【完結】フリーズランサー無双   作:器物転生

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【あらすじ】
ネレイド神に圧勝していたものの、
強制敗北イベントが発生し、
闇の極光術で自爆されました。


本編の10年前 キールくんの闇堕ち

 避難する儂等と別れ、魔女は村へ向かった。その後、空に描かれた大きな魔法陣から、見た事もないほど巨大な氷が地面に落ちる。その衝撃は村から遠く離れた、儂等のいる場所にも伝わった。氷を用いるという事は魔女の晶霊術だろう。あれほどの力を持つ晶霊術士は、晶霊術士として最高位とされる宮廷晶霊術士にも居ないかも知れない。

 しかし、それで終わりではなかった。禍々しい剣が空に現れ、地面に落ちる。すると、さきほどの衝撃ですら比べ物にならないほどの轟音が鳴り響いた。その衝撃波は山の中まで届き、木々を圧し折る。体の奥まで届くような衝撃波によって、儂等は地面に叩き伏せられた。

 そうして、しばらく立ち上がる者はいなかった。巨大な氷による第1波と、禍々しい剣による第2波、それらに続く第3波の到来を恐れていた。想像を絶する破壊力は、もはや人々の争いという規模を超えている。例えるならば、あれは神だ。神々の争いに巻き込まれれば、人に過ぎない儂等に命はない。

 しかし第3波は来なかった。日が傾いて、夜が近づく。戦闘は終わったのだろうか? 魔女は勝ったのだろうか? それとも、モンスターに操られた息子が来るのだろうか? 不安で仕方なく、儂等は怯えていた。世界の終わりのような力を感じた結果、儂等の心は等しく折られていた。無力な儂等は祈る事しかできない。

 木々に遮られた山の中は暗い。火が必要だと気付いた儂は、重い腰を地面から上げた。今の内に準備をして置かなければ手遅れになる。儂は皆に声をかけ、木々を拾い集めて火を起こした。そうして薄暗くなった山に火が灯る。すると皆は焚き火に集まり、恐怖から逃れるために身を寄せ合った。ああ、儂等は、なんて無力なのだろう。

 そんな時、魔女が現れた。息子が帰った。いいや、魔女が息子を連れて戻ってきた。しかし、よく見ると息子の様子がおかしい。魔女に背負われた息子は、ひどい有様だった。全身に内出血の跡があり、肌は青く染まっている。内部から破裂した傷もあり、そこから血が抜けたせいか、息子の顔は気味が悪いほど白かった。

 

「モンスターに憑かれた村長さんは、無理な使い方をされて体を壊してしまったのです」

 

 儂は葉を食いしばる。魔女はヌケヌケと、そんな事を言った。傷だらけの息子に対して、魔女は傷一つない。衝撃で大地を揺らすほどの戦いを行いながら、魔女は無傷だった。傷だらけの息子と、傷一つない魔女。それを並べて見ていると怒りが湧いた。なぜ逆ではなかったのか。傷一つない息子と、傷だらけの魔女ではなかったのか?

 

「そうか。息子を連れ帰って来てくれた事に、礼を言う」

 

 しかし、私の怒りは不当なものだ。魔女は儂等を助けてくれた恩人だ。そう思って皆の様子を探ると、喜ぶ訳でもなく、怒る訳でもなく、悲しむ訳でもなく、皆は安心していた。災害が過ぎ去った後で一安心するかのように気を緩めていた。息子の死体で何もかも終わった事を知り、もはや戦いに巻き込まれる事はないと安心していた。

 息子の死など、皆にとっては如何でも事になっている。唯一の例外は息子の娘であるファラだ。ファラは息子の死体に泣き付いていた。父親である儂を差し置いて、息子を独占していた。そこは儂の場所なのだ。それなのに何故、この娘は我が物顔で陣取っているのか。

 

「子供達に村長さんから伝言があります」

 

 魔女の言葉に、儂は引き戻される。儂ではなく、子供達に伝言だと? なぜ子供達に伝言を残したのだろうか。魔女は子供達を呼び集める。大げさに泣き喚いていたファラは、「お父さんから遺言があります」という魔女の言葉によって息子から引き離された。村長だった息子の娘であるファラ、猟師だったビッツの息子であるリッド、ツァイベル夫妻の息子であるキールの3名だ。息子の残した言葉を聞きたかった儂も、その場に加わった。

 

「村長さんの最後の言葉は、『封印は破られていた。子供達のせいじゃない』です」

 

 封印と聞いて儂は、レグルスの丘を思い浮かべる。この「最果ての村ラシュアン」の村長が代々、管理してきた土地だ。当然、息子の前は儂も管理していた。あの立ち入り禁止となっている土地の地下には、得体の知れない物が封印されている。その封印が破られたという。

 魔女が詳しく事情を説明してくれた。レグルスの丘に忍び込んだ子供達は、息子に見つかって追い出される。その後、封印から抜け出た何かに、息子は体を乗っ取られたらしい。それは「子供達の責任ではない」と息子は言い残した。それを聞いて儂は思う。どう考えても子供達のせいではないか。子供達が行かなければ不意を突かれて、息子が乗っ取られる事はなかったに違いない!

 そう言って子供達を批難したかった。儂の孫とは言ってもファラは、毎日のようにトラブルを引き起こしていた問題児だ。ついに今回は人の命を奪う結果になってしまった。しかし、すぐ側に魔女がいる。わざわざ詳しく事情を説明する辺り、子供達を気にかけているのだろう。あの災害のごとき力をもつ魔女の前で、下手ことは言えなかった。

 

Re

 

 最果ての村ラシュアンの消滅から10年が経った。場所を移して再建された村は、以前のようにラシュアン染めを産出していると聞いている。村が盗賊に襲われた程度ならば兎も角、村一つをクレーターに変えた事件は国を揺るがした。宮廷晶霊術士すら動員される大騒ぎになったものの、いまだに事件の犯人は見つかっていない。

 そもそも犯人とは誰なのか? それはモンスターに乗っ取られたというファラの父親なのだろう。しかし、国の追い求める犯人は、ラシュアン村をクレーターに変えた存在だ。ファラの父親は死亡しているため情報を聞き出せない。なので現場にいた彼女が、ラシュアン村を消滅させた犯人という事になっていた。

 彼女は僕にクレーメルケイジを押し付けた人物だ。子供の頃は今一つ分かっていなかったものの、クレーメルケイジは価値が付けられないくらい貴重な物だった。このクレーメルケイジがあれば晶霊術を扱える。しかし、クレーメルケイジがなければ晶霊術は扱えない。

 晶霊術士にとって、クレーメルケイジは命に等しい。なぜ彼女はクレーメルケイジを、僕に押し付けたのだろう? 押し付けられた相手が、僕ではなくファラならば分かる。魔女はファラの父親と関わりがあるからだ。でも彼女は、何の関わりもなかった僕ことキール・ツァイベルを選んだ。

 

 分からない。分からないけれど僕は、力をくれた事に感謝している。結局、僕の両親は行方不明のままだ。両親の代わりに僕を守ってくれたのは、魔女に押し付けられたクレーメルケイジだった。このクレーメルケイジが無ければ、これまで生き抜くことは出来なかっただろう。

 僕は私的にクレーメルケイジを所有する、違法晶霊術士だ。晶霊術士として僕は、公的に登録していない。登録する資格もなかった。もしも登録したとしても、「資格なし」としてクレーメルケイジは没収される。でも子供の僕が生きるためには、この力を使うしかなかった。

 そうして気付けば僕は、犯罪組織の一員になっていた。貴重な晶霊術士として、犯罪の片棒を担がされている。だからと言って、重宝されている訳ではない。クレーメルケイジを奪おうとする者は当然のようにいた。だから僕は必死に力を磨き、晶霊術を身に付ける。

 そんな時に思い出すのは、過去に体験した彼女の力だ。高位の晶霊術士による災害級の力を思い返す度に、僕は自身の弱さを思い知る。そのクレーメルケイジを引き継いだのだから、僕も凡俗ではいられない。もっと強くならなければ、もっと強くなって、いつか全てを見返しやる。

 そうして、ふと思う。両親が生きていれば、僕は如何していたのだろう? この町にある大学へ通っていたのかも知れない。普通に生きて、普通に幸せだったのかも知れない。でも、今さらだ。今さらな事だ。僕の手の内にあるクレーメルケイジだけが、今ある僕の真実だった。

 

Re

 

 ネレイド神の神様パワーもとい極光術によって、ラシュアン村は消滅しました。まさかネレイド神が極光術を、素質のない村長さんで使うとは驚きです。しかし、むりやり晶霊を体内に取り込まれた村長さんの体は、パーンと破裂しました。そうしてネレイド神に使い捨てられた村長さんは、子供達に遺言を残します。

 大きなクレーターと化した村の跡地から、生き残りのいる山へ戻ります。もう動かない村長さんも一緒です。いくら10年前はトレジャーハンターだった私でも、大人を運ぶのは大変です。なので、あの場に放置するつもりでした。しかし、村長さんを置いたまま一人で戻れば、生き残りの方々に白い目で見られるでしょう。そういう訳で仕方なく、村長さんを運んでいます。

 太陽が地平線に沈みました。これから夜の時間です。山道に出現する攻撃的なモンスターを、フリーズランサーで串刺します。こんな山の中で、生き残りの皆さんは何処にいるのでしょう? その場所に心当たりはありました。英雄レグルスの像が立っている場所へ、私は向かいます。

 レグルス像の周りに火が見えました。焚き火をしているようです。生き残りと合流した私は、村長さんを地面に降ろしました。喜ぶ訳でもなく、怒る訳でもなく、悲しむ訳でもなく、村人の皆さんは呆然としています。とりあえず村長の父親に事情を説明しましょう。村長さんが死んだ責任を、私に被せられても困ります。

 私は村長さんの父親に、村長さんが自壊したと伝えました。実際、村長さんの死因は「極光術」の暴発による自滅です。村長さんに付いていた剛体効果のおかげで、私のフリーズランサーは傷を付けていません。なので「モンスターに憑かれた村長さんは、無理な使い方をされて体を壊してしまった」と説明します。私は無罪です。

 そう説明すると、村長さんの父親は顔を伏せました。息子である村長さんの死がショックだったのでしょう。でも、その感情を私に向けられても困ります。私は親切で、村長さんを止めに行ったのですよ? 行動だけではなく、命も止まりましたけど。私は頑張ったので、その怒りは他の人に向けてください。

 

「そうか。息子を連れ帰って来てくれた事に、礼を言う」

 

 それは良かった。わざわざ死体を運んだ甲斐がありました。これで私は村長さんを連れ帰った英雄です。「村長を見捨てたのではないか」と、村長さんの父親に言いがかりを付けられる事はないでしょう。村長さんの父親は次の村長になる予定なので、村人の皆さんに言いがかりを付けられても庇ってもらえます。私は当然の事をしたまでですよ。

 さて、次は遺言を伝えましょう。子供達は何処にいるのでしょうか? そう思って見回すと、村長さんの娘さんのファラは死体の前で泣き喚き、猟師の息子さんであるリッドくんは青い顔で立ち尽くしています。あと一人見えないと思ったら、離れた場所でキールくんがガタガタと震えていました。

 うわぁ。うわぁ。死体を見るのはショックが強かったようです。誰か気を配って、子供達を引き離してくれなかったのでしょうか。子供達の親は何処にいるのですか? そう思って村長さんに聞いてみると、ファラの親も、リッドくんの親も、キールくんの親も、みんな行方不明なのだそうです。それは死んでいるんじゃないですか?

 とりあえず、面倒くさい事は早目に終わらせましょう。私は不味い物から先に食べる主義なのです。村人達がお通夜モードな中、死体から離れた場所に子供達を呼び集めます。死体から離れなかったファラは、「お父さんから遺言がある」と言って引き離しました。息子の遺言を聞くために、村長さんの父親も同席しています。

 村長さんの遺言は「封印は破られていた。子供達のせいじゃない」です。それを聞いた子供達は安心していました。村長さんが死んだのは、自分達の責任かも知れないと不安に思っていたのでしょう。事情を知らない村長さんは遺言を聞いても、今一つ分かっていない様子でした。

 

 仕方ありません。説明してあげましょう。事前に必要な情報はラシュアン村、ラシュアン村から歩いて行ける場所にあるレグルスの丘、その地下に封印されたモンスターです。その封印が破れかけていたと、私は言いました。子供達が地下に侵入したタイミングで封印が破れたのは偶然だと伝えます。

 このインフェリアという大地ではなく、セレスティアという大地にいるラスボスさん。その思念に反応して封印は破られた、という可能性があるものの黙っておきましょう。そんな情報まで教えたとしても混乱を招くだけです。とにかく子供達のせいではないと分かってくれれば良いのです。

 

 山で一晩すごした村人の皆さんは、レグルス道場へ避難します。村の再建が終わるまで、レグルス道場の付近で過ごす事になるのでしょう。そこで一つ気になる事がありました。主人公組の一人である、キールくんの両親も行方不明になっています。行方不明という事は、高い確率で死んでいるのです。

 この事件でキールくんは引っ越し、その後ミンツ大学に入学する予定でした。しかし親の支援を受けなければ、大学に入学するなんて無理です。それが原因で、主人公組からキールくんが外れるかも知れません。主人公組の貴重な頭脳役が失われる恐れもあります。キールくんが居なくなると主人公組は、無気力・能天気・変人しか居ません。

 それは困ります? 私は困りません。なので放って置いても良いのです。でも、使わないクレーメルケイジがあった事を思い出しました。どうせ「いらない」ものなので、キールくんに差し上げましょう。そんな事を思い付いた私は、どこかの地面に突き刺したまま忘れていたクレーメルケイジを探し始めました。

 

<こちらです>

 

 私の体から出て、小人さんは歩き始めます。その後を付いて行くと、地面に突き刺さったクレーメルケイジを発見しました。助かりました、小人さん。すごいです。小人さんが頑張ったので、ナデナデしてあげました。小人さんは照れて、体をクネクネさせます。気持ち悪いです。

 クレーメルケイジの捜索を終えて、レグルス道場に戻ります。キールくんを呼んで、水晶のような外見のクレーメルケイジをプレゼントしました。でも、「行方不明な両親の事で呼び出された」と思っていたキールくんは落ち込みます。貴重なクレーメルケイジも、両親には勝てないようです。

 むー。せっかく渡したクレ−メルケイジの価値を、低く見てもらっては困ります。クレーメルケイジを個人で所有するインフェリア人なんて、世界に数人ですよ? 武力になりえるクレーメルケイジを、国が野放しにする訳がありません。クレーメルケイジは国の所有物なのです。

 そこら辺をキールくんは分かっていないようです。とりあえず、クレーメルケイジは晶霊の容器であり、晶霊の力を借りる事で晶霊術を使えるようになり、あと注意するべき点として、衛兵に露見するとクレーメルケイジを没収される恐れがある事を説明しました。するとキールくんはクレーメルケイジを返却しようと試みます。怖いんですか?

 大丈夫です、衛兵に見つからなければ罪ではありません。他人に認識されなければ罪ではないのです。「罪になること」なら兎も角、「罪になるかも知れないこと」を心配していたら幸せになれませんよ? そんな事を気にしていたら他人に利用されて、いらなくなったらポイッとされます。それは嫌でしょう?

 それでも危険は犯せませんか。ならば、これはお守りと考えてください。キールくんのお父さんとお母さんに会えるまで、このクレーメルケイジを預けます。両親に会えたら私に返してください。キールくんが両親に会えるまで、このお守りがキールくんを守るでしょう。両親に会えるまでの間で良いので、預かってもらえませんか?

 そう言うとキールくんは、クレーメルケイジを受け取りました。よしよし、いい子です。私の言う事を聞く子は好きですよ。あれだけ言って聞いてくれなかったら見捨てますけど。まあ、そこまで反抗的な人ならば、我が道を行った方が幸せでしょう。それで死んだとしても、私の知った事ではありません。

 その後キールくんは、学問の町ミンツへ引っ越しました。両親は見つからず、血の繋がりがある者に引き取られたようです。残る主人公組のリッドくんとファラは、村の再建を手伝っています。一方の私は事件の調査に訪れる人々から身を隠すために、山奥へ引きこもる事にしました。

 

 

それにしても、他人にプレゼントを渡すなんて、

ひさしぶりに良い事をした気がします。

 

<いいことですか?>

 

いいことですよ、小人さん。




▼クレーメルケイジは国の所有物
 今さらですけど捏造設定です。オブラートに包んで言うと、オリジナル設定です。

▼『ぜんとりっくす』さんの感想を受けて、「クレーメルケイジあれば晶霊術を扱える→クレーメルケイジがあれば晶霊術を扱える」に気付いたので修正しました。ところで、この人、書き込み時期から察するに最低3回読み直して、複数話に渡って誤字を発見してるんだぜ、信じられるか?
 このクレーメルケイジあれば晶霊術を扱える→このクレーメルケイジがあれば晶霊術を扱える

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