IS ~銀色の彗星~   作:龍之介

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第57話

「さて…次はシャルロットちゃんね。シャルロットちゃんは機動戦闘の基礎は良くできているね。あとはどれだけ伸ばせるかね。もっと上を目指して訓練をしてね。一つ勘違いをしちゃいけないのはセシリアちゃんが弱い訳じゃないよ。シャルロットちゃんとセシリアちゃんはポジションが違うのよ。だからシャルロットちゃんはセシリアちゃんに遠距離射撃を教えてもらうのよ?セシリアちゃんはシャルロットちゃんに近接戦闘を教えてもらうとベストね!」

 

流石は楯無だな。お互いに高め合わせようとしている。

 

「さて…最後にトウヤさんだけど」

 

楯無が俺に向き直るが…笑顔が消えた。ただならぬ雰囲気にすこし身構える。

 

「ねぇ…トウヤさん?あなたは………誰が本命なの?」

 

思わず楯無の言葉が理解出来ず固まってしまった。一体何を言っているのだろうか。

 

「だから…誰が本命なの?」

 

シャルとセシリアも身を乗り出してこちらを見ている。

その時…背中に冷や汗が流れた。

 

「なんだか面白そうな話をしているな?私も混ぜてくれないか?」

 

なんと席の端に座っている。いつの間に…

 

「それで…トウヤは誰が…その…好きなのだ?」

 

千冬が顔を赤くしてもじもじしながら尋ねてきている。ちょっと可愛いとも思ってしまったが…生徒の前で恋する乙女をさらけ出すのは少し不味いのではないのかな…と言っても年齢が近いのだから立場さえなければ自然の流れなのかもしれないな…

 

「それでトウヤさんは誰が良いのですか?」

 

俺の目の前にいる四人の乙女が俺を期待と不安の眼差しで見つめている。

 

「「「「誰なの?」」」」

 

「…………」

 

答えられるわけがない…

 

「俺は…」

 

今は誰も選べない…と答えようとしたその時…

 

『♪♪♪♪♪♪』

 

楯無の携帯電話が鳴った。楯無は顔をしかめながら携帯に出ると目を険しくさせて携帯を切った。

 

「織斑先生、トウヤさん、緊急事態です。ラウラ・ボーデビィッヒさんと鈴音さんと篠ノ之さんが無許可で模擬戦を始めたそうです。ですのでトウヤさんに鎮圧のお願いをしたいのですが宜しいですね?それとアリーナまでの時間短縮のためにISの部分展開の許可を」

 

楯無が手短に状況説明を済ませ俺への許可を求める。千冬は少しだけ考えると首を縦に振った。

 

「両方とも許可する。但し、建屋内での展開は許可しない。以上だ。事後報告で良いからな」

 

俺は許可を貰うと食堂から急いで走って建物の外に出てエステバリスを展開しアリーナへと飛んだ。そしてアリーナへの入口を入ると事態の異常さに冷や汗が出てしまった。

ラウラ・ボーデビィッヒはワイヤーを両手から伸ばしリンと箒の首に巻き付けて締め上げていたのだ。このままでは二人とも命の危機に瀕してしまう。俺はイミディエットナイフを呼び出すと地面スレスレを飛びラウラ達の間に飛び込みワイヤーを切った。

 

「お前らは何をしているのだ!?これはもう模擬戦の域を越えているではないか!」

 

三人にオープン回線を開き怒鳴るがラウラは薄ら笑いを浮かべているだけで、箒とリンは咳き込んでいる。

 

「ラウラ・ボーデビィッヒ!答えろ。なにをしていた?」

 

「私はただ単にこいつらに実力この差を教えていただけだ」

 

「模擬戦の許可は出ていなかったはずだ。それにお前のやっていた事は殺人未遂にもなるぞ!?何を考えている!」

 

こいつ…少しおかしいな…

 

「ISに乗ると言う事は人の命のやり取りをする覚悟があるはずであろう?」

 

「何を言っている!彼らは学生だ。軍人と一緒にするな!それに軍人だったとしても教育課程の人間は命のやり取りなどしない!お前は軍人でありながらそんなことも分からないのか!?」

 

「ふんっ…そんなこと貴様に言われなくとも分かっている。それよりもマツナガとか言ったな。私と戦え。貴様は教官に土を着けたのだろう?」

 

 

ラウラはそう言うと肩に乗っかっているキャノン砲みたいな物を俺に向けた。

 

「よせっ!戦いたいのなら今度行われる学年別対抗戦で戦おうじゃないか!勝ち進めば必ず対戦する事になるだろう?」

 

俺の言葉にラウラは動きを止めて少し考えた後にISを解除した。

 

「良いだろう!必ず勝ち上がってこい!それ以前に負けたら貴様は教官よりも弱いと言うことだからな…」

 

そんなこと言いながらラウラはアリーナを後にした。

 

「リン!箒!大丈夫か!?」

 

ここで一夏がアリーナ内に白式を纏って飛び込んできた。…今更な気もしなくはないが…

 

「一夏!?すまぬ…大丈夫だ」

 

箒は打鉄を解除するとその場に座り込んだ。

 

「一夏!来るのが遅いわよ!ナイトはお姫様のピンチに現れるはずでしょ!?」

 

うん。リンも大丈夫のようだ。

俺もエステバリスを解除すると三人に歩み寄る。

 

「駆けつけるのが遅くなって済まなかった。医務室に行って怪我の治療をしてくれ。そしてその後に事情聴取な?」

 

俺の言葉にリンは『ゲッ!』って顔をした。

 

「当然だ。無許可での模擬戦闘を行ったんだ。因みにもう織斑先生の耳に入っているからな。大人しく事情聴取に応じないと…」

 

「分かったわよ!それじゃあ…一夏…肩貸してくれる?」

 

リンが顔を真っ赤にして一夏におねだりをして一夏も「おう」なんて簡単に答えていた。そして隣に並んで箒も一夏の腕にしがみつき共にアリーナを出ていった。二人の乙女は怪我をしているにも係わらず幸せそうな顔をしていた。

 

 

「そうか…あいつは…」

 

医務室での事情聴取を終えて生徒会室に戻ると生徒会メンバーに千冬が加わり俺の戻りを待っていた。事の結末を話すると千冬は頭を抱えていた。

 

「あの二人は何だって安易に模擬戦を受けたりしたのかが分からないのです。無許可の模擬戦には罰則が付くのを知らないとも思えないのですよ」

 

俺は机に置かれたお茶を一口の飲むと箒とリンに思っていた疑問を口にしてみた。

 

「え?そんなの大体予想がつくでしょ?」

 

楯無が驚きを孕んだ言葉を口にした。

 

 

「そうですよ。鈴さんと箒さんが怒ること、それはねぇ…」

 

虚さんまで…

 

「トウヤ…お前はどこまで…」

 

千冬も若干青筋を浮かべている…

 

「マッツーは一回爆発しちゃえば良いと思うよ?」

 

本音は物騒だな…

 

「え?なんなんだ?…まるで俺が何も分かっていないような雰囲気じゃないか…」

 

「分かってないような雰囲気ではなく分かってないのよ!!」

 

楯無がまた青筋を浮かべながら立ち上がって大声で答えてくれた…

 

「良いかトウヤ…鳳と篠ノ之は恐らく一夏の事を出されて怒ったのだろう。冷静さを失って模擬戦…いやあれはもう戦闘だな、を起こしたのだ」

 

あぁ…そういうことか。千冬の説明を聞いて何故思い付かなかったのか不思議に思ってしまったが…四人にジト目で見られてしまった。

 

「トウヤ、あいつは強さを求めている。だがあいつの求めている強さとは暴力の強さだ。私の教えて方が間違っていたのかも知れない…すまん。だが、トウヤ…あいつに教えてやってくれ。強さとは暴力ではない事を。そして『力』がすべてではないって事を…」

 

千冬が顔を頭を下げている。

 

「織斑先生、頭を上げてください。精一杯やらせていただきますよ。子供達を正しい道に導くのも大人の仕事です」

 

「そう言って貰えると助かる。宜しく頼むぞ」

 

千冬は俺を見ると笑顔で生徒会室を後にした。

 

 

 

 

 

「で、本命は誰なのだ?」

 

戻って来てこれが無ければ良かったのに…


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