学年別トーナメントがタッグマッチと決まって数日。朝のホームルームをを待っていると山田先生が入って来た。
「皆さんおはようございます。今日は転校生を紹介します。ボーデヴィッヒさん、入ってきてください!」
山田先生の声の後にドアが開いた。廊下から銀髪の少女が入ってきた。教卓の脇で此方に向き直ると背筋を伸ばす。
俺は驚いてしまった。ボーデヴィッヒの左目は眼帯がされているのだ。
「ではボーデヴィッヒさん、自己紹介をしてください」
山田先生がにこやかにボーデヴィッヒに自己紹介を促すがニコリともせずに
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
とだけ喋った。
おいおい…軍隊が勘違いされるからそんな態度はやめてくれ…。
「え?以上ですか?」
山田先生も顔をひきつらせている。
「以上だ」
ボーデヴィッヒは眉をピクリともさせずに答えると目の前の一夏に歩み寄った。その目には怒りが読み取れる。俺は急いで立ち上がり一夏に走りよるが…
パシン!!
教室にボーデヴィッヒが一夏の頬を叩く音が鳴り響いた。
一夏は頬を押さえて立ち上がると
「なにすんだよお前!!」
と怒鳴る。しかしボーデヴィッヒは怒りの目をそのままに一夏を睨み付けて
「私は認めん!貴様が教官の弟など断じて認めん!」
と怒鳴っている。
教室内は静まり返りあっけにとられている。俺も席から立ち上がったまま固まってしまっている。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!そこまでにしておけ」
千冬がボーデヴィッヒに告げるとボーデヴィッヒは千冬に向き直り
「はい、教官」
と素直に従った。やはり軍の教官には逆らわないようだ。
「私は教官ではない。織斑先生と呼べ」
「はい。織斑先生」
「よし。お前の席はマツナガの後ろだ。席につけ。マツナガもいつまで立っているんだ?席につけ」
千冬に言われたので椅子に座るがボーデヴィッヒが此方を睨み付けながら此方に歩いてくる。俺の横まで来るとボーデヴィッヒはボソリと呟いた。
「貴様が教官を倒した男か…」
呟いただけでそのあとは何もなかった。
一体なんだったのだろうか。左ななめ後ろ、シャルの方を見るとシャルは首を傾げている。そして右隣のセシリアを見るとボーデヴィッヒは気にしていない様でこっちを見て微笑んでいる。
セシリアは余裕だな…
ボーデヴィッヒが席に着くと授業が開始された。
昼休み、今日はみんなは弁当を作ってきている。前日にみんなで弁当を作ろうという話になりシャルも朝早くに起きて作っていた。俺は購買でパンを買うと言ったのだがシャルが
「一つ作るのも二つ作るのも一緒だよ」
と言っていったのでシャルが作ってくれた。
屋上の芝生で俺、一夏、箒、鳳、セシリア、シャルで輪を作っている。考えて見るとなかなか豪勢なメンバーだ。各国の専用機持ちに男性操縦者が二人に篠ノ之博士の妹。要人だらけだ。
「さぁ!皆さん食べましょう」
セシリアが声をかけるとみんなが弁当を開きだす。だが掛け声とは裏腹に皆の視線は鋭い…全員が他の人の弁当に注目している。弁当を持っていない俺と一夏は緊張感が凄い…
「い、一夏!お前の分の弁当も作ってきた。食べるがよい」
箒が一夏に包みに包まれた弁当を渡した。箒の顔が少しだけ赤いのが印象的だ。
「お?箒サンキュー!」
一夏が弁当を受けとると早速開いた。
「お!旨そうじゃん!いっただきまーす!」
一夏が弁当を食べ始めた。
「お!この唐揚げは旨いな!味がしっかりしみていているよ。箒はまた腕を挙げたな!」
一夏が箒を誉めちぎっている。箒はその光景を嬉しそうに眺めている…反面、鳳の表情がみるみる怒りに染まっていく。
「オホン!」
俺が咳払いをすると鳳が此方を睨み付けてから表情を和らげた。
「一夏!これ、私が作った酢豚よ!食べなさい!」
そう言ってタッパーを開けると一夏に差し出した。タッパーには酢豚が入っている。そう…酢豚しか入っていないのだ。
「お!?鈴の酢豚かぁ!いっただっきまーす!」
一夏はタッパーを受けとると酢豚を摘まんだ。
「うん!鈴の酢豚も相変わらず旨いな!鈴も腕をあげたんたなぁ!」
一夏が旨そうに食べているのを鳳が眺めている。表情は先程と違って嬉しそうだ。
「はい、トウヤも食べて」
シャルが俺に弁当を渡してくれた。
「あぁ、すまない」
蓋を開くと色とりどりのおかずの入っている。
「味は自信ないからあまり期待しないでね」
「大丈夫だよ。いただきます」
まずは玉子焼き。シャルは本を見ながら作っていたから味の心配は無いだろう。
玉子焼きを一口食べると…うん、普通に玉子焼きだ。少し甘めで美味しい。
「うん、美味しいぞシャル」
俺の言葉を聞いたシャルはホッと胸を撫で下ろすと笑顔になった。
「口にあって良かった!どんどん食べてね」
俺は他のおかずを食べるとセシリアが此方を睨み付けていることに気が付いた。
「どうしたんだ?セシリア?」
声をかけるとパァと明るくなった。
「トウヤさん!私の料理も召し上がってください!」
そう言うとバスケットを此方に差し出した。サンドイッチだ。
「そうか。じゃあ頂こう」
俺はタマゴサンドを手に取り口に入れると………
はっ!
俺は気が付くと知らない天井を見つめていた。首を振って右を見るとシャルが寝ている。そして左を見るとセシリアが寝ている。一体何が起きたのか…腕時計で時刻を確認すると16時を過ぎている…4時間近く寝ていたことになる。体を起こし立ち上がると保険医がやって来た。
「起きたわねマツナガ君どこか身体に異常はない?」
「いいえ…ところで一体何が起きたのですか?」
俺の言葉に保険医が『え?』という顔になった。
「覚えていないの?」
「確か…弁当を食べていて………」
そこから先が分からない。
「そう…あなたはサンドイッチを食べたの。それが原因で倒れて気を失ったのよ。そこの二人も同じ」
サンドイッチ…あ!!セシリアが作ったサンドイッチかぁ!!
「思い出したみたいね…他の人の話を聞くにセシリア・オルコットの作ったサンドイッチを食べたら倒れたみたいね…」
なんてことだ…セシリアのサンドイッチは一体何が入っているんだ?人間の気を失わせ更に前後の記憶を失わせる。
「先生…薬などは検出されましたか?」
「薬物は検出されなかったけど…話を聞く限り薬物に近い機効能はあるようね」
薬物が検出されない…では食べ物だけ??
「彼女達も食べてしまったのですか?」
セシリアとシャルに視線を移すが先生は何も言わない。
「先生?」
「ごめんなさい。彼女たちの事は直接本人から聞いてちょうだい」
よく分からないが先生がそう言うならばそれで良いのだろう。
「それじゃあ私は織斑先生に報告に行ってくるからもう少し寝てなさい。二人が起きたらそう伝えてちょうだい」
そう言って保健室を出て行った。
ベッドに横になる。若干胃がむかむかするがそれ以外は全く異常がない。
セシリアのサンドイッチ…今度、調理に立ち会ってみよう。
「うーん…」
隣で寝ているシャルが目を開けたようだ。
「シャル?気分はどうだ?」
俺が声を掛けると上体を起こして周りを見回す。
「え?ここは?」
「保健室だ」
「え?なんで僕は保健室にいるの?」
「よく分からないがセシリアのサンドイッチが関係しているようだ」
「サンドイッチ…あ…そうだ!?セシリアのサンドイッチを食べたらこうなったんだよ!!」
「すまんが説明してくれ。」
「セシリアのサンドイッチをトウヤが食べたとたんにいきなり倒れたから慌てて僕が吐き出させようとしたんだけど…その…マウストゥーマウスで吸い出そうとしたらそのまま僕も飲み込んじゃったんだ…」
すまない…シャル…
俺は事の混沌さに言葉が出てこない。
「そのあとの事は分からないな…」
「すまない…もういいよ」
俺とシャルはハァ~と溜息をつくとベッドに横になる。
「トウヤ!!大丈夫か!?」
保健室のドアが弾き飛びドアから入ってきたのは千冬だった。
「織斑先生…ここは保健室ですよ?先生がそんな事をしちゃまずいでしょ?」
千冬は『うっ…』と言って少しだけ俯いた。
「体調は問題ありません。シャルも先ほど目を覚ましました。セシリアはまだですが」
「(シャル?)そうか。保険医からおおよその事情は聴いたが…サンドイッチとは何の冗談なのだ?」
千冬がセシリアの方を睨み付けている。若干黒いオーラが見える…はずが無いのだが…確かに見える。
「いや…俺もいまいち状況が理解できていないのですよ。ところで…押さえてください織斑先生。怒気が漏れてますよ…」
隣のシャルを見ると泡を吹いて倒れてしまっていた。
「あ… やり過ぎだよ千冬…」
頭を抱えて言うと千冬はすまなそうな顔をしていた。
「…最近お前がかまってくれないからだ…」
千冬がぼそっっと呟いた。
なんだこの可愛い生き物は!!
「千冬…隣に座って」
千冬が俺の隣に座ると千冬の頭を俺の膝の上にのせる。千冬は最初は体を固くさせていたが次第にリラックスしたようだ。
「ごめんな。今度の休みに出掛けようか」
俺は千冬の頭を撫でながら話かけると千冬はそのままの姿勢で答えた。
「どこに連れて行ってくれるんだ?」
「う~ん…ここら辺の地理は詳しくないが…観光でもしてみようか?」
「そうだな。では湘南に行ってみよう。あそこなら私でも多少は知っているからな」
こうして俺と千冬のお出掛けが決まった。
それから5分程そのままの姿勢で 話をしていたがセシリアが気が付き起きはじめたので慌てて千冬がベッド横の椅子に座りセシリアを睨み倒そうとしたのを阻止したのは言うまでもない…
結局全員が起きたのは夕食直前で夕食時にセシリアがみんなに謝っていた…そしてセシリアに料理を教えると言うことで話は纏まった。