食堂でいつもの4人で昼食をとっている。俺はハヤシライスを食べているがこの味は火星丼を思い出す。たこさんウインナーは入っていないがルーをご飯に掛けて食べると懐かしい。
「トウヤさんはルーをご飯に掛けて食べる方なのですね」
セシリアが顔を引きつらせている。行儀が悪いとおもっているのだろうか。
「普段はやらないんだけど前の部隊のコックにの料理にこれに似た丼物があってな思い出してやってしまったよ。凄く良い部隊だったんだよ。軍では珍しく人を大切にする部隊で一人を助けるために部隊ごと移動したりと、とても楽しくて居心地の良い所だった」
ナデシコの事を思い出すと笑顔になってしまう。辛い戦いだったがそれでも楽しかった。
ナデシコの事が気になる。
「そんなに良い部隊だったのですか。そこで出たのがハヤシ丼ですか?」
箒は頷きながら質問してきた。
「そうだよ。ハヤシ丼にさらにたこさんウインナーが入っていた」
俺の『たこさんウインナー』のところで3人が爆笑を始めた。
「いやいや軍でたこさんウインナー!」
「たこさんウインナーですか?その話は嘘ですわよね?」
「アーハッハッハッ!!トウヤさんたこさんウインナーって可笑しいでしょ!」
俺が好きだった火星丼を笑う三人に少しイラっとしてしまった。
「嘘なんかじゃないぞ!ホウメイシェフが作る火星丼は最高だったんだぞ!あの部隊でしか食べられない逸品だったんだからな!」
次は『火星丼』がツボに入ったらしい。
「くくくくっ!!!トウヤさん!私たちを笑い殺す気ですか!?」
「トウヤさん…もうやめて下さいまし…お腹が痛い…ですわ!」
「ヒー!もう火星丼ってたこさんウインナーだから火星丼てすか!!!」
一夏達は机を叩いて爆笑している。
馬鹿にしている。ナデシコの料理を馬鹿にしている。
俺はハヤシライスをさっさと片付けて席を立つ。三人を置いて食堂を出て行った。後ろの方で謝っているが無視して出て行く。
教室に向かって歩いていると携帯が鳴った。千冬からだ。
「マツナガです」
「私だ。さっき二階堂さんから連絡があって明後日からフランスに行くことになったからトウヤも連れて行くとの事だが本当か?」
「本当のことです。二階堂さんから頼まれて了承しました」
「そうか…明後日から公休にしておく」
「お願いします」
通話が終わると携帯をしまう。
遂にデュノア社に行くことになった。この交渉が失敗すればシャルロットは収監されてデュノア社は破滅だ彼女のため、後は働いて居る人たちの為にもなんとかしたい。
午後からの授業は正直集中出来なかった。何回か千冬に怒られたが最後にはため息をつかれてそれ以降はあきらめられた様だった。
放課後は生徒会室に寄り楯無にフランス行きの話をすると既に知っていたが楯無もついて行きたがっていた。
富士見技研とデュノア社の提携は良くもなく悪くもない状況だそうだ。デュノア社としては富士見技研の技術は欲しいが会社が小さい、とのことだ。後一押ししてやれば折れるか?
午後の授業が終わり今日は四人でISの練習をアリーナでする事になっている。更衣室でISスーツに着替えた俺たちはアリーナで既にISを装着しておりいつでも練習を始められる。
「よし。始めようか。今日は一夏と箒で空中で掛かり稽古、俺とセシリアで射撃訓練だ」
一夏と箒が離れて行くのを確認すると俺はセシリアの方に向きを変え周囲に射撃目標を出す。
「セシリアは機動射撃の訓練だ。一夏戦の時の反省を踏まえて機動しながらの射撃の命中率の向上を目指す。そしてその他の時は移動しながらでもブルーティアーズを使用できるように
訓練してくれ」
俺の内容に納得してセシリアは頷いた。
「まずは周りに浮かんでいる目標をその外側から自分の出せる最速の速度で移動しながら撃ち落としてくれ」
俺はアリーナの端に寄りセシリアに頷くとセシリアは移動を開始した。
速度が上がり射撃始めた。次々落としているが徐々に命中精度が落ちていく。
「予測が甘いぞ!それに速度が遅い!もっと速度をあげろ!」
セシリアに激を飛ばすとセシリアは歯を食いしばり速度を上げる。
「そうだ!その速度を維持しながら命中精度を上げるんだ!今はまだ標的が動いていないんだから楽勝だろ!もうISがスポーツだなんて考えは捨てろ!生身に当たって相手が死ぬならばそれは兵器だ!」
セシリアの射撃の精度は上がっていく。
標的が全てなくなるとセシリアは肩で息をしながら降りてきた。
「良く頑張ったな。後半は良かったぞ。試合の時は常に動き回って相手に照準を絞らせるな。自分がやられて嫌な、苦しい事は相手にとっても同じ事なんだ」
俺の話に頷くセシリア。
「そうしたら次は移動標的射撃でもやっていてくれ。俺は二人を見てくる」
「そうですか…分かりましたわ」
なぜか悲しそうな顔をしていたがセシリアだけに構うわけににもいかず一夏と箒の方に行くと白式が打鉄に必死に切りかかっている。
いいね。一夏がガンガン攻めている。箒の顔には前まであった余裕が無くなっている。一夏の成長振りに驚く。予想外に早い。元々剣道をやっていたから下地は出来ているからかもしれない。
「一夏!箒!少し休もう」
俺の掛け声で一夏と箒がこちらに降りてくる。
二人とも肩で息をしている。
「箒、一夏の腕は随分と上がったな」
箒は驚いた様子だ。
「確かに腕は上がってますがトウヤさんの目にかなうほどにですか?」
「成長のスピードが半端ないだろ。箒にも大分余裕がなくなってきているだろう?」
「そうですね。余裕が無くなってきています」
やはり成長したのだな。
俺達は色々と話した後に全員で接近戦の練習を時間いっぱい行って解散した。
フランスに旅立つ前日の放課後、生徒会室に来ている。楯無と向かい合い話をしている。
「明日からフランスに行ってくるが一夏と箒の事をよろしく頼んだぞ」
「もう手は回してあるわ。安心して行って来て。お土産はお菓子で良いからね。そう、あなたにお土産を渡しておくわ」
楯無の合図で虚さんが紙袋とスーツの入っている袋を持ってきた。
中身を開けると黒のスーツが入っていた。
「護衛のスーツよ。あなたは護衛として行くのだから制服では不味いでしょ?」
そして楯無は机の引き出しから拳銃のマガジンとショルダーホルスターを出してきた。
「これはお守り。使うことが無ければそれでいいけど私の勘では何かが起きる。社長夫人の周りが結構きな臭いのよ」
ホルスターとマガジンを受け取ると紙袋にしまう。
「その情報は確かか?」
俺は楯無の目を見ると軽く頷いた。
俺も頷き席を立った。
「お願いだから無事に戻ってきてね」
俺は楯無のかを見ると楯無の顔に不安の色があることに気づき笑って安心させてから部屋を出た。
部屋に戻ると明日からの準備をしてベッドに潜り込んだ。
明日以降の事を考えながら眠りについた…千冬がベッドに入って来なければそのまま寝ていたのだが…
「千冬…いきなりどうしたんだ?」
「明日から海外だろ?寝付けないと思って添い寝に来てやったんだ。ありがたく思え」
いやいや…無理があるだろう。
千冬は俺の腕を枕にしていつも通りに胸に顔をうずめている。
「デュノア社の社長夫人の周りがきな臭いらしい。もしかしたら失敗するかも知れない」
俺は先ほど楯無から仕入れた情報を千冬に伝えると千冬は顔を上げて
「無茶はしないでくれ。お前が傷ついて悲しむ人間がいる事を忘れるなよ?」
そう言ってまた顔を胸にうずめた。
「お願いだから無事に帰ってきてくれ」
千冬はまたそう言って眠りについたようだ。
俺もそのまま意識を手放し朝の目覚ましまで目は覚めなかった。