ありがとう御座います!
ここでどうしてもやりたかった閑話を入れさせていただきました。
「ただいま!」
トウヤがドアをくぐるとエプロン姿の千冬が玄関に小走りでやってくる。
「お帰りなさい!トウヤ!!」
千冬は黒髪を後頭部で束ねた俗に言うポニーテールにしている。
千冬は小走りのままトウヤに抱きつき唇を重ねた。
数秒重ねた後に離すとトウヤは笑顔で
「ただいま。寂しかったか?」
千冬を抱き締めたままで尋ねた。
「当たり前だ。3週間も離れていたんだ。結婚してから最長だぞ」
千冬は目に涙を浮かべながら頬を膨らませて言った。
トウヤと千冬はトウヤがIS学園を卒業と同時に結婚をし、千冬は結婚を期に退職した。そしてトウヤはISを開発する企業にテストパイロットとして開発部に就職した。
この結婚は世界中衝撃をもたらした。元日本代表でモンドグロッソ総合優勝者の織斑千冬、そして男性操縦者で同じく元日本代表でモンドグロッソ総合優勝者、そして人類改心の切欠となったマツナガ・トウヤの結婚だ。
人類の改心とはトウヤがモンドグロッソを優勝すると世界中の男性が狂喜乱舞した。だがトウヤの記者会見で騒ぎは沈静化させた。会見の内容は
『私は男性操縦者ですが女性達が弱いとは思いません。実際に今大会で戦った各国の代表はとても強かった。どんな訓練よりも一試合一試合がとても辛かった!そんな代表達と戦場で万が一にも戦いたくない。みなさん、今この世界は戦争の寸前であることに気付いていますか?女性至上主義者と男性至上主義者との戦争です。ISが最強と言われていますがそれは単純に個々の戦闘力です。数が少ないと言うことは結局は局地的な話なのです。ここまで言えば分かると思います。結局はISが有ろうと戦略的に一般兵器が使われるとISでは対処しきれないのです。ですからお願いです。ISを平和利用してください。兵器にしないでください!篠ノ之博士の唱えた宇宙開発に利用してください。お願いします。ご存知の通り私は篠ノ之博士と繋がっています。もし宇宙開発への利用を約束していただけるのであればコアの増産と男性の操縦の研究を進言します』
と言う内容だった。
この記者会見後に国際世論の熱烈な後押しにより国際IS委員会にて一層の兵器利用への厳罰化が採択されて世界中の国々がISの兵器利用を放棄した。あの世界の警察をうたっている国も放棄したのだった。
そして世界中の人々が宇宙を見上げる様になった。
宇宙進出の拠点、地球衛星軌道に巨大宇宙ステーションが、開発されることが正式に決まると篠ノ之博士がコアの増産と男性の操縦を研究する事を発表した。
それからの人類は宇宙へと夢を広げるようになったのだ。
そんな話題の二人の結婚だ。世界中の人々が祝福しお祝いを述べた。
トウヤと千冬はリビングで離れ離れになっていた3週間の話をしていた。酒の入ったグラスを片手にだ。
「今は重力推進による限界速度の競争だね。宇宙では一回速度が出てしまえば維持はされるからね」
「そうか。やっとハイパーセンサーがフルに活用されるようになるんだな」
ISの開発も速度が一気に上がるようになった。その分トウヤの仕事も忙しいが千冬とトウヤにとっては嬉しい事態だ。
「トウヤ、風呂と食事と…どれにする?」
千冬は真っ赤になっている。
「それじゃあ一緒に風呂に入ろうか」
トウヤは余裕でそう言うと千冬は真っ赤になって頷いた。
二人は風呂場に消えて行った。
二人はなかなか出てこなかったとだけ言っておこう。
「ふぅー、ごちそうさま。とても美味しかったよ。じゃあ洗おっか」
二人は夕食を終えると二人で皿洗いをする。結婚当初から一緒に洗っている。
千冬は最初は料理が壊滅的だった。結婚の直前の一夏の懸命な指導と練習によってなんとか人並みになった。トウヤと付き合ってすぐに織斑家で千冬がトウヤに手料理を振る舞おうとしたときは大惨事になった。
「トウヤ!フライパンが爆発した!」
とか
「トウヤ!ちくわが爆発した!」
なんて謎の現象が起きて結局は二人で作る事になった。
今ではレパートリーもなかなか増えていてトウヤの胃袋を満足させている。
そしてリビングでのんびりくつろいで二人で寝室に向かい1日が終わる。
千冬の弟の一夏はトウヤが日本代表を引退した後に日本代表となり今は世界中を回っている。卒業式でトウヤと千冬で結婚する事を伝えると
「やっぱりそうだったんだ」
と言い千冬とトウヤを驚かせた。
「いつから気づいていたんだ」
と千冬が聞くと
「初めてトウヤと会ったとき?千冬姉と久々に会ったら優しく女らしくなってるんだもん。俺ピーンと来ちゃったもんな」
などと言い千冬とトウヤを驚かせた。
一夏は二人の結婚に大賛成してくれて話はとんとん拍子で進んだ。
千冬がIS学園に退職を、申し出た時は学園が考え直してくれとかなり渋っていたが臨時の講師としてなら籍を残しても良いという事で話は纏まった。そのため月に4、5日は学園に行って講師をしている。
2人はとても充実した結婚生活を送っていたが気がかりがない訳ではない。
時々、束が乗り込んで来てその度にオムツやベビー服や玩具を置いていくのだ。
束いわく
「ちぃーちゃんとトー君の子が楽しみでどうしても買っちゃうんだよぉ!」
とか
「こうしておけば早く赤ちゃんが見れるかも」
と言い千冬に発破をかけるのだ。そのたびに二人は微妙な空気に包まれる。
恥ずかしいやら済まなそうな空気にだ。
そう。束のプレッシャーがひどいのだ。二人は小作りをしてない訳ではないのだがなかなか出来ないのだ。
千冬もトウヤも気にしない様にしてはいるが最近は病院に行くか本気で相談するようになった。
ある日トウヤは会社のデスクで報告書を纏めているとトウヤの携帯に山田先生から着信が来た。
「もしもし、久しぶりですね山田先生」
「お久しぶりです!マツナガさん!突然ですみませんが急いで学園に来てください!!おりむ…千冬先生が!」
山田先生の言葉を聞くとトウヤは頭をISで蹴られたかの様な衝撃に襲われた。
トウヤは咄嗟に走り出し上司に私的な用事で早退する事を伝えると車に乗り込み学園へと向かった。
道中のトウヤは落ちつきなく珍しく前の車に悪態をついたりと普段では考えられないような行動をとっている。
IS学園の正門でマツナガと伝えるとすんなり通してもらえた。車を来客用に止めるて職員室に走って向かうと山田先生が待っていた。山田先生について行く道すがら山田先生に千冬の状況を聞いてみるが答えてくれない。その事がますますトウヤを不安にさせトウヤの手は震えてしまっていた。
トウヤが連れて来られたのは学園の医務室で医師が常駐している場所だ。
医師は不在のようで隣の病室に入るとカーテンに覆われたベットがあり山田先生に中に入るよう言われてトウヤは中に入った。
ベットには千冬が寝ているが顔色が良くない。しかしトウヤはホッとしてしまった。最悪の事態を考えていたのでその最悪の事態は除外された。しかし千冬に一体何が起きているのか。トウヤはまだ不安に押しつぶされそうな状態だった。
千冬の手を握るとヒンヤリとしていた。いつも千冬の手は冷たかった。だがその手を暖めるのがトウヤは好きだった。
トウヤは震える手で千冬のてを温めた。
「千冬…何が起きたんだ…いつもの様に話してくれないか…」
目を開けない千冬に掠れた声で話かけてしまうトウヤ。
山田先生がカーテンの中に入ってきた。
「マツナガさん、千冬先生は私とISで生徒達に高速近接運動を見せている途中で千冬先生が急にバランスを崩して私の機体に接触してしまいその勢いでアリーナの壁に激突し
しまいました。シールドバリアは正常に作動していましたが何故か目を覚まさないのです」
山田先生は責任を感じているのか顔を青くさせて目には涙を浮かべている。
「山田先生に非は有りませんよ。ISでの接触なんて日常茶飯事でしょ?」
トウヤはそう言って山田先生の肩をポンと叩く。山田先生は「はい…」と頷いているが涙はまだ止まっていない。
それからトウヤと山田先生は千冬のベットの脇に座って校医が戻ってくるのを待つ。
10分経った。
トウヤと山田先生は10分がとても長いと感じた。
それから5分経つと校医が戻ってきたようだ。
医務室にトウヤと山田先生が移動すると女性の校医は椅子に座るように促した。
「初めまして。校医の壬生谷です。先ずはマツナガ先生の状態ですが生命に関わる事ではありません。山田先生の仰っていた状況を鑑みて恐らくマツナガ先生は飛行中に気を失ったのではないかと予想されます。気を失った理由ですが…」
女性校医は話をとめた。
「それはマツナガ先生が起きてから説明しましょう。逼迫した話では有りませんので」
と言い、タバコとライターを机から出すと医務室を出て行った。
トウヤと山田先生は呆気にとられてお互いの顔を見合わせると無言で椅子から立ち、千冬のベットへと戻った。
千冬は相変わらずテンポよく胸元を動かして寝ており、まだ起きてはいなかった。
山田先生はトウヤにひとまず職員室に戻ると伝えて出て行った。
トウヤはまた千冬の手を握りひたすら千冬が目を覚ますのを待った。
1時間ぐらい経った頃、千冬が目を覚ました。
「ん?トウヤ?私はどうしたんだ?」
千冬は状況を理解出来ていないようだ。トウヤはこれまでの経緯を千冬に説明すると千冬は頭を抱えてしまった。
「やってしまったか。すまない、トウヤ。今日は朝から体調が優れなかったのだ。てっきり…その…昨日の晩の疲れかと思ってしまって…」
昨晩はお楽しみでしたね。
「そうだったのか。千冬に怪我とかがなくて本当に良かった。このあと壬生谷校医が原因を説明してくれるようだから一緒に聞こう。それまではゆっくり休んでいよう」
千冬は頷くと再び目を閉じた。
俺は医務室から出ると山田先生に電話で千冬が目を覚ましたこと伝えた。
暫くすると壬生谷校医が戻って来たので千冬が目を覚ました事を伝えると一緒に千冬のベットまで付いていった。
「千冬、壬生谷先生が来たよ」
トウヤが声をかけると千冬は目を開けて上半身を起こした。
「マツナガ先生、それとマツナガさん。これからマツナガ先生の状態について説明します。短刀直入に言いますが宜しいですか」
壬生谷先生は間をおいた。
トウヤと千冬はお互いに手を取り合いしっかりと握り合った。
そして壬生谷先生は
「おめでとう御座います。マツナガ先生!」
と言った。
トウヤと千冬は状況を理解出来ていないようだ。難しい顔をしたまま首を傾げている。
「ですから千冬さんは妊娠したんですよ!子供を授かったのです!」
壬生谷先生は理解出来ていない二人にもう一度分かりやすく説明をする。
千冬はやっと理解できたのかトウヤ方を向き、トウヤも理解できたのか千冬の方を向いた。
そして二人同時に
「「ヤッターーーー!!」」
と大声を上げて抱き合った。千冬もトウヤも涙を流して喜び合った。壬生谷先生も拍手をしながらおめでとうと言って二人を祝福した。
「まだ初期ですが安定するまでは安静にしておいてください。いいですね」
改めて壬生谷先生から話を聞き医務室から出ると山田先生が医務室に走ってきた。
「織斑先生!グアイはどうだったんですか!?」
息を切らせて千冬に訊ねている。
「山田先生、大丈夫だ。それに私はマツナガ先生だ」
千冬は山田先生の肩を優しく叩きながら答えた。
「そうですか…良かったです。それより何でお二人は嬉しそうにしているのですか?」
山田先生は首を傾げて2人を見比べていた。
トウヤははにかみ千冬は幸せそうにお腹を撫でた。
それを見た山田先生はパァーと明るくなり2人に抱きつき
「おめでとう御座います!!遂に出来たんですね!!」
と山田先生まで涙を流して喜んでいた。
千冬も泣きながら
「ありがとう、山田先生」
と言いいつの間にかトウヤを放って喜びあっていた。
3人は駐車場への道を歩いていると前の方に学園の制服を着た女生徒達が道の端に寄って立っていた。
トウヤと千冬はお互いの顔を見た後に山田先生を見ると山田先生は生徒たちの方を見ながら
「すみません。実は私、千冬先生のおめでたを壬生谷先生から先に聞いていていました。学園のみんなでお祝いしたくてみんなでお二人が出てくるのを待っていたのです!」
そう言うと生徒達みんなが
「「「「マツナガ先輩!千冬先生!!おめでとう御座います!!!」」」」
と言う声が辺りに響き紙吹雪やクラッカーが辺りに舞った。
突然の出来事に2人は驚き唖然としていたが山田先生に手を引かれて前に進むと笑顔になってみんなにありがとうと言う言葉をかけて手を振ったりしていた。
途中で横断幕まであり、かなり前から準備していたことが伺える。
駐車場まで来ると山田先生に御礼を言うと二人は車に乗って家へと帰っていった。
「トウヤ。私はとても幸せです」
「俺もだよ千冬。ありがとう」
その日二人はとても幸せな気分で眠りについた。
「千冬、千冬、起きて」
私はトウヤに起こされた。目を開けるとトウヤの顔が目の前にあった。体を起こすと私はどうやらトウヤに膝枕をして貰っていたようだ。
「夕飯は食べないのかい?」
そう言われて私はさっきのは夢だと悟った。
夢オチかよ!と少し苛ついたが…トウヤと結婚…妊娠…なんて幸せな夢だったんだ…
あんな夢なら覚めなくても良いかも…
現実の方が良いに決まってんだろう!!
「そうだな行こうか。トウヤと食べれる最後の食事だしな」
そんな事を思いながら食堂に行くために部屋を出た。
部屋から出て時計を見たら一夏との約束の時間を過ぎていて焦ったが。
いつかあの夢のような生活を送るために、私は決意新たに走り出した!!
トウヤ!いつかお前の子を孕んでやるからな!!
結局夢オチでした。
ですがこんな千冬も悪くない!!
私の自己満足です。
2015年1月25日一部修正・編集。