IS ~銀色の彗星~   作:龍之介

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第21話

「あ、悪い俺、君のこと誰か知らないし」

 

一夏が爆弾を落とした。

 

「なっ!私を知らない!?イギリスの代表候補生であり入試主席であるセシリア・オルコットを知らないですって!?そちらの礼儀を分かっているお方は知っているようですわよ」

俺のことを指しているようだ。

「一夏…入学式で新入生代表でスピーチしていただろ?それがこの人、オルコットさんだよ」

俺が教えると納得したようで

「ああ!そう言えば金髪の子だったなぁ!」

まただ…

「あなた!もう少し礼儀を勉強なさい!」

やっぱりね。

しかし一夏もいい加減頭に血が昇ったようで

「さっきから何なんだよ!知ってて当たり前のような言い方ばかりして!代表なんとかだからってそんなに有名なのかよ!」

確かに!

一夏の言い分も分かるな。

他国の代表候補生なんか代表候補生でも覚えていないだろうな。きっと国代表じゃないと覚えていないんじゃないか?

「代表候補生ですわ!そんなのすら分かっていないようではレベルが知れますわね」

オルコットが一夏を見下している。目線が見下しているのだ。

しかし一夏はいきなり俺の方を向くと

「トウヤさん。代表候補生って何ですか?」

 

ズダダダダーン!!!

 

はい、またずっこける音が教室に響いてしまった。

ってかみんな聞いていたんだ。

 

「あっあなた!そんな事も存じないのですか!」

オルコットの額に血管が浮いているよ…

「一夏…言葉のまんまだぞ。国代表の候補だ」

本当に全く勉強しなかったのか。

「一夏…今晩から一緒に頑張ろう」

箒は哀れに思ったのか恥ずかしがる様子もなく勉強を教えるのを頑張ろうとしている。

「そう言えば単語だけで分かるな。で、それって凄いのか?」

一夏…気付くの遅いよ。それとまた爆弾投下やめてくれ…

 

「あなた!ISの事を全く分かっていないのですわね!」

オルコットさん…高血圧で倒れないでくれよな。

見かねた箒が一夏に代表候補生の凄さを説明し始める。

「一夏、ISに使われているコアは世界で467個しかない。世界中の国や企業に渡されているため1国家当たりのコアの数はとても少ないのだ。その中で国家代表、その候補になるのはどれだけ難しいか分かるであろう。言わばエリートなのだ」

さすが箒だ…と言いたいが当たり前か。

「その通り!私はエリートなのですわ!そんな私と同じクラスで有ることを幸運であると思うのですわね」

さすがにその言い方はちょっと頂けないな。恐らくこのクラスの組み方は重要人物を集めただけたな。警備の為にな。

「そうか。それはラッキーだ」

一夏…お前はお馬鹿なんだな。それでは逆効果だよ。

「馬鹿にしてますの?」

「いや…君が幸運と言ったんじゃないか」

一夏がもっともな突っ込みを入れているがこの騒ぎの魂胆は一夏、君なのだよ。

「そもそも男でISが動かせると聞いていましたからどのような方かと思いきやそちらの方はともかくあなたは知識不足も甚だしいでは有りません事?この学園には男でISが動かせるというだけで入学できたのではありませんか?」

オルコットは腰に手を当てて一夏にまくし立てている。

オルコットさん…一夏の入学はまさにそれが理由だよ。でなきゃここに来たりしないだろ。

「俺の入学にそれ以外に理由は有るのか?ぶっちゃけそれ以外無いと思うんだが?」

うんうん。

「そうでしょうね!!そちらの方も一応は多少の知識は有るようですが所詮は男!大した実力も無いのでしょうね。まぁ土下座でもすれば入試で唯一、試験官を倒した私が色々と教えて差し上げない事も有りませんわ!!オーホホホホ…」

うわ…手の甲を口に添えて笑い始めたよ。お嬢様なんだなぁ。だがいい加減この騒動も面倒になってきた。収めよう。

 

「っぐ!てめ…ガハっ!」

一夏が怒って言い返そうとしていたが慌てて首根っこを引っ張って発言を引き留めた。

「済まないがオルコットさん、私はオルコットさんには適わないと思うが少し相手を甘く見過ぎてはいないか?何事も『出来る』人と言うのは油断せずに着々と事や計画を進める人だと思う。オルコットさんもどうやら『出来る』貴族のようなのだから我々一般庶民相手にムキにならずこれで矛を収めては頂けないだろうか。もし教えが必要な時はこちらからお願いに伺わせて頂く」

ここで予鈴のチャイムがな鳴りみんなが席に戻り始めた。

オルコットも席に戻る間際に

「まぁどうしてもと言うならばいつでも来て下さって結構ですわ!庶民に教えるのも選ばれた貴族の努めですわ」

と言い残していった。

エリートねぇ。なかなか歪んでいるな。プライドなのか。

 

一夏も箒も納得していない顔で席に戻っていった。言われっぱなしで納得がいってないのだろう。

 

全員が席に着き先生が教室に入ってくるのを待つ。授業はIS戦術論で教員は千冬だ。戦術論とはISでの戦闘の理論だ。例えば武装と特性、武装による使える戦法、その戦法を使うための動きなどを学ぶ。これはどこの軍隊でも学ぶ事だ。そしてその上の内容が戦略だ。

千冬が教室に入ってきたところで本鈴が鳴った。

「では授業を始める。ISの武装と特性についてだ。っとその前にクラス代表を決めねばな。では自薦他薦を問わない。誰かやりたい者はいないか?クラス代表は学級委員みたいなものだ。委員会に出たり生徒会の会議にでたりと色々と仕事があるが卒業時の内申はなかなか大きいな。それと学年開始時点でのこのクラスの実力を測るものだから実力で選ぶように。本来は入学試験での実技の成績で選ぶべきなのだろうがそれでは自主の精神が生まれないからな。選ばれた場合は1年間よっぽどな理由でない限り変更は認められないのでそのつもりでな」

どの学校でも大きいよな。俺は高校の時に学級委員をやったな。

「はい!マツナガ君を推薦します!」

俺か。

「じゃあ織斑君!」

案の定俺らが推薦されたな。

「他にはいないか?いなければ二人で決戦になるぞ」

千冬が他の者を確認するといきなり机を叩く音がするとオルコットが怒鳴りだした。

「納得いきませんわ!!」

椅子から立ち身を乗り出して抗議を唱えだした。

「そのような選出は認められませんわ!男がクラス代表なんていい恥さらしですわ!このセシリア・オルコットにこのような屈辱を一年も味わえと!?実力から言えば私が選ばれるのは必然なのに珍しいからという理由で極東の猿を選ばれては困ります!私はこのような島国にISの修練に来たのであってサーカス…」

「おいクソガキ!」

突然の声にオルコットの声は遮られた。千冬だ。

「誰が極東の猿だ。貴様はそんなに強いのか?高々代表候補生ごときが。良いだろう。3人で総当たりの模擬戦をやってもらおうじゃないか。織斑はさておきマツナガは強いからな。オルコット、貴様は篠ノ之束の会見を見てはいないのか?奴は篠ノ之束の護衛だったのだぞ?そしてパイロットで専用機を持っているのだぞ?その意味が分かっているのか?まぁいい。では1週間後にクラス代表決定戦を行うそれまで準備を行う様に。では授業を開始する」

千冬が授業を開始するとオルコットは悔しそうな顔をしていたが席についた。

そして教科書を開き俺達の方を見回すと千冬がこちらを見て少しだけ口の端を上げて笑った。

 

そうか。オルコットの伸びきった鼻を叩き折れって事か。それがオルコットの為か。それで立ち直れないようでは国家代表とはなれない。立ち直れば彼女は一回り大きく成るだろう。

 

授業は終わりを迎えSHRが終わった。すると布仏本音が俺の席にやってきた。

「ヤッホー。マッツ~!さぁ行こうか~」

と間の抜けた喋り方で教室の後ろのドアに向かって行ったので俺も鞄を持って追いかけた。

布仏さんは教室を出たところで待っていた。

「じゃあマッツ~会長の所へ行こうかぁ~」

袖が長くて見えない手を廊下の一方へ向けて歩き出した。

「布仏さん…マッツ~って私のことなのか?」

さっきからマッツ~と呼んでいるがあだ名なのだろうか。

「そうだよー。マツナガさんだからマッツ~。いい名前でしょう?それと私は本音で良いよ。生徒会にはお姉ちゃんも居るからねぇ」

なかなかのほほんとした喋り方だな。

 

 

廊下を本音と歩いて行くが周りの生徒の視線が凄い。

そしてあるドアの前で止まる。プレートには生徒会室と書いてある。

本音がドアを開けると中には学園の制服を着た本音と同じ色の髪の三つ編みのおさげに丸い眼鏡をかけた生徒が立っていた。この子が本音の姉か。

「あっマツナガさんですね。初めまして、私は生徒会会計の布仏虚です。こちらからお呼びたてしておきながら申し訳ありませんが更識会長はまだ来ていません。そちらの椅子に座ってお待ち頂けますか?本音、お茶とお菓子を出してくれる?」

虚は部屋で一番大きな机の前の長机の椅子を引いてくれた。

「ありがとう御座います。1年1組のマツナガ・トウヤです。宜しくお願いします。それでは失礼します」

俺は椅子に座ると周りを見渡す。正面が窓だがブラインドカーテンで外は見えない。

そして目の前の机には整理された書類が山がいくつもの山脈を築いていた。恐らく会長の机なのだろう。

 

「マッツ~どうぞー」

本音が俺の前にお茶とお菓子を置いてくれた、しかしその手には俺に置かれた以上の大量のお菓子が持たれていた。

「私のおやつ~」

と言って俺の隣でお菓子を頬張りだした。

「コラ!本音!食べ過ぎです!」

虚は叱りつけているが俺の隣のリスのように頬を膨らませて食べている本音はお構いなしのようだ。

 

 

 

俺は更識会長が来るまでのほほんとした雰囲気で本音を眺めながら待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 


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