IS ~銀色の彗星~   作:龍之介

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遂にフランスに旅立ちます。



第35話

 IS学園の駐車場で千冬と楯無と富士見技研からの車を待っている。手にはスーツとバックだが…千冬と楯無の雰囲気が妙に悪い。協力関係だったはずなのに何か意見の食い違いでもあったのだろうか。

今回のフランスへは富士見技研のチャーター機で行くそうだが、随分とお金がかかっている。チャーター機なんか軍の輸送機で一人乗りぐらいしか経験がないので少しわくわくしている。

 

黒塗りの車が校門の方向からやってきた。俺たちの前で止まると後部座席から二階堂さんが降りてきた。そして助手席からは篠田さんもだ。

「おはようございます。二階堂さん、篠田さん。今回はよろしくお願いします」

「よろしく頼むよ、マツナガ君」

二階堂さんは今日も笑顔が素敵なおじ様ですね。

「マツナガさんよろしくお願いします」

篠田さんは低姿勢で挨拶をしてきた。

 

運転手がトランクを開けて俺の荷物を積み込んだ。

俺は千冬と楯無の方に向き直り

「じゃあ行ってくるね」

と言うと千冬の顔が少しだけ悲しげになった。

「くれぐれも気を付けて行って来い」

と口調はいつものものだ。

「行ってらっしゃい、マツナガ君」

楯無はいつもの顔だ。

 

「大丈夫だよ千冬君、ただの交渉だからね。まるで初めての出張に送り出す新婚夫婦だな」

二階堂さんが千冬にからかい半分に声を掛けてそれを聞いた千冬が顔を真っ赤にしていた。その反面、楯無は不満そうだ。

「では参りましょう」

篠田さんが声を掛けて助手席に乗り込むと二階堂さんが後部座席に乗り込みそのあとに俺が続き乗り込んだ。

運転手が扉を閉め運転席に乗り込むと車が発車した。千冬と楯無に手を振ると二人とも見えなくなるまで手を振っていた。

 

「更識君にまで気に入られたのかね?」

二階堂さんが話しかけてきた。

「そうみたいですね。入学前から副会長の打診もありましたし結構よくしてもらっています」

そう返すと二階堂さんは小さくため息をついて

「そういう意味じゃなかったんだがね。いつか刺されるよ?」

と脅されてしまった。助手席では篠田さんも小さく笑っている。

「はぁ…前にも言われたことがあります」

そう返すと二階堂さんは豪快に笑っていた。

 

景色は流れて俺の知らない街並みになっている。考えてみれば俺が外出で学園とレゾナンス以外に行くのは初めてなんだな。しかも初めてが海外って…なかなか凄い体験だ。

2時間程走ると空港に着いた。どうやら国際空港の様で滑走路が何本もある。

車は飛行機のすぐ横に止まる。

念の為に二階堂さんに警備用の拳銃を持っていることを伝えると国際IS委員会でのチャーターなので問題ないとの事だった。

荷物は運転手から添乗員に渡されて機内に持ち込まれた。至れり尽くせりだ。

 

俺達3人は飛行機に乗り込み座席に座ると30分ほどで離陸した。

飛行時間は約14時間との事だった。機内では特にすることもないので備え付けの雑誌を読んだり楯無から借りた小説を読んでいた。ちなみに借りた小説の内容は太平洋戦争時の少年と現代の少年が入れ替わってしまい特攻隊員として死んでしまう内容で号泣してしまった。

 

 

 

 

飛行機は無事にフランスのシャルル・ド・ゴール空港に到着した。

俺は事前にスーツに着替えて拳銃もショルダーホルスターに仕舞ってある。そしてサングラスをかける。サングラスは閃光対策だ。

今日の予定はホテルにて一泊して明日にデュノア社社長との会談だ。

飛行機のハッチが開くと一番先に降り周囲を確認するとタラップの下に車が止まっておりスーツのフランス人らしき男性と女性が立っていた。俺の脇を篠田さんと二階堂さんが通り降りていき俺もそれに続いた。篠田さんが女性と話をすると女性はどうやら通訳の様だった。男性はデュノア社の担当らしい。俺たち5人は高級なワゴンに案内されて乗車する。空港から40分ほど走ると高級感のあるホテルに到着しデュノア社担当以外の4人は部屋に通された。

そのあとは4人で食事をとりその後は自由時間となった。一応外出はして良いとの事だったが今日はやめておいた。言葉が通じないのと何があるかわからないからだ。一応俺は護衛と言う立場で来ているがどこで情報が漏れて俺が男性操縦者かばれるか分からない。

 

 

翌朝、ホテルの前でデュノア社からの迎えの車に乗りデュノア社本社に向かい社長室に案内された。

篠田さんと二階堂さんはソファーに座り俺はソファーの後ろに立っている。正直身分を明かした方が良かったと後悔している。これではあからさまに警戒していると言っているようなものだ。

5分ほどすると2人の男が入ってきた。一人は金髪で40代の男ともう一人は昨日、飛行場にいた担当者だ。二階堂さんと篠田さんと通訳は立上り通訳を介して握手を交わしている。社長の名前はアドルフ。アドルフ・デュノアとの事だ。

5人がソファーに座ると会談が始まった。

 

「長い時間の旅路、お疲れ様でした。さて国際IS委員会の二階堂氏までお見えになるとは報告を聞いたときは驚きました」

アドルフが会話の先陣を切った。

「いやいや、今回お邪魔させていただいたのはご子息がIS学園に転入されるとの事でしたので面談と、富士見技研とデュノア社の提携の話を持ち掛けたのは私だったので私も着いてきたのですよ」

二階堂さんの顔が見れないのは残念だがアドルフ社長は表情をそんなに変えていないと言う事は笑顔で話しているのであろう。

「そうでしたか。では商談が終わりましたら息子に合わせましょう。」

決まった。今のアドルフ社長の会話で社長も絡んでいる。そして容認している。

腹の中に熱いものが込み上げてくる。

「よろしくお願いします。では後は篠田君の出番だよ」

 

二階堂さんが篠田さんに話を振ると篠田さんはアタッシュケースからパソコンと書類を取り出した。デュノア社の担当、エリックさんもノートを取り出した。

二人で会話が始まり富士見技研の技術の説明をしている。書類からみられるのは先日俺のエステバリスに積まれたレールガン、他にレーザーライフルなどの武装や一番目を引いたのが可変型のスラスターだった。

俺の時代にも可変ピッチスラスターはあったが今紹介された可変型のスラスターは初めて見た。背中に装着し4本のスラスターで方向を変えて圧倒的な機動性を得るものらしい。現在はまだ試作でまだ実機によるテストも行っていないらしい。

このスラスターはデュノア社側は興味深々であった。

「このスラスターがあれば新型の機動性は跳ね上がる。ぜひとも搭載させたい」

アドルフ社長は相当乗り気である。

その様子を見た篠田社長は

「ではそちらの機体とこちらの機体で実際に搭載して確認でも行ってみましょうか?」

と提案するとアドルフ社長は不思議そうな顔をした。

「こちらは構わんがそちらは機体はお持ちでないでしょう?」

「いえ最近になって専用機と契約いたしましたので1機だけ搭載できる機体があります」

アドルフ社長が驚いた。事前の情報で所持している機体がないと聞いていたのだろう。つまり俺の事だ。しかしエステバリスに搭載できるのか?機体の構造とか違うだろうに。

「そうなのか…まさか最近の専用機持ちでフリーなのは…篠ノ之博士の護衛だった男性操縦者か!!」

アドルフ社長が立ち上がり驚愕の表情をしている。

「はい。とある縁で顔を合わせる事がありまして契約をさせて頂きました」

篠田社長は特に表情を変えることなく淡々と答えていた。

アドルフ社長は座り直すと腕を組んで考え込みそして体を乗り出し

「わかった。技術提携をしよう。そしてテストベッドはこちらからも私の息子の機体を出そう。エリック、シャルルを呼び出してくれ」

エリックさんは社長室を出ていくと代わりに女性が入ってきた。手にはティーカップを載せたお盆を持っておりそれぞれの前に置いて出ていった。

ひとまず提携の話は決まった。しかしここからが本番だ。

 

 

 

シャルロットを救う話が始まるのだ。

 

 

 

 




シャルロット初登場は次回です。

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