IS ~銀色の彗星~   作:龍之介

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新章入ります。

鈴ちゃん登場までに少しオリジナルの展開を挟みます。


交渉と強行の章
第31話


「それで気付かずにシールドエネルギーが尽きたと」

今は千冬による一夏の反省会だ。

「はい。零落白夜を使った後はシールドエネルギーが減っているなぁという認識しか有りませんでした」

まぁ仕方ないよな。本来新機種に乗ったら慣熟訓練をするところをいきなり試合だもんな。オルコット機を追い詰めた事を誉められても説教はないな。

「織斑先生、誉められる事はあっても責められる事は有りません。いきなりの試合だったんですから」

俺が千冬にフォローを入れると千冬は余り納得していない感じであったが

「そうだな。では精進しろよ」

と言い残してピットから出て行った。

「トウヤさん。ありがとうございます」

一夏が俺の所にやってくると礼を言う。

「それにしても惜しかったな。でもあそこまで機体の慣熟訓練なしでやったんだから凄いことだ。軌道もフェイクが入って真っ直ぐでは無かったし連続切りも出来ていた。この2点だけでも出来ていれば大分違っただろう?」

「はい!相手の射撃が全然当たりませんでした」

俺と一夏はアリーナの更衣室でシャワーを浴びて着替えて教室へと向かったが途中で知った顔を見つけたので一夏を先に戻らせた。

 

「どうかしましたか?楯無会長?」

廊下の影に隠れるように立っていた楯無が出てきた。

「よく気付いたね?別に用って訳じゃなかったけど試合観ましたよ。やっぱり強いですね?」

楯無は扇子で口元を隠す。扇子には『学園最強』と書いてあった。

「だから買いかぶり過ぎですって。どうして最強にしたがるんですか?」

頭を掻いて答えると楯無は笑いながら

「私も織斑先生も状況分析は出来ると思いますけど?」

と言う。しかし…

 

「でもマツナガさんとの模擬戦が楽しみですよ」

楯無がフフフと笑っている。

「なら非公開でお願いしますよ?会長になんかなりたくないですからね?」

俺は諦めたように言うと

「分かりました」

と言い廊下を歩いて行った。

俺は溜め息ついてから歩き出した。

 

 

時刻は12時を少し越えたぐらいで昼休みになっている。アリーナから戻った俺は教室に来たが殆ど誰もいない状況だった。しかしオルコットがいた。俺はオルコットの方に歩いていくと向こうも気付いたらしくこちらに歩いてきた。

「オルコット、さっきはやりすぎてすまなかった。身体に異常はないか?」

「いえ、大丈夫ですわ。こちらこそ今までの非礼を詫びさせて下さい。申し訳有りませんでした」

オルコットは謝ると頭を下げた。

「頭を上げてくれ。俺は全然気にしていない。これから仲良くやれたら良いから」

「はい!ありがとう御座います!それから私のことはセシリアとお呼び下さい」

オル…セシリアは頭を上げると嬉しそうに名前で呼ぶように言ってきた。

「ならば俺のこともトウヤで良いぞ」

俺がそう言うと何故かセシリアは顔を赤くして

「分かりました。と、トウヤさん」

と恥ずかしそうに言う。

「おう。それなら一緒に昼食でもどうだ?」

俺が昼食に誘うとセシリアは喜んで『御一緒しますわ!』と並んで付いて来た。

良かった。なにもシコリを残さずに今回は済みそうだ。

 

 

食堂で食事を受け取ると向こうの方で一夏が手を振っている。

「セシリア、一夏と一緒で良いか?」

セシリアに向き直るとセシリアは頷いた。

「はい。織斑さんにも謝りたかったので是非お願いします」

それを聞くと一夏の席に向かう。席の近くまで来ると一夏と箒の顔が怪訝に変わるのが分かった。

「一夏に箒、そんな顔をするな」

俺の言葉に二人の顔が困った顔になった。

そこでセシリアが口を開いた。

「織斑さん、今までのこと申し訳ありませんでした」

突然のセシリアの謝罪に一夏と箒はポカーンとしている。

「あの試合も本来なら私の負けです。宜しければお二人の決めた罰の土下座もいたします」

そう言うと食事を机に置き膝を付こうとするセシリア。

俺は慌てて腕を取り止めた。

「セシリアすまん。あれは俺の挑発だ」

俺は真実をセシリアに告げるとホッとしたような顔になる。

「一夏に箒、どうなんだ?」

俺が二人に振るとやっとフリーズから解放されたようで顔を見合わせると笑顔になり

「大丈夫だよ。俺たちも気にしていない」

と言った。

「ありがとう御座います」

セシリアは頭を下げた。

これで解決!

はぁ〜だが次はデュノアか…

 

俺とセシリアは席に着き食事を始める。

「一つ聞いて宜しいですか?」

セシリアが俺に聞いてきた。

「なんだい?」

「トウヤさんの操縦ですが相当手慣れていたようでしたが篠ノ之博士の所でどんな訓練をしていらしたのですか?」

まずい…そこら辺のカバーストーリーは考えていなかった。

「そうだなぁ。まぁ元々パイロットだったからその訓練方法を元に独自に考えてしてたよ」

嘘は言っていないよな?

「そうだったんですか。機動射撃なんかは物凄い腕でしたので是非御教授願いたいですわ!」

セシリアの視線に熱がこもっている。そんなに指導を受けたいのか。

「機会があったらな」

そういうとセシリアは大きく頷いた。

それを見ていた箒が信じられない物を見た顔をしている。隣で一夏もだ。

「二人ともどうした?」

俺が二人に問いかけると次はセシリアを見て同時にニヤリとした。

俺がセシリアを見るとセシリアは俯いていた。

「おい、二人ともなにをしているんだ?そう言うのは感心しないぞ」

というと二人は益々ニヤリとしてセシリアに

「「頑張れよ」」

と言っていた。

 

よく分からん。

 

午後からは普通に授業が行われ放課後になると俺は職員室の千冬の元に来ていた。

「模擬戦のデータが欲しいのですが」

「構わないが、ああ…富士見に出す報告書か」

千冬は書類を一枚書いて上座の方に居る人に出すとUSBメモリーを持って戻ってきた。

 

…視線を感じる?しかも殺気がこもってる。

 

千冬はパソコンからデータを移すとUSBメモリーを渡してきた。

「USBは明日には返すように」

「分かりました。ところ個人的な相談が有るのですが」

そう言って俺鋭い目つきをすると千冬は何かを察してくれたのか席を立つ。そして廊下に出ると隣に立ってくれた。

「どうしたのだ」

「職員室内で殺気のこもった視線を感じたのですが」

千冬の目つきが鋭い物に変わる。

「間違いじゃないのか?」

「間違いではないです」

俺の言葉に千冬は頭を抱えた。

「やはり現れたかった。懸念はあったんだがな」

「女性主義的な人ですか?」

「そうだ。上には通しておくが注意しておいてくれ。教員の中に居るって事だからな」

千冬はそう言うと職員室に戻っていった。

俺はその場で携帯で楯無を呼び出す。

「トウヤさん!お待ちしてました!」

「待たせた記憶はないんだが?」

「いえいえ、勝手に待ってたんです。私って一途な女なんですよ!」

妙にテンションの高い楯無が少し面倒くさい。

「用件は一夏の身辺警備の強化を頼みたい。対象は学園内部でだ」

俺の言葉で電話のむこうの雰囲気が変わるのを感じた。

「内部ですか?詳細は?」

「先程職員室内で殺気を向けられた」

「分かりました。教員の身辺を洗い直します」

通話が切れると携帯をしまって生徒会室に向かう。

 

ISの生まれた世界も歪んでいるのだな。

 

 

生徒会室を開けると虚さんがいた。

「マツナガさん、こんにちは」

「虚さんどうも」

「今日は試合だったそうで、お疲れさまでした」

「聞いていたんですか」

「ええ、本音からですけどね」

そうだった。本音も書記だったんだ。

「そうでしたね。忘れてました」

顔を見合わせて笑う。

「試合は如何でした?」

「一応は二戦やって両方とも勝ちました。経歴からでは当然ですよ」

一応人型機動兵器のパイロットですからね。人型の扱いや特性は把握してますよ。

「流石ですね。目指せ学園最強ですか?」

「それだと会長交代しちゃってるじゃないですか」

「それも良いかもしれないですね。今の会長はサボりますから」

虚さんがクスクス笑っている。

俺も苦笑い。

「残念ですが俺は会長になる気は有りませんよ。この書類の山を見たらやる気無くなりますって」

会長の机に聳える山脈。

「これは会長がサボった結果です」

虚さん結構厳しいね。

 

そこで携帯が鳴り始めた。

「マツナガです」

「どうも。二階堂てす」

IS国際委員会の二階堂さんだった。デュノア社の件だろうか。

「こんにちは。なにか有りましたか?」

「マツナガ君、篠田君と私と一緒にフランスに来てくれないかね?」

「私もですか?」

「そうだよ。御令嬢が気にならないかね?それと護衛も兼ねてね。更織通して話をしておくよ。君が了承してくれるなら千冬君に公欠扱いにするよう頼んでおくから」

「分かりました。同行させて下さい」

「助かるよ。では日程が決まったら千冬君に知らせておくよ」

通話が切れた。

「大丈夫ですか?」

虚さんが心配してくれた。

「大丈夫です。どうやら出張に行くことになりそうです。フランスまで」

俺が笑みを浮かべると虚さんも同じ様に笑みを浮かべた。

「フランスの御曹司ですか」

 

虚さんは何でも知っているのかも知れないな。

 

 

 

 

 




虚さん「知っている事しか知らないよ」

なぜ猫さんと被るのでしょう。

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