インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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今回も黒く頑張ります。
感想、気軽にじゃんじゃん簡単なことでもよろしくお願いします。


第十五話 彼女は頑張った。

 一夏は簪と会った後、外で夜を明かしそのまま朝の学園へと向かい、いつも通りに授業を受け、いつもと同じ様に生活していた。

 いつもと同じようにエステバリスを使い世界から情報を収集していく。本来ならば禁止されている行為だが、エステバリスはそれを気付かせず遂行する。一夏が使うエステバリスにのみ搭載されている『静粛モード』。これは学園側や企業などに一切悟らせずにコアを起動させ、世界から情報を収集することが出来る。はっきり言って違法であるが、ばれなければ誰も罰することは出来ない。

それ以外にもネルガルからの情報提供もあり、一夏は殆どの時間を集めた情報に目を通すことに使っていた。今更座学など一夏には必要もないことなので、時間はたっぷりとあった。

故に今日も一夏はいつもと変わらずに同じことを行っていた。

 鈴はというと、昨日一夏に銃を向けられたというのにまったく気にせず果敢に一夏に話しかけていた。

 恋する乙女は何とやら、と言ったところだが、それを見て箒は何とも言えない気持ちになる。

これが昔と変わらない一夏だったのなら、それはもうイライラとしていただろう。だが、今の一夏にはそういう恋愛的な感情を上手く抱けない。

 箒は一夏の事について何も知らない。

拉致されて人体実験をされていたことも、実験のせいで五感や人としてあるべき欲求など、人を形作る要素の大半を失ってしまったことも。

 箒に分かっていることはただ一つ。

一夏が昔と変わりすぎてしまった・・・・・・ただそれだけである。

それもただ成長して変わったというものではなく、想像も絶する過酷なことがあり、そのせいで変わってしまったということを推察出来る程度である。

 そんな変わってしまった一夏が誰かに心を開くとは到底思えない。そのため、鈴がいくら話しかけようとあまり何かが変わるとは思えないのだ。

 そして昼休みになり、一夏はまたどこかに行こうとする。

箒は一夏に拒絶されたため、一夏に話しかけることは出来なかった。一夏はそんな箒に目も向けずに教室を出ようしていたのだが・・・・・・

 

「い~ちか、来たわよっ!!」

 

 一夏の行く先を鈴が立ちはだかった。

一夏はそんな鈴を見ても何も言わずに出口へと向かおうとする。

 

「ちょっ、ちょっと! 待ちなさいよ」

 

 鈴はそんな一夏を呼び止めようとする。

鈴だって昨日のことを忘れた訳ではない。だが、それでも鈴にとって一夏は一夏なのだ。二年前まで一緒にいた想い人なのだ。箒と違い、別れたのがここ最近だ。それがその二年間でここまで変わってしまったことに鈴は驚いていた。だからこそ、余計に気になるのだ。一夏が何故こんなに変わってしまったのかを。

 しかし、一夏は止まらない。徹底的に無視をし、出口へと向かって行く。

その時、一夏の前の扉が開かれた。

 

「あ、あの・・・・・・織斑君は・・・いますか・・・・・・」

 

 開いた扉の先には、簪がオドオドした様子で立っていた。

周りにいた生徒は簪を見てかなり驚いた。簪が日本代表候補生だからではない。生徒会長の妹だからではない。『あの』織斑 一夏に用があることに驚いたのだ。

鈴は休み時間の度に来ては一夏に無視されているので、最初こそ驚いたがすぐに慣れた。鈴の口調からも一夏と知り合いであったことが窺える上に、鈴が強気で物怖じしない性格なことも知れたので毎回話しかけにいってもおかしくない。

 だが、簪のような見るからに気弱そうな生徒が一夏を訪ねてきたのだ。一体何の用だろうかと皆興味津々になる。

 簪は一夏が目の前にいたことに驚き、「きゃっ!?」と少し声を出してしまった。

いきなり驚いてこんな声を人にあげてしまうのは失礼なことである。しかし、一夏はまったく気にしない。

 

「・・・・・・・・・俺に何の用だ・・・・・・」

 

 いつもと変わらない、何の感情も感じさせない声で一夏は簪に話しかけた。

 

「ちょっと、あんた何よ!?」

 

 いきなり割り込まれた鈴は不機嫌になり、簪に噛み付いた。

いきなり大きな声でからまれたため、簪は、ひぅ、と怯えてしまう。

しかし、簪はそれでも鈴に立ち向かうように応じた。確かに気が弱い簪だが、それでも彼女は芯が強い少女なのだ。怯えながらも鈴に応じる。

 

「わ、私は・・・お、織斑君に言わなくちゃいけないことが・・・あるから・・・・・・」

 

 顔を真っ赤にしながらもそう答える簪に、鈴は自分と似たような気配を感じさらに不機嫌になる。

 

「別に今じゃなくてもいいんじゃないの!」

「わ、私は・・・放課後・・・用事があるから・・・」

 

 鈴の視線に簪は怯えつつも何とか言葉を紡ぐ。

そして鈴の視線から逃れるように一夏の方に振り返った。

 

「そ、その・・・あの・・・」

 

 簪は一夏の前であたふたとしつつも、何とか決意を固める。

 

「き、昨日は助けてくれて・・・あ、あり・・・がとう・・・・・・」

 

 そう消えそうなほど小さな声で一夏に告げ、頭を下げた。

その行為に、その場にいた皆は目を剝いた。

何せ『あの』織斑 一夏が礼を言われているのだ。人のことなど何も思わないと思われている一夏が人を助けた。これほど衝撃的なことは、セシリアを叩き潰した以降は無かっただけに皆驚いていた。

 

「・・・・・・・・・別に自分が危険だからしただけだ。礼をされる覚えはない・・・・・・」

 

 一夏は頭を下げている簪にそう言った。

やはりと言うべきか、そこには感情が一切感じられない。

 しかし、簪はそれでも嬉しかったようで少しだが、笑った。

 

「そ、それでも・・・だよ・・・」

 

 そう一夏が言ったことに反応する簪。そこには、何というか・・・少し良い感じな雰囲気を鈴は感じた。何せさっきまで話しかけていたのに、一夏は一切喋らなかった。それが見知らぬ生徒に応じたのだ。気にくわなくて仕方なかった。

 

「もう、お礼は言い終わったんでしょう、だったらもういいわよね! あ、そうだ一夏、あんた昔の約束覚えてる?」

 

 鈴は捲し立てるように言い簪を退けると、まるで簪を警戒するように『昔』を主張して一夏に聞く。鈴にとって一世一代の決意を持ってした約束であり、特別なものだった。約束をしたのは小学生のころの話であり、結構古い。それでも鈴にとっては大切な約束だった。

 しかし、一夏は気に留めずに簪に話しかける。

 

「・・・・・・話はそれだけか・・・・・・なら俺はもう行く・・・」

「う、うん・・・」

 

 感情を感じさせない淡々とした口調でそう言われたが、簪はそれでも嬉しかった。

鈴はそれでも気にせずに一夏に話しかける。

 

「小学生の時の約束よ。覚えてない?」

 

 そう言われ昔の約束とやらを思い出そうとしてしまうのは一夏がまだ甘いからだろうか。

そしてすぐに思い出した。小学生の時、鈴とした特別な約束を。

当時はまったく能天気だったため、言葉通りにしか受け止めなかったが、今となってはそれがどういう意味なのかは大体分かる。

だが・・・・・・

 

その約束に応じることは絶対にない。

 

 今の一夏は『そんなこと』をしている暇は無い。そんなものに時間をかけるのなら、すぐにでも北辰達を殺しに行きたい。そして・・・・・・

 

文字通りに一夏はその約束をかなえることが出来ない。

 

 それをするために必要なものを、一夏は失ってしまったから。

だからこそ、一夏は鈴にこう言うしかなかった。こう言うことしか出来なかった。こう言うこと以外なかった。

 

「・・・俺はそんな約束など知らない・・・・・・」

 

 そう言われた途端に鈴の顔が曇る。だが、持ち前の負けん気で何とかこらえて逆ギレする。

 

「最低!! 女の子との約束を忘れるなんて~! だ、だったら、思い出させてやるわよ! 思い出せなかったとしても、また約束してもらうわよ! 私が今度のクラス代表戦で勝ったら聞いてもらうからね~!!」

 

 そう言い捨て鈴は自分のクラスへと走りながら戻って行った。

皆がそのことに唖然とする中、一夏は気にせずに教室から出て行った。

簪はと言うと、驚いていたが、それよりも一夏に話しかけられたことに素直に喜んでいた。

箒はと言うと、いたたまれない視線で鈴が去っていたところを見ていた。

 

 

 教室から出た一夏は屋上で固形食料を囓りながら情報を漁っていた。

その時にネルガルからとある情報が来た。

 

「これは・・・・・・」

 

 そこには、クリムゾングループが開発したあるISの情報が載っていた。

そのISは情報の通りなら、世界初の無人ISの情報であった。

 

 

 

 


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