待っていてくれた方々、ありがとうございます。
今回は簪ちゃん初登場ですが…なんかイメージが違うので会話部分を変えようかと考えています。ご了承ください。
今日から学年別トーナメントが始まる。俺は管制室でアリーナの状況を確認している。隣には楯無と千冬が立っている。今回は何も起きてほしくないが…
『これより学年別トーナメントの組み合わせを発表します。最寄のモニターをご覧ください。最初は第一学年です』
モニターに組合せが写し出されると歓声と悲鳴が上がった。自分の組を探すと…あった。
『マツナガ・更識VSボーデヴィッヒ・鳳』
え?思わず楯無を見ると首を横に振っていた。
「まさか妹か?」
楯無は首を縦に振った。
「簪ちゃんを宜しくね」
この女…良い笑顔で言いやがった。
「おい…更識…貴様仕組んだな?」
千冬の顔が少し怖くなっている。
「いいえ…抽選の結果ですよ?」
楯無は扇子で口許を隠しながらそう答えた。だが扇子には『必用悪』と書いてある。間違いなく仕組んだな。
「まぁ…良いですよ。全力でやることに変わりはありません。私の試合と一夏の試合の時は特に警戒を強くしてください。お願いしますね?」
「問題ないわよ?専用機所持者全員はアリーナの即応できる場所に集めてあるし保険で織斑先生に機体を渡してあるわ」
俺が居ない間に対策を考えてあったらしく今回は厳重な対応策が考えてあるらしい。
「分かりました。では私はピットに向かいます」
「マツナガくん?」
「なんですか?」
「くれぐれも簪ちゃんを宜しくね」
「分かった。何かあったら宜しく頼む」
「おい!マツナガ!負けるなよ…」
千冬からも激励を貰った。小さく頷き管制室から出るとアリーナの観客席に向かった。もうすぐ第一試合が始まる。
「あっ!トウヤ…こっちが空いてるよ!」
アリーナの専用機持ち専用席に来るとシャル手招きをされた。席にはみんな座っていたが箒もいた。恐らく警備対象として座らせているのだろう。
「すまない。シャルとセシリアは午後からか?」
この場所は観客席の入り口に一番近く、いざという時は観客席から直ぐに飛び出し対応ができるようにしてある。
「そうだよ。トウヤは更識さんとペアだってね。それにしても久しぶりだね…トウヤ…」
そう言いながらシャルは後ろの席には視線を向けた。視線の先には楯無と同じ水色の髪の毛をショートカットにして眼鏡を掛けた少女が座っていた。楯無と違って大人しい雰囲気がある。
「彼女が更識簪か?」
俺が尋ねるとシャルは頷いた。
それを確認すると俺は立ち上がり簪の方に向き直る。
「更識簪さんだね?初めまして。私は今回、君のペアとなったマツナガ・トウヤです。宜しく頼む」
そう言い右手を差し出すと簪は立ち上がってお辞儀をすると握手を返してきた。
「更識…簪です。宜しくお願いします…」
顔は少し赤くなっている。かなり挙がり症…ではなくただの恥ずかしがりやなのだろう。
「うん。一緒に頑張ろう」
手を離すと席に座る。それにしても…楯無の意図が読めない。なぜ楯無は俺と簪をペアにしたのだろうか…
「トウヤさん!」
突然俺の左腕にセシリアが抱きついてきた。
「セシリアか…どうした?」
「いいえ…最近、お会いしていなかったので…その…」
セシリアの顔が赤くなっている。
「そうだったな。久しぶりだな」
そんな話をしながら時間は過ぎて一年生の試合が始まった。ラファールと打鉄がツーマンセルで撃ったり切りつけたりとアリーナの中を縦横無尽に飛び回っている。しかしその飛び方はやはり遅く、そしてまだまだ訓練が足りない。
「トウヤ、御飯に行こうよ」
11時を回ったところでシャルが昼御飯に誘ってきた。
「私もご一緒してよろしいですか?」
セシリアも一緒に行くようだ。
「そうだな…そうだ。楯無も誘って良いか?ペアで打ち合わせもしたいんでな。簪さん!一緒に昼食を摂らないか?」
俺が声を掛けると身体をビクッとさせて此方を見た。
「驚かせてすまない。打ち合わせも兼ねて昼食を一緒にどうだい?」
簪は少し悩んだ後に首を縦に振った。そして席から立つと通路に出てきた。その様子を見ていたシャルとセシリアは少し不満そうな顔をしている。
「じゃあ行こうか」
俺達はアリーナから出て食堂へと向かった。
食堂はまだ昼時には早いためかまだ人は集まっていない。
券売機で俺はかき揚げ蕎麦を頼んだ。後に続く簪もかき揚げ蕎麦を頼んでいた。
蕎麦が好きなのか聞きたかったがそう言うのを聞くには、まだ距離があるだろう…
セシリアとシャルは簪の後ろを付いて来ているが正直…機嫌が悪そうだ。
料理を受け取り窓際のボックスシートに座ると隣にシャルが座った。セシリアが迎いに座ったがとても悔しそうな表情をしている。
「「「「いただきます!」」」」
食事が始まるとしばらくは無言で食べていた。だが…その『静寂』を切ったのはシャルだった…
「トウヤ、はい、あーん」
シャルがフォークにハンバーグを一口刺してこちらに向けてきた。
「え?シャル?」
「あーん♪」
シャルは良い笑顔でフォームを差し出している。
「いや…「あーん♪」」
ダメだ…これは食べるしかないのか!!
俺は意を決してシャルの差し出しているハンバーグを食べる。するとテーブルの反対側から威圧感を感じた。
「あら…シャルロットさん…良かったですわね。では私も…トウヤさん、あーんですわ♪」
次はセシリアからチキンのソテーを一口差し出された。何故か簪が気になりちらりと視線を向けると顔を真っ赤にしながら蕎麦をチュルチュルと食べていた。
「セシリアさす…「トウヤさん、あーん♪」」
ダメだ…これも食べないと収まらないのか…恥ずかしいがセシリアの差し出したチキンにかぶり付くとセシリアは嬉しそうに微笑んでいた。
これは…非常に不味い…簪が悪い印象を持たないようにしなくては。
「簪さん」
俺が簪の名前を呼ぶと彼女は体をビクッとさせて顔を上げたが真っ赤だった。
「あ…イヤ…済まない。見せつける為に誘った訳じゃないことを先に言っておく。本当に済まない。出きれば試合前に君の得意な戦い方や戦法などを相談したかったんだ。食べ終わったら付き合ってくれないか?」
俺は背筋を伸ばして少しだけ頭を下げる。
「あっ…いえ…気にして…いません…」
簪は俯きながらそう答えた。相変わらず頬が赤くなっているのは気のせいじゃないだろう。
「いや…本当にすまない。食事が終わったら打ち合わせをお願いしていいかな?シャルとセシリアは抜きだからな。いいか?」
シャルとセシリアに向かって言うと二人は少し不満げな顔をしたが黙って頷いた。
「当然ですわね。私達はトウヤさんを倒すためにわざわざ組んだのですから。そうですわよね?シャルロットさん?」
セシリアが双言い放ちシャルの方へ視線を送るがシャルは苦笑いを浮かべながら『まあ…そうだね
…はぁ』と言うだけだった。
「そうなのか。じゃあなおさら頑張らなきゃいけないな。順調に進めば準決勝で当たるな」
トーナメント表ではそうなっていた。
俺達はその後は言葉も少なく食事を続け食事が終わるとシャルとセシリアは食堂から出て行った。
「さて俺の戦闘スタイルは知っているかな。俺は機動力を生かした高速戦闘が得意だが近接も一応こなせる。簪さんの得意なレンジは何かな?」
お茶の入った湯飲みを両手で持ちながら簪の方へと視線を向けながら尋ねる。簪は少しだけ俯きながら口を開いた。
「私は…打鉄かラファールしか使えないから…なんでも出きる」
「ん?確か簪さんは専用機の話がなかったか?」
俺の言葉に簪は表情を曇らせながら答えた。
「私の専用機は…まだ完成していない。織斑一夏君の機体に人を割かれたから…」
…そう言うことか。
「そうか。機体の受領は済んでいるか?」
「うん。機体は受け取って今は私が開発を続けてる」
なに…?自分で開発を続けているのか!?
「凄いな…今日の試合が終わったら機体を見せてくれないか?協力出来るところは協力させてくれないか?」
「いいえ…一人で完成させます」
「…なぜだ?」
「あなたはお姉ちゃんから…更識楯無から言われて仲良くしようとしてるんですよね…?私は…あの機体を一人で完成させなきゃいけないんです」
簪は更に俯いてしまった。
これは…どういうことだ?何故簪は一人で機体を完成させることに拘っている?現代兵器を一人で完成させるなんて無理だ。開発費の7割近くがプログラム開発に 回されているくらいプログラムが複雑化しているのに…それを一人でやるなんて無理過ぎる。
「確かに楯無とは仲良くさせてもらっているが…なんで一人で完成させることに拘っているんだい?」
「お姉ちゃんはミステリアス・レイディーを一人で完成させた。だから私も一人で完成させなきゃいけない…」
嘘だろ!?楯無があの機体を一人で!?
「それで進捗は?」
「…機体は完成してる。でも…マルチロックオンシステムと武器管制システムが巧く噛み合わない…」
え?航法と機体制御はうまくいったの!?
「凄いな…なぁ…俺の契約している企業の力を借りないか?調度この前にマルチロックオンシステムのプログラムが完成したって話を聞いたんだよ。正直、簪さんは充分やったぞ?楯無の『一人で完成させた』って話は多分だが『一人で指示を出して回りの人間を動かして完成させた』って話だと思うぞ?すべて一人で完成させたら開発者になった方が儲かるよ」
そんな奴は聞いたことがない。第5世代戦闘機ですらソフトウェアの開発だけは人数が頼りだった。人形になれば更にソフトウェア開発は複雑化したはずだからだ。
「そうなのかな…」
「そうだろう。そうでなきゃ…企業は潰れるぞ?」
「…」
簪は黙りこんでしまった。無理もない…
「まぁ…考えておいてくれ。それで、試合の方は出来ればラファールに乗って中、遠距離から援護をしてくれると俺は戦いやすい。どうかな?」
「はい。分かりました」
顔をあげて首を縦に振って返答してくれた。
このあとは試合の時間まで色々と細かい打ち合わせをしながら試合までの時間を過ごした。この時の簪は積極的に会話をしてくれてとても楽しい時間になった。