IS 深海の探索者   作:雨夜 亜由

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第六話 発覚

 纏うは白。

 その藍白のボディは、例えるならば 誰も足を踏み入れたことの無い雪原のようだ。

 そこに足跡を残すかのような蒼と黒のラインが、より白を際立たせる。

 胸に「Delfin」と刻まれた機体。

 沙良は第三世代試作機、シークエスト【ドルフィン】のテストを行っていた。

 今は、そのドルフィンの代名詞とも言える、装備を展開しようとしている。

 

『出力を下げてください。搭乗者への、危険段階まで迫っています』

 

「ちっ」

 

 急に、沙良が纏う白い装甲が、その輝きを失ってしまう。

 具現維持限界だ。

 

『リミット・ダウンです』

 

「またか」

 

 どうにも特殊武装の開発が上手くいかない。

 苛立ちを隠せぬまま、唇を尖らせる。

 

『一度、ピットに戻ってください』

 

「りょーかい」

 

 指示通り、沙良はピットに戻り、ハンガーにドルフィンを戻す。

 待機していた整備班が、ケーブルをドルフィンに接続し、測定班がデータを読み取る。

 

「問題はイメージインターフェイスかな」

 

 先程の、テストを思い出し、頭を掻く。

 ドルフィンのイメージインターフェイスには、もう一つの第三世代試作機、シークエスト【オルカ】のイメージインターフェイスの技術を応用したのだが、如何せんエネルギー効率が悪すぎる。やはり、同じシークエストだからといって、同じ技術は通用しないのか。

 

「やっぱ相性とかもあるのかな」

 

 オルカは沙良専用機の特殊型として設計されている。

 それに対して、ドルフィンは防御・機動力に重点を置いた量販機を目指した作りとなっている。

 専用機でなおかつ特殊な兵装を持つオルカのインターフェイスを、ドルフィンが受け入れられなかったのだろうか。

 

「設計しなおそうか」

 

 沙良はまだ十五歳だ。日本なら高校への受験やらで忙しいが、ここはエスパーニャ。飛び級をしている沙良は既に高等教育二年生だ。同時に通っている大学では今年卒業予定で、既に単位は取り終わっており卒業研究も既に論文として発表してある。

 大学院に来ないかと、数多くの誘いを受けたものだ。

 これから研究に集中できると考えると、開発にもう少し時間を掛けても良いだろう。

 

 それに、ドルフィンは沙良と相性が悪い。

 しかし、テスターが沙良しかいないため、効率よくデータを集めることが出来ないのだ。ソフィアが居たころは、全てをソフィアに押し付けていれば済んだ話なのだが、当の本人は日本で高校生をしているため、そうはいかない。

 

――いつでも問題は人手不足か……

 

『そのまま、オルカのテストに入る。整備はドルフィンを回収、沙良はそのままオルカを付け直して』

 

「了解」

 

 沙良はドルフィンをしゃがませ、コックピットから飛び降りる。

 整備員がピットからドルフィンを運び出したのを確認し、沙良は別の機体に近寄る。

 

 ドルフィンとは対になるような、黒。

 それに、白と蒼のラインが刻まれている。

 胸には、同じく『Orca』の文字。

 沙良の専用機となる予定の機体。

 SeaQuestシリーズ特殊統率型第三世代試作機【オルカ】である。

 沙良はコックピットに背中を預ける。途端に装甲が閉じる。身体と装甲が混ざり合うような一体感に、つい口角が持ち上がる。

 沙良の専用機として開発されているだけあって、そのシンクロ率は凡庸機の比ではない。

 全感覚が鋭敏化し、世界が鮮やかに感じられる。

 

「オルカ、テストを開始します」

 

『オルカのテストを始めます』

 

 沙良は、ピットから躍り出ると、そのまま指示を待つ。

 

『今回は機能向上させたハイパーセンサーのデータを取得します。今からランダムで出現する的全部を撃ち抜いてください』

 

「りょーかい」

 

『始め』

 

 ハイパーセンサーにより、感覚が鋭敏となる。

 自分の周りの世界が、自らの手に収まったような錯覚すら得る。

 それは五感を最大限に引き出し、ハイパーセンサー自体が新しい感覚として機能する。

 沙良は、アサルトライフルを呼び出し、的が出現するのを待つ。

 その時間はほんの一瞬だった。的が現れたとほぼ同時に、撃ち抜かれていく。

 

「悪くない」

 

 すぐさま銃口を背部に向ける。そちらを見ることなく引き金を引く。

 この空間を支配したような感覚に、気分が高揚する。

 連続で出現するターゲットを一切のミスもなく打ち落としていく。

 それはリズムすら感じさせるほど優雅だった。

 

「まずまず、といった所かな」

 

 的を撃ち抜く沙良の姿はまるで踊っているかのようだった。

 

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 ピットに戻ると、待ち構えていた整備班に機体を任せ、沙良はコックピットから飛び降りた。

 タイミングを見計らったようにタオルを差し出した整備員に感謝の意を伝え、適当な機材に腰を掛ける。

 

「お疲れ」

 

「やぁザイダ」

 

 タンクトップにホットパンツというラフな格好をした女性が、腰に整備道具を掛けて立っていた。

 

「機体、どうだった?」

 

「機体の反応速度、良い感じだったよ。むしろ、合いすぎて気持ち悪いぐらいに」

 

「お褒めに預かり光栄」

 

「欲を出せばもう少し鋭敏にしてもいいよ。緩すぎても張り合いがない。もっと緊張感を持って動きたいから」

 

「そこら辺は調節時に付き合って頂戴」

 

 ぽいっとペットボトルを投げられる。

 片手で受け取ると、中の液体が静かに揺れる。

 渡されたのはミネラルウォ―ター。軽く口に含むと残りを頭から被る。

 

「あぁ、気持ちいい」

 

 タオルでわしゃわしゃと頭を拭く。

 

「先にシャワー浴びてきたら、どう?」

 

「いいよ、どうせこの後オイル塗れになるんだから」

 

「そう」

 

 ザイダは 沙良に整備用のポーチバッグを投げ渡す。

 それは沙良が良く使用する工具がセットされている。

 

「準備がいいね」

 

「それ、私の番号で借りてるから、そのまま返さないでね。返す時は私に返して」

 

 開発室では器材の紛失などを防ぐため、器材を持ち出す際に社員番号を登録して持ち出している。

 

「了解。終わったその場で返すよ」

 

 ISスーツの上から、作業用のつなぎを着る。その腰の連結部分にポーチをぶら下げる。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 既にオルカは運び出されており、後は沙良と、整備班の主任であるザイダが整備室に行けば、整備が開始される。

 

「今夜は長くなりそうね」

 

「本当にね。コーヒーが手放せないよ」

 

「あら、ミルクとシュガーを忘れてるわよ?」

 

「ああ、大丈夫。僕はザイダと違ってスウィートに飢えていないからね」

 

「ビターに慣れ過ぎると、甘いものが欲しくなるものよ?」

 

「別に恋人募集中は良いけど、愚痴られる身にもなってほしいよ。まだ十五歳なんだからね」

 

「善処するわ」

 

 運搬用のコンベアに乗りながら他愛もない会話を繰り広げる二人の夜は、まだまだ長くなりそうだ。

  

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 どうしよう。

 

 カルラの心情はこの一言に尽きた。

 今まで、様々なことがあったけど、持ち前の判断力で、何とか乗り越えてきた。

 しかし、この予想もしてなかったニュースにカルラは胃が痛む思いをしていた。

 

 『世界で唯一ISを動かせる男子、織斑一夏』

 

 ついに現れてしまったのだ、世界で二人目の男性操縦者が。

 世界で唯一といわれているが、一部の人間は知っている。

 もう一人、男性操縦者がいる事を。

 サラ・ルイス・フカミ。日本名、深水沙良。

 スペインと日本のクォーター。

 その四分の一が日本人の血のため、彼は日本国籍と、スペイン国籍の両方を持っている。

 

 シークエストを発表した際に、欧州連合の上層部には、沙良の存在は伝わっている。それが、世界に伝わってないのは、公表することによって世界の力関係が崩れることを危惧したため。

 そして、沙良を実験体とし、日本やアメリカに少しでもリードするため。しかし、スペインは必死に沙良を守った。そのせいで国力が下がろうとも、沙良を実験体から救い出した(・・・・・)

 沙良はギリギリの境界で守られていたのだ。

 

 しかし現れてしまった。その境界を崩す人間が。

 

 拙い。これは拙いことになった。

 カルラは必死に考える。

 今では、沙良はスペインにとっていなくてはならない存在。

 このニュースのせいで、沙良の存在を世界に隠し通すのが困難になってしまった。

 隠し通せて、二ヶ月だろう。

 隠し通せないなら、むしろこちらから公表してしまったほうが都合がいい。

 それに、沙良がISを操縦できると公表するのは、今が最もいい時期。

 一般的ネームバリューから、興味がもう一人のほうに偏るであろうから、今、彼が注目を浴びて、関心を集めている横で、その影に隠れることが出来る。

 

 彼は、かの有名なブリュンヒルデの弟。世間は、業界では有名だが一般的には名もない沙良より、織斑一夏に話題を集めるだろう。

 そして、織斑一夏は沙良の幼馴染でもある。

 カルラも面識がある。素直で根の良い優しい子だ。沙良のことを兄弟のように大切に想ってくれている。

 おそらくは、一緒に行動することとなり、面倒を見てくれるだろう。

 しかし、ここで沙良のことを公表してしまうと、沙良のISの研究をスムーズに行なうことは難しくなる。世界の目の中、研究を行なうのは効率が悪すぎる。確実に、情報の提示が求められるだろう。

 わざわざ実戦配備をせずに研究を続けてきた意味がなくなってしまう。

 まだ、第三世代機が完成に至っていないこの時期に、それは大きな痛手となる。

 

 それに、ブリュンヒルデの弟と違い、世界では開発者としてしか名のない沙良は、世界から実験体としてその身を引き渡せと言われる可能性もある。欧州連合も、沙良の身を守るとは考えにくい。味方に付く国など我がエスパーニャだけではないだろうか。

 

 キリキリと痛む胃を抑えて、ひたすら悩み続けるカルラ。そこに予想もしていなかったところから助けの手が差し伸べられる。

 

 PPPP……

 

「はい、こちら秘書課代表、カルラ・ファリーノス」

 

『あ、カルラさん、ご無沙汰してます、ソフィアです』

 

 それは日本のIS学園にいる、ソフィアだった。

 

「あら、お久しぶりね、どうかしたの?」

 

『いえ、今、ニュースを見てセラのことが気になったので』

 

「そう、貴女も分かってると思うけど、どうしようもないわ。あの子の身の危険がかかっているのに、おいそれと発表するわけには……」

 

『カルラさん、私に良い考えがあるんですけど』

 

「何かしら」

 

『セラをIS学園に入れちゃえばいいじゃないですか』

 

「どういうこと?」

 

『IS学園特記事項です。本学園に所属する生徒はありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。またこれらからの干渉を受けることもない。つまりは、学園に居れば三年間はセラの身柄は保障されるってわけです。その間に何かしらの方法を考えればいいのではないかと』

 

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「というわけで、セラはIS学園に入学することになったの」

 

「……」

 

 沙良はポカンと口をあけて、言われた事を頭で反芻する。

 珍しく本社に呼び出されてみれば衝撃の告白が待っていた。

 

――IS学園に? 僕が? それよりもなんで一夏がISを動かしてるの?

 

 いろいろ考えて頭が爆発しそうだ。

 しかし、状況は目まぐるしく動いているらしい。

 

「サラ・ルイスの存在を世界で最初の男性操縦者として世界に発表することが決定したわ。今まで隠れていたが、第二の男性操縦者の搭乗で、表舞台に姿を表す。そういうシナリオ。政府にも社長が対応する予定よ」

 

「い、いや、日本に行けるのは嬉しいんだけど」

 

「だけど?」

 

「オルカもドルフィンもまだ開発段階だし、そんなの政府が簡単にOKを出すとは思えないんだけど。だから、僕が抜けるわけには……」

 

 カルラはモニターのスイッチを入れる。

 

『――とのことで、スペイン政府は、サラ・ルイスを男性操縦者と公表、織斑一夏と共にIS学園に入学を認めると決定した。サラ・ルイスには、スペイン代表候補生として、SQ社から第二世代機シークエストのカスタム機が専用機として渡される』

 

 国内ニュースがありえないことを言った。

 

「ごめん、間違えたわ。決まったんじゃなくて、もう手は回しちゃったの」

 

「え、え、え?」

 

「あの、孫バカの社長を舐めちゃダメよ? 貴方のためなら手段は問わないんだから」

 

「ええぇぇぇぇぇぇ!?」

 

――聞いてないよ!? てかそんな大事なこと、本人に相談せずに決めちゃダメでしょ!!

 

「言ったら、絶対に行かないって言うでしょ?」

 

――そりゃそうだけど……

 

「てか、心の声を読まないでよ」

 

「というわけで、セラ。貴方に拒否権はないの。むしろ、女として送り込もうとしなかっただけ感謝して欲しいわ」

 

 そんな話まで出てたのか。

 いや、でも、

 

「オルカと、ドルフィンはどうするの?」

 

 今まで研究してきたものが、ここで足踏みを食らってしまうのは、沙良としても、本意ではない。

 

「もちろん、研究は続けるわ。ドルフィンは流石に無理だけど、オルカなら持ち出しても構わないって言われているから、IS学園で実働データを取ってきたらいいじゃない。向こうにはいろんな国のISが集まっているのだから、いいデータが取れるでしょう。それにね、元々、セラの専用機として開発がされてきたんだから遠慮なんかする必要ないわ」

 

 持ち出してもいいのならば話は変わってくる。

 向こうでデータを取り、何かあればパーツを送ってもらう。それで何とかなるかもしれない。

 むしろ、堂々と他の最先端のISのデータと比較できるのは、美味しい状況ではないだろうか。

 IS学園には整備科なるものもあるらしく、整備施設も整っているのだろう。

 

――ん、いや、ちょっと待って。

 

「でも、さっき、僕にシークエストのカスタム機が専用機として送られるって言ってなかった?」

 

「ええ、そうよ」

 

「それなのにオルカも専用機として持っていくの?」

 

「だって、まだ完成してないんでしょ?」

 

 確かに完成はしていないが、IS学園に通う生徒は、大多数が専用機を持ってはいない。

 

――別にIS学園にも訓練機ぐらいはあるだろうし、オルカが完成するまでは、別に専用機なくてもいいと思うけどな。

 

「今、別に専用機なんてなくてもいいと思ったわね?」

 

「う、何でばれたんだろう」

 

「わかってる? セラは世界で二人だけの男性操縦者。おそらくは、いろんな国から狙われることになる。そんな所に、専用機も持たないで放り出すなんて出来ないわ。ただでさえ守られる立場なの分かってるの? 貴方は、弱いの」

 

「オルカだってあるよ?」

 

「それは武力としての強さ。立場としての強さと考えると、エスパーニャから出た時点で皆無よ?」

 

「うぅそんなに言わなくてもいいのに」

 

「それに、セラはエスパーニャ国籍と日本国籍の二つを持っているわよね。のこのこと、専用機も持たずに日本に行って見なさい。オルカが完成するまで、日本政府に専用機を押し付けられて、日本に取り組まれてしまうわ」

 

「でも、僕はEspanolだよ?」

 

「私たちは、分かってるわ。でも、他国がそう思うとは限らない。ただでさえ、貴方には少しだけど日本の血が流れているの。シークエストカスタムは、ただの専用機として渡しているのではないの。セラに余計な虫が寄ってこないように、付け込まれる隙を無くすために渡してるの。わかった?」

 

「でも、ISを二台も持つなんて、前代未聞だよ?」

 

「でも、やってはいけないなんて、誰も決めてはいないわ。ただ、出来なかっただけ。でもエスパーニャは違う。元々、兎さんがセラに渡したコアを政府が借りていただけ。所有物が帰ってきただけなんだから」

 

――そうやって、おじいちゃんたちは政府を脅したんだろうなぁ。

 

 真剣なカルラに、沙良はしぶしぶ頷くしかなかった。

 しかし、日本に、その血を引いた沙良が帰ると言うことは、国民はどう思うのだろうか。

 向こうにも国籍を持っている。言ってしまえば向こうも故郷だ。年に二回は帰っているほどに。

 すると、カルラは優しく微笑んで、頭を撫でてくれる。

 

「大丈夫よ。ここはエスパーニャ。日本に帰ってしまうからといって英雄を見捨てるような国じゃないわ」

 

 沙良はこくりと頷く。

 

「入学は一夏君に合わせると言ってあるわ。それまで、あまり時間はないわ。準備しないといけないことはたくさんあるんじゃない?」

 

「うん、そうだね。僕が日本に行くことを考えたら、引継ぎの作業も行なわないといけないし」

 

「ほら、ならもう働かなくちゃね。これから忙しくなるわよ?」

 

「うん!」

 

 話が決まれば、しなければならないことも多い。

 それは沙良もカルラも同じことだ。

 これ以上仕事の邪魔をするのも悪いだろう。

 いつも仕事をサボっているイメージのある彼女だが、その裏では相当重要な役割を果たしているのは周知の事実だ。

 沙良は自らの研究室へと急ぎ戻ったのである。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

「今年のIS学園にエスパーニャから入学する生徒は?」

 

 カルラは苛立ちげに机に肘を立てる。

 

「四人ですね。そのうち沙良様と面識のあるのは一人です」

 

「……海軍所属スペイン代表候補生リナ・フェルナンデス・コロン……なるほどあの子ね」

 

 確か、同じ代表候補生のソフィアを慕っており、そのソフィアを通して沙良とも交流がある。

 その成績は代表候補生の中でも上位に食い込んでおり、沙良が直々にカスタマイズしたシークエスト・カスタムⅡを専用機として与えられているはずだ。進学理由もソフィアの存在が大きかった気がする。

 彼女なら、まず間違いなく沙良の力になる。

 

「他の三人は?」

 

「空軍から一人、陸軍から一人、他企業から一人です」

 

 海軍とは、関わりが強いSQ社だが、その他とはあまり関わりを持ってはいない。

 出来ることならばもう一人、沙良のサポートに入れる人間が欲しい。

 

「沙良の存在を最大限に利用して、うちの会社から一人ねじ込みなさい」

 

「もう既にIS学園の入学試験は終了していますし、途中転入にしても時期が間に合いません」

 

「そんなこと、IS委員会を脅すなり何なりすればいいでしょう。うちから護衛を付けるって言えばなんとでもなるわ」

 

「そんな無茶苦茶な……」

 

「いい? 私はやれって言ったのよ? それに対する返事は『 Si 』しか求めてないわ」

 

「……s,Si. De acuerdo. (はい。わかりました)」

 

「分かればいいのよ。我が社から送り込めそうな人間をピックアップして」

 

「はい、少しお待ちください」

 

「十秒で出しなさい」

 

「出ました、年齢十五歳から十七歳の女性、IS適正あり、沙良様と面識がある人間は三人です」

 

「……随分と少ないわね。それにどいつも使えない……うちの人間は?」

 

 カルラが言ううちの人間とは、カルラの所属している秘書課のことである。

 

「秘書課から動かすおつもりですか?」

 

「貴女、秘書課の目的を忘れたの?」

 

「い、いえ、申し訳ありません」

 

 カルラの冷たい双眸が女性を射抜く。

 

「それで?」

 

「それならば一人、最適と思われる人物が」

 

「見せなさい」

 

「こちらです」

 

「なるほど……この子が居たわね。秘書課にして、第一海研所属」

 

「沙良様と年齢も同じですので護衛としては最善かと」

 

「沙良への忠誠は死をも覚悟できるほど……ねぇ。最高の人材じゃない」

 

「では決定で?」

 

「ええ、迅速に動きなさい。状況は既に始まっているのよ」

 

「De acuerdo.」

 

「報告は要らないわ。失敗は死と同意だと思いなさい」

 

「De acuerdo.」

 

 部下が出て行くのを確認し、カルラは大きく息をつく。

 最近は頭が痛くなる案件ばかりだ。

 しかし、それも沙良のためと思うと手を抜くことは出来ない。

 

「次、入りなさい」

 

 カルラは次の案件を聞くために、また部下を呼ぶのだった。


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