IS ~銀色の彗星~   作:龍之介

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少しだけ長くなりました。
自分では大分話が進んで嬉しいですね。


第62話

「出航用意!」

 

「了解、出航用意!」

 

艦長の号令に通信士のメグミが各部署に号令を伝えた。

 

「左右、舫い(もやい)放せ!」

 

「左右、舫い放せ」

 

宇宙船には舫い索などありません。ですが船を固定するための機械を昔の船乗りに習って舫いと呼んでいるのです。

 

「左右舫い離しました。出航、完了です」

 

「了解、両舷前進微速!」

 

「両舷前進微速」

 

次は操舵士のミナトが号令を復唱して推力調整を始めた。すると船体が少しずつ前に進み始めた。

 

カワサキシティーに入港してから5日後にナデシコは再びカワサキシティーを出港した。機関部の修理と糧食の補給は完了している。これからナデシコは捜索部隊旗艦となってマツナガ少尉の捜索に向かう。

 

「カワサキシティーポートを出ました。前方左右には護衛艦ウメとカシが待機しています」

 

オペレーターのホシノが報告を挙げた。

 

「護衛艦ウメより入電『発、護衛艦ウメ 。宛、戦艦ナデシコ。我、これより第13独立艦隊へ編入す。指示を求める』です」

 

「了解。メグミさん、返信を。発、ナデシコ。宛、護衛艦ウメ。了解、我の後に一列で続け、以上で送ってください」

 

「了解しました」

 

ナデシコは徐々に速度を上げて次第に船体を海から離しました。回りの景色は巨大なナデシコに乗っているのに意外と速く後ろへと流れていく。艦長を後ろの席から眺めながらそんなことを考えていた。

 

「エリナさん、少し宜しいですか?」

 

隣で立っていたプロスペクターが話しかけてきた。

 

「なんですか?」

 

「いえね…今回の捜索の費用はやはり?」

 

「でしょうね、彼の方から動かしたらしいからね」

 

「やはりそうでしたか。いえね…急に特別追加予算が出たのでまさかとは思っていましたが…」

 

そういいながらもそろばん型の計算機を動かしながらも目は笑っていた。どうやら多額の予算が付いたようだ。

 

「それだけ今回の捜索にこだわったのでは?マツナガ少尉に恩を感じているとか?」

 

「ほほぅ〜。会長が…ですか。人とは場所の雰囲気に影響されるとは言いますがまさか…ねぇ」

 

プロスペクターが顎に手を当てながら考え込んでいる。確かに会長の変わり様は驚くが今日まで艦内で聞いて回ったマツナガ少尉の人となりを聞くに皆、マツナガ少尉の事をとても『いい人だ』と言う。誰一人として彼を批判的に言わない。

ホウメイシェフの下で働くホウメイガールズなんかは2人程、マツナガ少尉のファンらしい。

 

『これより本艦は大気圏脱出を行います。重力制御を行いますが万が一に備え各員は着席してください』

 

メグミの声で艦内放送がなされた。

 

 

 

 

「1直のみなさん、お疲れ様でした。2直の皆さんは頑張りましょう」

 

艦内は夜に切り替わった。宇宙には昼も夜も無いが艦内は3直体制で交代勤務となっている。しかし艦橋は2直交代で回しています。

 

「お疲れ様、ミナト」

 

「おつかれ〜特に異常なしねぇ〜」

 

「了解。お休みなさい」

 

ミナトと交代して操舵席に着くとレーダーを確認する。ナデシコの後ろには護衛艦が4隻連なっている。護衛艦ウメ、カシの他に地球軌道でさらに護衛艦アワとスギと合流した。ナデシコを先頭に二列になって付いてきている。

捜索宙域まではあと3日ある。

 

「ルリちゃん。私にライブラリの閲覧許可をちょうだい」

 

メグミとペアで直を組んでいるルリちゃん。今日はルリちゃんの番の様。

 

「分かりました。…はい、出来ました…」

 

「ありがとう。ライブラリにはナデシコの航海記録が載っているのよね?」

 

「はい。エリナさんの権限で閲覧できるものは全て見れます」

 

相変わらず淡々と喋るルリちゃん。この子はこれでも感情が豊かになった方だ。この子が最も変わったと感じられたのはこの艦内で行われた『美女コンテンスト』だった。木星蜥蜴の正体がばれてナデシコの士気ががた落ちしたときに行われた『息抜き』だった。その時にルリちゃんが飛び入り参加した。その時の様子がとても普通の女の子に思えた。

 

「うん。有り難う」

 

私はライブラリから航海記録を見始めた。

 

 

 

 

ウィーン!ウィーン!ウィーン!

 

ライブラリで航海記録を読み始めて3時間程経つと突然サイレンが鳴り始めた。

 

「ルリちゃんどうしたの!?」

 

私はライブラリを閉じてルリちゃんに状況を聞く。

 

「前方にボソン粒子反応増大。大型艦のボソンジャンプです」

 

「解ったわ。艦内放送は私がやるから解析を続けてちょうだい」

 

「分かりました」

 

私は艦長にコミュニケを繋ぐ。

 

『前方にボソンジャンプ反応。大型艦と思われます。戦闘配置、エステバリス隊に迎撃体制をとらせます』

 

『分かりました。急いで艦橋に上がりますので攻撃があった場合は回避を、駄目ならばディストーションフィールドで防いでください』

 

『分かりました』

 

指示を貰うと直ぐに艦内に状況を伝える。

 

『総員、戦闘配置。エステバリス隊は迎撃体制!艦前方に大型艦と思われるボソンジャンプを確認』

 

サイレンが鳴ってから2分程で副長が入ってきた。

 

「ルリちゃん、グラビティーブラストをチャージ、ディストーションブロックを始動、後続艦に離脱を指示。エリナさん!機関科と整備科、応急科に宇宙服の着用を指示」

 

艦橋に入ってくるなり直ぐに次々と指示を出す。ミスマルユリカに隠れがちだが副長のアオイ・ジュンも優秀なのだ。

 

「了解!」

 

すぐさまに各部署に指示を出し始めた。続々と艦橋内に艦橋要員が集まってくる。私もここでミナトと操舵を変わった。通信士のメグミ、戦闘指揮のゴートも席に着いた。

 

「護衛艦が進路を反転して離れて行きます。護衛艦から入電、『武運を祈る』です」

 

「了解」

 

副長が返事をする。艦橋の中は緊張感に包まれてはいるが不思議と恐怖は感じない。これは今までナデシコが激戦を潜り抜けて来たからなのかもしれない。

 

「敵艦に高エネルギー反応。グラビティーブラストと思われます」

 

「ミナトさん!取舵一杯下げ舵一杯急げ!」

 

「了解!」

 

ミナトが指示された通りの舵を切るとナデシコの船体が動き始める。

 

「ルリちゃん!ディストーションフィールドこ出力最大!」

 

「了解」

 

その指示が出た瞬間に前方から黒い光のようなものがナデシコの右側を通過していった。敵艦のグラビティーブラストが先程までナデシコのいた地点を通過したのだ。若干の振動がナデシコ船体を伝わった。

 

「被害報告!」

 

「了解」

 

「ミナトさん!艦首を敵艦に向けてください。メグミさん、エステバリス隊は迎撃体制のまま待機指示!」

 

「「了解!」」

 

私は操縦悍を回しディスプレイに表示されている敵艦へと艦首を向ける。

 

「遅くなりました!」

 

そこで艦長が艦橋へとやって来た。副長が艦長の横に立ち状況報告をしている。私は提督席の隣に座り状況を見守る。しきりに艦長が頷いている。

 

「対艦ミサイル1番から10番に装填!」

 

艦長が指示を出す。

 

「了解」

 

ルリちゃんが返事をする。

 

「発射と同時にグラビティーブラストの発射シーケンスを開始」

 

「了解」

 

「ミナトさんは発射直前まで正確に敵艦の方へ艦首を向けておいてください。そしてグラビティーブラスト発射直前に艦首の方向を指示します」

 

「りょ〜かい」

 

少し間の抜けた返事をするミナトだが操艦の腕は一級なのだ。前職が秘書だったと言うのが一番の謎だけど…

 

「対艦ミサイル、撃ち方用意よし」

 

「了解!目標前方の敵艦、撃てぇー!」

 

艦長の号令と同時にナデシコのYユニットの両舷からミサイルが発射されて前方へと飛んでいく。

 

「ミサイル発射、着弾まで50秒」

 

艦橋の前方にはコミュニケによる戦況プロットが表示されミサイルが敵艦へと進んでいく。

 

「両舷前進最大戦速!」

 

「了解!」

 

指示を受けたミナトが返事をするとすぐ後にほんの少しだけ体が後ろに持っていかれる。

 

「着弾まで20秒」

 

「取り舵5度!グラビティーブラスト発射用意!」

 

「「了解!」」

 

敵艦に動きはない。なぜ艦長は取り舵をとったのだろう。

 

「舵中央!下げ舵2度!」

 

「了解!」

 

「着弾まで10秒」

 

「潜舵戻せ!」

 

「了解!」

 

「着弾まで5秒…敵艦200度へ変針」

 

「グラビティーブラスト!撃てぇ!」

 

「グラビティーブラスト発射」

 

艦の前方が黒い光の筒が突き進んでいく…私はこの光景が嫌いだ…この出鱈目な重力の光が飲み込む物は何でも潰れてしまうからだ。

 

「ミサイルが敵艦に命中、グラビティーブラストは外れました」

 

冷静な口調でルリちゃんが報告をする。

 

「了解。ミナトさん、両舷前進原速、取舵一杯」

 

「了解。敵さん逃がしちゃっていいのぉ?」

 

「構いません。これから僚艦と合流、捜索宙域へ向かいます」

 

艦長がどういう意図で敵を見逃したかは分からないけど敵は間違いなく被害を負ったはず。修理のために引き返すはず。無駄な殺生は避けようというのが艦長の考えなのでしょう。

 

「艦内に被害は有りません」

 

「了解しました」

 

戦況プロットでは敵艦も艦首を反対に向けた。ナデシコと距離を取り始めた。

 

「うん。敵も離れたね。ユリカ、指揮を変わるよ。戦闘配置を解除でいいね?」

 

副長が艦長に確認を取ると艦長は良い笑顔で頷いた。

 

「了解、戦闘配置を解除!当直員残れ!」

 

「了解『戦闘配置解除、当直員は残ってください』」

 

艦内に号令が出ると私も席を立ち操舵席に向かった。

 

「お疲れ様。ゆっくり休んで」

 

ミナトに声を掛けるとミナトの顔は既に眠そうだ。

 

「ありがと〜おやすみぃ〜」

 

ミナトは艦橋を出ていった。

この後は副長の指示で護衛艦と合流して再び捜索宙域に向かって舵を切った。

 


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