まさかこんなに読んでもらえているとは・・・・・・感激です。
真耶が起こした騒動も何とか落ち着き、授業は滞りなく進んでいく。
模擬戦の後はISを装着しての歩行練習となった。
専用機持ちはそんなものは必要ないので、教え監督する立場となっている。
一組と四組の生徒がグループに分かれていく。その際、千冬は自分のミスを自覚するはめになる。
グループのことを特に指摘していなかったため、皆男子であるシャルルの所に集中してしまったのだ。
急に集まった女の子達に戸惑うシャルル。当然ながら、一夏の所には一人も来ていない。
それを見て千冬は呆れつつも檄を飛ばす。その声に戦いて皆蜘蛛の子を散らすようにシャルルから離れていった。
結局グループは出席順になり、シャルルの所からは明るく自己紹介の激しい声が聞こえてきた。
他のグループからも楽しそうな声が出ていた。
だが・・・・・・二つのグループだけはそんな声はまったく上がらず、静まりかえっていた。
ラウラと一夏の班である。
ラウラは元々他者と関わることをしない性格のため、その言葉はかなり素っ気ない。なのであまり盛り上がってはいなかった。
だが、一夏の所はさらに酷かった。
それまで楽しそうに話していた生徒が一瞬にしてお通夜のような雰囲気になったのだ。
一夏が与えた衝撃はそれほどに深く、恐ろしいイメージだった。
まさに恐慌状態。皆顔を青くさせ、震え上がっていた。
別に一夏にとっては何でもないことであり、授業を言われた通りに進めた。
いつもと同じ何の感情も感じさせない声で指示を出し、グループの皆はそれを聞く度に震えながらISを装着して歩行していた。
他のグループはその姿を見て、気の毒に思いながら眺めていた。
授業も終え、いつもと同じように一夏は行動しようとしていた。
教室から出て屋上なり自室に戻るなり、適当にふらつきながら情報を調べる。それがいつもの一夏の日常であり、それ以外にすることはない。
なので教室を出ようとしたのだが・・・・・・呼び止められてしまった。
「ちょっといいかな、織斑君」
その声の方を向くと、そこには笑顔のシャルルがいた。
一夏は何も答えないが、その場で止まった。それは取りあえずは話を聞くということである。
「よかったら僕と模擬戦をしてくれないかな」
シャルルがそう言うと、一夏はそのまま歩き出そうとした。
やはりと言うべきか、予想通りに『此方の情報を盗みに来た』のだ。一夏はそれに応じる気は当然ない。そのまま無視をすることにした。
「ちょっ、ちょっと待って!?」
一夏の反応に慌てながらシャルルは話しかける。
一夏は関わられるのが面倒であり、切り捨てるように言う。
「・・・・・・・・・・・・戦う気はない・・・・・・」
それだけ言うと、そのままシャルルを無視して教室を出ようと扉に手を掛けた瞬間、扉が勝手に開いた。
「あ、あの・・・・・・織斑君は・・・いますか・・・」
開いた扉の先には簪が顔を赤くしながらもじもじと指をいじりつつ立っていた。
その姿を見た瞬間に止まる一夏。自分に用があると言って来た以上、一夏は話を聞くように構えた。
こういう所はまだ甘いところである。
「・・・・・・・・・何だ・・・・・・」
いつもと変わらない様子で一夏は答える。
だが、他の生徒と違い簪はそれを普通に答える。
「その・・・よかったら・・・・・・この後私の訓練を・・・見てくれない・・・かな」
顔を赤らめつつそう言う簪。
一夏はそれを受け、どうするか少し考える。
本来であれば付き合う理由はない。そのまま無視し、本願である北辰への復讐のために情報を収集することに集中する事の方が重要だ。
だが、一夏はこの簪のことが少しだけ気になっていた。
それが思春期にありがちな物ならば可愛気もあると言う物だが、そんなものではない。
今の簪の眼差しからも感じる、一夏と少しだけ似たような執念。それに一夏は少し惹かれた。
自分と似たような気がしたからだ。
そのためか、一夏は自分でも予想だにしない答えを口にした。
「・・・・・・・・・別にいい・・・問題はない」
その答えを聞いて顔をさらに真っ赤にする簪。
言った後に一夏は内心少し驚いた。だが、すぐに考え直す。情報を収集するのに場所は関係ないのだから、付き合っても問題はないと。それは考えようによっては只の逃げである・・・・・・が、何故かこのときはそれが一番の答えだと、そう一夏は思った。
「あ・・・だ、だったら、僕もその訓練、見させてもらってもいいかな」
それに便乗するようにシャルルが言う。
少しでも一夏と接することで信頼関係を築き情報を得られるようにしていることが、一夏には分かり切っていた。だからと言って、ここで一夏がとやかく言う気はない。最初から特に気にする理由もないのだから。
「べ、別に・・・いい・・・よ」
簪は笑いかけるシャルルにそう恥じらいながらそう答えた。
簪は当然ながら、シャルルのことを男子だと思っている。美男子に笑顔で話しかけられれば花も恥じらう十代の女子ならば、当然の反応であった。
そのまま簪とシャルル、一夏はアリーナへと向かった。
更衣室で着替えたのちに簪はアリーナでさっそく打鉄弐式を展開し、訓練に臨んでいた。
高速機動からの射撃や格闘、独立稼動型誘導ミサイル『山嵐(やまあらし)』による多重ロックオン攻撃など、多種多様な訓練を積んでいく。
「へぇ~、彼女は凄く上手だね」
シャルルは簪の訓練を見ながらそう感想を洩らす。
当然それは一夏に向けられたものだが、一夏はそれに反応を示さない。
その目は簪の訓練を見つつも、ちゃんと情報を収集し続けていた。
簪は訓練のとき、やはりその顔に執念めいた物を感じさせており、それ故に一夏は目を離してはいなかった。だが、だからと言ってシャルルに答える必要もないので答えない。
そのまましばらくして、簪は訓練を終えた。
息が上がっており、その肌には玉のような汗をかいていた。
顔は上気しており、見ようによって艶っぽく見える表情をしていた。
「ど、どう? 織斑君」
訓練について聞きたい簪は、息を切らせながら一夏にそう聞く。
一夏は簪の様子を見ても、平常に淡々と答える。
「・・・・・・・・・・・・少し型にはまりすぎている・・・・・・もう少し臨機応変にすべきだ・・・・・・」
一夏は簪にそう答えた。
実際にはもっと他にも言うことがあるのかもしれない。だが、一夏は簪の訓練を見てそう感じたが故にそう答えた。
それを聞いて簪の顔が綻んだ。
「わ、わかった・・・・・・頑張る」
一夏にそう言われたことを素直に喜び、簪は力強く頷く。
簪はその後も一夏に話しかけ、一夏は淡々と答える。
そしてシャルルが一夏が言わなかった部分を丁寧に教えたりなど、それなりに穏やかな空間が出来ていた。
そんな空間を壊すかのごとく、アリーナはざわめきに包まれた。
「ねぇ、ちょっと・・・見てよあれ!」
「あれってもしかしてドイツの・・・」
「第三世代型IS!? まだ本国でのトライアル段階って聞いてたけど・・・」
騒ぎになっている方に一夏達は目を向けると、そこには黒いISをまとったラウラ・ボーデヴィッヒが立っていた。
そのISを見た途端に一夏は頭の中の情報を照らし合わせる。
(あれは確か・・・・・・ドイツの第三世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』。イグニッションプランの防衛候補機の一つだったな。第三世代型装備『AIC』を装備しているのが特徴)
そう思い出している一夏に、ラウラが話しかけてきた。
「おい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
強めに呼びかけられたことに対して、一夏はまったく取り合わない。
「ふん! 無視か・・・・・・まぁいいだろう。貴様、専用機を持っていると聞いた。ならば、私と今すぐ戦え!!」
そう言いながらラウラはISに装着された大型レールカノンを一夏に向ける。
明らかなまでの敵意を一夏に向けていた。
一夏はそれを内心で面倒臭がりながら答える。
「・・・・・・・・・断る・・・」
こんな私闘に時間を割いている暇はない。
簪の訓練に付き合ったのはそれでも情報収集が出来るからであり、一々こんなくだらないことで時間を取られたくないと一夏は考える。だからこそ、こう言った。
それを聞いて青筋を浮かばせるラウラ。
「っ!? ・・・・・・・・・貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成しえた。しかし、貴様のせいで成せなかった。だから私は・・・貴様の存在を認めない! 絶対に!!」
ラウラは激怒しながらそう叫び、簪はそれを聞いて、ひぅ、と肩を竦ませる。
「お、織斑君・・・・・・」
そう話しかける簪の瞳には、一夏への心配と、助けて欲しいといった感情が込められていた。
シャルルはこの事態にどうして良いか分からずにいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・行くぞ・・・・・・」
一夏はそんなラウラの叫びを聞いても尚、一切顔に感情を出さずに簪にそう言う。
つまりはそのままラウラを無視してアリーナを出ようとしたのだ。
その一夏の行動を見て、ラウラの怒りが頂点に達した。
「逃げる気か!! ならば・・・・・・戦わざるを得ないようにしてやる!!」
その叫びと共に、ラウラはレールカノンを一夏に向けて撃とうとした。
正常な判断を持っているのならば絶対にしない行動。ラウラは怒りのあまりに判断力が低下していた。今一夏を撃てば、すぐ隣にいる簪やシャルルも巻き込むことになる。それがその後どういうことになるのか・・・・・・この時のラウラは頭に血が昇りきっていて判断が出来なかった。
だが・・・・・・レールカノンは発射されなかった。
ラウラが撃とうとした瞬間・・・・・・
レールカノンが爆発し破壊された!?
それをラウラが認識出来たのは、爆発の衝撃で体が揺れた後だった。
突然の事態に周りにいた生徒は唖然としてしまっていた。
何故爆発したのか・・・・・・皆一夏を見てやっと何が起きたか理解出来た。
一夏は腕のみ部分展開し、ハンドカノンを呼び出すと一瞬でラウラのレールカノンを撃ったのだ。
つまり早撃ちである。
それがどれほど凄いことなのか・・・・・・それはISを操縦する者なら誰でも理解出来るだろう。
ラウラは一夏に攻撃されたことを理解すると、その顔をさらに憤怒で歪ませた。
「きっさまぁあああああああああああああああああああああああああああ!!」
自分のISを傷付けられたことと、撃たれたことに気付かなかった自分への怒りがその叫びには込められていた。
一夏はその叫びを聞いても何も感情を浮かべない。
そのままハンドカノンをラウラに向ける。
「・・・・・・・・・これは警告だ・・・・・・『俺の邪魔をするな。すれば・・・・・・殺す』」
殺意が飽和状態になったせいで何の感情も感じられないその声を聞いて、その場にいた全員が怯んでしまった。まるで目の前に戦車の大砲を突き付けられているような、そんな感覚に全員が襲われる。それは絶対に逃れられない死のイメージ。回避不能、絶対に命中し生存不可能なイメージを皆に抱かせた。
当然ラウラもそれを感じてしまい、息を飲み込んで怯んでしまう。
一夏はラウラが動けないことを見越すと、簪に話しかける。
「・・・・・・・・・訓練は終わりだ・・・・・・行くぞ・・・・・・」
「!? ・・・・・・う、うん!」
それまで怯んでいた簪はこの声を聞いて我に返り、その言葉に頷いた。
「・・・・・・デュノア・・・・・・お前もだ」
「そ、そうだね・・・・・・」
シャルルも一夏の言葉に頷く。この気まずい空間からすぐにでも逃げ出したかったのだ。
そのまま一夏は簪とシャルルを連れてアリーナを出て行った。
ラウラやアリーナにいた他の生徒達は、一夏が去るまで一歩も動けなくなっていた。