってしまっていた。

そのまま一夏はどこぞへと消えていく。

シャルルはそのため、焦り始めていた。

 

 

 

 ラウラはその日の放課後、千冬にそれまで溜まっていたストレスと共に願いを叫んでいた。

その願いは単純な話であった……

 

「何故ですか! 何故こんな所で教師など!!」

「何度も言わせるな! 私には私の役目がある、それだけだ」

 

 ラウラは千冬にそう声を荒立てて叫ぶ。

一応場所は考えられているのか、周りに人は一人もいない。

 

「こんな極東の地で何の役目があるというのですか! お願いです教官、我がドイツで再びご指導を……ここではあなたの能力を半分も生かせません!」

 

 これがラウラの願いである。

自身が崇拝する教官に国でもっと自分達を鍛えて貰いたい。それ自体は純粋に綺麗な願いだろう。

だが、その後に出たのは周りの生徒への侮辱的な感情であった。

 

「この学園の生徒はISをファッションか何かと勘違いしている。教官が教うるに足りる人間ではありません! 危機感が全く出来てない。そのような者達に教官の時間を割かれるなど……」

 

 その言葉に千冬はついに我慢が出来なくなった。

流石にこの物言いは流石に不味かったのだ。

 

「そこまでにしておけよ小娘」

「っ・・・・・・!!」

 

 千冬から発せられた怒気を感じてラウラは黙る。

その怒りが凄まじいことを感じて何も言えなくなってしまった。

 

「少し見ない間に随分と偉くなったな。十五歳でもう選ばれた人間気取りとは恐れ入る」

「わっ、わたしは……」

「寮に戻れ、私は忙しい」

「くっ……」

 

 ラウラは何も言い返せず、その場を逃げるように去って行った。

千冬はその後ろ姿を見ながら、疲れた溜息を大きく吐いた。

 

 

 

 

 時間は夜になり、一夏はシャワーを浴びていた。

こんな体とは言え、流石に代謝機能はまだ働いている。そのためシャワーを浴びるくらいはしなくてはならない。別に一夏としてはそこまで必要に感じていないが、一応は人前に出る身。身なりは最低限しておきたいのも確かなことであった。

服を脱ぎ、ISスーツとバイザーを外して籠の中に入れていく。その際、エステバリスのハイパーセンサーを起動させていないと一夏は歩くことすら出来なくなってしまう。そのため一夏は脱ぎながらもハイパーセンサーを起動させていた。

視界が何度か歪み、体のバランスが幾度となく崩れる。それを精神力で堪え、体が馴染むのを待つ。

馴染んできて体がいつも通りに動くのを見計らって動き始める。ブラックサレナのペンダントを籠の中に入れると、シャワー室に入って行った。

 その姿を隠れながら見張っている者がいた。

クローゼットの中に隠れ、息を潜めて一夏を見張っていたのは……シャルルであった。

この3日間、シャルルは一夏に接触して情報を得ようとしたが、まったく隙がないためにその試みはことごとく失敗していた。

 一夏は人がいるところではまったく隙を見せない。しかも人と関わろうとする気持ちがまったくないために、取り付く島もなかった。

結果、何も出来ずに3日過ぎた。そろそろ少しでも情報を得て本社に送らねば、シャルルの身もデュノア社も更に危うくなっていく。

 そのためシャルルは焦り、ついに実力行使に出た。

人がいるところでは絶対に隙を見せない以上、隠れていることを悟らせないようにすれば隙が出来るのではないか? そう考え実行に移した。結果は成功し、一夏はいつもならしない(いつもはシャルルが部屋に戻った時点で浴び終わっている)シャワーを浴び始めたのだ。

 これは好機だと見て、シャルルは一夏にばれないように音を立てないようにしてシャワー室に忍び寄る。

 シャルルだって本当はこんなことはしたくない。

だが、そうも言ってはいられないのだ。自分の身を守るためには、こうする以外に方法がない。結局盗人と変わりないのだった。

その事に罪悪感を抱きつつも、シャルルは一夏のISを盗みに行った。

 シャワーを浴びている一夏にばれないように忍び寄ると、籠の中を調べ始める。

そして見つけた『真っ黒いペンダント』。シャルルはそれを掴むと、音を出さないようにしてその場から離れた。

 

 それが既にばれていることも知らずに……

 

 シャルルはさっそくペンダントをノートPCに接続し、データを調べ始める。

男である一夏がISを使える理由、それを少しでも解析しデュノア社に送ることがシャルルのすべきことである。

だが……調べてもそういった情報は何も出なかった。

それどころか、このペンダントからは得られる情報はどれも正気を疑うような物しかなかった。

あまりの高機動性故に発生するGは、PICですら抑えきれない。その発生するGによって、常人では十分と持たずに気絶する。機体各所に取り付けられている姿勢制御用ノズルにより、通常のISでは考えられないようなアクロバティックな動きを可能にする……が、反面、三半規管にかなり影響を与える。フルで回した場合、真っ直ぐに立つことも出来なくなるだろう。

 それ以外にもデータを調べてみるが、そのどれもがシャルルの求めているものではなかった。

出てくるのはどれもこれも似たような、常人では扱えられないような物ばかり。

デュノア社に送ったところで何にも使えない情報ばかりであった。

 

「何で情報がないんだ……」

 

 調べれば調べるほどに焦るシャルルはそう独り言を口に出す。

明らかになったのは、これがISではなく『パッケージ』だということだった。

それが更にシャルルを焦らせた。自分がISだと思って調べていた物が、まさかパッケージだとは思わなかったのだ。では一夏の『IS』は何処にあるのか? それらしい物は身につけていなかったはずである。

 故にさらにシャルルは焦る。当てが確実に外れた以上は、どうすれば良いのか分からなくなっていた。

そんなシャルルに、何の感情も感じさせない声がかけられた。

 

「………気は済んだか……」

「っ!?」

 

 急にかけられた声にシャルルの顔が凍り付く。

そして目が声の方を向くと、そこには一夏が立っていた。

いつもと変わらない無表情に黒いバイザーをかけた顔。髪が濡れていることは分かるが、その姿はさっきまでシャワーを浴びていたとは思えない立ち姿をしていた。

 

「お、織斑君……」

 

 一夏が現れたことに絶句するシャルル。

先程の物言いからシャルルが何をしていたかはわかりきっている様子であった。

一夏は固まっているシャルルをよそに、黒いペンダントをノートPCから外す。

一夏はそれを首にかけ直すと、そのまま机に座りまた情報を収集し始める。

そのいつもとまったく変わらない様子に、シャルルは取り乱す。

 

「な、何で何も言わないの!? 何でっ!!」

 

 一夏はそんなシャルルの方を一回だけ見ると、すぐに視線を元の位置に戻した。

その様子にシャルルは慌てる。

 

「僕が何をやっていたのか……君はもう分かってるはずだよね! 何で何も言わないの! 何で僕を責めないの! 何で……」

 

 興奮して一夏に叫ぶシャルル。

その感情は罪悪感により、自分を罰して貰いたい気持ちもあった。

まだ責められるほうがマシだった。だが、一夏はさっきまでのことを無視しているのだ。

その一夏の行動があまりにも信じられなかった。

 一夏はシャルルの方を向くと、何の感情も浮かべずに答える。

 

「………お前の狙いは分かっている……だが…どうでもいい…」

「どうでもいいってっ!?」

 

 その答えを聞いてシャルルはさらに驚く。

もはや正気を疑う返答であった。自分のISの情報を許可なく第三者が勝手に盗むことをどうでもいいなんて、ISに関わっている人間ならば誰も言わないことである。

 驚愕しているシャルルを見て、一夏はさらに言う。

 

「……シャルル・デュノア……デュノア社社長の一人息子にして御曹司。世界で二番目に発見された男性操縦者……すべて嘘だ…」

「っ!?」

 

 一夏の言った言葉を聞いて凍り付くシャルル。

 

「……本名シャルロット・デュノア……デュノア社社長の愛人の子供…性別は女性……男性操縦者としてIS学園に入った目的は、俺のIS…また俺自身の情報の入手…」

 

 シャルルは目的と正体を見破られ、顔が真っ青になっていく。

 

「い…いつの間に…知っていたの…」

「……学園に来る前からだ……此方の方はすべて知っている」

 

 一夏は何の感情も浮かべずにそう答えていく。

シャルルはそれを聞いていて、自分が終わったことを理解していく。

 

「ははは…そうか……もう全部ばれてたんだ……」

 

 諦めからそんな乾いた笑いがこみ上げきて、シャルル……いや、シャルロットは笑う。

 

「それで…君は僕をどうするの? 学園と政府に報告して僕を追い出す? 別にいいよ……会社は潰れるかもしれないし、僕も強制送還されるだろうけど……もうどうでも……」

 

 シャルロットは諦めからそんなことを洩らす。

だが、一夏は何も気にせずに、ただ口にした。

 

「……どうでもいい……好きにしろ……」

 

それを聞いてシャルロットが激昂する。

 

「何で!? 君は何で僕を責めないの! だって君のことを騙そうとしてたんだよ!! 普通なら絶対に責められるはずなのに…何でっ!?」

 

 その激情に一夏は内心で呆れつつ応えた。

 

「……お前がどうしようと、俺には関係ない。お前が泣き寝入ろうが、怒りを会社に向けて暴れようが、俺には関係ない。ただ……『俺の邪魔をするのなら……殺すだけだ』」

 

 一夏は殺気を込めてシャルロットにそう言った。

その言葉の殺気と、その様子からシャルロットは理解する。

 

一夏は本当に今回の件をどうでもいいと感じていると。

 

まるで道端にいる蟻などの虫を気にせず踏んづけるかのごとく、意識すらしていないのだ。

ただ…一夏の邪魔になるようなら、一夏は絶対に殺すと、ただそれだけを伝えてきた。

そのあまりの異常性にシャルロットは絶句して固まってしまう。

体から一瞬にして嫌な汗がブワッと流れ、寒くもないのに震えが止まらなくなる。

感じているのは、ただひたすらにある異端への恐怖だけであった。

 一夏はそんなシャルロットを一回だけ見ると、手元にあった物をシャルロットの目の前に投げつける。

 

「…………読んでおけ………」

 

 それだけ言うと、一夏は部屋を出て行った。

 

その日、一夏は部屋に帰らなかった。

 

 

 


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