インフィニット・オブ・ダークネス   作:nasigorenn

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書きたくなってついつい書いちゃいました。
後悔はしていない!!
他のIS作品に比べると、かなりビターな仕上がりです。
『装甲正義!織斑 一夏』が撃甘で駄目っ!!
て人はこっち推奨です。
でもあまりきついことは言わないで下さい、作者のメンタルがブレイクしますんで。
気軽に感想書いてくださいね。


第一話 復讐人(ふくしゅうびと)の始まり

 これは復讐人の物語。

ただなんてことのない、一人の人間が復讐するだけの物語である。

 

 

 

 端的に言おう。

物語は通常と変わらず、織斑 一夏は第二回モンドグロッソの決勝戦の日に拉致された。

そこまでは本筋。しかし、その後は本筋と違った。

彼を拉致したのは確かに亡国機業だった。しかし拉致したのは黒服の男ではなかった。

 

「貴様には我等の研究の礎となってもらう」

 

 一夏を拉致した者達は、笠のような物を被った奇妙な男達だった。一夏にそう言ったのは、リーダー格の男は、片目が異様に大きくて左右非対称、それがさらに男に不気味な雰囲気を与えていた。

 当然一夏は抵抗した。

しかしながら、所詮は子供。一撃で沈黙させられた。

その時一夏は薄れゆく意識の中で、その不気味な男の名を聞いた。

 

『北辰』

 

 その名を・・・・・・

 

 

 

 それから目が覚めた一夏に待っていたのは地獄だった。

人体実験で毎日肉を切られ、劇薬を投与され、妙なナノマシンを注入され、人権という人権を否定され続けた。

 研究者は一夏のことをモルモットのようにしか扱われず、満足な食事もない。最低限の点滴のみ。

研究の犠牲にされ、どんどん人が死んでいく。

そのことに一夏の精神は疲労して不安定になっていく。毎日が激痛や苦しみで覆われていった。

 次第に無くなっていく五感。

一番最初に気がついたのは触覚だった。

触られているのに感触を感じなくなっていた。次に味覚。

口の中を喉の渇きから濃縮された唾液が満ちるが、苦いといった味をまったく感じなくなっていった。

それに伴い痛覚も無くなっていった。

いくら身体にメスを入れられても、何も感じられなくなった。

 そして視覚。

目が覚めてから段々と、見えている風景がぼやけていき、次第には真っ暗になって何も写さなくなった。

 最後に聴覚。

これが最後になり、聞こえなくなっていく耳。

一夏は完全に聞こえなくなる前に研究者の話を盗み聞きした。

 

曰く、この研究は男でもISを動かせるようにする研究だと。

そしてもう一つ・・・ある特殊な性質を持つ者を研究するためだと。

 

 そうして一夏は自分が拉致された大まかなことを知った。

そしてその胸には怒りしか湧かなかった。

ただ許さないと・・・殺してやりたいと・・・そう思った。

 しかしいくらそう思っても一夏は何も出来ない捕らわれの身。

結局五感すべてを失った。

 しかもそれだけではなかった。

ISを乗れるようにする方法が一つだけだが、確立されたのだ。

それだけ言えば、世紀の大発見。

しかしそれは非合法の極致であり、人権を無視しきったもの。表に出せるような代物ではなかった。

何よりもまずいのは、『ISコアを人体に埋め込む』ということ。

これによりISと人体を一体化。それにより男でもISを動かせるようになるというものだった。

しかしそんな前代未聞の方法は、当然ながらに上手くいくわけがない。

拒絶反応が酷く、殆どの被献体は死んでしまった。

しかし一人だけ成功した者がいた。

それが織斑 一夏だった。

ここにはもう一つの要素である、ある性質も関係していた。

それにより、一夏への実験はより果敢に行われるようになっていった。

 何も見えず、何も聞こえず、殆ど感じられない。しかし身体はおもちゃのようにいじり回される日々。

一夏はそんな状態でも、諦めずに一つだけを思った。

 

許さない・・・・・・その感情だけを・・・

 

 そのまま行けば一夏は死ぬはずだった。

しかし何の因果か、その研究所は襲撃された。

素顔を見えないよう、マスクで顔を隠し、特殊部隊のような装備をした者達が研究所へと侵入していく。

逃げ惑う研究者達が次々と殺されていく。

その混乱のせいで、一夏を縛っていた拘束が緩んでしまった。

しかし一夏にはそのこともわからない。

ただ・・・・・・第六感とでもいうような、気配を辛うじて感じられるようにはなっていた。

そのため、研究所を放棄しようとする前に、証拠を消去しようとする研究員の殺気は何故だかわかった。

 

 殺される・・・・・・そう感じた一夏は声にならない悲鳴を上げて研究員の気配がするほうに飛びかかり、両手で研究員の首を力の限り絞めた。

どこを掴んでいるのかもわからない。それどころか歩いているのかもわからなかった。

ただ・・・・・・

 

(死にたくない! 俺はまだ、死にたくない! こんなところで・・・死ねない! あいつらを・・・・・・までは・・・)

 

 それだけを思って必死だっただけだった。

結果・・・・・・研究員は首を絞められ死んだ。

初めての殺人。しかしそのことさえ、一夏には分からない。

 一夏の声を聞いて襲撃者がその部屋に突入。

現場の状態と一夏の恰好から大体を推察し、一夏を殺そうと銃を向ける。

 しかしそれは、襲撃者の通信機からの連絡で止められた。

 

『ちょっとそいつを殺すのは待ってくれないかなぁ。少し興味があるんだ』

 

 通信機越しから若い男の声が流れる。

その男がどうやらこの襲撃者達よりも上らしく、襲撃者は一夏を殺すのをやめ、保護することにした。

 こうして一夏は生き汚くも、生き残った。

 

 

 

 保護されてから一ヶ月が過ぎた。

と言っても、一夏にはそれまで何も感じられなかったので何も分からないままだった。

その日に一夏は、少しだけだが、三感くらいまでを取り戻す。

 

「やぁ、調子はどうだい?」

 

 真っ白な病室で戻った三感に驚愕し困惑する一夏に、その男は気軽に話しかけてきた。

歳の頃は二十代前半、茶髪のロン毛で、いかにも軽そうな男だった。

 一夏は急なことに何を言えば良いのか分からずにいる。それを見通してのことなのか、男は軽く一夏の状態を説明し始めた。

 

「そうだね。まず僕の名前はアカツキ。それ以外は今は言う必要はない。君は違法な研究所に人体実験のモルモットにされていた。それを僕達が助け出したってわけさ、格好いいだろ。君は薬物やナノマシンのせいで五感すべてを失ってしまった。それはすまないが、僕達ではどうすることも出来ない。その代わり、ISのハイパーセンサーを応用したこのバイザーを架けていれば、少しだけなら、視覚、聴覚、触覚を取り戻すことが出来る。ちゃんと僕の話は聞こえているだろ?」

 

 男にそう言われて、一夏は自分がバイザーを付けていることに気付いた。

真っ黒なバイザーで、目元まですっぽりと覆う形になっている。

 一夏がそのバイザーを触っていると、アカツキは面白いものを見るような顔で一夏を見る。

 

「まぁ、君の現在の状況はそんなところ。世間じゃ行方不明って扱いさ。つまり君には行くところが無い。このまま表に出たら、また『拉致』されるよ。連中はしつこいからねぇ。そこで相談なんだけど・・・・・・僕達に協力してくれないかなぁ」

 

 アカツキはそう軽い感じに頼むように言うが、実質上の脅迫。

そもそも、アカツキがあの研究所を襲撃したのは利益のためだ。

かの亡国機業の一グループがその研究をしていることは知っていたし、その実験が成功していることも知っていた。

 だからこそ、その研究成果を横取りしようとしたのだ。

そして手に入れた実験の成果。

本来なら、あの研究所と同じような実験をしているところだが、このアカツキがいる『組織』は表のものであり、あまりそういうことは出来ない。今回の襲撃も結構まずいところまで行った。

それほどにまでして手に入れた成果。逃すわけにはいかない。

だからこそ、本人の同意という納得のいく話で進めようとした。

 しかし一夏は答えられない。

まだ回復仕切っていないため、口が上手く動かないのだ。

そのことをアカツキは悟る。

 

「ちょっと急すぎたようだねぇ。ついつい急いでしまうところが僕の悪い癖だ。すまないねぇ、今日はもう帰るよ。三日くらいしたらまた来るから、それまで考えといてね」

 

 アカツキは一夏にそう言うと、手をひらひらと動かして、病室を出て行った。

一夏はその背中を見ながら、さっき言われたことを考えていた。

 

 

 

 そして三日が経過した。

一夏は何とか話せるくらいには回復していた。

そしてまたアカツキが来た。

 

「どうも、織斑君。元気そうで何よりだ。さっそくで悪いんだけど、答え、聞かせてくれるかな」

 

 そう笑顔でアカツキは言うが、答えも何も無い。NOと言えば、今度はアカツキ達によってモルモットにされることを、一夏は理解していた。

だからこそ、一夏は言う。

 

「わかった、協力はする。だけど一つだけ条件がある」

「条件? それは何だい?」

 

 アカツキはその条件が何なのか、楽しそうに待っていた。

 

「俺にあいつ等を・・・・・・『北辰』を殺させろ。それが協力の条件だ」

 

 一夏はアカツキにそう告げた。

殺意が飽和しきったような表情で、静かに。

その答えにアカツキは満足そうにうなずく。

 

「うん、実に良い答えだ。いいよ、その条件を飲み込もう」

 

 そうしてこの日から、一夏の復讐は始まった。

 


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