IS ~銀色の彗星~   作:龍之介

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第6話

織斑千冬side

 

第1アリーナで私達の目の前には国産ISの打鉄が待機状態で鎮座している。

防御力に定評があり近接戦闘に優れている。

そしてその目の前に昨日突如としてIS学園の敷地内に現れた男、マツナガ・トウヤが立っている。これからISの起動実験を行うのだが、起動する事は確定している。昨日私の部屋で専用機のハイパーセンサーを作動させたからだ。機体の全容は分かっていないが今、解析している。

 

「ではマツナガ、ISに触ってみてくれ」

 

少し緊張した面持ちのマツナガが微笑ましく思える。最初はみんなあんな感じだ。だが彼は話を聞く限りだとこっちの世界の基準で考えるならスーパーエースだ。

マツナガが打鉄に触れる。

 

「織斑先生、何かが頭の中に入ってきます。俺、このISの動かし方がわかります!」

 

マツナガの少し焦った声に笑みを浮かべてしまう。

 

「分かった。マツナガ、お前はISの適性がある。では次にそのISに寄りかかるように背中を預けてみてくれ。そうすると装着される」

 

マツナガは一回頷くと背中を打鉄に預ける。すると打金が白く輝き粒子化していきマツナガの体の周りを纏い次々実体化していく。最後に肩の10センチほど離れた所に浮遊式の盾が現れた。成功だ。

 

「マツナガ、気分はどうだ?ISの装着が完了したぞ」

 

マツナガは自分の手や足を見て驚いている。

「なんだかエステバリスを操縦している時の感覚に似ていますね。昨日話したIFSですよ」

 

昨日聞いた話では確かイメージ・フィードバック・システムだったか。脳の伝達を直接機械に繋げるナノマシーン。伝達速度ではIFSの方が上だな。此方は視線と圧力による電位差測定だからな。

 

「おそらくそのIFSと言うものよりも反応速度は下の筈だから転ばないように注意しろよ。問題ないなら歩いてくれ」

 

私たちは打鉄の前から退くとマツナガの乗った打鉄は歩き始める。徐々に早くなっていき最後には走り始めた。

…まさか初めて装着してもう早足だと…

驚いた反面、当然か…ISもエステバリスもイメージで動くものだ。イメージさえ出来れば何でも出来る。

マツナガは次にホバー走行を始めた。スケート靴を履いているみたくすいすいとそこら中を走り回る。次いで飛行に移った。

(マツナガはいきなり教官で良いような気がしてきたな)

そんな事を考えているとマツナガが私達の前に降りたった。

隣の山田先生や検査担当達は唖然としている。

 

「素晴らしい腕だな。いきなり教官としてやっていけるんじゃないか?」

 

私が声を掛けると笑いながら答えた。

 

「まだまだでしょう。飛行の仕組みとかを確認していませんが姿勢とかが勝手に補正されるという事は自動の姿勢制御とかが働いているはずです。それをマニュアルで制御出来なきゃ教える側には立てませんよ」

 

驚いた。PICの自動制御にももう気付いたのか…

やはりパイロットと言うのは伊達ではないな。

 

「その通りだ。歩行でもオートバランサーが作用している。ひとまず装着を解除してくれ」

 

そう指示するとマツナガは戸惑うこともなく打鉄の装着を解除する。やはりIFSのおかげでイメージ力が素晴らしく良いのだろう。

マツナガがこちらに歩いてきた。

 

「マツナガ、これで入学が決まった。入学は2週間後だ。それまでにお前の身分は用意しておく。この後に必読の資料と入学用の書類を渡す。夜に教えるので記入してくれ。3日でIDが発行されるので外出も出来る様になるので我慢してくれ。そして午後に私と入学前の模擬戦を行うのでそれまでその打鉄を自由に使ってくれて構わない。山田先生はマツナガのサポートを頼みます」

 

私はアリーナの出口に向かって歩みを進める。

 

…妙に気分が弾んでいる。何なのだろうか。まぁ楽しみだ。

 

 

 

マツナガside

 

ISの検査が終わり打鉄を自由に使えるようになった。昼まで残り50分。山田先生がサポートに付いてくれるらしいのでマニュアル制御の仕方を教えて貰おう。

打鉄を再び装着して山田先生に聞いてみる。

 

「山田先生、マニュアル制御の仕方を教えてくれませんか?」

 

山田先生は驚いた顔をしている。

 

「え!?もうマニュアル制御をするんですか?やり方は機体の詳細状況から機体制御のPICの自動を手動に変更で出来ます」

 

山田先生の言われたとおりに変更する。

そして歩き始めると確かに前後左右の重心移動がシビアになっている。だがこれをマニュアル制御出来ないようでは戦闘では生き残れない。

まずは歩き、そして走り、そしてジャンプと前転、側転と試す。やはりエステバリスと大差は無い。若干機体の反応速度がエステバリスより打鉄の方が悪い。

続いて飛行を始める。まずは1メートルの所で滞空する。マニュアル制御の為、最初はフラフラと前後左右に動いていたが段々と安定してくる。次は高度を維持したまま前進、停止、後進、左平行移動、右平行移動と反復で繰り返す。

地味だが基本動作の反復練習はとても重要だ。

次は高度を変えたり右回転、左回転とエステバリスの教育隊で行っていた動作を繰り返す。

段々と慣れて飛行を行う。一点を向いたまま上下左右に飛行する。またハイパーセンサーの特徴の 周囲360度を視界にあるという特徴から腕を背中方向や真下に向けたまま射撃するイメージをする。

 

「マツナガさん!お昼の時間になりました。食事にしましょう」

山田先生が下の方からインカムで通信を入れてくれる。

ハイパーセンサーの精度は物凄く山田先生の睫毛までハッキリと見える。

俺は頭から地面に向かいフルブーストを行い急加速をする。一気に速度が上がり地面の直前で反転、足からフルブーストをして作用を殺す。そして滞空する。地面まで15センチ。

まあまあかな。

 

「マツナガさん!いきなりなんてことをしているのですか!危ないですよ!」

 

山田先生に怒られた。

 

 

 

学園から借りたISスーツに昨日借りたジャージを纏い山田先生と食堂に向かう。山田先生いわく、今回向かうのは職員用の食堂らしい。男性操縦者は珍しい、と言うかセキュリティーの関係でまだ公表したくないらしいので職員用食堂で食べるらしい。そしてその時に生徒会の生徒会長と会うらしい。

校舎に入り教職員食堂と書かれたプレートのある扉を開けると一人の女生徒が立ち上がった。水色のショートカットの髪の毛でIS学園の制服だろうか

薄い黄緑色のベストに白いスカートを履いているそして右手には扇子らしき物を握っている。

俺達が近付くと会釈をした。

 

「マツナガさん、こちらが生徒会長の更識楯無さん、4月から2年生です」

 

山田先生が女生徒を紹介してくれる。

 

「初めましてマツナガ・トウヤさん。更識楯無です。宜しくお願いします」

 

更識は右手を出してくる。

(…なんだ?この威圧感と言うか、なんだ…)

よく分からない雰囲気を感じる。

 

「あら?すみません。そんなに警戒しないで下さい」

左手に持ち替えた扇子を開き口元を隠す。

扇子には『安全』と書いてある。

よく分からないがただ者ではないという事か。

 

「すまなかった。マツナガ・トウヤだ。宜しく頼む」

 

握手をする。

 

「さすがシークレットサービスの訓練を受けていただけはありますね」

 

千冬が話したのか。

 

「君は何者なんだ?何だか只ならぬ雰囲気を感じるのだが」

 

更識と握手を終えて席につく。山田先生は食事を取りに行ってくれたようだ。

 

「私はしがない生徒会長ですわ。フフフ」

 

更識はまた扇子で口元を隠して笑っている。

扇子の文字は『会長』に変わっていた。

どうなっている!?

何だか苛つく。

 

「君は私をおちょくるために話をしに来たのか?何か話があったのでは?」

 

この更識には何かがある。何かは分からないが…

 

「気を悪くしたなら謝ります。お話と言うのは来年に入学する織斑一夏君、千冬先生の弟さんの事です。彼は男性操縦者ですがあなたと違い護身術などを一切習っていません。そんな一夏君を狙う不届き者が現れる可能性がありますのでマツナガさんに護衛をお願いしたいのです」

 

更識の話は分かるがなぜ生徒会長がこんな話を?

 

「話は織斑先生からは聞いているがなぜ生徒会長の君からその話を私にしてくるのだ?そう言う話は学園側からあってしかるべきだろ」

 

更識は驚いた顔をしている。

なぜそこで驚く?

 

「確かにその通りです。では詳しい話をします。更識家は日本政府からも依頼を受けている対暗部用暗部です。更識盾無は世襲制で私は現在の更識家の当主です。今回マツナガさんへのお願いは織斑一夏君の護衛の依頼です」

 

対暗部用暗部?防諜の事か?依頼?

まぁ受けても良いか。どっちにしても千冬のお願いでもあるしな。

 

「分かった。元々織斑先生からのお願いでもあったからな。それでメインは俺でカバーとサポートが更識と言う認識で構わないか?」

 

更識は頷いた。

 

「それで構いません。それで共同で護衛に当たるにあたってマツナガさんに生徒会に副会長として入って頂きたいのです」

 

「それはなぜだ?」

 

「生徒会メンバーは私の従者で固めています。そのため連絡のやり取りや生徒会の権限の行使がし易くなるからです。それと裏の方々へのアピールです。『更識とマツナガは共同で対応している』つまり、繋がっていると言う意味です。そうすればマツナガさんの負担も少なくなるのでは?マツナガさんに手出しすれば更識が動くと言う暗黙が出来ます」

 

納得できる。そうすれば手を出してくる組織は減ってくるだろう。

 

「分かった。ではそれで構わない」

 

俺が納得すると更識が改めて右手を出してきた。俺も右手を出し握手をする。

 

「宜しく頼むよ、更識」

 

「楯無って呼んで下さい。マツナガさんの方が年上でなのですから」

 

話を終えると山田先生が戻って来た。

 

「丁度話が纏まったようですね。では食事にしましょう」

 

3人で食事を始め会話も進み、それなりに楽しい昼食となった。

 

 

 




2015.07 改編

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