インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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第十九話 転校生

鈴に決別を告げてから二日が経った夜。

一夏は寮の屋上に来ていた。当然こんな時間に入って良いところではないが、そんなことを気にする一夏ではなかった。

 何故そんな遅い時間に一夏がそんな所にいるのか?

それはつい今し方、通信が入ったからだ。一夏が報告することはあっても、一夏の方に通信が来ることは珍しい。それが重要な話だと判断し、一夏は誰にも聞かれないようにするためにこんなところにきたのだ。

 通信に出るとやはりと言うべきか、にやついた顔のアカツキがウィンドウに出ていた。

 

「やあやあ、こんばんわ。今日も元気そうで何よりだ」

「・・・・・・それで・・・用件は・・・・・・」

 

 一夏はアカツキの戯れを聞く気は無いので、そう流す。

 

「そうせかせかしなさんな」

「・・・くだらないことを聞く気はない」

「まぁまぁ、結構面白い話だから」

 

 そう面白そうにアカツキは言うと、さっそく話始め、一夏は無言でその話を聞いた。

 

「うん、実はねぇ~、明日君のいるクラスに転校生が二人来るんだ。しかも一人は『男子』と来たものだ、実に面白くないかい」

「・・・・・・それで・・・」

 

 一夏は話を促す。確かにそれは気になる情報であった。

 

「その男子は、かの有名な『デュノア社』の社長の一人息子だってさ。名前はシャルル・デュノア、貴公子みたいに格好いい少年だ。実に面白い話だろう、そんな大企業の息子が世界で『初の正当な男性操縦者』というのは・・・・・・明らかに出来すぎだ」

「・・・・・・・・・調べは・・・」

「当然調べたよ、表も『裏』もね」

 

 そう言って黒い笑顔でニヤリと笑うアカツキ。

その顔がどういう結果だったのかをはっきりと告げている。

 

「表では御曹司ってことで取り上げられているけど、実の所そんな名前の人物はいないよ。デュノア社の裏側まで思いっきり調べてみたけど、シャルル・デュノアなんて人物は社長の表の血縁の中には一人もいなかった。だけどね~、実は愛人の子に似たような名前の『女の子』がいたんだなぁ、これが。はい、これがその子の写真とデータ」

 

 アカツキがそう言うと、此方に写真と情報が送られてきた。

写真に写っている女の子はシャルル・デュノアとそっくりで、名前は『シャルロット・デュノア』

デュノア社社長の愛人の子供で、表には出ていない。二年くらい前に母を亡くし、父である社長のところに今は引き取られているらしい。

 

「どう? そっくりでしょ。しかもこの子、男装もとても似合いそうだ」

「・・・・・・本人だろう・・・確実に・・・」

「ああ、まったくその通りだ。デュノア社は何を血迷ったか、この子を男と偽って学園に来させた。まったくもってアホだよねぇ~、そんなボロがすぐに出るような作戦を実行するんだから。それで、こんな馬鹿丸出しなことをしでかしてまでしたいことって何だと思う?」

 

 アカツキは一夏にそう問いかける。その声は明らかに愉快そうな感じであった。

無論、一夏もそう聞かれてすぐに答えられるくらい、この狙いは明らかだった。

 

「・・・・・・此方の情報が狙いだろう。向こうは偽証、此方は一応『本物』だ」

「そう、その通りだ。向こうの狙いは一夏君ってわけだ。君もモテモテだねぇ、羨ましい」

「・・・・・・どうでもいい・・・・・・」

「まぁ、君がそんな反応しかしないのはわかりきっていたけどね。それで、どう思う?」

「・・・・・・無視しておけ・・・・・・」

「まぁ、そうだろうねぇ。別に暴いたところで此方の得になるわけじゃないし。今更あんな潰れそうな会社を手に入れようなんて気はまったく起こらないよ。ISコアの『開発』だって順調に進みそうだから、一々他のコアを手に入れる必要も『ウチと敵』には無いしねぇ~」

 

 そう愉快そうに言うアカツキ。

その『ウチと敵』というのが、ネルガルとクリムゾングループのことだというのは既にわかりきっていることだろう。敵が既に無人機を送ってきたように、ネルガルも既に独自のISコアを開発している。ただし向こうと違い、こちらはまだ実戦に出せるようなものではないのだが。それでも実験を行ったりするには充分に機能する。

それを表に発表しない理由は、まだまだ未完成だからだ。当然、このコアも一夏の体から取れたデータを基にして開発されている。

故にISコアで困ることは無く、他の企業からコアやISを手に入れる必要がない。

 だからこそ、一夏は無視しろと答えた。

デュノア社が如何に一夏から情報を入手しようとしても、一夏の体に埋め込まれているコアを調べなければ何も得られない。一夏が首にかけているのは『ブラックサレナのパッケージ』であって、IS本体ではない。いくら調べようと、デュノア社の欲しがる情報など出てこない。ちなみにブラックサレナに使われている技術は殆ど表に出ている技術だけで、調べても目新しいものは何も無い。

強いて言うのなら、その性能が常人では使えないくらいおかしいことくらいだろう。

 それに、一夏の情報がバレる訳が無い。もし知られたと判断したのなら、一夏がボソンジャンプを用いてデュノア社のすべてを破壊し尽くすだろう。今の一夏は躊躇せずにそれを行う。

 

「・・・・・・邪魔をするのなら殺す・・・・・・それだけだ」

「うん、実に君らしい良い答えだ。そうでなくてはブラックサレナのパイロット足り得ない」

 

 一夏の答えにアカツキは満足そうに笑う。

その顔には一夏がそう答えることが分かっていたことが窺える。

 

「そうそう、もう一人なんだけど、こっちは君のお姉さんと縁があるみたいだよ」

 

 茶化した感じにアカツキは言うが、一夏はそれに応じず沈黙していた。

その様子を見て、やれやれ、といった感じ手をすくめるアカツキ。その後普通に話し始めた。

 

「名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの国家代表候補生にして、ドイツ軍のIS部隊『シュヴァルツェア・ハーゼ』の隊長で軍の階級は少佐。この歳でこの階級というのはすごいねぇ~。もしかしたら史上初なんじゃないのかな? それで君のお姉さんとは、過去にドイツで教官をしていたときの教え子のようだ」

「・・・・・・それだけか・・・」

「おや、気になるかい?」

「・・・・・・それだけなら・・・お前がそんな顔で話すわけがない・・・」

「あらあら、ばれてた? 君も随分と僕のことを理解してきたようだねぇ」

 

 アカツキはそう面白そうに言うが、一夏は無言で流していた。

その様子を見て満足そうにアカツキは笑うと、愉快そうにまた話し始めた。今度は裏の情報だ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒはドイツで作られた試験管ベイビーだよ。まったく、あの国はほとほと禁忌に触れるのが好きだねぇ~。それで調整されて作られた兵士だけど、残念なことにちょっとした実験の失敗で失敗作の烙印を押されちゃった可哀想な女の子ってわけ。たしかナノマシンによる擬似的なハイパーセンサーを人体に付与する、だったかな。それの適合に失敗して性能がガタ落ち。あとちょっとで廃棄処分ってところで君のお姉さんと会って、そこからまた性能を取り戻していった。う~ん、実に感動的なお話だ。それ以来、彼女はお姉さんのことを心酔しているらしいよ」

「・・・・・・・・・そうか・・・・・・くだらない・・・」

 

 ラウラの話は普通の人が聞けば同情するなり何なりとあるかも知れないが、一夏がそんなものを抱くはずがない。そんな報告よりも、一夏としてはそれより気になることがある。

 

「そんな情報より・・・・・・あの残骸から出た情報の解析は出来たのか・・・」

「まだ途中かな。もう少し待ってくれ」

「・・・そうか」

 

 あの無人機から得た情報から北辰達の居所を調べてもらえるよう頼んだのだが、まだ手がかり一つ出てきていないらしい。一夏はそれを聞いてもいつも通りだった。

 その後、またアカツキがくだらないことを言いそうだと察した一夏はすぐに通信を切り、そのまま自室へと戻っていった。

 

 

 

 「はーい皆さん、静かにして下さい」

 

真耶が元気よくクラスの皆に聞こえるように大きく言う。

皆それを聞いて静かにしようとするが、まだまだささやき声が聞こえてくる。

 

「実は今日は何と、転校生が二人も来ます!」

 

そう笑顔で真耶は言うと、クラスは一瞬にして静まり・・・・・・

 

「「「「ええええええええええええええええええええええええ!!」」」」

 

爆発した。

それぐらいの爆音が教室に轟いた。その中で一人だけ静かにしているのは、当然ながら一夏である。

 

「静かに! それでは入ってきて下さい」

 

 真耶がそうクラスに促すと、さっそく扉が開き転校生が入って来た。

一人は金髪の男の子のように見える人で、もう一人は銀髪の女。一夏は既に情報を受けていたので何とも思わない。

 

「今日から皆さんと一緒に勉強する転校生の、ラウラ・ボーデヴィッヒさんとシャルル・デュノア君です!」

 

シャルルの方に視線が集中した。

もし彼が男なのなら、『世界で二番目(一夏は非公式なので実質一番目)の男性操縦者』なのだから、注目が集まるのは当然のことだ。

 真耶に促されて、さっそくシャルルが自己紹介を始める。

 

「フランスから転入してきたシャルル・デュノアです。ここに僕と同じ境遇の方がいると聞いてやって来ました。よろしくお願いします」

 

 その自己紹介を聞いて、皆理解する。

つまり目の前の人が『男』であると。

その瞬間・・・・・・

 

「「「「「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」」」」」

 

 また教室が音の氾濫に飲み込まれた。

 

「二人目の男子、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「金髪の王子様みたい!」

「織斑君と違って優しそう!」

 

 女子が思い思いにシャルルについて感想を叫ぶ。

その反応にシャルルもタジタジであった。

中には一夏との比較をして一夏を酷く言っているものもあったが、当然一夏は気にしない。

 

「お前等、まだもう一人いるんだ。静かにせんか!!」

 

 転校生と一緒に入って来た千冬に一喝され、皆静かになった。

このクラスの生徒は基本、千冬には逆らえないのだ。一部を除けば、だが。

 

「次はお前の番だ」

「はい、教官!」

 

 千冬にそう言われたラウラは、千冬に敬礼して返事を返す。

それを見て呆れ返った表情をする千冬。

 

「教官はよせ。私はもうお前の教官ではない、お前の担任だ。織斑先生と呼べ」

「わかりました」

 

 千冬にそう返事を返すと、ラウラは教壇の前に出て自己紹介をした。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 簡潔にそれだけを言う。

その後何もないことに、皆唖然としていた。それを見かねてか、真耶が話しかける。

 

「え、えーと、・・・・・・以上、ですか? 」

「以上だ」

 

 そう言い終わると、ラウラは一夏の方に向かって歩いて行く。

その顔には憎悪が浮かんでいた。

 

「貴様がっ・・・・・・!」

 

 そして手を振り上げ、叩こうとした。

そのまま一夏に振り下ろされる手。だが、それは一夏に当たることはなかった。

一夏は即座に立ち上がると、左手で飛んできたラウラの手を掴み引き込み、急な事で体勢を崩しかけたラウラの足下に足払いをかける。そのまま床に倒れたラウラの喉に向かって右足を踏み出し、踏み潰そうとする。

 

「やめろっ、一夏っ!!」

 

 その声でピタっと一夏の足が止まる。

その叫びを上げた人物は千冬であった。

 

「この場で血を流すような真似はするな」

 

そう言われ一夏はその足を退かした。理由は特にない。敵対しなければ一夏は攻撃しない。

足を退けた途端に咳き込むラウラ。既に半分近く足が喉に入っていたのだった。

 

「げほっ、げほっ、げほっ」

 

 ラウラが咳き込み苦しんでいる中、一夏はそれを無視して席に着いた。

その光景を見て青褪めるクラスメイトとシャルル。

 

こうして、転校生の挨拶は終わった。

 

 

 

 

 

 


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