IS ~銀色の彗星~   作:龍之介

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少しだけ浮気みたいな話にしました。


第55話

白い天井が目の前に広がっていた。

ここは?

体を起こして周りを見てみるとここはナデシコの医療室だった。

 

なんでここに?

 

「エリナ、気が付いた?気分はどう?って聞いても良い訳無いわよね」

この部屋の主であるドクターのイネス・フレサンジュだ。

「…なんで私はここに?」

私が訊ね返すとフレサンジュは目を少しだけ細めた。元々細いのにさらに細くなったのだ。

「そう…やはりね…少し待っててね」

フレサンジュは私の寝ていたベッドから離れると誰かと話を始めた。その間に私は今までのことを考えてみる。ナデシコは地球―月の軌道の哨戒を行っていて敵と遭遇した。それを撃退中にテツジン型に遭遇して…チューリップに逃げ込んだ…

考え込んでいるうちに艦長のミスマル・ユリカ、戦闘指揮担当のゴート・ホーリ、会計監査のプロスペクター、それと私の上司でもあるアカツキ・ナガレがやって来た。ナデシコの運営陣である。

「エリナさん!具合はどうですか?」

艦長が底抜けに明るい声で訊ねてきた。少しイラッとしてしまった。私はこのミスマル・ユリカがあまり好きではない。連合大学戦略シュミレーションが無敗の逸材らしいけど所詮は七光りなのでしょう。温室育ちのお嬢様。確かに指揮能力はあるようだけど。けどあの天然記念物並の世間知らずさ加減は嫌いだ。

私はここまで実力で上がってきた。ネルガル重工という世界でもトップクラスの企業の秘書課に配属されて会長秘書に抜擢された…それなのに…彼女は…

 

「なんとも無いです。戦闘はどうなったの?」

 

先程の戦闘の経過を聞くとみんなが表情を曇らせた。

 

「その事なのですが…」

 

艦長とフレサンジュが頷き合うと艦長が口を開いた。

 

「先の戦闘は何とか逃げ切りましたが…その…マツナガ・トウヤさんが…MIA(戦闘中行方不明)認定されました…」

 

「え?誰がMIAなんですか?」

 

「え…トウヤさんです…」

 

「ですからトウヤとは誰なのですか?」

 

「「「「!!!!!」」」」

 

「もしかしたらと思っていたけど…やはり記憶が…」

 

フレサンジュが腕を組んで私の事を見ている。

 

「それでトウヤさんとは誰なのですか?」

 

艦長は口を押さえて驚いている。

 

「マツナガ・トウヤ、ナデシコのエステバリス隊のパイロットだ。エリナ君がナデシコ艦内で最も仲良くしていた者だ」

 

ゴート・ホーリが答えたがやはりその名前には覚えがない。

 

「私が仲良くしていた?マツナガさんと?」

「そうだ…ナデシコ艦内でその事を知らない者がいないぐらいの周知の事実だ」

 

今までこれ程気持ちが悪くなったことなどあっただろうか…。私が知らないのに周りの『知っている』人達が、私の『知らない』人と私が一番仲が良かったなどと言っているのだ…

 

「エリナ君…みんなの言っていることは事実だ。僕が彼を君に護衛として付かせたんだ」

 

アカツキ会長が言っているのだ…事実なのだろうが…気持ちが悪い…

 

「…いや…キャァーーーーー!!!」

 

私は再び意識を手放した…

 

 

 

 

 

 

『戦闘報告書

発 機動戦艦ナデシコ

宛 地球連合宇宙軍極東指令部

報告者 ゴート・ホーリ

 

我々、第13独立機動艦隊 機動戦艦ナデシコは地球、月軌道の哨戒行動の為にカワサキシティーを出港し当該軌道にて木連部隊と遭遇。これを撃破する為に戦闘状態に突入。木連部隊は無人機部隊のみを投入し我が方の機動部隊を誘導しその隙に有人機テツジン型の奇襲を仕掛けるも此方の即応予備機の奮戦によりこれを撃退した。しかし我々は木連部隊のボソン砲による機関部への攻撃を受け高速での移動が不可能となる。エステバリス隊のマツナガ少尉の囮作戦によりナデシコはチューリップへの突入によるボソンジャンプにより当該戦域の脱出に成功するもマツナガ少尉は戦闘中行方不明となる。ナデシコのチューリップ突入直前に敵テツジン型の自爆装置の作動を確認した為、生存の可能性は低いと思われる。しかし今戦闘の功労者であるため捜索に尽力されることを希望する』

 

 

私は、先の戦闘の報告書と戦闘の記録映像を見ている。シルバーのエステバリスがテツジン型と戦闘をしていてその最中に私はそのパイロットのマツナガ少尉と話をしている…しかも私は彼ととても仲が良かったようで彼が戻れないと分かると泣き始めている。

 

現在ナデシコはカワサキシティーに向かっている。ナデシコはチューリップへの突入後に地球ー月軌道の地球とは正反対の宙域にボソンアウトしたようだ。オペレーターのホシノ・ルリによる総員起こしのあとに地球連合極東指令部に連絡をとると指令部では大騒ぎだったらしい。あの戦闘から一月経っていたみたいだ。つまりナデシコは火星脱出以来再び時間を跳んでしまったみたい。その為ナデシコは指令部からの出頭命令でカワサキシティーに向かっている。

「どう?何か分かった?」

私の左隣に座っている正操舵士のハルカ・ミナトが声を掛けてくれた。

「いいえ、分からない…顔も見たことないし…なんで私は彼にイヤリングを渡したのかしら?」

私は彼にイヤリングをわたしていた。私のお気に入りのチューリップクリスタルのイヤリング。ボソンジャンプの『キー』となる貴重な物だけどとても綺麗な青色の宝石だったので研究所から貰った物。決して横領ではない。

「それは勿論あなたは彼が好きだったからよ」

…え?

私は彼を好きだった?

「それは本当?」

私が聞き返すとミナトは可笑しそうに笑いながら答えた。

「あら…エリナは気がついていなかったの?というか記憶が無いのか…あなたは彼と話をしている時はとても楽しそうにしていたのよ?それと彼が他の女性…例えばリョーコちゃんと話をしていた時なんて唇を噛んでしまうぐらいに嫉妬心をもっていたわね。後は…ホーメイガールズのサユリちゃんと食堂で話込んだらナイフを握りしめていたり。色々とあったけどあれは間違いなく恋をしていたわね」

…自分の行動に少し驚いた。

私は自分の事を冷静な女だと思っていたのにまさかここまで嫉妬深くなってしまうとは…

「本当にあの時のエリナさんは幸せそうでしたね。少し羨ましく思ってたんですよ」

通信士のメグミが会話に入ってきた。。

「あら…メグちゃんなんで?」

「だってボディーガードみたいなものじゃないですか~。私の命を体を張って守ってくれるんですよ?しかもエステバリスのパイロットですよ?強い男ですよね」

メグミはまるで夢見るは少女のような顔をしている…年齢的には少女ではないけどね…

「そぉね~♪確かにボディーガードでパイロットってなんか凄いわね…あまりにも気さくだったから気付かなかったけど実はエリートなんじゃない?ネルガルでの立ち位置はどうだったのかしら…」

「彼の事は分からないけど特別な人材だったのかも知れないわね。会長直々の命令でナデシコに乗り込むならばね」

「そうだったのね…」

ミナトとメグミの表情が暗くなる。マツナガさんのMIAでナデシコでの事実上の戦死は二人目らしい。一人目は会ったことがないけどヤマダ・ジロウというパイロットが死亡したらしい。

 

「ですがまだ戦死したと決まった訳ではありません」

 

突然喋りだしたのはホシノ・ルリだ。

 

「皆さんは諦めているのですか?映像にはマツナガさんがやられたらところは写っていません。それにもしかしたら敵の捕虜になっている可能性だってあります」

 

ホシノ・ルリがここまではっきりと声を大きめに言うなんて初めて見た。少しだけ驚いてしまった。

 

「そうね!みんなも希望は低いけどまだ生きていると信じよう!」

 

珍しく副長のアオイ・ジュンが大きく声をだしてみんなを励ましている。

それから艦内でマツナガさんの生存を信じているという雰囲気が広がり艦内が明るさを取り戻し始めた。

 

私はマツナガ・トウヤという人物が気になりはじめていた。

 

 

 

 

 


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