インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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今回も暗く、それでいて一夏の心理描写も少しは入れてみました。
感想、じゃんじゃん書いてくれると嬉しいです。


第十八話 幼馴染みに決別を その2

 一夏は襲撃者を完膚なきまでに破壊し尽くした後、そのままどこかに行ってしまった。

千冬や真耶は本来ならば一夏を呼び止め、色々と話を聞かなければならないはずだった。しかし、それが出来ない。目の前で行われた蹂躙劇に二人とも言葉を失ってしまった。

代表候補生二人でも勝てなかった敵に対して、たった一機で、しかも圧倒的な能力を持って蹂躙し尽くし破壊した。最早異常と言わずにはいられない。

 そして、この襲撃者を見て二人は別の意味でも驚愕していた。

ISは人が乗って初めて動く物。その認識がこれまでの常識であった。だが、一夏が破壊し尽くした襲撃者のISからは人が出てこなかったのだ。操縦者が居るはずの所には肉片一つ無く、機械が詰まっていた。そして破壊し尽くした残骸からは血の一滴も流れていない。

 つまりは人が乗っていない、無人機であるということ。

無人ISの研究は各国でされてはいるが、まだ実戦に出せるような代物など何処も開発出来てはいない。

千冬はそれを開発出来る人物に覚えがあったが、今回襲撃してきたISは彼女の知る人物が開発した物ではないだろう。何故なら、彼女の知る人物の趣味では無かったから。あそこまで無骨なデザインは彼女の知る人物の趣味では無い。ということは、今回襲撃に来たISは千冬の知る人物が開発した物ではない。

 では何処の組織が開発した物なのか? それはこの二人では皆目検討もつかないことであった。

 

 

 

 現在は破壊された残骸を回収し解析に回しているが、まったく判明しない。

学園の設備は最新の物だが、原型もとどめない程に破壊された物を解析するには足りなかった。

それでも調べられることは調べるべきと解析してみるが、なかなかに進まない。

特に無人機として重要なAIなどの部分は破壊された場合、自動で電子的、物理的に破壊されるように仕組まれていたらしく、解析不能になっていた。また、ISコアに限っては、一夏の大型レールガンによって半壊状態。辛うじて登録されていないコアだということがわかったくらいである。しかも、そのコア自体は現存するISのコアとは少し違う物らしく、解析出来る範囲でも構造が違っていた。そのことにも二人は頭を抱えていた。

 

「それにしても・・・・・・何だったんでしょうね、この無人機?」

「ああ、まったくだ。此方への襲撃ということはIS学園が狙いだったのか・・・・・・それにしてはおざなりだったが。何が狙いなのか全くわからん」

 

 真耶の疑問に千冬はそう答えることしか出来ない。

今回の敵、つまりこの無人ISを送り込んできた組織の狙いがイマイチ分からないのだ。

普通に考えれば無人機の性能テストといった所なのだろうが、それにしてはいい加減なのだ。この無人機に搭載されていたコアは現存するISのコアとはまったく違う。もしかしたら男でも動かせるISを作れるのかもしれない。世紀の大発明と言っても良いかも知れない。ならば普通は表で発表し、正式な手続きでISと戦わせた方が良い。その方が、勝ったときにそのコアの有用性をより広めることが出来るのだから。そうでない目的とすると、IS学園に襲撃すること自体が目的という場合もあるが、それにしては戦力が少なすぎる。この無人機は確かに強力だったが、IS学園に攻め込むには数が足りない。千冬が本気を出せば倒せるかもしれない。そうでなくともIS学園の教師がISを装着して戦えば、もっと簡単に勝てたかもしれない。つまりIS学園に攻め込むことが目的では無い。そして、無人機が乱入してきた際にハッキングをかけられたこと。これによってさらに狙いが分からなくなる。まだアリーナだけをハッキングして人が出れないようにし、他の所に攻め込むというのなら分かる。だが、無人機はアリーナ全体、しかも自分が入って来たところのシールドバリア発生装置にもハッキングを仕掛け、自分も出れないようにアリーナを閉めたのだ。つまり、他の所を攻め込むつもりではない、ということになる。

 以上のことから、敵の狙いがまったく分からない。

そのことが千冬を更に焦らせていた。

そんな千冬を見かねてか、真耶は話題を少し変えることにした。

 

「そう言えば、織斑君は凄かったですね。あの無人機をああも一方的に倒すんですから」

「ああ・・・・・・あれには驚かされた。一体どうなればあんな戦い方が出来るのやら」

 

 一夏の戦いぶりは最早熟練したIS操縦者を超えている。

自身の機体の特性を理解し尽くし、射撃も上手い。そして何より、ためらいが一切無い。

相手が誰であろうと、一夏は攻撃に躊躇しない。それがIS操縦者にある特有の『絶対防御による安心感』などではない。誰であろうと『殺す』気で攻撃しているのだ。

そうでなければあんな戦闘は行えないだろう。千冬でさえ人を殺せと言われたらとどまるだろう。

だが、一夏は止まらずに躊躇無く殺す。それが如実に出ていた。

 それ故に、千冬は内心で恐怖に震えた。

改めて実感させられたのだ。一夏が如何に復讐に燃えていることを・・・・・・。

 

「一夏・・・何故そんなに変わってしまったんだ・・・・・・」

 

 千冬はそう呟かずにはいられなかった。

 

 

 

 所変わってここは保健室。

ベットでは二人の女性が眠っていた。

鈴とセシリアである。二人は一夏がアリーナで無人機を倒し去った後に教員によって救助され、現在は保健室で寝かされていた。セシリアの方は疲労が酷かったのと睡眠薬の効果もあって深い眠りに就いていた。鈴は何だか薬を飲める気分ではなかったため、薬を飲んでいない。そのため目が冴えていた。眠る気にもなれず、鈴はただ天井を眺めるばかりであった。

 そんな二人がいる保健室の扉がいきなり開いた。

誰かは分からないが、取りあえず鈴は目を向ける。そして固まった。

鈴の向けた視線の先には、彼女の想い人たる織斑 一夏がいたからだ。

一夏は何も言わずに鈴の方まで歩いて行った。

いつもなら声をかける鈴だったが、先程の容赦無い戦いぶりを見て本能が恐怖し、声を出せなかった。もしセシリアが起きていたらパニックを起こしていたかもしれない。

 一夏がここに来た理由。

それは、鈴との絆を断つためだ。箒よりも別れたのがここ最近の鈴は、一夏に何があったのかを箒以上に聞き出そうとする。やはり自分を知っている人間というのは嫌でも関わろうとするのだ。

それが鬱陶しい。邪魔で仕方ない。

普通だったら嬉しくなる甘い言葉をかけてくるのだ。

それは心を犯す猛毒となる。復讐を止めて今すぐ千冬や箒、鈴達と過ごしたい。それはとても楽しくて、幸せなのだろう。

そんな甘い誘惑に駆られるのだ。そんなこと・・・・・・

 

許せる訳がない!!

 

そんな誘惑に捕らわれそうになる自分が許せない。

そんな甘さがまだある自分の心が許せない。

決めたのだ! 復讐すると・・・北辰達を殺すと!! 

 

(よく考えて見ろ! こんな身体で普通の生活を送れるわけがない。生きることですら辛うじて、人として生体機能が働いているのが奇跡的なこの身体。そんな身体で千冬姉や箒や鈴達に助けられながら、迷惑をかけながら生きていく? 出来る訳がない。俺の身体は生きているのが奇跡であり、いつ死ぬか分からないほどボロボロだ。そんな人間が普通の生活を送れることは絶対にない。何より・・・・・・俺の身体をこんな風にした彼奴等が生きているのを俺は許せるのか・・・・・・絶対に許せるわけがない。俺がこうなった原因である彼奴等が生きている限り、俺が彼奴等への復讐心を抑えられるわけがない! 彼奴等の命でもって贖って初めて、俺は俺としての自分を取り戻せて死ねる。それをするためには・・・どんなものでも邪魔になるのなら、排除するしかない)

 

 一夏はそう考え、この保健室に来た。

鈴との絆を断つために、たとえ鈴が傷付こうとも、復讐のために。

 

「ど、どうしたのよ、一夏」

 

 鈴は目の前に立ち、何も言わない一夏に向かってそう声をかける。その声は消えかけていた。

一夏はその声を受けてやっと動くと、手に持っていたドリンクを渡した。

 

「な、何!? お見舞いってわけ!」

 

 一切一夏に構ってもらえなかった鈴はここに来て一夏から差し出されたドリンクを見て驚く。

まさかあの一夏が自分にお見舞いをするとは思えなかったのだ。昔ならともかく、今の一夏がするとは、誰も思えないだろう。

しかし・・・・・・鈴の顔はドリンクのパッケージを見た瞬間に喜びから一瞬にして嫌そうな顔に変わった。

 

「何でよりによってこれなのよ!」

 

 鈴が凄く不満な声を上げて一夏にドリンクを突き付ける。

鈴が嫌な顔を浮かべる理由。それは一夏が持ってきたドリンクが、この学園で販売されているどのドリンクよりも不味いのが原因だ。あまりの不味さに失神する生徒も多いらしく、何故こんなものを販売しているのか、IS学園に伝わる謎の一つである。また、何故企業はこんな物を作り販売しているのか、鈴も含む多くの生徒が疑問で仕方ない。それぐらい不味い代物で、鈴から言わせて貰えば、『人の飲み物ではない』レベルの劇物だ。ちなみに鈴は転校して二日目にこれを口にしており、その際に気絶した。鈴はもしこれを好んで飲むような奴がいたら、そいつは人間ではないと思っている。

 それぐらい不味い代物を渡してきたのだ。お見舞いというには酷すぎる。寧ろいじめにしか取れない。

 怒る鈴を無視して、一夏は鈴に話しかけた。

 

「・・・・・・昔した約束・・・・・・忘れたわけではない」

「えっ・・・」

 

 いきなりされた昔の約束の話に鈴は急な事だったため、そんな声を上げてしまう。

そしてその言葉を理解した瞬間、心が喜びを感じ笑顔になった。

 

「そ、そうなんだ。一夏ったら酷いじゃない、忘れたなんて言ってさ」

 

 上機嫌になりながらそう嬉しそうに言う鈴。

だが、一夏はまったくの無表情のままだった。

 

「そ、それで・・・・・・へ、返事なんだけどさ」

 

 鈴が何かを期待しながらもじもじとしつつ聞く。

それがどうしてそうなるのか、一夏は理解はしていた。故にこう答える。

 

「約束には応えられない」

「えっ・・・・・・」

 

 淡々と何の感情も込められていない答え。でもそこに確かにある拒絶の意思に、鈴は固まってしまった。しかし、一夏は続けていく。

 

「応えられないのではなく、応えることが俺には一生不可能だ」

「そ、そんな・・・・・・」

 

 一夏の拒絶を聞いて目から涙がこぼれそうになる鈴。

しかし、このまま行くとさらにしつこく理由を聞かれると予想し、一夏はさっさと白状した。

 

「・・・・・・今の俺には味覚がない」

「え?」

 

 一夏が言ったことに、鈴の理解が追いついていない。

一夏はそれを理解させるために、もう一本買ったドリンクを鈴の目の前で開け、飲み始めた。

鈴はその光景に驚く。そして急いで止めようとした。

代表候補生である鈴でさえ気絶するような代物なのだ。そんな物が飲めるわけがない。

だが、一夏は何も言わずにそれを飲み干した。まるで水でも飲んでいるかのように、何の嫌悪感も出さずにそれを鈴の前で飲み干したのだ。

飲み干した後、一夏はまた鈴に向き合う。そして、もはやトレードマークになりつつあるバイザーを外して言う。これを外した時、一夏は昔の『織斑 一夏』に戻る。そのためのスイッチのようなものでもあり、外した途端にすべてを感じなくなる。だが、それでも心に決めて言うのだ。

 

「この通り、今の俺は一切味を感じない。だから、お前の酢豚を食べても、それが美味いか不味いかなんて一生わからないんだ。だからすまん、お前の約束には一生応えることが出来ない」

 

 そう言い終えた一夏の顔は笑顔だった。

だが、鈴にはその笑顔があまりにも悲しそうに見えた。

その悲しみがあまりにも深い、深すぎることを鈴は理解してしまった。

一夏はエステバリスの力を借りてバイザーを付け直すと、そのまま無言で部屋を出て行った。

鈴はその後ろ姿を黙って見ることしか出来なかった。

 

 

 

 一夏は保健室を出ると、そのまま屋上へと向かった。

よくある黄昏れたい気分に襲われたためである。そうで無くとも、アカツキに報告する必要もあったため、人目が少ない場所に行くというのも理由であった。

そのままアカツキに通信を入れ今日の無人機の話を報告すると、アカツキはいつもと変わらない笑顔で楽しそうに聞いていた。そして報告が終わり次第に一夏は通信を切った。

長く通信をしていると、傍受される危険性がある・・・・・・という建前で切ったが、実のところ学園生活でからかわれたりするのが聞くに堪えないからだ。そんなくだらないことを聞く必要はない。

 そのまま一夏は夕日を眺めていた。

すると、急に扉が開く音がした。

瞬時に警戒して振り向くと、そこには息を切らせた簪がいた。

 

「こ、ここにいたんだ・・・織斑君・・・」

 

 簪はそう言うと、一夏に近づいていく。

一夏は念のために警戒しつつも、簪を待った。

 

「・・・・・・何の用だ・・・・・・」

 

いつも通りの淡々とした口調。

周りはそれを聞く度に怖がるというのに、簪はオドオドしつつも恐がりはしなかった。

 

「あ、あの、その・・・・・・今日も、助けてくれて、ありがとう!」

 

 そう必死な感じに頭を下げてお礼を言う簪。

 

「・・・・・・俺は何もしていない・・・」

「そ、それでも・・・ありがとう」

「お前のためではない」

「それでも、だよ。織斑君の御蔭で・・・助かったから。だから、お礼」

 

 一夏の何の感情も感じさせないその言葉に、簪はそれでも感謝を述べる。

一夏はそのまま簪を無視して屋上から出ようとしたが・・・・・・

無意識に言葉を発した。

 

「・・・・・・好きにしろ・・・・・・」

 

 一夏は簪にそう告げると、そのまま扉へ向かい屋上から出て行った。

一夏にそう告げられた簪は・・・・・・

 

「っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」

 

 夕日の所為かは判断が付かないが、確かに顔が真っ赤になっていた。


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