インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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第十六話 クラス代表戦

 暗い通路を複数の人間が通る音がする。

集団で歩いていたのは笠を被ったおかしな七人であった。

先頭を歩く男はリーダー格らしく、皆付き従っている感じである。

男は左右で大きさの違う目を愉快そうに笑いながら先頭を歩いていた。

 

「良かったのでしょうか、貴重な試作機をあんな所に行かせて」

 

一人に部下がそう男に聞いてくる。その声には懐疑の念が含まれていた。

男達は今、その組織で作っていた試作機の一つを勝手に持ち出し、とあるところへと差し向けたのだ。

 

「問題はない。上にはテストだと言ってある。何、壊れたところでデータが取れるのなら彼奴等も喜ぶであろうよ」

 

 そう男は部下に言いながらさらに前を歩く。

 

「く、く、く、・・・・・・我から入学祝いだ。楽しむといい、『復讐人』よ」

 

 そう愉快そうに言いながら、男達は通路を歩いて行った。

 

 

 時間は流れ、あっという間にクラス代表戦当日になった。

鈴は試合までの日を練習に費やしていた。一夏との約束を一方的とはいえ取り付けた(本人はそう思っている)のだ。今度のクラス代表戦は絶対に勝つ! と鈴は意気込んでいた。

 そう鈴が意気込んでいる間、一夏はやはりと言うべきか、いつもと同じ感じに生活していた。

情報を集め、世界中から北辰達の居所を探る。それが一夏の日常であり、どのような学校行事があろうとも、ここは変わらなかった。

 一夏は現在、観客席に座っていた。

実のところサボりたかったが、これも学校行事故にサボれない。そこまで真面目である理由もないが、別に情報を集めるのは何処でも出来ると割り切り、仕方なく参加した。

別にCCを使いボソンジャンプで逃げても良かったが、そんな事のために使いたくは無かった。

 なので一夏は観客席に座りつつ、情報を集めていた。

一夏の周りには誰も居ない。噂にもある『怖い』人物の前には誰も座りたがらない。

まぁ、そんなことを気にする一夏ではないが。何処であろうと平常運転であった。

 そして開会式の宣言の後にさっそく試合が始まっていく。

各クラスの代表がぶつかり合い、己の力量を試していた。

その中には簪も入っており、簪はかなり頑張って二年生の専用機持ちから勝利をもぎ取っていた。

 そして今度は一夏が所属している一組と、鈴がいる二組との対戦になった。

一組からはセシリアが、二組からは鈴が出ており、アリーナでにらみ合っていた。

そして試合開始のブザーが鳴ると同時に二人は動き出した。

鈴は青竜刀のような武器を展開すると、さっそくセシリアに斬りかかっていき、セシリアは最初からブルーティアーズを展開して鈴を迎え撃つ。

代表候補生の名にふさわしい戦いっぷりにアリーナが沸いたが、一夏はまったく気にも留めずに情報を漁っていた。

 確かに今試合をしている二人の力量は代表候補生として胸を張れるものだ。

だが、一夏が興味を向けるような物ではない。一夏からすれば、それでも『お遊び』なのだ。

二人には絶対に分からない、『絶対防御が作動しても尚、貫通し己を殺す威力の攻撃』。これを受けたことのある一夏にとって、そういった攻撃がない試合など、お遊びにしか映らない。

機体機動とて、北辰達と比べれば幼稚で甘い。その程度の機動では、実戦では耐えられない。

故に一夏は試合に目を向けることをしない。まったく必要がないからだ。

 そして二人の試合も佳境に入って来たところで、事態は急変した。

突如アリーナの上空で重力子反応をレーダーが捕らえたのだ。

無論一夏のエステバリスも察知している。そしてその瞬間・・・・・・

 

アリーナのシールドバリアが破壊された。

 

 見えない激流のようなものによって、バリアは破壊されたのだ。一夏はこの攻撃に見覚えがあった。

 

 グラビティブラスト。

 

ネルガルで研究している重力波砲だ。莫大なエネルギーをPICに投入し、強力な重力波を収束させて放射する兵器だ。まだ研究中の代物で、ネルガルでは完成していない。(ISサイズでは)

そんな物を撃てるところなど、ネルガルを除けば一つしかない。

 そしてアリーナを破壊した存在は降下してきた。

 

「「なっ!?」」

 

 急な事態に驚くセシリアと鈴。

警戒態勢と避難勧告のブザーが鳴り響き、アリーナにいた観客は急いで避難していく。

千冬達はこの事態にすぐさま対応しようとするが、アリーナの隔壁等にハッキングがかけられロックされてしまい、動き辛くなっていた。

 一夏はその襲撃者を見た途端・・・・・・

 

 『笑った』

 

 そう、一夏はこの学園に来て初めて笑ったのだ。

ただし・・・・・・それは明らかに邪悪な笑みだった。一般人が見たら一瞬にして逃げ出す、そういう類いの笑み。殺意と狂気に満ちた喜悦。捜し物が見つかった子供のようで、長年探していた敵を見つけたような、そんな顔。

十代の人間がして良い顔では絶対になかった。

しかし、それでも・・・・・・一夏は笑っていた。

 

「・・・・・・舐めた真似をしてくれる・・・・・・」

 

 そう淡々と言いながらも、その顔は笑っていた。

 

 

 

 鈴とセシリアは襲撃者を見て驚いていた。

 

「何よ、あれ?」

「IS・・・なのでしょうか?」

 

 そう疑問を二人に持たせる理由。

それは、襲撃者があまりにもおかしかったからだ。

全身を覆う装甲。顔のところも覆ってあり表情が分からない。体もがっちりとしていて、胸部の装甲は特に分厚い。そして腕が体に比べて長かった。背中にはウィングのような物が付いてる。

そして一番に二人が疑問に思ったのは、その色と機体形状だ。

足と腕が赤く、ボディが青い。まるで、子供が好きそうなロボットアニメに出てきそうなカラーリングと形をしていた。まるで現代の兵器を無理矢理子供の好きそうなロボットに変えた感じである。

 鈴とセシリアはいきなり来た襲撃者に通信で話しかけるが、相手からは何も返ってこない。

そして襲撃者は鈴達の方を振り向くと・・・・・・

 

 大出力のレーザーを撃ってきた!

 

 咄嗟のことに鈴とセシリアは回避する。

避けた先にあったアリーナの壁にレーザーが当たると、一気に爆発して壁が溶融した。

それを見て顔を青褪める二人。

すぐにでも退避したくなるが、この場で退避すれば他の生徒にも危険が迫ってしまう。そのため、二人は逃げることが出来ない。どちらにしろ、先程教員からの通信でアリーナがロックされてしまっているため逃げられないことは知っている。

この場で鈴とセシリアが出来ることは、教員がロックを解除して救援に来るまで襲撃者を足止めすることである。

 

「行くわよ!」

「はい!」

 

 二人はそう言って襲撃者に攻撃をし始めた。

鈴は自分のISに積まれている第三世代IS用の兵装、『龍砲』を敵に向かって発射する。

これは衝撃砲と呼ばれる物であり、衝撃を弾にして発射する兵器だ。鈴のISである『甲龍』の専用武装である。

セシリアもブルーティアーズを展開して襲撃者に攻撃を加えた。

二機のISのこの射撃攻撃。通常の兵器やISなら、何も出来ずに破壊されるだろう。

 だが・・・・・・

 

「「えっ!?」」

 

 鈴とセシリアの驚きの声が重なった。

理由は・・・・・・撃った攻撃が一切敵に当たらなかったからだ。

回避された訳ではない。まるで・・・見えない壁によって逸らされたように攻撃が敵を避けていったのだ。

衝撃砲は目に見えないので分からないが、セシリアのレーザーが曲がっていくのを見て、そう結論付けた。よく見ると、敵を覆うように、薄い黒い色をした膜のようなものが展開されていた。

ISから敵機の周りに空間の歪みが検出されていた。

 

「一体何なのよ!?」

「一体何なんですの、あなた!?」

 

 そう叫ぶも、敵は何も答えずに鈴達に襲いかかった。

 

 

 一夏はすぐにでもアリーナに行きたかったが、人混みに流されてしまい避難用の通路に押し流されてしまった。

 できる限りボソンジャンプは見られたくない。そのため、アリーナに向かうためには三年生や専用機持ちが開けようとしているロックされた扉を開ける必要があった。

人混みをかき分け、その扉の一つにたどり着いたら、そこには三年生と簪の姿があった。

どうやらハッキングを仕掛けているようだが、全然進んでいないよういだ。

 

「どうしてっ!?」

 

 簪が悲痛そうな声を上げる。

一夏はそれを見た後に簪に話しかけた。

 

「・・・・・・退け・・・・・・」

「え・・・お、織斑君!?」

 

 一夏の姿を見て驚く簪。

一夏はそんな簪を気にせずにブラックサレナを展開。そして悪魔の尾を連想させるテールバインダーをプラグの接続口へと伸ばす。

するとテールバインダーの先がさらに割れ、そこからコードが伸び扉に接続される。

 

「・・・・・・やれ、『オモイカネ』」

『了解』

 

 一夏がそう言った途端に、一夏の視界に文字が出現した。

ブラックサレナのサポートAI、『オモイカネ』である。ブラックサレナの戦闘補助や電子戦を主にこなしている存在だ。その性能は世界トップクラスといっても過言ではない。

一夏が接続した扉は、物の五秒でロックが解除された。

そのことに驚愕する周りの人達。簪は驚きのあまりポカンとしていた。

 一夏はロックを解除した扉を開けると、浮遊してアリーナに飛ぼうとする。

 

「ど、どこ行くの、織斑君!? あ、危ないよ」

 

 簪は一夏が行こうとしたのを止める。

しかし、一夏は止まろうとしない。

 

「・・・・・・ここから先は危ない・・・・・・お前は避難しろ・・・・・・」

 

 一夏はそう簪に言うと、一気に足のスラスターを点火してアリーナへと通路を飛んでいった。

 

「織斑君・・・・・・」

 

 簪はその場で一夏を見送ることしか出来なかった。

 

 

 

 

 


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