インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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第十一話 クラス代表決定 しかし復讐人には関係無い

 試合を終えた翌日。

朝のSHRで真耶は笑顔で連絡を皆に伝えていく。

 

「一年一組のクラス代表はセシリア・オルコットさんに決まりました。オルコットさん、頑張って下さいね」

 

 真耶がそう言うと、クラスはシーンと鎮まってしまった。

別にセシリアに決まったことが皆不満なのではない。セシリアが代表というのは、彼女達にとってもめでたいことではある。寧ろ祝いたい気持ちだった。

だが、心中はそれどころではなかった。

 

 昨日の試合を見て、皆ショックを受けてしまった。

 

 代表候補生と言えば、IS学園に通う者にとっては憧れの一つである。

それが・・・・・・初めてISを操縦出来る男性に、ISを動かしてそこまで経っていない人間に(表ではそうなっている)こうも徹底的に倒されるとは思っていなかったのだ。

一夏を推薦した少女達も、こんな事態になるとは思っていなかった。そのため、その困惑も特に激しかった。

 セシリアは保健室で目が覚めた後に、試合の記憶が蘇ってパニックを起こしかけた。

しかし、それでも代表候補生。意地でそれを何とか抑え、今日も普通に何とか登校してきた。

だが、彼女が負った心の傷は想像以上だったのだろう。廊下で一夏を見た瞬間に、恐怖が蘇って息を呑み込み、体が震えだしてしまった。セシリアには一夏への恐怖が刻み込まれてしまったのだ。

 対して一夏は通常通り。

何の感情も浮かべずにバイザー越しで世界を見ていた。

その顔に昨日の試合の疲れなど、一切感じられない。事実、一夏は疲れていなかった。

あの程度など、最早遊び同然である。よくよく考えてみれば、一夏はISを使って戦闘をする場合、無傷で済んだことはない。いつも死ぬ一歩手前状態で何とか北辰達から離脱してきた。死ななかったのが不思議なほどの大怪我が毎回のことであり、今回のようなことは初めてである。普通なら喜ぶことなのだろうが、一夏は北辰達を殺す以外に喜ぶ事など無いだろう。少なくとも、セシリアとの試合は一夏にとってお遊び以下であったため、疲れる事も精神的に高揚することも無かった。

 クラスの反応に戸惑ってしまう真耶。いつものお祭り騒ぎのような感じと違って、お通夜といった雰囲気である。どうすればいいのかと困り、千冬に縋るような視線を向けていた。その視線を受けて、千冬は仕方ない、とため息を吐いていた。内心では、自分も一夏のことに困惑していたが、それを皆の前で出すわけにはいかなかった。

 

「皆、話は以上とする。クラス代表はオルコットで決定だ。では、解散」

 

 そう千冬は言うと、真耶を連れて教室から出て行った。

その途端にセシリアに寄って励ましてくクラスメイト達。中には一夏を睨み付ける者もいたが、一夏は気にせずに席に座ったままであった。

そんなことなどまったく気にかけず、一夏はISを使っていつも通りに情報を収集していく。

 

(どこにいる、北辰・・・・・・はやく・・・早く! お前達を殺したい・・・・・・)

 

 昨日の試合などまったく気にせず、一夏はそのことだけを考え続けていた。

 

 

 

 その日のISの授業はアリーナで行われることになった。

授業課程ではそろそろ生徒に実機での授業を行う事になっている。

そのため、皆には間近でISが動いている所を見せた方が良いと判断してアリーナに集められた。今日はISの基本的な飛行操縦を見て貰うためだ。

皆朝の雰囲気から少しは和らいでくれたようで、千冬と真耶は内心少し、ほ、としていた。

 すぐに動けると言うことで専用機持ちが皆の前に呼ばれた。

セシリアが呼ばれた後には一夏も呼ばれ、セシリアは一夏の姿にひぃ、と息を呑んでいた。

一夏はそんなセシリアを気にも留めずに前を見ていた。

 別に一夏を呼ぶ必要は本来ならないだろう。飛行を見せるだけならセシリア一人で事足りる。

しかし、一夏を呼んだのはその機体の情報を集めるためである。

ISを渡すように言ったところ、これを一夏は拒否した。機体に関してはネルガルの物であり、IS学園に貸す気は無いと。当然そんなことが普通、通るわけがない。しかし、一夏の放つ禍々しい殺気に皆当てられ、何も言えなくなってしまったのだ。そのため、一夏のISの情報はネルガルが提供したもの以外は分からないのが現状であった。ならば外部から収集していくしかない。

そのため、一夏には少しでもISを使わせる必要があった。故にこの授業でも前に呼び出した。

 

 

「それではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。オルコット、お、織斑は試しに飛んでみせろ」

「は、はいですわ!」

「・・・・・・了解」

 

 そう千冬に言われると同時に二人はISを展開した。

そこでまた周りは目を剝くことになった。

セシリアよりも一夏の展開速度のほうが早かったのだ。時間にしても一瞬、0.1秒以下。最早神業であり、各国代表候補よりも早かった。

周りがその事に驚愕していることも気にせずに一夏は機体を少し浮遊させる。

皆の前には昨日見たものと同じ、真っ黒い悪魔のようなIS、『ブラックサレナ』が現れた。

その姿を見てISを展開し終えたセシリアの顔が青ざめる。

 

「・・・・・・はっ、で、では飛べ!」

 

 さすがの千冬もこの事態に意識が飛んでしまっていたらしく、その声は困惑していた。

千冬が言うと同時に、二人とも行動し始める。

セシリアが上空へと意識を向けた途端、すぐ近くをまるで砲弾が通り過ぎるかのような衝撃を感じた。そして一瞬にして遙か上空にブラックサレナが飛行していた。

 一夏は号令と同時に足の大型スラスターを一気に噴かせた。

途端にISの重力制御では押さえきれないGが体にかかるが、一夏は気にせずに上空へと飛んだ。

このエステバリス専用パッケージ『ブラックサレナ』はその加速性、その速度故にISの重力制御では押さえが効かない。その押さえきれなかったGだけでも相当なものであり、戦闘機乗りでもない人間にはきつくてすぐにブラックアウトしてしまうだろう。一夏がしない理由は過度な訓練とその薄れすぎた触覚がそれを感じさせないためだ。

 セシリアがブラックサレナの居る所に着くのに二秒経った。

 

「では今度は降下してみろ。着陸目標は地表10cmだ」

 

 千冬がそう言うと同時に一夏がまた動く。

上空から体をくるりと回転させ頭を下に向けると、ほぼ垂直にスラスターを噴かせながら落下してきた。落下速度も加わって見ていた皆には上空に飛ぶ以上に速く見えた。

あまりの速度に地表にぶつかると思い、皆目を瞑ってしまい、体が勝手に衝撃に構えてしまう。

しかし、しばらくしても激突音も衝撃も何も襲ってこない。

目を開けると、地表近くにブラックサレナが浮いていた。その様子から危なっかしい様子は一切見られない。

 

「お、織斑・・・・・・10cm丁度だ」

 

 千冬はその情報を見て告げる。

しかし、内心は驚愕してばかりだった。

あの速度で殆ど誤差無しに目標を達成するのは、それこそ千冬でも出来るか分からないことだった。

それを一夏は難なくやってのけたのだ。この能力だけ見ればモンドグロッソに出てもおかしくない。

 その後も皆の驚愕は続く。

武器の展開は最早一瞬、コンマ1よりも速い。

セシリアはポーズを決めなければならないのに対して、一夏はだらりと垂らした手に一瞬にして展開したのだ。最早一夏を素人呼ばわりできる人間はこの場にはいなかった。

 皆の驚愕のままに、その授業は終了した。

 

 

 

 その日の夜、セシリアのクラス代表を祝うパーティーがクラスの面々で行われた。

食堂の一部を借りきって行われ、皆笑顔ではしゃいで楽しんでいた。セシリアも皆の気遣いが嬉しく、少しは元気が戻っていた。

 当然ながら、その場に一夏はいない。皆セシリアのことを気遣って呼ばなかったし、それでも一夏を気遣おうとしたクラスメイトは呼ぼうとしたのだが、部屋にも居ないため呼べなかったのだ。

 一夏自身も参加する気は毛頭無いのだが・・・・・・

そのパーティーに来た二年生の新聞部副部長に一夏のことをセシリアは聞かれ、その場でセシリアは泣き出してしまったとか。

一夏は知るよしもない。

 

 

 

 「まったく~、第一受付ってどこよ!」

 

 暗くなったIS学園の敷地内で苛立ち声を上げている少女が一人いた。

この少女の名は鳳 鈴音。中国代表候補生である。彼女は明日にIS学園に転入するため、今日中に書類を受付に渡し、入寮の手続きをしなければならない。

しかし、初めて来た土地に迷子になっていた。

ISを使えば簡単に調べられるのだが、『本来』であればISの無断使用は禁止されているため出来ない。そのため、彼女は地道に第一受付を探しているのだ。

 

「もう~、こんなんじゃ日付けが変わっちゃうじゃない」

 

 迷子である事実にイライラしながらも、彼女は歩いて行く。そのため、周りがよく見えなかった。

そのため、角を曲がろうとしたところを何かにぶつかってしまい後ろに倒れてしまった。

 

「いったたたた、一体何なのよ~」

 

 そう不満を漏らしながらぶつかった物を見ると、そこにはIS学園の制服を着た『男性』が立っていた。その事に本来なら驚くなり何なりしただろうが、今この少女は虫の居所が悪かった。

そのため、ぶつかった男性に食ってかかった。

 

「あんた、一体何処見てんのよ! 痛いじゃないのよ! ・・・・・・え!?」

 

 しかし、その顔は一瞬にして驚愕に変わった。

バイザー越しから見えた瞳、そしてその顔に見覚えがあったからだ。

 

「あ、あんた・・・一夏!?」

 

 彼女にぶつかったのは一夏であった。

彼女、鳳 鈴音にとって織斑 一夏は大切な幼馴染みであり、好きな異性であり、二年前に行方不明になった人であった。その人物がいきなり現れたのだ、驚かない方がおかしい。

 しかし、一夏は無表情のままであった。

 

「・・・・・・人違いだ・・・」

 

 そう答えると、一夏は早足で角を曲がって行ってしまう。

 

「ま、待ちなさいよ!」

 

 鈴は一夏を追いかけようと急ぐが、角を曲がった先に一夏はいなかった。

まるで幻であったかのように。

 その後、鈴は第一受付を見つけ、何とか手続きを終えた。

 

しかし、その胸中は穏やかではない。

 

(何で一夏が・・・・・・)

 

 そんな思いが、その小さな胸の中に渦巻いていた。


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