「マツナガ、エステバリス出ます!」
「更識、ラファール・リヴァイヴ行きます…」
ピットのカタパルトで加速して俺と簪はアリーナへと飛び出した。
アリーナには既に2機のシュヴァルツェア・レーゲンと甲龍が滞空していた。
「ようやく来たか…逃げたのかと思ったぞ。まぁ、どちらにしても私が勝つのだがな」
シュヴァルツェア・レーゲンを身に纏った少女、ラウラ・ボーデヴィッヒが此方を睨みつけながらそう口を開いた。
「すまん。待たせたみたいだな。良い試合をしようじゃないか。なぁラウラ?」
俺が『ラウラ』と名前で呼ぶとボーデヴッヒは歯を食いしばりあからさまに顔を真っ赤にして怒り出す。
「貴様に名前で呼ばれる筋合いはない‼」
はい…挑発成功。
確かあいつは部隊の隊長だったはずだ。指揮官、いや士官たるものは冷静に状況分析、情報取集を行い指揮を採らなきゃいけない。基本中の基本だ。
「ところで鳳はなんで抽選になったんだ」
俺の質問に凰はギクッとなり悔しそうな顔をして口を開いた。
「…結局ペアを組む相手が見つからなかったのよ…」
…しまった。なんだか可哀想な事を聴いてしまった気がする。まだ友達と呼べる人が居ないのか。
『試合開始まであと10秒。9、8、7…』
場内のアナウンスがカウントダウンが進み俺は右手にラピッドライフル、左手にレールガンを呼び出した。ちなみにレールガンは今回の試合のために威力を落とした。シールドバリアは貫通するが絶対防御への影響を落とした。よく模擬戦をするシャルとセシリアから苦情が出たからだ。二人曰く
「トウヤのレールガンは当たると失神するんじゃないかと思うよ」
とか
「トウヤさんはきっと私を殺す気なのですわ」
と言われるのだ。ただ最後には二人揃って
「「私(僕)を傷物にしたらトウヤ(さん)に責任を取ってもらうけどね」」
と言われる。
『試合開始!』
スタートの合図とともにアリーナには歓声が上がった。アリーナは満員で貴賓席にも相当な数の来賓がいる。ハイパーセンサーで拡大すると篠田社長と二階堂さんが見えた。
脇見も一瞬で済ませて俺はボーデヴィッヒに襲いかかる。ラピッドライフルをフルオートで撃ちながら距離をとり時々レールガンを撃つ。簪は予定通り後方に下がって凰へと牽制射撃を行い俺への射撃を抑え始めた。これは打ち合わせで決めていた事だ。
『恐らくあのペアはまともな打ち合わせをせずに出てくる。連携は無しに等しいが…もしかしたら凰が援護に回るかもしれない。そうなった場合は凰の抑えは簪さんに頼んだ。もし倒せる様ならば倒しちゃって構わないが間違っても倒されないでくれな。流石に二対一では勝てないよ』
俺は一気に加速してボーデヴィッヒに的を絞らせないようにボーデヴィッヒの回りを動き回ると案の定シュヴァルツェア・レーゲンのレールカノンの射撃は遥か後方を跳んで行き全く当たらない。俺は速度を落とさずに右に左にと飛び回りラピッドライフルを連続で撃つと弾丸はシュヴァルツェア・レーゲンへと吸い込まれる様に当たる。当たったボーデヴィッヒは体勢を崩したがすぐに持ち直しワイヤーブレードを飛ばしてきた。ラピッドライフルを収納してイミディエットナイフを呼び出しワイヤーを交わしざまに切り断ちその合間に出来た隙にレールガンを撃ち込むとオレンジ色の弾丸がシュヴァルツェア・レーゲンのシールドバリアを突き破りレールカノンに当りレールカノンが砕けちった。
『グッ!!』
ボーデビィッヒは歯を噛み締めながら態勢をたてなそうとしている。
「ラウラ!」
凰の声が聞こえたかと思うと同時にいきなり背中に衝撃が走り吹き飛ばされる。後ろを振り返ると凰が甲龍の肩のアンロックユニットの口が此方を向いていた。
(衝撃砲か…)
直ぐに態勢を立て直し回避運動に入ると凰は連続して衝撃砲を撃ってきているようでエステバリスの後方のアリーナのシールドでは波紋が広がっている。
「トウヤさんの邪魔はさせない!」
簪がサブマシンガンを撃ちながら凰へと接近すると凰は俺との撃ち合いをやめて簪との接近戦を始めた。
「簪!無理はするなよ!」
「分かってる!けど早くそっちを終わらせて!」
「分かった!」
シュヴァルツェア・レーゲンに向き直るとワイヤーブレードが目の前まで迫っていた。
「うおっ!!」
思わず声が出てしまったが避けるついでに再びワイヤーを断ちきる。
「貴様!男なら接近戦を仕掛けてこないか!」
ボーデヴィッヒが叫んでいる。どうやら相当頭にきているようだ。誰があえて相手の得意なレンジに入ると思う…
「そういう風に言うと言うことは接近戦がお前の得意なレンジなのか。お前は馬鹿か?士官教育は受けなかったのか?部隊長教育は?部隊長ってことは佐官クラスだろう?貴様は幹部失格だ。感情に身を任せ、民間人に手を上げる。法令遵守は軍人の基本だろう。ドイツ軍はジャガイモ頭の集団のようだな貴様の様なジャガイモを部隊長に抜擢するなんてな?」
『トウヤ…言い過ぎだ。ドイツ軍の幹部も来ているんだぞ…』
千冬からの通信に俺は青ざめた…
「シュヴァルツェハーゼを馬鹿にするなーーー!!!」
ボーデヴィッヒは叫びながらプラズマ手刀を出しながら此方に突っ込んできた。回避や先読みなどを全く無視したただの特攻だ。
(どこまで未熟なんだ…あの年齢では仕方ないのか)
俺はイミディエットナイフを仕舞うと再びラピッドライフルを呼び出しボーデヴィッヒと距離を一定に保ち後退しながらボーデヴィッヒに射撃を加える。
『アアアァァァーーー!!!』
ボーデヴィッヒは声にならない叫び声を挙げながら此方の弾を避ける事なく突っ込んでくる。シールドバリアで弾丸を弾いてはいる。
「ラウラ!落ち着いて!!」
凰が簪と撃ち合いながらボーデヴィッヒを落ち着かせ様と叫ぶが全く耳に入っていない。
俺はレールガンをシュヴァルツェア・レーゲンの残ったレールカノンに撃ち込むとまた爆発を起こしてレールカノンが吹き飛んだ。これでシュヴァルツェア・レーゲンには射撃の武器は残っていない。こちらに突っ込んでくるシュヴァルツェア・レーゲンの肩部などの装甲のある部分にレールガンを撃ち込む。綺麗に当たり爆発を起こして態勢が崩れた。
「私は…私は…失敗作なんかじゃない!!!」
そう叫ぶとシュヴァルツェア・レーゲンはグラウンドへと墜ちていった。どうやらシールドエネルギーが尽きたようだ。
「訓練をやり直してくるんだな。ラウラ・ボーデヴィッヒ」
そう呟くと俺は凰の方へと向き直ると簪と凰は未だ中距離で撃ち合いをしていた。
「待たせたな簪。援護する」
凰へと飛びながら簪に声を掛ける。
「ありがとう。むしろ私が援護する」
「分かった。じゃあ頼んだ」
レールガンを凰へと撃ち込むと再び凰の乗る甲龍の回りを高速で飛び回る。これで二対一だ。戦術的にも此方の勝ちは確定だ。
「全く…ほんっっとやりづらいわねぇ!!あいつはあんだけ偉そうな事いっておいて私より先に落とされ…ねぇ…あれ何よ!!!」
凰が急に動きを止めある一点を見ながら叫んだ。俺も動きを止めてそちらの方向を見るとボーデヴィッヒの乗るシュヴァルツェア・レーゲンが立ち上がり黒い液状の物を纏い始めた。
「アアアアアアア!!!!」
ボーデヴィッヒが悲鳴を上げると同時に黒い液状の物はボーデヴィッヒを飲み込んだ。
「不味いよな…楯無!聞こえているか!?」
「ええ!此方も観ているわ。避難を開始するわ。そして専用機持ち達を出撃させる」
「了解。攻撃してきた場合は抑えに専念する」
「トウヤ。死なないでね」
「勿論だ。機体は消耗品ってね…誰の言葉だったかな」
「ふふ…確かに」
アリーナ内に警報音が鳴り響き客席のシャッターが降ろされる。
シュヴァルツェア・レーゲンを包み込んだ黒い液状の物は徐々に大きくなりやがて人形へと形を変えていっている。
「トウヤさん…あれは何なのよ!?」
凰は俺の隣に居てシュヴァルツェア・レーゲンだった物を眺めている。
「知っていたら教えているさ。もうすぐ専用機持ちと恐らく織斑先生が来る。教師部隊は恐らくアリーナを取り囲み外部への逃亡を阻止するための部隊として配置される。なのでそれまでは各員は抑えに徹するんだ。自分の命を最優先に。危なくなったら逃げろ。いいな?」
オープン回線で凰と簪に告げると二人は大きく頷いた。時々思うのだが、この機体はフルスキンのため俺の表情は他人から見えないのだ。そして俺の目に写る景色は自分の目で見ているかと思うぐらいに鮮明に見える。しかし明確に違うのは各戦闘情報が一緒に写し出されている。元々のエステバリスと違う点の1つなのだ。この映像?はどのような仕組みで俺の視界としているのだろう…
「トウヤさん!」
ピットから専用機持ち達がやって来た。先頭は白式の一夏でセシリア、シャル、楯無の順に続いている。そして更にその後ろに打鉄が続いた。千冬だ。シュヴァルツェア・レーゲンは完全に人形となって右手には一振の刀みたいな物を持っている。
「織斑先生、指揮をお願いします」
「いや、指揮はマツナガに任せる。やはり餅は餅屋に頼まなくてはな」
ふっと笑うとウインクをしてきた。
「了解しました。指揮を執ります。現在はまだ攻撃を受けていない。よってまずは様子見をする。前衛は織斑先生、一夏、凰で中衛はシャル、会長、簪、後衛はセシリアと俺。但し、俺は遊撃と考えてくれ。役割は…言わなくても分かるな?よし、掛かれ!」
俺達はシュヴァルツェア・レーゲンだった物へと攻撃を開始した。
一部修正しました。2015年1月26日