地上の風と白き魔女と   作:長靴伯爵

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恐るべき進行速度の遅さ(笑)


里帰りってこんな辛かったっけ?

「・・・ナギ?」

 

 これはナウシカの台詞。目を丸くしてるし、状況が理解出来ていないみたいだな。

 

「ナギじゃと?5年前に谷を出ていった?」

 

 これはナウシカの後ろにいる城ジイ達の台詞。こっちは何かいぶかしんでいる感じ。まぁ、これが普通の反応だよな。むしろおかしいのは・・・。

 

「ふむ、ナギ。剣の腕が随分と上がったようだな」

 

 と、言って穏やかな目でこっちを見てくるユパ様の方だ。やっぱさっきナウシカの剣を防いだ時に気付いたかな・・・。

 

「ユパ様もお変わりなく」

「年は取ったがまだまだ若い者には負けんよ」

 

 ユパ様は口にたくわえた髭を揺らして愉快そうに笑った。俺も思わず頬を緩めてしまうと、他の人達も警戒を解いてザワザワし始めた。ただ、一人を除いて・・・。

 

「ナギ・・・?本当にナギなの・・・?」

 

 いまだ呆けたような表情で呟くナウシカ。どうやら、色々ありすぎて混乱極まったみたいだな。ま、しょうがないか。俺は小さく溜息を吐くと、右手の手甲を取りながらゆっくりと大股で彼女の前に向かった。そして、おもむろにデコピンを一発。

 

パチンッ!

 

 思いの外、いい音がなったな。

 

「痛い!?」

 

 ナウシカは額を押さえて短く悲鳴をあげた。俺はニヤニヤしながら彼女の話しかける。

 

「いつまでも呆けてるなよ。久しぶりだな、ナウシカ」

「ナギ・・・、本当にナギだ・・・」

「ああ、5年振りだな」

「本当に・・・久しぶりね」

 

 こうやって話していると、昔のことを思い出す。俺の親父は行商人でほとんど谷に帰ってこなかった。その間は、親父に商品納入の依頼を多くしていた谷の城に預けられ、城ジイ達の世話になっていた。そんな中で、谷のお姫さまであるナウシカと出会って、年が近いこともあってかすぐに仲良くなり、沢山遊んでまわった。メーヴェで飛んだり、トリウマを乗り回したり、二人で勝手に腐海に行ったりした。・・・バレたときは大目玉だったけど。

 城ジイ達は二人をゆくゆくは・・・みたいなことを考えてたみたいだけど俺は13歳を境に、丁度親父が旅先の事故で死んでしまった時だが、谷を出た。トルメキアの装甲騎兵になるためにな。俺はこの自分の選択に後悔はしていない。

 だから・・・ナウシカの表情が喜びに彩られた直後、一転して険しいものになっても、俺は平然は顔をして受け止めた。

 

「あなたがいながら・・・なんでこんなことを!?」

「こんなこと?とはいったい?」

「あんなに胞子を付着させた状態で谷に進入してきて!!汚染されてしまうわ!!」

 

 そのぐらい百も承知だ。俺も谷に住んでいたからこれが谷の死活問題に直結するかもしれないということも十分に理解している。だけど、いや、だからこそ俺は周りから突き刺さる視線を物ともせずに言った。

 

「これは殿下のご意向だ。今の俺はトルメキア王国第三王女、クシャナ殿下の親衛隊隊長。殿下の意志は俺の意志でもある。・・・恨んでもらってもかまわない」

 

 ナウシカは黙って俺を睨む。その目には怒りと戸惑いとが入り混じっている。俺はその視線を平然と、少なくとも表面上はそのように見えるように、受け止めた。

 どのくらい経ったか、背後のコルベットからパシュッと発煙弾が撃ち上げられた。どうやら時間切れみたいだな・・・。

 

「時間だな・・・。それじゃあな、ナウシカ」

「・・・」

 

 返事はない。俺は肩をすくめて背を向けた。その途中でユパ様には目線で挨拶しておく。少し歩いた時、後ろからナウシカの小さな声が・・・。

 

「だけど・・・、ナギが元気でよかったわ」

 

 これは幼なじみとしての言葉かな?まぁ・・・その言葉はうれしいけどさ。俺は振り返らずに手を振ってコルベットへ歩いた。俺が後部から乗り込むとコルベットはすぐに発進した。

 

 

 

 

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

 

・・・・・・死ぬかと思ったぁあ!!!

 

 俺は「蟲使い」達が居るのにも関わらず、壁に手を突いてゼイゼイと荒い呼吸を繰り返した。蟲使いから漂いくる悪臭が半端ないが、そんなことを気にしている余裕もない。鎧の下は冷や汗でビショビショだ。

 ったく、ナウシカの奴、あんな目で睨んできやがって・・・。ずっと剣を突きつけられているかと思った・・・。

 

「あの・・・大丈夫ですか」

 

 ずいぶんと長いこと息を荒げていたからか、蟲使いの一人が声をかけてきた。うん、心配してくれるのは素直にありがたいけど、さすがに臭いがキツイ。できれば、近寄ってくるのは遠慮してもらいたい。

 

「気にしなくていい。・・・気遣いは感謝する」

「は、はい!」

 

 ま、今更だが、ちゃんと親衛隊隊長として振る舞うことにしよう。額に滲んだ汗を甲冑に挟んでいたハンカチで拭い、コルベットの前方部分のコックピットへと向かった。中に入った瞬間に感じる重苦しい空気。

 

「戻ったか」

「・・・はい」

 

 殿下の言葉に頭を下げつつ、俺はコックピットの中央に安置されたこの空気の原因を見下ろした。台座に横たえられた部下何某の遺体。

 やはり助けられなかったか。俺に反抗していたとはいえ部下は部下だ。部下を死なせるのには堪えるものがある。俺は静かに何某へ瞑目した。

 

「あれがナウシカか?」

「はい」

 

 殿下の声を聞いて、俺は目を開いた。

 

「おそらく、次の戦では彼女が戦列に加わるでしょう」

「なら、存分に使わせてもらおう」

 

 そういう殿下の表情はどこか不機嫌だった。俺は頭を下げると殿下の斜め後ろに控える。

 

「一度ペジテに戻るぞ。進路を北へ」

 

 コルベットがゆっくりと旋回した時、窓からチラリと風の谷が見えた。・・・できればもっと穏やかに帰りたかったな。

 

 

 

 三日後、トルメキア王国は土鬼へ宣戦布告。戦争状況へ突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 





所々修正入るかもです

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