「そう!速度は落とさずに相手の進路をもっと正確に、確実に塞いで!」
楯無の声には普段のふざけた感じがなく真剣に俺に指導をしてくれている事がわかる。
「セシリアはもっと機体の操縦だけでなくビットの操作にも意識を回して!シャルロットは予測射撃が甘い!相手をもっとよく見てそして相手の嫌がる所に弾を置いていく!」
俺達3人はお互いに撃ち合っている。つまりバトルロワイアル方式で模擬戦闘をしている。お互いが敵なので常に他機との位置関係を意識しなければならず、更には牽制をしなければならない。格闘術での乱取りみたいなものだ。
「くぅ…トウヤさん…動き過ぎですわ…」
セシリアは歯を食い縛りながらも文句を言っている。
「当たり前だ!相手の喜ぶ事をしたって敵は落ちてはくれないぞ!」
こんな偉そうな事を言ってはいるが実はそんなに余裕はない…セシリアは元々後方からそんなに動かずに狙い撃つアーチャー的な役割なので機動はそこまで上手くない。だがシャルはかなりのものだ。元々シャルは第二世代機に乗っているため近距離からの射撃の手数で勝負している様で機動がとても上手い。近寄ってきてマシンガンやアサルトライフルで撃ってくるのはかなり厄介だ。
「トウヤは本当に…すばしっこいよね。なかなか…くっ…当たらないや…結構上手いと思ってたんだけどな…」
しかも喋りに余裕があるように思える。
俺は右腕にラピッドライフル、左腕にレールガンを持って相手にしているが二人は俺を主目標にしているようだ。
「マツナガ君!さっさと片方を潰しなさい!こういう時のセオリーは分かっているでしょう!」
楯無の言葉を俺は理解出来る。こう言う時のセオリーとは『弱い方を先に落とす』だ。つまりこの模擬戦で言うならばセシリアが一番落としやすい。
「…会長、あなたは鬼ですね…」
「当たり前よ。こういうのは分からせなきゃならないのよ」
つまりこの『機動戦闘』ではセシリアが一番弱い事を本人に分からせなければいけないと言うことだ。
楯無の言葉には同意なのでセシリアをターゲットにする。
「はぁ…はぁ…はぁ…私が…一番弱いという……事ですのね!」
セシリアに俺の射撃が集中するとセシリアは回避に専念するようになった。
「セシリアちゃん!そこで攻撃の手を休めたら悪循環よ!攻撃は止めずにチャンスを作るのよ!」
楯無からアドバイスが飛ぶがセシリアには余裕が無いせいか攻撃が無い。そして避けきれずにラピッドライフルを食らい体勢を崩し、そこへ俺のレールガンを撃ち込み…直撃、絶対防御が発動してシールドエネルギー切れとなった。
「セシリアちゃんお疲れ様。ピットに戻って着替えておいてね。このあとみんなでデブリーフィングやるからね♪」
楯無の能天気な声が聞こえたが…反面セシリアの表情は悔しさが滲んでいた。
「トウヤ!模擬戦の最中に女の子をわき見するなんて余裕だね!」
わき見をしていた訳じゃないがセシリアに気を取られている間にシャルの接近を許してしまった。俺は急いでシャルの左側へと回り込む。人間には必ず反応の鈍い方向がある。つまりは利き手とは逆方向だ。シャルは右利きの様だったので咄嗟にシャルの左側へと回り込みそのまま後ろからレールガンを放ちシャルのシールドエネルギーも尽きた。
「これで模擬戦は終了ね。二人とも着替えたら食堂に集合ね…あ…セシリアちゃんに場所を伝えるの忘れたわね…じゃそう言うことで」
アリーナのロッカー室で着替えるとアリーナの出口でシャルが待っていた。
「あ、トウヤ!」
「シャル、待たせたか?」
「ううん、勝手に待ってたんだから気にしないで」
「そうか。じゃあ行こうか」
そう言うと俺達は食堂に向かって歩き始めると…右腕にシャルが俺の腕にだきついてきた。
「おい…」
「ダメ?」
上目遣いで言うのは反則だぞ…
なんと言うか…
「ダメでは…無いとは思うが…恐い人に見つかっても知らないぞ…」
千冬さんとかな。この前の食堂の騒動は千冬の殺気が原因とは言えず原因不明の昏倒『事件』となってしまいテロ事件の疑いまでもたれてしまった。一応、楯無には事情を説明しておいたが…楯無に借りを作ってしまった。
「負けないよ…」
なにかボソッと言っていた。
何か恐ろしい事にならなけらば良いが…
「それで…どういうことですか?シャルロットさん?」
「どうもこうもないよ。見ての通りだよ。僕はトウヤと腕を組んで食堂までやって来たんだよ」
蒼い子と黄色い子がいがみ合っている…なんでこの学園の子達はこうも仲悪いのか。やはり国の代表となると
簡単には譲れないのかな…
「ほら、二人とも!食事とデブリーフィングやるよ」
楯無はすでにしょうが焼き定食を持って席に着いていた。俺もざる蕎麦を持って席につく。セシリアとシャルはいがみ合いながらも食事を持って席につく。
「さて、今日の模擬戦だけどもまずはセシリアちゃん。しょうがないわね。そもそもポジション的にあのパターンはなかなか無いわね。ただし、出来るにこしたことはないわね。ベストは高機動射撃ね。」
その通りなのだ。セシリアが高機動であのビット攻撃とスターライトmk3が使えたらかなり強くなる。
「そうなのですか?私は後方から狙い撃つのがセオリーかと思っていましたが…」
セシリアが首を傾げながら楯無に聞き返した。確かにセシリアの質問は最もだ。セシリアの機体は間違いなく中~遠距離向けの機体だ。だが高火力は遠距離から狙うとどうしても外れやすい。特にライフルなんかは動かない、若しくは動きの鈍い敵に対しては有効だ。だがその高火力を近距離から高機動で射たれたらどうだろうか。しかも自分の意識で動くビット付きだ。俺ならば逃げ出すね。セシリアを正面に捉えていてもいきなり背後から撃たれる。つまり正面に集中出来ない。
「正面の相手に集中出来ない戦いなんてあまりしたくないわよ」
楯無の言葉にはっとなるセシリア。どうやら気付いたようだ。
「そうですわね…確かに恐ろしい話ですわね…」
「僕もやだな…」
シャルも頷いている。
「ただその域に達するには相当な訓練が必要ね。まずは姿勢制御をマニュアルにしてビットを無意識に近い形で制御してさらにそれを機動も同時に操らなければいけない。道のりは遠いわよ?」
楯無の表情は真剣だ。
「望むところですわ!やって見せます!」
セシリアが席を立ち胸に手を当てて高らかに宣言した。こう言う時のセシリアはかっこいいのだが…
「そう。ならば頑張って頂戴。次はシャルロットちゃんね…って食事をしちゃいましょうか…ごめんなさいね…話に夢中になっちゃったわね。さぁトウヤ、あ~ん♪」
そう言うと生姜焼をひと切れ掴むと俺の口に持ってきたのだ。
「会長…何をやっているんだ?」
箸を俺の口元に持ってきている楯無を見ながら尋ねるが楯無は相変わらずニコニコしながら
「あ~ん♪」
辞めようとはしない。
「楯無会長…お止めになっては?トウヤさんが困っておりますわよ?」
ナイスセシリア!
「あら…トウヤ?本当に迷惑かしら?」
上目使いの目線…今日は良くこの目線を見るな…
「う…それじゃあ…貰っておこうか…な。あーん」
俺が楯無の生姜焼を食べると楯無は嬉しそうに笑い、その反面セシリアとシャルはムスっとした顔になった。そして次はシャルのムニエル、セシリアのフライと続き食事の時間はやたら長くなってしまった。
それにしても千冬が来なくて良かった…