IS ~銀色の彗星~   作:龍之介

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第8話

私は負けた。

殆ど一撃も与えられなかった。

模擬戦、若しくは試合で負けたのはどれくらい振りだろうか。

完敗は無かったはずだ。

あの男、マツナガ・トウヤは私に土を付けたのだ…

 

嬉しくて仕方がない。

 

次の模擬戦が楽しみだ。

 

 

しかも男性操縦者だ…モンドグロッッソに出して優勝させれば世界中が驚く!そしてこの歪んだ世界も少しは良くなるか…

 

やっと見つけたぞ……

 

私の理想の男。

 

私よりも強い男だ!

 

これからトウヤは女だらけの世界に入る。変な虫が沢山寄ってきてしまうな。今のうちに何とか手綱を握っておかなくては。

 

どうしたものか…

 

それにしても…トウヤ…トウヤ…なんて良い響きなんだ!

 

 

あれ…トウヤはどこに行った?

 

振り返るとアリーナ内には私と誰も乗っていない打鉄しか居なかった。

 

 

 

 

 

アリーナで千冬との模擬戦を終えた俺は山田先生と寮に戻ってきた。なぜ山田先生と一緒かというとまだ学園内も自由に歩けないからだ。在学中の生徒もまだ更識盾無にしか会っていない。

 

 

「夕食はまた部屋にお持ちします。それまで入学までに必読の技術書を読んでいてください。…そのうち織斑先生が戻ると思います」

山田先生が申し訳なさそうにしている。やはり先程の奇行を気にしているのだろう。

 

「分かりました。今日はありがとうございました」

俺はあたまを下げると部屋に入る。

 

 

まずは昨日の宴会の片付けだ。

缶を袋にまとめて机を拭いて…

 

片付けが終わるとバスタオルを持ちシャワー室に行きシャワーを浴びる。

(千冬さん…様子がおかしかったな。俺に負けて凄く悔しかったのかな。回し蹴りとかしちゃったから反則だったかな)

今日の模擬戦の事を思い出してみる。

千冬の動きはとても美しかった。一切無駄と迷いがなかった。あれがサムライと言われる者なのだろうか。

たしかケンドーと言うスポーツが有ったはずだ。千冬のルーツはケンドーなのかもしれない。今晩にでも聞いてみよう。

少し熱めのお湯を頭から浴びる。気持ちいい。

 

コンコン。

扉がノックされる。

「トウヤ?」

千冬の声だ。

「なんですか?」

「一緒に入って良いか?」

 

 

はい?

 

 

「ごめん、もう一回聞いて良いか?」

「一緒に入って良いか?背中を流すぞ」

 

 

千冬が壊れた!

 

「イヤイヤイヤ…何言ってるんですか!駄目ですよ!」

慌てて拒否する。

 

「なんだ…別に良いではないか。私はお前に負けたのだ。私はお前の言いなりだぞ」

千冬さん…どうしたんですか?模擬戦以降様子が可笑しいですよ!

「俺にはそういうつもりは有りませんから!今まで通りの千冬さんでいてください!」

「そうか…意気地が無いなぁ…はぁ〜」

なんか後半に貶された気がしないでもないがいっか…

 

静かになったシャワー室で溜め息ついてしまった。

 

シャワー室から出てジャージを着て部屋を出ると千冬さんは椅子に座っていた。

 

「上がったのか。では私もシャワーを浴びよう」

千冬は普通に下着とバスタオルを持ってシャワー室に向かうが途中で

「覗くなよ。絶対に覗くなよ」

なんて言っている。これは間違い無く覗けって事だよな…

放っておこう。

 

そのまま机に向かい必読の参考書を開く。ISに関する技術が書いてある。

 

俺がエステバリスのパイロットの教育を受けているときもエステバリスの構造やプログラムも教わった。整備は整備班の仕事だが最終チェックはパイロットの仕事だからだそうだ。自分の乗る機体は自分で確認する。それが昔から乗り物に乗る者の慣習何だそうだ。

要は事故責任って事ね。

 

ISには自己診断スキャンが有るそうだが普段から待機状態でのチェックが出来るらしい。

 

俺はエステバリスを取り出し現在の状態を確認すると全ての項目でOKが出ている。

弾薬の補充はどうすればいいんだろうか。あとで千冬に聞いてみよう。

 

ポーチからメモを取り出して疑問に思ったことをメモする。

 

 

 

それから40分程経つとシャワー室から千冬が出てきた。

怒っているな…

目がつり上がって此方を睨んでいる。

 

覗かなかったからか?

 

「どうしたんだい千冬?」

声をかけると体をビクッと反応させた。

「なぜ覗きに来なかった?」

はい?そこストレートに聞く所なの?

「いや…そんなこと聞かれてもこまるんだが」

「覗くなよって言われたら覗きに来るものだ!そんなの常識だ!」

随分とぶっ飛んだ常識だな。

「…それはすまなかった」

謝っておこう。エリナも「取りあえず謝りなさい」って言ってた。

「分かれば良いんだ。次からは覗きに来るように」

腰に手を当ててエッヘン!なんてしている。

千冬はこんな人だったのか。

 

…残念過ぎる。

 

「千冬。相談何だがいいか?」

先程まとめていた内容をそうだんする。

「なんだ?」

千冬はおれのベットに横になった……

「エステバリスの弾薬の補充なのだがどうしたらいいと思う?エステバリスは他に吸着地雷もあります」

 

千冬は難しい顔をしている。

 

「そうだな。本来、専用機の弾薬は所属国家、企業が出している。しかしマツナガはどこにも所属していない。学園の訓練機は国家予算だがな…」

やはりそうか。

と言うか当然だな。俺もエステバリスを維持していくなら何かしらの情報や技術を提供しなくてはならなくなるな。

 

「やっぱりそうなるよな。千冬は企業と国家のどちらが良いと思う?俺の提供出来る技術なんてエステバリスぐらいしかないし俺のもっている情報なんて役に立たないだろ?」

「そうだな。少なくとも男性操縦者と言うだけで日本政府は支援はしてくれるだろう。だが私は情報を漏らしたくない。トウヤが異世界からの人間なんてバレてしまえばモルモットにしかねん。だから私の伝を使って誰からも干渉されないような方法を使おうと思う」

誰からも干渉されない方法?

そんな凄い方法が有るのか?

国家や企業よりも影響力があり強硬な手段を抑えられるということだよな。

「そんな事出来るのか?」

「篠之乃束を使うのさ」

千冬は怪しい笑みを浮かべる。

「篠之乃博士を?どうやって?行方不明じゃないのか?」

「篠之乃束は私の友人だ。そしてトウヤの話をしたら恐らく飛んで来るぞ」

なに?篠之乃博士が友人だと……

篠之乃束ーーISの生みの親であり稀代の天才。世界で使用されているISコアは全て篠之乃博士が作り未だ他の人間には作ることがかなわない。

極端な人見知りで特定の人にしか心を開かないとのこと。

そんな人と友人……千冬は凄い。

 

「篠之乃束のバックを得て更に私から一言国に言えば国から援助が出るしちょっかいも出してこないはずだ。それと……帰る方法も束に研究してもらえるだろう」

千冬の顔に少しだけ影が落ちる。

 

帰る方法が見つかるかも知れない!

 

俺は心が飛び跳ねそうになった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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