一夏が鳳の周りをグルグルと回りながら攻撃を加えイグニッションブーストのタイミングを伺っている時に突然携帯電話が鳴り始めた。画面を見ると楯無だった。急いでシャルとセシリアに電話と伝えて観客席からアリーナ内部の廊下に入り電話に出ると楯無の焦った声が聞こえてきた。
「マツナガ君!今こちらに向かっている正体不明の機体があるわ!万が一に備えてすぐにピットに向かって!」
俺は返事をせずに走り出した。
「接触までの時間は?」
「もうすぐよ!」
「織斑先生には?」
「連絡済み」
「分かった。では対処する」
「お願い!」
通話が切れ携帯をポケットにしまうと同時に今走ってきた方から大きな音と衝撃が伝わってきた。俺はそれに構わずピットに走り込んだ。そしてカタパルト付近まで来るとエステバリスを展開し踵に設置されているホイールでカタパルトを走行しアリーナへと飛び立つ。
アリーナの中央には砂埃が立ち込めていて正体不明の機体は確認できないが白式と甲龍は確認出来た。突然モニターに正体不明の機体の識別が表示された。
『デビルエステバリス』
なに…!なんでこの世界にデビルエステバリスがいるんだよ!
デビルエステバリスはナデシコが初めて遭遇した敵の機体でバッタがエステバリスを乗っ取り動かしている機体なのだ。通常よりも重いはずなのだが動きは俊敏でバッタの武装も使用出来る為高火力なのだ。
「一夏!鳳!お前逹は一旦下がれ!」
オープンチャンネルで一夏と鳳に喋りかけると鳳から返事が帰ってくる。
「あんたがなんでここにいるのよ!アリーナは緊急閉鎖されたんでしょ!?」
「連絡を受けてピットにいたんだ。取り敢えず二人は下がってくれ!こいつの相手は俺がする!」
俺と鳳がやり取りしている間に砂煙が晴れてデビルエステバリスが姿を表した。陸戦エステバリスにやはりバッタが取りついている。そして右手にはラビットライフル、左手には何も持っていないがバッタからチューブの様なものが伸びて手首の辺りで銃口の様になっている。あの銃口には要注意だろう。
「なんなのよあれは!気持ちが悪いわ!」
「トウヤさん…あれって…」
一夏はどうやら気づいたらしい。原型がエステバリスであることに。
俺はとっさに一夏へプライベートチャンネルを開く。
「その通りだ。あれはエステバリスが後ろにくっついている黄色い機体に乗っ取られた機体だ」
「トウヤさん…なんで分かるのですか?」
「その事は今は秘密だ。織斑先生と相談して了承が出れば教えてやる」
一夏とのプライベートチャンネルを切りオープンチャンネルをひらく。
「ひとまずはあいつの左手の銃口には気を付けろ。あの銃口は俺も知らない。もしかしたらビームか何かを撃って来る可能性がある。とにかく一夏は甲龍の衝撃砲を避けていた時の様にあいつに照準を定めさせるな!そして鳳は衝撃砲で援護してくれ!良いな!?」
「了解!」
「衝撃砲じゃなくて龍砲よ!援護すれば良いのね!分かった!」
右手にはレールガン、左手にラビットライフルを呼び出すとデビルエステバリスの周りを正面を向けたまま飛び回りながらラビットライフルを撃ち始めるめ、一夏は俺とは反対回りに回り始める。そして鳳は俺たちとは違い低空を飛びながら龍砲をデビルエステバリスに撃つ。
俺達の射撃はデビルエステバリスに命中するがデビルエステバリスの機体に当たる前に何かに当たった様に弾かれてしまう。シールドバリアなのかそれともディストーションフィールドなのかは分からない。甲龍の龍砲も多少デビルエステバリスがよろけるが然程ダメージを与えているようには思えない。一夏も雪片で斬撃を加えるがバリアに阻まれて直撃しない。デビルエステバリスは両手を広げて二方同時に射撃をしている。やはり左手首の銃口からはビームが撃たれていた。鳳も一夏も動き回っていてデビルエステバリスの射撃は全く当たっていない。
デビルエステバリスは射撃が当たらないと分かると空中へと浮かび上がり一夏へ追尾を始めた。
「一夏!とにかく逃げに徹しろ!」
「分かった!」
白式は上下左右にに軌道を変えながらデビルエステバリスの射撃を回避する。鳳は遠巻きに龍砲でデビルエステバリスを撃ち俺もラビットライフルで撃つがなかなかデビルエステバリスの足は止まらない。
そこで俺は少しだけ足を緩めレ-ルガンをデビルエステバリスに撃つとシールドバリアを貫通してデビルエステバリスのラビットライフルを打ち砕いた。
ラビットライフルを打ち砕かれたデビルエステバリスは動きを止めて此方を見た。その隙に一夏が零落百夜でデビルエステバリスに切り込みデビルエステバリスの右腕を切り落とした!
デビルエステバリスは右腕を失っても怯む事なく一夏に照準を合わせて左手のビームを撃ち一夏に直撃した。ビームはシールドバリアを貫通して一夏に直接当たった。
「一夏ぁぁ!!」
鳳が一夏に飛び寄る。
「鳳!一夏を回収して離れろ!その間は俺が気を引く!」
俺はラビットライフルとレールガンでデビルエステバリスに射撃を加えるとデビルエステバリスが此方にビームを撃ちながら飛んでくる。俺は機体を後退させながら上下左右に回避運動をとりながら一夏逹とは逆の方向へと進む。
俺の放った弾がデビルエステバリスの右足に当たり右足が膝から下が吹き飛んだ。
「マツナガさん!一夏は無傷ですが意識がはっきりしていないよ!」
「そうしたらピットに戻れ!急げ!」
鳳が一夏を抱えてピットの方向へと飛んでいく。これで一撃必殺が無くなった。
「クソ…どうやって倒す?レールガンでチマチマ当てるしか無いよな…」
レールガンを再び撃つとかわされてしまった。次は連続して弾を放つと右肩と胸に当たり爆発を起こした。左肩のアーマーが吹き飛び駆動系が見え、胸部はコックピット回りのアーマーがやはり落ちていた。
デビルエステバリスには攻撃の手段はバッタのミサイルとディストーションアタックぐらいしか残されていない。
デビルエステバリスはバッタからミサイルを大量に発射した。両手にラビットライフルを呼び出しミサイルを次々と打ち落とすが何発か撃ち漏らしシールドバリアに直撃して機体がぶれる。
「ぐぉぉ…」
上下左右から飛んでくるミサイルを避けながら打ち落とすがGが凄く胃が掻き回されて内容物が出てきてしまいそうになる。まだミサイルが残っている。今ここで止めるわけにはいかない!グルグルと景色が回る。空がどっちかは色でしか分からない。青と茶色が目まぐるしく変わる。
「後少し…後少しだ…」
後2発か…
右手のラビットライフルを向け引き金を引くが弾が出ない!弾切れだ!
左手のラビットライフルを向けて引き金を引くと一発だけ弾が出てミサイルが爆発した。しかし…左も弾切れだ!
「不味い…!!」
ミサイルはもうすぐそこまで迫っている…武器の呼び出しは間に合わない!
当たるのを覚悟したその時!
ミサイルが爆発した。目の前でだ。
当たる直前に目の前をビームが走ったのが見えた。ビームの飛んできた方向を見るとセシリアがスターライトmk3を構えていた。
「間一髪でしたわね!さぁ!さっさと片付けましょう!」
そしてその隣にはシャルがラファールを纏って立っている。
「トウヤさん!援軍だよ!早く終わらせてお昼にしようね!」
二人が飛び立ち俺と合流してデビルエステバリスを取り囲み射撃で攻め立てる。それぞれの射線が被らないようにしてセシリアとシャルがデビルエステバリスの機動を阻害して俺がレールガンで撃ちデビルエステバリスに直撃弾を当ててどんどん形を変えていく。そして最後に背中のバッタを破壊したところでデビルエステバリスが機能を停止したようで動かなくなり戦闘が終了した。
「セシリア、シャル!ありがとう、助かったよ」
二人が俺の脇に降り立つと俺は二人に礼を言う。
「いいえ!私こそ遅くなりまして済みませんでした。人の流れに捕まってしまいましてピットに着くのが遅れましたわ」
「僕たも役にたてて嬉しいよ」
二人は笑顔で答えてくれてた。
「そうか…本当に助かった。済まないがこいつの回収を手伝ってくれ。多分このあとに織斑先生から回収を頼まれるからな」
俺たちはデビルエステバリスの回収を行いピットに持っていくと織斑先生の指示に従って残骸を引き渡した。