朝、目が覚めると体が動かない。右手は動く。右足も動いた。しかし左腕、左足が動かない。なぜだ。しかもやたらと暖かい。気になって首を持ち上げて見てみると金色の頭が目に入った。やたらと髪の毛が長い。
シャルロットだ。俺に抱きついて寝ている。気持ちよさそうにだ。
「シャルロット、シャルロット起きてくれ。動けないよ」
俺は右手でシャルロットを揺すると上体を起こして眼をこすりながら
「もう朝なんだ…」
と言っている。
「シャルロット、おはよう」
俺が挨拶をすると体をビクっとさせてこちらを見る。そしてく口を開いた。
「へっ?え…マツナガさんはなんで僕のベッドにいるの?」
こいつは寝ぼけているようだ。
「周りを見てみろ。これは俺のベッドだ」
俺の言葉を聞いたシャルロットは周りをキョロキョロしたあとに顔が真っ赤になった。
「にゃんで僕はマツナガさんのベットにいるんだろう!?」
シャルロットは物凄く慌てていてあたふたしている。
「落ち着け。何もしていないから安心しろ。間違えて入り込んだのだろう?」
俺はシャルロットの頭を優しく撫でてやるとシャルロットは眼を細めて俯いて気持ちよさそうにしていた。まるで猫のようだ。
「ん…夜中に一回起きたのは気が付いたんだけどその後かな…」
俺がベットから起き上がるためにシャルロットの頭から手を離すと残念そうにしていたが俺はそのまま洗面所で顔を洗うとカーテンを開ける。
太陽はすでに上がっていて太陽の日差しが室内に差し込んできた。
荷物を支度し朝食の為にレストランに向かうと二階堂さんと篠田さんは既に朝食を取り始めていた。
「おはようございます」
俺が二人に挨拶をすると二人とも返してくれた。
「今日でフランスも終わりだ。お土産は買えたかね?」
二階堂さんは昨日の事件があったにも関わらず今日も笑顔だ。
「はい。昨日、シャルロットのおかげで買えています。私はもう帰れますよ」
そう言うとブュフェ方式の朝食を取りに行く。シャルロットが俺の後に着いて来ている。
「なぁ、シャルロット。フランスの朝食の定番は何なのだ?」
俺の質問にシャルロットは少し考えてから
「じゃあ僕がチョイスして持って行ってあげるから席で待ってて」
と言ってカウンターに向かって歩いていった。
俺はシャルロットに任せて言われた通り席で待っているとシャルロットがトレーを持って戻ってきた。
「はい、お待たせ」
持ってきたトレーにはフランスパンが数切れと数種類のジャムに数種類の飲み物だった。
「フランスの朝食は甘い物をよく食べるんだ。だから焼きたてのフランスパンに好きなジャムを付けて甘い飲み物を飲んで食べるんだよ。それじゃあパンが冷めちゃうと堅くなるから先に食べててね」
そう言うとシャルロットは再びカウンターに向かって行った。
俺はフランスパンを一切れ取りジャムを塗って口に入れると確かにフランスパンは柔らかかった。前に食べたフランスパンと違い外の皮の部分まで柔らかかった。一切れ食べ終わると次の一切れを手に取り次は茶色いジャム…と言うかこれはチョコじゃないか。食べてみるとやっぱりチョコだった。
シャルロットが戻ってくると次のトレーはフレンチトーストとカップに注がれたカフェオレだった。
「なぁシャルロット?なんでこんなに甘い物ばかりなんだ?」
シャルロットは首を傾げると
「ぇ?これがフランスの朝食だよ?後はシリアルとか?フランスの朝食は甘い物を中心に食べるんだ」
と言う。
なんと…日本人にはちょっと辛いかも…
「そうなのか。スクランブルエッグとかベーコンなどは食べないのか?」
「チーズぐらいしか食べないかな」
フランス…なんて甘党!
「そうか。色々な文化があるんだなぁ」
シャルロットは少し悲しそうな顔をして
「口に合わなかったかなぁ」
と言っている。俺は慌ててシャルロットにフォローを入れる。
「そんなことないよ。温かいフランスパンはとてもおいしかった。ジャムも美味しかったよ」
「そっか!えへへ…よかった!」
シャルロットは満面の笑みを浮かべている。
「二人はいつの間にかそんなに仲良くなったんだな。まるで夫婦みたいしゃないか」
俺達の様子を見ていたのか二階堂さんが笑みを浮かべながらからかってきた。シャルロットは二階堂さんの言葉に真っ赤になって悶えている。
「夫婦…マツナガさんと夫婦…ウフフ…」
シャルロットはどやらフリーズしてしまったようだ。何かブツブツ言っている。シャルロットは俺と夫婦と言うのが嫌だたようだ。
「なに言ってるんですか二階堂さん!」
シャルロットが嫌がっていることもあり少し強めに抗議の声を上がると二階堂さんは更に笑い声を高めた。
「いやいや!君もなかなか。千冬君も大変だなぁ」
二階堂さんと一緒に篠田さんまで頷いている。
確かに千冬には迷惑をかけているが…なぜシャルロットまで!
「酷いじゃないですか!なんで千冬まで!」
俺の言葉を聞いたシャルロットの眼が光った。
「マツナガさん?なんで織斑先生を千冬と呼び捨てなのかな?可笑しいよね」
なんだかシャルロットが怖い。二階堂さんと篠田さんも笑うのを辞めて素知らぬ顔で飲み物をのんでいる。この事態を起こした本人が知らん振りとは!
「ねぇ…マツナガさん!なんで織斑先生を呼び捨てなの?早く答えてよ…」
シャルロットの眼からは光が消えている。
「あ…シャルロットさん?なんだか…その…とっても怖いのですが…織斑先生は学園に入る前から色々とお世話になっていますし…歳も近いので呼び捨てにしてますが…はい」
怖い!千冬と違う意味で怖すぎるぞ…
「そっか~!じゃあ寝食を共にした僕達も親しいよね!じゃあ僕の事も呼び捨てにしてね!何だったらあだ名でもいいよ!」
突然目を輝かせ身を乗り出して迫ってきた。
あだ名かぁ。なんだろうな。…シャルロットだから…
「デュノッチなんかはどうだ?」
俺の言葉は黒いオーラにすぐにかき消された。
「じゃあシャルルン?」
「マツナガさんってセンス無いよね」
シャルロットの顔がひきつった。
「じゃあシャル?」
シャルという言葉に顔が明るくなった!
「うん!シャル良いね!エヘヘ…シャルかぁ~。エヘヘヘ…」
シャルロットは顔を赤くして悶えている。
何だか寿命が随分と削られた気分だ。
「よし!では、話もまとまった事だしそろそろ帰国の準備としよう!」
二階堂さんが話をまとめようとしている。
「そうですね。シャルの買い物は学園の近くにショッピングセンターがあるからそこで買うとしよう。良いねシャル?」
俺はシャルの顔を見るがシャルはまだ悶えていた。
「おーい!シャル?部屋に荷物を取りに行くよ」
俺は立ち上がりシャルの肩を叩くとやっと戻ってきたようでシャルは俺の顔を見てまた顔を赤くしていた。
「えっと…何だっけ?」
「日本に戻るから部屋に荷物を取りに行くんだよ」
俺の言葉を聞いたシャルは急いで立ち上がると俺の後を付いてきた。
やっと恐怖の食事の時間が終わったのだった。
荷物を持ちホテルのエントランスに向かうと車が止まっていて篠田さんが車の前で待機していた。
「マツナガさん、デュノアさん。ひとまず私は此処でお別れです。すぐに日本に戻りますがね。デュノアさんにはうちの社の人間が手続きを済ませてそちらに伺うように手筈は整っています。しばらくは不便をお掛けするとは思いますが御容赦下さい」
そう言うと篠田さんは頭をさげた。
シャルはそれを見ると慌てた様子で
「いいえ!頭を上げて下さい!僕にとって皆さんは生きる希望を与えて下さった方々です。こんな大変な事をやって下さって感謝しています。ですから頭を上げて下さい」
と言い慌てている。
頭をあげた篠田さんは笑うと
「子供が生きる希望を持っていない方が可笑しいのですよ。ですからデュノアさんは学園を目一杯楽しんで下さい」
そこに丁度、二階堂さんがやって来て車に乗り込むことになり篠田さんだけを残して車は空港へ向かった。
そして飛行機に乗り込むと一路日本にへと飛行機は飛び立った。