インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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第十二話 第二の幼馴染み、それでも彼は

「ねぇねぇ聞いた? この話」

「二組に転校生が来るんだって! さっき職員室で聞いたって人がいたらしいよ」

 

 翌日、一年一組は騒がしくなっていた。

どうやら今日から二組に転校生がくる、そんな話題のようだ。この時期に転校生というのは珍しい上に、IS学園の転入試験は難しいことで有名である。それをクリアして来たと言うからには、余程優秀なのだろう。そのため、皆その話題に興味津々であった。

 しかし、そんな中一人だけまったく興味を持たない者がいた。

この学園で唯一の男子生徒である織斑 一夏である。

一夏にとってこの学園に新しい生徒が来ようが、まったく関係ない。

一夏の目的は北辰を殺すことのみ、それ以外に考えることはない。この学園生活は言わば、ネルガルの協力を得るための交換条件であり、一夏の本意ではない。なので一夏にとって学園生活とは、邪魔でしかないが仕方ない、そういうものだ。

 クラスがその話題で盛り上がっている中、やはりと言うべきか一夏はエステバリスを使って情報を収集していた。

 

「もしかしてかなり強いのかなぁ?」

「そりゃそうじゃない。こんな次期に転入してくるんだから。でもちょっと心配かも・・・」

「大丈夫じゃない! うちのクラスなら楽勝だよ、何せうちのクラスには代表候補生のセシリアがいるんだし。それに・・・・・・・・・」

 

 そう会話していた少女達の視線が一夏に向いていく。

さっきまで強いと言っていたその代表候補生を徹底的に叩き潰したその存在がこのクラスにはいるのだ。簡単に負けるとは思えない。

 

「―――――その情報古いよ」

 

 そう騒いでいるクラスにそんな冷や水を浴びせるような声が扉付近からかけられた。

皆その声に反応してそちらを振り向くと、そこには小柄でツインテールの女の子が立っていた。

 

「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には勝てないから」

 

 そう勝ち誇って小さな胸を張っているのは、中国代表候補生である鳳 鈴音である。

この少女は昨日受付を終えた後に入寮。その後自分のクラス代表と話し合いという名の力業を持ってクラス代表を交代してもらったのだ。

 鈴は皆の前に堂々と出ると、皆に自分という存在を刻みつけるように自己紹介を行った。

 

「中国代表候補生 凰 鈴音! 今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 その自己紹介に皆息を呑んでいた。

まさか二組にも代表候補生がくるとは思わなかったのだ。

 鈴はその光景を見て内心でニヤリ、と笑う。

彼女はその可愛らしい外見からよく下に見られやすい。なので彼女は意思表示を行うことで自分を大きく見せようとしたのだ。それに、彼女がこのクラスに来た理由はそれ以外にもあった。

 織斑 一夏に会うためである。

既にこの学院に織斑 一夏の存在は知れ渡っていた。

それも珍しいというだけではない。代表候補生を完膚なきまでに叩き潰したことで、その名は別の意味も持って知られているのだ。

 昨日一夏とぶつかった鈴は、最初こそ幻でも見たんじゃないかと自分を疑ってしまった。

だが、寮に入り自分のルームメイトと仲良く話していると、ISを操縦出来る男子の話題が出てきた。その話題とさっき見た一夏のことが気になって鈴はその話を詳しく聞いてみることにした。

結果、一年一組には男子生徒が一人だけおり、名前を織斑 一夏ということ。企業に所属しているらしく、専用機を持っていること。自分のクラスにいる代表候補生相手に余裕で圧勝したということだった。

 その人物が本当に一夏であるのか、それを確認するために来たのだ。

そして鈴は見つけた。周りが騒いでいる中、ただ一人で何の感情も浮かべずに座っている一夏を。

黒いバイザーで目元を覆っているとは言え、その顔はまさに鈴の知っている織斑 一夏だった。

 鈴は騒いでいる皆の前を通り、一夏の前に立った。

 

「久しぶりね、一夏。やっぱり昨日のは一夏だったんだ」

 

 二年前に行方不明になっていた想い人と再会したことに、鈴は笑顔になっていた。

周りのクラスメイト達は、そんな鈴を見て驚愕していた。

『あの』織斑 一夏に笑顔で話しかけられる人物を初めて見たのだ。その衝撃は彼女達がこの学園に来てから初めて感じたものであった。

 

(な、何ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?)

 

 箒もこのことには驚きを禁じ得なかった。

まさか自分の幼馴染みにこんな風に笑いかける娘がいるとは思わなかったのだ。

 しかし・・・・・・

 

一夏は鈴の言葉を一切無視していた。

そのことに鈴が不安になりながら一夏に話しかける。

 

「どうしたのよ、一夏?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 この距離で聞こえていないことはないだろう。だが、一夏はそれでも反応を示さない。

そのことに段々と不安になっていく鈴。まさか自分のことを忘れてしまったのではないか、と危惧し始めた。

 

「もしかして・・・・・・私のこと忘れちゃったの? あんたの幼馴染みの『何を言っているのかは知らないが、人違いだ。俺はお前のことなど知らない』なっ!?」

 

 やっと反応を示した一夏はそう淡々と何の感情も感じさせずに鈴に言った。一夏から言われたことに、鈴は驚愕しながら怒りがこみ上げてきていた。

自分の想い人に知らないなどと言われて、黙っていられるほどこの少女はまだ大人ではなかった。

 

「何言っているのよ、あんたっ!? この私を忘れたなんて言わせないわよ!!」

 

 鈴は一気に頭に血が上り、激怒した。

だが一夏はさっきの反応以降、まったく反応を示さない。

そのことが鈴の怒りに拍車をかけていく。次第に鈴は泣きそうになっていた。

 

「何を騒いでいるんだ、この馬鹿者共!」

 

 そう騒いでいるクラスに一喝が響き渡った。

声の元に皆振り返ると、そこにはこのクラスの担任である千冬が仁王立ちしていた。

 

「ち、千冬さんっ!?」

 

 さっきまで激情していた鈴だったが、千冬の姿を見て頭に昇った血が一気に下がっていった。

千冬は隣のクラスに鈴が転入してくることを知っており、一夏の所にくることは予想していた。しかし、今の一夏にはあまりにも近づけないために、どうしようもなかった。

 千冬は鈴の方を見ると一回溜息を吐き、少し呆れつつ鈴に言い渡す。

 

「織斑先生だ、馬鹿者! もうSHRが始まるぞ、さっさと自分のクラスに戻れ、凰」

 

 そう千冬に言われると、鈴は弾かれるように教室を出て行く。

鈴は一夏と知り合ってから、千冬のことが苦手であった。

 

「一夏、また後で来るからね!!」

 

 そう鈴は一夏に言い残して行った。

一夏はその言葉を聞こえてはいたが、当然無視していた。

何度も言うことだが、一夏にとって学園生活とは余分な物でしかない。

その目は常に世界から集められる情報を調べ、怨敵である北辰の居所を探し続けていた。

 

 

 

 

 


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