地上の風と白き魔女と   作:長靴伯爵

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まさかこんなに早く投稿できるとは思いませんでしたw

楽しんでってください!


隊長職には胃薬が不可欠

 

 

 

 

 

うわぁ・・・。

 

 ナウシカ、相当キレてるよ。強い怒りをヒシヒシと感じる。あいつが怒ると手を着けられないんだけど・・・。

 だとしても、こっちも退く訳にはいかないんだよなぁ・・・。

 そんな風に心の中で鬱々としていたら、殿下が言った。

 

「われらは偉大なるヴ王の命によりペジテの謀反人を追ってきた。蟲使いはコマンドとしてわが軍に編入された兵である。この谷の捜索を認めよ!!」

 

 あれ?俺たちが探していたのって謀反人だったっけ?まぁ、いいや・・・

 

「ことわる!!この谷に謀反人など居らぬ!即刻立ち去れ!!」

 

 一言で断られたよ。俺があいつの立場だったらそうするんだろうけれどもさ・・・。つか、後ろで蟲使いが勝手に動き始めてるんだけど?

 

「動くな!ナウシカとやら!どうやら蟲使い共が目的の物を見つけたようだ」

 

 俺の背後の殿下がどうやら指示を出していたらしい。

蟲達がズリズリと地面を這ってナウシカへと進む。なんかあいつの肩にいる小さな動物・・・キツネリスって言ったっけ?・・・がギャーギャー騒いでいるけど、気持ちは分からんでもない。いやだって気持ち悪いし・・・。

 ついに蟲がナウシカの足元へと辿り着き、あろう事か足からヌメリヌメリと登り始めた。ナウシカは剣を地面に突き立てた姿勢のままピクリとも動かない。俺だったら発狂しているかも・・・。が。蟲達が腰部分まで登りつめた時、事態が急変した。蟲やキツネリス、そして被っていた飛行頭巾がいきなりあいつの体から弾け飛ばされたのだ。

 皆、いきなりのことに驚いているが、俺は飛行頭巾が取れて顕になったナウシカの顔から目を離せなかった。6,7年前の面影が残っているが、成長した幼馴染。栗色の肩までかかる髪は綺麗な艶を放ち、今でこそ怒りで燃えている瞳は透き通るな光を持っていた。一言で言うと、めちゃくちゃ綺麗になっていた。クシャナ殿下がいなければ惚れてたわ、多分。今悠長にこんなことを考えている暇はないけどな!

 強かった怒りが殊更に強くなり、肌にビリビリと感じる。まるで暴風を受け止めているみたいだ。

 ナウシカは突き立てていた剣を抜き取るとこっちにその切先を向けた。

 

「トルメキアの男どもめ。よくも我が身を忌わしき蟲ではずかしめてくれたな。許さん・・・!」

 

 やばい、これは本当にやばいやつだ。ここは慎重に・・・。

 

「面白い!受けてたとうぞ、小娘!!」

 

 って、おおい!?!?誰だ!?俺が慎重にいこうと思った矢先に!?

 後ろを振り返れば、部下の一人がマントを翻して前に進み出ていた。あいつは・・・確か貴族出の奴だな。親衛隊は皆残念に思えるくらい殿下大好きな奴らだが、一枚岩という訳ではない。俺みたいな庶民しかも辺境国出身の奴が隊長している現状に納得していない奴らも確実にいる。こいつはそんな奴らの内の一人だ。名前は確か・・・まぁ、今はいいや。

俺は舌打ちした。殿下には申し訳ないが、皆ナウシカのことを過小評価しているな。このままじゃ・・・。

 って、風の谷の方が慌しくなってきたな。トリウマに乗った誰かを先頭に胞子除去用の火炎放射器を携えた一団がやって来た。うわ、よく見ればトリウマに乗っている人はユパ様だよ・・・。また、一波乱ありそうな・・・。

 

「双方、剣を引けぇ!!」

 

 ユパ様が呼びかけるがナウシカの耳にはまったく入ってないようだ。ちらりと殿下を見ると、こちらも引く気はないらしい。

俺は心の中で溜息を吐くと、何が起こってもいいようにと静かに腰の剣に手を添えた。その瞬間、ナウシカが動いた。剣を両手で支えて突き出しながら走り出す。それに対し、部下の・・・あ~・・・何某は十分に引きつけてから右手の戦斧で剣ごとナウシカを叩き折るつもりのようだ。事実、何某はナウシカが自分の間合いに入った瞬間、戦斧を振りかぶり力一杯振り下ろした。ナウシカは地面に剣を突き立てて戦斧を防ごうとする。恐らく何某は面頬の下でほくそ笑んだことだろう。しかし、ここで予想外の事が二つ起こった。

一つは戦斧を叩きつけたナウシカの剣が折れなかったこと。もう一つは、ナウシカが剣を地面に突き立てた時の反動を利用して高く飛び上がったことだ。さすがにこれには皆仰天した。とっさに左手の爪付きの盾で突き刺そうとしたのは、何某を褒めていいかもしれない。だが、ナウシカはその盾をも踏み台にすると更に高く飛び、まるで猛禽類のように何某の上に飛び乗った。そしてナウシカの右手にはいつの間にか短刀が・・・。

あぁ、こりゃ終わったな・・・。

 ガツンッ!!という鈍い音が響く。ナウシカが兜と甲冑の隙間に短刀を突き立てたんだ。風の谷の一団がワッと沸き、こちら側は息を呑む。殿下も驚いているようだ。だから言わんこっちゃない。さて、ここらが潮時かな。ナウシカが暴れる何某から飛び降りると地面に突き刺してあった剣を取った。とどめを刺すつもりだな。

 

「・・・殿下」

「許そう」

 

 以心伝心だ。涙がでるほど嬉しいね。

 俺は動いた。風の谷の方もユパ様が動いたようだけど、俺の方が先に着きそうだ。部下の前に躍り出てナウシカの剣の前に立ち塞がる。面頬を通してみる驚愕の表情のナウシカ。うわぁ、近くで見たらマジで綺麗じゃん。ま、すぐに剣が迫ってきてますけどね!

 腰を回転させる要領で剣を抜き、そのまま振り上げる。つまりは居合だ。ガインッと鈍い音と共にナウシカの剣を何とか弾き上げた。するとナウシカはあっさりと剣を手放し、一足飛びに後ろに下がった。困惑した表情で俺を見てくる。周りも一気に静かになった。

 

「こちらの数々の非礼謹んでお詫びする。どうか剣を引いて欲しい」

 

 俺が剣を鞘に戻しながら言った。いきなり出てきて何言ってんの、あいつ?とか思われてないよね?

 

「ナウシカ、彼の言う通りだ。ここは剣を引け。さもなければ、トルメキアと戦争になる。ペジテのように滅ぼされるぞ」

 

 少し遅れて俺とナウシカの間に入ったユパ様がいい感じで取り成してくれた。これでナウシカが少しでも怒りを収めてくれたら・・・。

 

ドサッ!!!

 

 ん?だれか倒れたのか?

チラリと目を向けると何某が膝を付いていた。しかも兜の隙間から尋常じゃない量の血が出ている。大方予想はしていたが・・・。殿下の傍に控えていた部下数名が慌てて何某を支えコルベットに運び込む。

 

「見事な剣技だった、ナウシカとやら」

 

 突如、殿下が前に進み出て面頬をあげた。顔を見せたということは・・・どうやらここで手打ちにするらしいな。顔を見せたことで皇女クシュナだということが分かると風の谷の人達が一斉にざわめいた。

 殿下はナウシカの前に立つと強引な谷への侵入を謝罪し、彼女の剣技を褒めた。俺は殿下の後ろで待機して、周りに目を光らせていた。誰が何するか分からないし?殿下の会話が滞りなく・・・最後の方でナウシカの剣を叩き折っていたけど・・・終わり、マントを翻してコルベットに足を向けた。俺も着いていこうとすると、殿下はチラリと俺に向いた。

 

「10分だ。それまでに戻って来い」

「・・・はっ」

 

 殿下、この空気の中で俺に何をしろと?しかし、殿下のご厚意を無下にはできないし・・・。足を止めて後ろを振り返る。風の谷の人々がナウシカを囲んで彼女の健闘を喜んでいるようだ。

・・・。

ここで俺を行かせるとかおかしくね?殿下は一体何時からSに目覚めたのか・・・。そういった気配は無きにしも非ずだったけど・・・。いやでも、俺はそれでも受け入れるけどね!

 

「そこの騎士、まだ何か用があるのかね?」

 

 頭の中で現実逃避していたら、俺に気付いたユパ様が話しかけてきた。何か分かっているよ的な目をしているけど、さっきの剣筋で俺のことを気付いたのかもしれない。もしそうだとしたら素直に尊敬するね。

 ユパ様の言葉に反応して他の人達も俺を見てきた。もちろんナウシカもだ。

 

「いえ、大したことではないのですが・・・」

 

 そう言いながら、兜をゆっくりと脱いだ。顕になった顔に懐かしい風を浴びながら、俺は驚愕の表情を浮かべている人達へ、ユパ様へ、そしてナウシカへ言った。

 

「6、7年振りかな。ナギです。え~・・・ただいま?」

 

 胃に穴が開きそうだ・・・。

 




 
 余談ですが、ナウシカの剣は王蟲の皮で出来ていて、トルメキア組みの剣はセラミック製です
 かち合うと普通にセラミックの方が折れます

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