仕事が忙しく…普段はない夜勤まで起きてしまい楽しみにしてくださっている方々には大変申し訳なく思います。
食堂に向かう道すがらは俺らはフランスの話をしていた。
しかし会社同士の提携の話はまだしてはならない。口外が可となるのはプレスリリースが行われてからだ。
まぁ、セシリア辺りは検討がついているかも知れないが。
フランスの食事の話や観光の話だ。
食堂に着くと料理を注文して並んでいると俺達の方を睨んでいる視線に気が付いた。
「何だか視線を感じるんだが何なんだ?」
殺気ではない視線を感じるのだ。
一夏が急に申し訳無さそうな顔になり謝ってきた。
「すみません…多分それはリンです。昨日の夜に怒らせてしまいまして…多分俺の事を睨んでます」
昨日の夜…
「あぁ…黒髪のツインテールの子か。確かにすれ違ったな。一体何をやらかしたんだ?」
「いや…良く分からないんですよ。リンから昔に『料理が上手になったら毎日酢豚を奢ってくれる』って言われたんで喜んだだけなのですがそれで怒られたのです」
なんだそりゃ…俺は首を傾げてしまった。
「お前そりゃ…一夏お前は鈍感だな」
俺がそう言うと何故か全員から
「「「トウヤさんがそれを言いますか!?」」」
と怒り口調で言われてしまった。俺が何をしたと言うのだ。
「取り合えず謝っておけよ。悪かなくても謝らないと女性は収まりがつかなくなるもんなんだよ…怒らせると刺されるぞ」
俺が真顔で言うと一夏は顔を青くして
「分かりました…謝っておきます」
と言いガクブルと震えていた。
「ん?リンって中国の代表候補生の鳳
鈴音の事か?」
「そうですが知ってるんですか?」
一夏が驚いた顔をしている。
「いや、ニュースになっていたんだよ。今年は代表候補生の当たり年だってな」
「そうなんですか?今のところセシリアにリンに…だけじゃないですか」
一夏は指を折って数えるが二本しか折れていない。
「あとこのあとにドイツの候補生も来るらしい」
千冬の教え子のラウラ・ボーデヴィッヒだ。
「これで3人ですね。後は専用機持ちが3人ですか。1学年だけで専用機持ちが多いですね。他の学年とかどうなんでしょう?」
一夏はそう言うと料理を受け取り席に座る。俺達もそれに続いた。
「俺が知っているのは2学年の生徒会長ぐらいだな。今日の放課後にでも調べておこう」
今日の放課後は生徒会で状況報告をする予定なのでそのついでに聞いてみるつもりだ。
その後はみんなで食事を摂り少しだけ話をした後は俺とシャルは職員室に向かった。シャルはにこにことしていてご機嫌のようだ。
「そうだ。今日の放課後に買い物へ行くから外出許可を取って置いてくれ。場所はレゾナンスでね」
シャルの日用品と着替えの買い出しに行かなくてはならない。
「分かった。放課後で良いんだよね?」
「うん。ただ少しだけ生徒会室に寄るから部屋で待っててくれないか?」
「うん。分かった」
そんな会話をしているうちに職員室に到着した。
中に入ると千冬がこちらに気付き歩いてきた。そう言えば前回職員室に入ったのは高山先生の件の時以来だ。
「デュノアを連れて来たのか?」
「おはようございます。そうです。ところで少しだけ二人で話は出来ませんか?」
「…わかった。面談室で良いか?」
俺と千冬は職員室を出ると廊下のシャルを待たせて面談室に入る。
「それで話はなんだ?」
「二階堂さんから聞いているかもしれませんがフランスで襲撃がありまし。相手は単独で恐らくはシャルロットを狙ったものでした。それでもしかしたら学園でも襲撃があるかも知れないという話です」
千冬の顔が苦いものを噛み潰したものに変わった。
「それで黒幕は分かったのか?」
「いえ。ですがあのタイミングで我々に襲撃を仕掛けてくる奴は他にはいませんよ」
「そうだな。分かった。この件を更識には報告はしたのか?」
「いえ、まだです。放課後にでも生徒会に行く予定です。それと…」
俺は鞄の中から包みを取り出すと千冬に渡す」
「はい、これがフランスでの本命のお土産です。もしかしたらサイズが合って無いかもしれないけどその時は言ってくれれば直すよ」
千冬は包みを開き箱を開けると驚いた顔をした。
フランスのパリで買った腕時計だ。
「こんな高価な物を貰っていいのか!?」
ケースから腕時計を取り出すと左腕に付ける。サイズは問題ない様だ。
「良かった。似合っているね。サイズも問題ないね。それではもう時間もないので教室に戻りますね」
そういうと扉に向かう。
突然背中から千冬に抱き付かれた。
「トウヤ…本当に無事でよかった。あまり心配させないでくれ。お前がいなくなったら私は…」
後半の声は掠れて小さくて聞こえなかったが千冬の体が少し震えていた。
「大丈夫だよ。俺はそのための訓練を受けてきたんだ。誰も死なせない」
そう言い千冬の方に向き直り千冬を抱きしめた。
少しだけそうすると俺は千冬を離し
「さあ、もう行きますね?遅刻してしまいます」
と言い残して部屋を出て行った。
廊下ではシャルが待っていた。
「それじゃあ俺は教室に行くから後は織斑先生に従ってくれな」
「うん。ありがとう」
そう言うと俺は教室に歩き出した。
教室に付くとみんなから
「大丈夫?」
だとか
「具合悪かったの?」
とか聞かれた。俺は首をかしげると一夏とセシリアがやって来て俺の休みの理由は一夏、セシリア、箒以外には公表せれていなかったそうだ、と言うか確かにそうしてもらわないと危なかったかも知れない。どこから情報が漏れるか分かったものではない。もう公表しても問題ないのでみんなに自分が所属しているメーカーの関係で海外に行っていた事を話すると皆がうらやましがっていた。そこでみんなにお土産を渡すとクラス中で歓声が上がった。
しばらくすると予鈴が鳴り全員が着席し二分後ぐらいで山田先生が入ってきた。
「おはようございます。みなさん揃っていますね。マツナガ君も今日から出席ですね。長旅お疲れ様でした。みなさんには話をしていませんでしたが、マツナガ君は公休で所属企業の事情で海外に行っていました。詳しい事情はまだ公表できませんので皆さんには秘密にしていました。では本日のSHR連絡事項はありません。以上です」
そう言うと山田先生は教室を出て行った。
するとクラスのみんなが俺の席の周りに集まり何処に行っていたのかと聞いてくる。だが俺はまだ秘密なのを伝えると皆は残念がっていた。早い事プレスリリースが発表される事を祈るばかりだ。
午前はすべて山田先生の授業だった。千冬はシャルの模擬戦の相手をしているのだろう。シャルの実力は知らないが…勝てるのだろうか。イギリス代表候補生のセシリアでも勝てないだろう事からシャルも勝てないだろう。シャルの話だと武装は実弾系で機動射撃を中心に組み立てているだろう。もしかしたら今回は以外な一手があり勝てるかもしれないが二回目以降は難しいだろう。
それは俺も同じだが…
いつものメンバーで食堂に行くと入口に制服を着たシャルロット立っていた。声を掛けると少し赤くなって
「待っていたよ。どう?制服は似合う?」
と聞いて来たので頷くと嬉しそうに微笑んで
「えへへ…似合うか~」
と笑っていた。セシリアの不満げな顔が少し気になったが…
午後からは千冬の授業があり理論と基礎知識の授業であった。ISにはコアネットワークと言うものがありコアはどんなに遠くにいても他のコアを認識しているという事だった。入学前の必読書にも書いてあったが詳しく知ると、とても素晴らしい機能である。恐らく宇宙空間での使用を前提に開発した物であるからの機能だろう。宇宙は広い。当然上下左右が認識しずらい空間だからこそ自分の位置の確認は重要になってくる。そして僚機との位置もだ。
宇宙での遭難は死に直結する。絶対に母艦の位置は把握しろ。
これは宇宙軍の教育課程の時に叩き込まれた事だった。敵機の落とし方よりも真っ先に教わった。
けど俺は宇宙がとても好きだった。眼下に広がる漆黒。その中に光り輝く星々。そして星雲。その中には地球と同じ星が無いはずが無い。21世紀初頭には地球型の星が見つかっているが人類は未だに太陽系の外、それどころか木星までしか進出していない。俺の世界では未だに人類同士の戦いすら終わっていない。とても悲しい事だ。相転移エンジン、ボソンジャンプこの技術さえあれば人類は太陽系の外に進出することは容易になるだろう。
そんな大航海時代は何時来るのだろう。そんな事を考えながら授業を受けていた。