【完結】フリーズランサー無双   作:器物転生

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【あらすじ】
異なる大地からやってきたメルディの、
言葉を理解できる人が見つかるまで、
主人公組と同行する事になりました。


キールくんを護衛として雇う

 通訳として同行している私は、主人公組と共に学問の町ミンツへ到着しました。ついでにファラは、幼なじみのキールくんを探します。せっかくミンツまで来たのだから、顔を合わせておきたいようです。最初に大学へ行かなかったという事は、キールくんは大学に通っていないのでしょう。

 キールくんを探す途中でミニゲームのようなイベントがあったものの、特に意味はないのでカットします。そうして見つけたキールくんと、ファラは話を始めました。するとファラは「メルディという名前」「セレスティアからやってきた」「大災害を防ぐために大晶霊を集めようとしている」という情報を伝ます。

 え? なんでファラがメルディの事情を知っているのか? それはメルディの言葉を、私が通訳したからに決まってるじゃないですか。とは言っても主人公組は、全てを知った訳ではありません。メルディが話していない事は当然、私も通訳していないからです。例えば「大災害を起こしている犯人は、メルディの母親だ」とか。もしも私が口を滑らせたら大変ですよ?

 

「ね! キールも一緒に行こ!」

「別に構わないが、いくら払ってくれるんだ?」

 

「またまた、キールったら!」

「僕は晶霊術士なんだ。僕を雇うと言うのなら、1日1万ガルド払ってくれ」

 

 ファラの笑顔が固まります。野菜が約50ガルド、武器防具が約500ガルドです。キールくんの言った10000ガルドを日本の物価で例えると、1日10万円に相当します。貴族ならば兎も角、市民の収入ではありません。まあ、よく考えると晶霊術士を長期間雇用する個人なんて、国や貴族くらいのものでしょう。

 

「キール、私たち幼なじみでしょ?」

「幼なじみでも関係ないさ。安売りは、その物の価値を自ら眩める行為だ」

 

「もう、分かったよ! それならいい! さよなら!」

 

 プンスカと怒ったファラはメルディを連れると、キールくんに背を向けて立ち去ります。それをキールくんは涼しい顔で見送りました。うわぁ、どうしてこうなったのでしょう? キールくんが金の亡者になっています。ネレイド神のせいで両親が死んでしまった影響に違いありません。タダで付いて行くと思ったの? バカなの? 死ぬの? という感じです。

 

「おい、キール。あんな言い方はねぇだろ」

「あんな、だって?」

 

「ファラを責めるような良い方しやがって」

「事実だ。他人にボランティアを強いるような人間は、信用に値しない」

 

「もっと刺々しくねぇ言い方が、他にもあっただろうが!」

「そうやってリッドが後始末をするから、あいつは自分の行為を反省しないんじゃないのか?」

 

 今にも殴り合いの喧嘩を始めそうな雰囲気です。なので2人を刺激しないように、私は静かに後退します。巻き込まれない内に逃げましょう。そうしましょう。そう思った私は、その場から立ち去ろうとしました。しかし、なぜかキールくんは私を呼び止めます。突っかかってくるリッドくんを追い払って、キールくんは私と2人きりになりました。え? この状況は、なんですか?

 

「貴方に雇われるのならガルドは払わなくていい。その代償は、貴方に貰ったクレーメルケイジの分で補填する」

「そうですか。それなら、リッドくん達に協力していただけると助かります」

 

「それでは貴方のためにならない。あいつらが金を払う訳じゃないんだ。僕は貴方のために働いて、クレーメルケイジの代償を補填する必要がある」

「私のためですか、そう言ってもらえると嬉しいです」

 

 はぁ、そうですか。なんでキールくんは私を「貴方」と呼ぶのでしょう。なんとなく貴方という呼び方に違和感を覚えます、とりあえず、「私のため」なんて気持ち悪い事を言わないでください。これ幸いとキールくん連れ回す事もできるけれど、付き纏われるのは嫌です。

 

「では、私の護衛をお願いします。期限は「私の通訳としての役割が終わるまで」です。私は「メルディの言葉を理解できる人が見つかるまで同行する」と約束していますから」

「あいつの言葉を理解できる人が見つかるまで? その条件じゃ、セレスティアへ行くまで連れ回される事になるんじゃないか?」

 

「そうかも知れません」

 

 大丈夫です。ここから洞窟を越えた先にある村に、そのためのアイテムがあります。王都やセレスティアまで同行する必要はありません。なんて事は言えないので、答えを曖昧にしました。するとキールくんは考え込みます。行くか如何か悩んでいるのでしょう。私としては、どっちでも良いのですよ。

 

「分かった。受けよう。今回を逃したら、クレーメルケイジの代償を補填する機会は無いだろうからな」

「そうですか。では、改めて確認します。キールくんに私の護衛を申し込みます。期限は「私の通訳としての役割が終わるまで」です。その代償は、キールくんに渡したクレーメルケイジの分で補填します」

 

「ああ、分かった。僕は晶霊術士として、貴方の護衛を行う。期限は「貴方の通訳としての役割が終わるまで」だ」

「はい、契約完了です。キールくん、よろしくおねがいします」

 

 私も主人公組から、通訳の代金を貰いたい所です。しかし、そんな事をすれば主人公組の、私に対するイメージが壊れます。仕方ありません。我慢しましょう。そうしてキールくんを入手した私は、主人公組の下へ行きます。「私の護衛としてキールくんを雇った」と説明しました。 

 「主人公組は大喜び!」なんて事にはなりません。リッドくんは何か言いたそうな顔をしています。「ファラの勧誘を断った相手」を連れてきた事に不満を抱いているのでしょうか。それとも勧誘を断った相手を「私が雇った」ことに不満を抱いているのでしょうか。主人公組の雰囲気が最悪です。私に、どうしろと言うのですか?

 

Re

 

 「山の観測所へキールくんを探しに行くイベント」はカットされたようです。そもそもキールくんは大学に通っていません。「大災害の原因と言える黒体を天体望遠鏡で覗く」という何気に重要なイベントも消失しました。次は大樹の村モルルです。モルルに行けば翻訳ピアスを入手できるので、私の通訳としての役割は終わります。その後に如何なっても、私の知った事ではありません。

 その前に洞窟がありました。学問の町ミンツと大樹の村モルルを繋ぐ海底洞窟です。満ち潮による浸水で足止めされたり、ずっと後でリッドくんの受ける試練に登場するエッグベアと戦ったりしたものの大した事はありません。私は主人公達の後ろを、息を切らせながら追いかけていただけです。

 そんな私に付き添っていたのはキールくんでした。仕事の内容は護衛なのだから、私を置いて先に行くなんて事は出来ないそうです。でも、気まずくて仕方ありません。私としては先を進むリッドくん達と一緒に、モンスターを排除して欲しいと思っています。ほら、こっちをリッドくんが不機嫌そうに見ているじゃないですか。

 

 大樹の村モルルに到着しました。ふと案内板を見ると「木陰の村」になっています。大樹ではなく木陰ですか。そうですか。これは見なかった事にしましょう。主人公組は商店に寄り、回復アイテムを買い揃えます。そして宿屋に泊まると、王都へ行くために密林を突破する事になりました。あれ?

 

「マゼット博士に会わないのですか?」

「マゼット博士?」

 

 しまった、ついつい口を出してしまったのです。私の言葉に対して、主人公組はハテナマークを浮かべています。翻訳ピアスを持っているマゼット博士を、どうやら誰も知らないようです。キールくんが大学に通っていないので、メルニクス語の権威であるマゼット博士を知らないのでしょう。

 これは困りました。博士から翻訳ピアスを貰わなければ、私の通訳としての役割は終わりません。このままではセレスティアまで連れ回される事になります。それは面倒です。なので、これで最後と思って主人公組に、マゼット博士というメルニクス語に詳しい人がいる事を教えました。

 

「あんたが居るんだから、わざわざ会いに行かなくても良いんじゃないか?」

「マゼット博士は晶霊と交信するための道具を持っていると聞いています」

 

「晶霊と交信できたって、メルディと会話できるようになる訳じゃねーだろ」

「晶霊の用いる言語はメルニクス語です。その道具を使えば私が居なくても、メルディの言葉が分かるようになるでしょう」

 

『メルディは、あなたがいいよ』

「貴方の言葉で他人に意思が伝わるのなら、それに超した事はありません。私の通訳に頼っていたら、いつまで経っても貴方自身の言葉で喋れませんよ?」

 

「魔女さんが居なくても、メルディの言葉が分かるようになったら、私達と別れちゃうの?」

「海底洞窟で分かったでしょう? 私の体力に合わせていると、貴方達の歩みを遅らせる事になります」

 

 いつも通りにリッドくんは面倒臭そうで、なぜかメルディは私の体に引っ付いています。暑苦しいので引っ付かないでください。メルディと同じようにファラも、一緒に来て欲しそうな顔をしています。でも、ダメです。だって面倒臭いじゃないですか。そろそろ私は、山に引きこもりたいのです。

 とりあえず村の人に話を聞きます。すると、すぐに博士の場所は分かりました。私とリッドくんとファラとメルディとキールくんの5人は、ゾロゾロと連なって移動します。そうして博士の家らしき建物の前まで来ると、私はリッドくんに先頭を譲りました。そしてリッドくんは、しかし扉を開けようとしません。どうしたのでしょう?

 

「博士に用事があるのは、あんだだろ? なんで俺を前に出すんだ?」

「私はマゼット博士の場所まで案内するだけです。そこから先の交渉は、通訳として私を誘った貴方達が行ってください」

 

「じゃあ、交渉なんてしなくていいだろ? これまで通り、あんたに通訳してもらえばいい」

「私は通訳のために、「メルディの言葉を理解できる人が居ない」から同行しているのです。その代わりを探そうと、してはくれないのですか?」

 

「魔女さんは、私達と一緒に居たくないの?」

「私の歳を考えてください」

 

 ちょっとイラッときました。早く家の中に入って、翻訳ピアスを手に入れてください。これ以上待たせると、フリーズランサーを打っ放しますよ? なんて思っていたけれど、行動で示さずに済むようです。扉の前でグダグダしているリッドくんに代わって、ファラが扉を開け放ちました。

 そして中に入って行きます。しかし、キールくんは外に残りました。私の護衛というスタンスだからでしょう。私の通訳としての役割が終われば、キールくんの護衛としての役割も完了します。そうなるとキールくんは主人公組と別れて、学問の町ミンツに帰るのでしょうか? 主人公組の戦力が欠ける事になります。

 そんな事を考えていると主人公組が出てきました。しかし、主人公組は翻訳ピアスを付けていません。博士から翻訳ピアスを貰ったのならば、私と同じ物を付けているはずです。あれ? ピアスを貰えなかったのですか? キールくんが大学に通っていないから、博士は力を貸してくれなかったのでしょうか?

 

「オージェのピアスって物があれば、会話できるかも知れないだとさ」

「そのオージェのピアスは貰えなかったのですか?」

 

「うん、20年くらい前に盗まれちゃったんだって。どこかにあれば良いんだけど」

「クレーメルケイジと同じで製造技術は失われてるから、手に入れるの難しいらしいぜ」

 

 

それは大変ですね。




▼『kic』さんの感想を受けて、「キールくんの求めた報酬が少なすぎた件」を修正しました。思い返してみると作者は、数字系でミスをする事が多々あるので助かります。きっと『kic』さんなら円表記じゃなくてガルド表記のままでも気付いていたに違いありません。
 「僕を雇うと言うのなら、1日1000ガルド払ってくれ」→「僕を雇うと言うのなら、1日1万ガルド払ってくれ」
 日本の物価で例えると、1日1万円に相当します→日本の物価で例えると、1日10万円に相当します

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