IS ~銀色の彗星~   作:龍之介

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今回も短めです。


第14話

「あ、マツナガ・トウヤです。宜しくお願いします!」

この声が聞こえた瞬間私の血圧は一気に跳ね上がった。

世界です2番目の男性操縦者。一人目は私達が敬愛する織斑千冬の弟。

2人目は篠ノ之束様の護衛だとか。

許せない!敬愛する2人の関係者とは言え女性にしか操縦出来ない物に汚らわしい男が乗るなんて!

奴らは私たちからISまで奪おうと言うの!!

いつか痛い目に合わせてやる!!

 

 

 

 

 今日は午前が国際IS委員会の役人と会って、午後は健康診断か。

千冬と朝食を取りながら今日の予定思い出す。

 

昨日の午後から千冬の様子がおかしい。凄く大人しいと言うか落ち込んでる訳じゃないが今までよりも会話が少ないのだ。

やはり昨日の事を怒っているのだろうか。幻滅させてしまったのか。話し掛けにくくて困っている。

 

無言で朝食が進む。

気まずい。

千冬は隣でお茶を飲んでいる。

辛うじて待ってくれているようだ。

少し急いで朝食を食べて千冬と席を立つ。

部屋に戻ると千冬は校舎へ、俺は事務棟に向かった。

応接室に入ると国際IS委員会の役人、確か二階堂さんだったか…は窓際に立っていて既に待っていた様だ。

「すみません。待てせてしまいました」

「いえ、私が早く来たんです」

二階堂さんはソファーに腰掛けて俺にもソファーに座るように促した。二階堂さんは40代ぐらいで奥さんと子供がいるそうだ。

「明後日が入学日か」

「はい。今日は午後に健康診断です」

「所で今日は織斑君は?」

「え?来る予定だったのですか?」

まさか千冬…すっぽかしたのか?

「いや、そういうわけじゃない。君について来るかと思ってただけだよ」

「どうしてですか?」

「織斑君はね思い入れのある者を大切にするんだよ」

束さんと同じなのか。

「彼女の両親の話は聞いたかね?」

「いえ、聞いていません」

「彼女の両親はな子供を捨てて何処かに消えたのだよ」

どういう事だ?

言葉が出ない。

「その為に彼女は必死になって一夏君を育てた。篠ノ之夫妻が引き取るという話が有ったようだが織斑君が断ったようだ」

なぜだ!

何故千冬は…

「だが結局篠ノ之一家も離散してしまったがね。そして彼女は第1回モンドグロッソで優勝した。だが第2回は決勝で棄権した」

それは資料で見た。何故か決勝で棄権してしまった。

「それはね決勝直前に応援に来ていた一夏君が何者かに誘拐されたのだよ」

なに!?

「そしてドイツ軍からもたらされた情報で一夏君の誘拐された場所が分かり千冬君が救出に向かった。そのために決勝を棄権した」

そんな事があったのか。

「その後彼女はドイツ軍の要請で1年間教官をしてIS学園の教官を始めた。日本に戻って来てからの彼女は親しい人間への執着が激しくなった。君の素性は彼女から聞いている。君を気にかけるのは、彼女が孤独を知っているからだ。きっと辛かったのだろう。両親捨てられて一夏君と一緒に生活をしてモンドグロッソで日本の期待を背負って戦い、一夏君を誘拐されたため棄権してバッシングを受けた」

俺は…何も言えない。

「たから一緒にいるかと思ったのだよ」

千冬の過去にそんな事が。

「千冬君と仲良くしてやって欲しい」

「はい。出来るだけの事はします」

 

その後は特に重要な話しもなく俺の世界の話になった。

二階堂さんは決して口外しないことを約束してくれた。

 

 

千冬の過去を知った。

そんな重い過去があったのか。

なんて言ったら良いのか…

応接室を出てからの俺は気が重くなってしまった。

 

 

 

俺は元の世界に戻って良いのか……

 

 

 

午後は身体検査を受けて空き時間となった。

 

今日は学園のランニングコースを走る事にした。

1周10キロのコースだ。

一定のリズムで走る。

薄情な男だ。

元の世界に未練を残している。

帰れるか分からないのに。

 

 

結局2周も走ってしまった。

寮に戻りシャワーを浴びて制服を着て外に出て歩いた。向かうのは俺がこの世界に来て降り立った場所だ。

 

芝生で海が見える場所。

俺はそこに寝っ転がり空を見る。雲一つなくとても気持ちいい。

 

 

俺は千冬の気持ちに応えるべきなのか?

 

風が吹いた。

 

俺はこの世界から居なくなるかも知れないのに?

 

飛行機が視界を横切っている。

 

それに同情じゃないか?

 

飛行機が飛行機雲を引いている。

 

俺の気持ちは?

 

目を瞑った。

 

 

 

『トウヤはね優しいから甘えたくなるのよ』

『人のせいにするな』

『人は誰かを頼って、頼られて生きているわ。会社も同じ。どんなに大きな会社だって小さな会社が無くなるだけで業績ががた落ちするものよ?ネルガルだってそういう小さな会社が有るのよ?』

『そうなのか?』

『もちろん。その会社以外では作れない物があるの。人も一緒。その人がいなくなったら駄目になっちゃう人がいるのよ』

『ふぅーん』

『真面目に聞いてるの!?』

『もちろん』

『…本当に分かってるのかなぁ』

 

 

 

ん?

 

寝てたのか。

 

空は夕日でオレンジ色に染まっていた。

風も冷たくなっていて肌寒い。

左腕が痺れていて感覚がない。

起き上がろうとしたが妙に重い。

体の左側を見ると千冬が寝ている。

 

俺の左腕を枕にしている。

 

 

俺は頼られてるのか。

さっきの夢を思い出した。

エリナとの会話だった。

 

きっとエリナも俺を頼っていたんだな。

 

 

もう少しこのままでいよう。

 

 

「トウヤ?」

「ん?」

「起きていたのか」

「ちょっと前にな」

「すまない」

「なにがだ?」

「私は…」

「いいよ。千冬が謝ることはないよ。俺は気にしてないし、それに俺も悪いんだよ」

「しかし…」

「甘えていいんだよ」

「え?」

「誰だって疲れるさ。もう少し気を楽にね、甘えられる時は甘えときな」

「…ありがとう」

千冬の顔は見えないが肩の辺りが湿った。

左腕で千冬の頭を撫でてあげると俺はまた目をつぶった。

 

 

目が覚めると周りは暗くなっていた。

頬が冷たくなっていみ右手で触ると温かくて気持ちがいい。

左腕の千冬はまだ起きてない様だ。

「千冬、千冬」

声をかけると目を覚まし体を起こす。

それに合わせて俺も起きた。

「暗くなったから戻ろう」

「…そうだな」

俺は立ち上がり千冬に右手を差し出すと千冬は嬉しそうに左手を出したので掴んで引き上げて立ち上がらせてあげた。

俺達は並んで寮への道を進んだ。

朝までの気まずい雰囲気は無く今までの雰囲気に戻った。

 

 

そして俺達はいつも通りに勉強をしていつも通りにベッドに入り寝た。

 

 

『トウヤはやっぱり分かってないよ!』

『なにがだ?』

『甘えさせてもいいけど誰も彼もってわけじゃないんだよ!』

『はぁ?』

『ほら分かって無いじゃない!』

『だから何のはなしなんだ?』

『この前も言ったじゃない!いつか刺されるよって!』

『なんで俺が刺されるんだよ』

『……』

怒ってどっか行っちゃったようだ。

 


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