出張中でした。
今回の出向も今日のみとなった。
高機動ブースターの試験は順調に進みエステバリスとのマッチングも順調だ。ちなみに、学年別トーナメントが終了したらシャルのラファールにも搭載するらしい。シャルのラファールに乗せてラファールに最適なバランスや出力を今後探っていくらしい。今回、俺の機体に乗せたのは宣伝らしい。学年別トーナメントで大々的にデビューさせて販促にするとの事だ。
『試験項目は全て終了。これで終了です』
「了解!では戻ります」
こうして試験飛行は終了した。
社屋に戻ると篠田社長に誘われて夕食に誘われた。車で30分程の場所にある大衆食堂だった。一軒家の一階を使っているこじんまりした店だ、
「ここの定食がとても私は好きなのですよ」
そう言って暖簾をくぐり店へと入る。店内は和という言葉が似合う作りでとても落ち着いた雰囲気がでている。カウンターとお座敷があり全部で15人ぐらいしか入れない。
「いらっしゃい!お!篠田さんじゃないか!さぁここに座ってくれ」
マスターらしき人に促されてカウンター席に座った。
「久しぶりだね、大将。女将は?」
「今、出てきますよ。おい、恵子!篠田さんが来られたぞ」
「はい!只今!」
店の奥の方から割烹着を着た女性が出てきた。黒髪長髪を頭の上で纏めていて割烹着がとてもよく似合っている。手にはおぼんを持っており湯呑みとおしぼりがのっている。
「篠田さん。いらっしゃいませ。今日はお連れさんと一緒ですのね」
「女将さん、ご無沙汰でした。こちらはわが社のパートナーのマツナガさんです」
「あら…と言うことは…お会い出来て光栄です。女将の矢島恵子です」
「どうも…マツナガです」
「マツナガさん…ってあの?」
大将が驚いた顔をしている。
「ニュースでやっていたじゃないですか。富士見技研が男性操縦者と提携したって」
「おうおう!確かに観たわ。んじゃあやっぱり」
「はい。その男性操縦者です」
「ほぇ〜まさか男性操縦者に会えるとは光栄だ…長生きしてみるものだなぁ…」
「確かにそうですねぇ…ISが生まれて10年と少し…まさか男性操縦者が出てくるとは思わなかった」
大将と女将さんは二人で頷き合っている。
「彼は中々の波乱万丈な方でしてね。今も中々大変な状況でして…」
え?俺って大変な状況なのか?篠田さんの顔を驚いた顔で見ると彼は俺の顔を見るなり驚いた顔になった。
「マツナガくん、君は自覚は無いのかい?」
俺は首を上下に動かすと篠田さんは笑い始めた。
「そうか…そうか。一般人ならば逃げ出す状況だよ?ここに来て副会長をやって、更には警備の責任者の用な立場に二人の警護、極めつけが男性操縦者。僕ならばお腹一杯だよ。それに明らかにオーバーロードだよ。女将さん、僕には冷酒。マツナガくんは?」
「あ、私はウーロン茶で。私はオーバーロードをしている自覚は無かったのですが…」
「マツナガくん。君がここに来た時の顔色は酷かったのだよ。それとね、口止めをされていたが今回の出向の話を持ってきたのは楯無会長だったのだよ。君の状況が良くないから息抜きさせたいと、二階堂さん経由でね。丁度、例の完成が迫っていたので二つ返事で了承したけどね」
楯無が…な。
「そうだったのですか。楯無がですか…。俺はそんなに疲れているように見えていたのですかね」
「そう言うことは自分では気付かないものなのですよ。あなたは愛されていますな」
俺が愛されている?楯無に?
「愛されていますねぇ」
「愛されてますわねぇ」
大将と女将さんも頷いている。
「相手をしっかり見ていないと気付かないですよ」
女将さんが飲み物を出した。
「乾杯しましょうか。大将、女将さんも一杯やってください」
「はい!有り難うございます。恵子!冷酒だ!」
「はい、ただいま!」
女将さんが冷酒ととっくりを持ってきて皆で乾杯をした。
「篠田さん、最近は忙しいのですか?」
大将がカウンターの向こう側で料理をしながら篠田さんに話しかけている。
「ええ。マツナガさんと会えてから仕事の回りが良くなって嬉しい悲鳴をあげていますよ」
そう言いながら俺の方を見て軽く頭を下げてくれた。
「そうですかい。羨ましい事です。マツナガさんは学園に所属ですよね?ちなみにお歳は?」
俺と篠田さんの前に大将が筑前煮を置いた。お通しのようだ。
「私は20歳です。まさかこの歳で再び高校1年生をやるとは思いませんでした・
一口筑前煮を食べるととても懐かしい味だった。ナデシコのジェフのホウメイさんの筑前煮とはまた少し違った味だったが…
「そりゃそうでしょうね。ですが頑張ってください。織斑一夏君とマツナガさんは俺達男性の代表ですからね」
男性の代表ですか…
「最近の世界は何処かおかしいですよ
。ISが女性にしか動かせないからといって女尊男卑なんてふざけた言葉が生まれちまうんです。男も女も結局はどちらが欠けても世界は廻らないですよ。確かに昔は女の立場は弱かった。けどどんな時も女と子供は保護されてきたじゃないですか。どっちが偉いなんてないんですよ」
大将は手を動かしながら喋っている。篠田さんは酒を飲みながらウンウンと頷いていた。
店内は大将の言葉が終わると大将の料理の音しかしない。なんとも落ち着いた雰囲気だ。
「マツナガくん。何事も諦めないでくださいね。貴方の周りには貴方に協力を惜しまない人が居るという事を忘れないでください。それに貴方は協力をしたくなる雰囲気をもっているのです。そしてそれはかけがえの無いものなのです。まぁ…今は分からないでしょうが…」
篠田さんはおちょこを持つと冷酒を飲んだ。
結局はこのあとは他愛のない話が続きお腹が膨れてお開きとなった。
「トウヤ…戻ったか!試験は上手くいったのか?」
IS学園に戻り職員室で千冬に報告をすると千冬は少しだけ顔を曇らせたが直ぐに明るい顔になった。最近の千冬はこんな明るい顔をすることが多くなった。
「はい。私の機体に装備されていますので楽しみにしていてください」
「そうか。楽しみにしていよう。月曜からトーナメント開始だ。お前は抽選だが初戦負けなんて無様な結果は出すなよ。なんたって私を負かせた男なんだからな…」
千冬は顔を少しだけ赤くさせると机に向かいパソコンをいじり始めた。
「はい。失礼します」
挨拶をして出口に向かい歩き始めると
「マツナガ!」
千冬に呼び止められた。
「はい?」
「…なんだ…その…ゆっくり休めよ」
「?はい…」
「うん…では行け」
よく分からないが俺は職員室を出ると生徒会室に向かって歩き始めた。
「お帰りなさい。トウヤ君。トウヤ君の機体の機動性が大幅アップしたらしいわね。次の模擬戦が楽しみよ」
生徒会室に入ったとたんに会長にいきなり
言われてしまった。
「戻りました。模擬戦はおいおいで…ところで今回の出向は会長の差し金立ったらしいですね。気を使わせてしまってすみませんでした」
「あら…篠田さんが話してしまったのね。最近のトウヤ君はあまりにも疲れている様子立ったからね」
会長席に座っている楯無は机に肘をついて手を組み顎を乗せている。顔では笑っているが目は笑っていない。怒っているのだろうか…
「済まなかった。自分では気付いていなかった。篠田さんにも酷い顔だって言われてしまった」
「でしょうね。ちょっとは気を使ってね。さて…今度のトーナメントだけれど…頑張ってね…」
楯無の口の端が吊上がった…何かを企んでいるのか?
「言われなくとも頑張るが…何を考えている…いや…何を企んでいるんだ?」
椅子の背も寄りかかると楯無の表情が少しだけ影がさした。
「いいえ…企んでなんかいないわ。頑張って欲しいだけ…それじゃあゆっくり休んでね」
どうやらこれ以上は話をしたくないようだ。俺は席を立ちそのまま生徒会室を後にした。
トーナメント開始は目の前だった。
現在頑張って執筆中ですが少し二作品の結び付けに苦戦しております。
更新が遅くなってしまい申し訳ありません。