IS 深海の探索者   作:雨夜 亜由

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第四十六話 とある車内で

 シャルロットは浮かれていた。

 それはもうこれ以上はないと言わんばかりに浮かれていた。

 

 向かう先は海。

 そう臨海学校である。

 

 シャルロットの中では、この臨海学校はライバルたちに差を付ける絶好のチャンスなのだ。

 一番の強敵であるソフィアは学年が違うため参加できず、簪は家庭の事情とやらで欠席。リナとフィオナはクラスが違うため積極的なアプローチが取れないだろう。

 神様がくれたチャンス。

 必ず手に掴んでみせる。

 そう思っていた。

 バスに乗り込む前までは。

 

「それで、水着の感想は最低でも十人に聞いてね。後でレポートを提出してもらうから、ちゃんとした意見を聞いてよね」

 

 シャルロットと沙良は後ろ側の席を確保している。

 一夏はシャルロット達より少し前に箒と座り、通路を挟んだ隣にラウラが座っている。セシリアはそのラウラの横である。

 沙良がシャルロットに「横に座っていい?」と小首を傾げ尋ねてきた時には内心ガッツポーズが飛び出たのだが、横に座っていざ何かを話そうとすると、沙良は手持ちのカバンからあるものを取り出したのだ。

 

「動いてもズレないか、運動を阻害しないか、生地の差による長時間装着の快適度、色による印象変化の集計とか、やることはいっぱいあるんだからテキパキ行動してね」

 

 そう、仕事用のタブレット端末である。

 淡い期待を寄せていたシャルロットは、バスに乗り込んでから仕事の話しか聞いていない。

 

「水着のモニターと同時平行で新作日焼け止めのテストもやってもらうから水着に着替え終わったら一回集合かけるね」

 

 横に座れたのはとても喜ばしいことなのに、何故かそこまで喜ぶことができない。

 本当は、もっと高校生らしい会話をして、海に期待を膨らませて、溢れる気持ちを押さえ込んでいるはずだったのに。

 

「……聞いてる?」

 

 前を向くと楽しそうに会話をしている一夏が目に入る。

 その空気に、少しの羨ましさを感じてしまう。

 

「シャル!」

 

「……えっ!? あ、あぁ」

 

 急に名前を呼ばれてびくりとする。

 その不機嫌そうな声を上げた想い人の顔を恐る恐る見ると、怒ってはいないが明らかに、私、不機嫌ですと言わんばかりの表情をしていた。

 

「僕の話、聞いてたの?」

 

「う、うん。聞いて、た……よ?」

 

 吃るシャルロットに、沙良は無言で圧力をかける。

 沙良のジト目が胸に刺さる。

 

「……」

 

「うぅ……」

 

「……」

 

「その目で見ないでよ……」

 

「…………」

 

「ごめんなさい、聞いてませんでした」

 

「ウソつくシャルは嫌い」

 

「だって……」

 

「言い訳するシャルも嫌い」

 

 沙良はプイっと顔を背けてしまう。

 しかし、これは本気で怒っているわけではない。

 沙良が本気で怒る場合は、まず口を利いてくれない。リアクションを取ってくれない。目を合わせてくれない。話しても敬語になる。

 この四点が特徴である。

 簡単に言うと、ガン無視され、応えてくれても、物凄い他人行儀になるのだ。

 今は不機嫌ではあるが、少しお茶目に応えてくれているのでそこまで怒ってはいないと判断できる。

 

「ご、ごめん……」

 

 それでも、やはり少しは怒らしているのでシャルロットもしゅんと小さくなってしまう。

 そうすると、沙良も少し罪悪感に駆られたのか、チラチラとシャルロットの様子を窺ってくる。

 いかにも「言いすぎたかな?」と気にする子供のようだ。

 シャルロットは俯いているためよく見えないが、その表情も徐々に焦りが混じっていく。

 

「そ、そこまで怒ってないよ?」

 

 そして沙良が先に折れた。

 シャルロットは内心ホッとする。

 

「本当?」

 

 その弱弱しい返事に、沙良は何度も頷く。

 シャルロットの表情に自然と色が戻る。

 それを確認した沙良は、ふぅと息を吐くと、タブレット端末を手に取る。

 そして綺麗な笑顔を浮かべた。

 

「じゃあ、仕事の話に戻ろうか」

 

 シャルロットは無表情で固まるのだった。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

「海だぁ!! 海っ! 見えたぁっ!」

 

 トンネルを抜け、潮風が海の接近を嗅覚に伝えてくると同時に、誰かが大きな声で叫んだ。

 その声を合図に、皆が思い思いに窓の外へと注意を向ける。

 その海という一つの特殊な環境に、女子のテンションが高まっていく。

 それは、男子とて同じことだ。

 一夏は太陽の強烈な日差しを反射する海を確認すると、窓を思いっきり開け、その空気を胸いっぱいに吸う。

 その際に箒の前を乗り出すこととなり、箒の顔が赤く染まるが、一夏は海に夢中で箒の変化に気付くことはなかった。

 

「おー。やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」

 

「そ、そうだなっ」

 

 赤い顔を誤魔化すため、下を向きながら返事を返す箒。

 その姿に、一夏は気分が悪くなったのではと考える。

 その原因はなんだろうか。

 さっきまでは普通に会話できていた。

 こうなったのは先ほど窓を開けてからだ。

 ならば、潮風で気持ちが悪くなったのだろう。

 

「悪い、開けない方が良かったか?」

 

「な、そ、そういうことではない」

 

「無理すんなって」

 

 一夏は身を乗り出そうとした箒を背もたれに押し付けると、窓を閉める。

 その際に、再び箒の前を乗り出す形になり、箒は紅潮を見られぬよう再び俯いてしまう。

 

「箒、下を向いてると余計に気分が悪くなるぞ?」

 

「……そういうわけではないのだが」

 

 箒の呟きは一夏の耳には言葉としては届いていなかったが、気分が悪いであろう人物に問い返すのはあまりよくないと判断し、聞き返すことはしなかった。

 その代わりに一つの行動を取った。

 

「ほら、肩貸してやるよ」

 

 箒の頭を、自らの肩にのせたのだ。

 

「――――っ!!!!」

 

 箒はその紅潮を、まるで血液が全て顔に集まっているのではないかと錯覚するぐらいに深くした。

 

 そんなことは露にも思わない一夏は、真っ赤になった箒の顔を見て、やはり具合が悪かったのだと一人納得した。

 箒は、何も考えられなくなった頭を一夏に預け、思考を放棄したようだ。

 

「嫁、私も気分が悪くなったかもしれん」

 

 それを見ていたラウラが一夏に何かを期待するような目で、不調を訴えてくる。

 

「すまん、セシリア。ラウラを見てあげてくれないか。俺は箒で手がいっぱいだ」

 

 それを、一夏はセシリアに任せることにした。

 唇を尖らせたラウラは、セシリアに慰められながらも一夏の不満を垂れ流すのだった。

 その際に一夏は、後ろの席で仕事の話をしていたはずの沙良たちが静かになっていることに気付く。

 

「沙良? 海見えてるか?」

 

 声をかけてみるが、返事は返ってこない。

 後ろを振り返ろうにも、箒が肩に頭を載せているため、身動きが取れない。

 不思議に思ったセシリアが後ろを振り向くと、その光景に微笑を漏らした。

 

「どうしたんだ?」

 

 それを一夏が疑問に思った。

 

「こういうことだよ~」

 

 いつから話を聞いていたのか、本音がデジカメを一夏に差し出す。

 そこに写っているものを見て、一夏はセシリアが微笑を漏らしたことに納得する。

 一夏も自然と微笑が浮かぶのを感じているからだ。

 そこに写っていたのは、お互いに寄り添う形で眠っている二人の姿だった。

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

 千冬の言葉に席を離れていた生徒は自分の席へと戻っていく。

 そうは言っても長いことバスに揺られていたため、寝てる生徒も多く。席に座るという行動よりも、寝ているものを起こすという作業をしている者の方が多かった。

 千冬の言葉通りに、ほどなくしてバスは目的地である旅館前に到着する。

 

 生徒が順番に降りていくが、程よい揺れとバスという特殊な空間によるヒュプノスの誘いに瞼を閉じていた生徒は、みな危なげにバスの手すりに摑まっている。

 順に到着していくバスからも同じ光景が見て取れる。

 

「それでは、ここが今日からお世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

 千冬の言葉に生徒の多くが頭を下げ、挨拶の言葉を投げかける。

 その姿に着物姿の女性が、丁寧なお辞儀を返した。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

 その容姿は若々しく、年齢を見た目から推測するのは難しい。しかし、しっかりと大人の雰囲気を漂わせている。

 

「あら、こちらが噂の……?」

 

 その視線が二人の少年へと向けられる。

 

 片方は背が小さく、眠たそうに目を擦り、もう片方はそこそこの背丈で、横の背が低い少年――沙良に付き添って笑みを浮かべている。

 その背が大きい方の男子は、自らに視線が向けられていることに気付くと、目礼だけを返し、沙良の手を引いて千冬へと歩み寄る。

 

「ええ、まあ。今年は男子がいるせいで湯場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな。それに、いい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

 

 その言葉に、照れくさそうな顔をしながら、少年は頭を下げる。

 

「織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」

 

 そういって女将は丁寧なお辞儀を行なう。その気品溢れる動きに、僅かな緊張を覚えた一夏は、その視線が沙良へと動くのを感じ、沙良の脇を小突いて合図を送る。

 

「……Mucho gusto. Soy Sera Hukami.(……はじめまして、深水沙良です)」

 

 未だ眠たそうにしている沙良の自己紹介は、寝ぼけていたのであろう、スペイン語で行なわれた。

 

「すいません、寝ぼけてるみたいで……。こいつは深水沙良です」

 

 女将のポカンとした顔と、千冬の振り上げようとした拳にいち早く反応した一夏は、沙良の自己紹介を勝手に済ませることにした。

 

「不出来な弟でご迷惑をおかけします」

 

「いえいえ、ご立派ですよ。織斑先生ったら、弟さんには随分と厳しいのですね」

 

「立派なのはこういう時だけなので」

 

 大人たちの話はもういいやと、一夏は元の集団に戻る。

 

「ふぁ~」

 

 今頃、意識が覚醒したのだろう。

 一夏は、隣で伸びを行い大きく欠伸をする幼馴染に小さく蹴りを入れる。

 

「む、なにすんのさ」

 

 沙良の言葉に反応する前に、千冬が大きな声で『注目』と言葉をかける。

 その後、女将が一歩前に出た。

 

「それじゃあみなさん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所がわからなければいつでも従業員に聞いてくださいまし」

 

 女子一同は軽く返事をし、すぐさま旅館に向かっていく。

 その波に逆らって、二人の女子が沙良へと近づいた。

 

 スペインの代表候補生の二人だ。

 

 その場にシャルロットも混ざったことから、恐らくは沙良の仕事関係だろう。

 シャルロットもバスの中で説明を受けていたし、これから集まって何かするのだろう。

 一夏は既に沙良から水着を渡されているので、沙良に付き合う必要はない。

 

「先行ってるぜ」

 

「あ、ごめん。また海でね」

 

 沙良に一声かけると、沙良はこちらに振り向き、手を合わせる。

 初日は完全に自由時間となっているため、沙良は完全に仕事で潰す気だろう。

 沙良の後ろで、女子が三人で慰めあっている。

 一夏は素直に同情の念を抱いた。

 

「ね、ね、ねー。おりむ~」

 

 その特殊な呼び名に、一夏は振り向く。

 その声の主はもう予想できている。

 案の定、そこにいたのは袖をだらんとさせている本音だった。

 

「おりむーって部屋どこ~? 一覧に書いてなかったー。遊びに行くから教えて~」

 

 その遊びに来るのを防ぐために書いてないのではないのだろうか、とは口に出せる空気ではない。

 

「いや、俺も知らない。廊下にでも寝るんじゃねえの?」

 

「わー、それはいいね~。私もそうしようかなー。あー、床つめたーいって~」

 

 実際には女子とは別に場所を用意しているらしい。

 一夏としても真耶が言っていたのを聞いただけなので、明確には何も聞かされていない。

 

「織斑、お前の部屋はこっちだ。ついてこい」

 

 流石に千冬を待たせるわけにはいかない。

 一夏は本音に目礼だけ送ると、千冬の後を追う。

 

「えーっと、織斑先生。俺の部屋ってどこになるんでしょうか?」

 

「黙ってついてこい」

 

 不機嫌そうに歩く千冬に、すごすごと引き下がるしかない一夏。

 仕方なく旅館の中を観察し、気を紛らわす。

 その歴史を感じさせつつも最新の設備を取り入れる、訪れるものを満足させるためことを追求した旅館のつくりに、ただ凄いと胸を振るわせる。

 

「ここだ」

 

 急に千冬が立ち止ったため、一夏は視線を壁から、部屋に向ける。

 

「え?ここって……」

 

 一夏は言いよどむ。

 無理もない。そこには教員室と書かれていたのだから。

 

「最初は男子の二人部屋という話だったのだが、それだと絶対に就寝時間を無視した女子が押しかけるだろうということになってだな」

 

 千冬は、何かを隠すかのように語る。

 

「結果、私と同室になったわけだ。これなら女子もおいそれとは近づかないだろう」

 

「そりゃまあ、そうだろうけど……」

 

 一夏の部屋に遊びに来たいと多くの女子は思っているだろうが、そこに千冬がいるとなれば話は別だ。

 鴨が葱と鍋を背負って、鬼の寝床に突貫するようなものだ。

 

「一応言っておくが、あくまで私は教師だということを忘れるな」

 

「はい、織斑先生」

 

「それでいい」

 

 千冬が顎で扉を示す。

 そのことから、入室の許可が下りたということが読み取れる。

 一夏はその教員室と書かれた扉を開いた。

 

「おおー、すげー」

 

 中に入るとまず目に付くのは、一面窓から覗く青色に煌めく海。

 その風景は、日々、女子に囲まれる生活で疲れている一夏の心にすっと沁みこんでいく。

 部屋が東向きということもあり、きっと日の出も美しく見えるのだろう。

 風景に気を取られていると、千冬が苦笑を浮かべながら横に並んだ。

 

「一応、大浴場も使えるが男のお前は時間交代だ。一部の時間だけ使用可ということを頭に入れて置け。早朝、深夜に入りたければ、そこの部屋のを使え」

 

 指差された部屋を覗くと、ゆったりとした浴槽が鎮座していた。

 かなり大きな浴室だ。

 

「わかりました」

 

 一夏は少し遅れて返事をする。

 

「さて、今日は一日自由行動だ」

 

「織斑先生、沙良の部屋は?」

 

 話を終わらせようとする千冬に、一夏は思っていたことを尋ねる。

 

「明らかに、この部屋二人部屋ですよね?」

 

「…………」

 

 千冬は言いづらそうに言葉に詰まる。

 その表情は、一夏も見覚えがある。

 寮の部屋の時と一緒だ。

 

「まさかこの部屋で三人で寝るって分けじゃないですよね?」

 

 一夏は更に問い詰める。

 

「……深水は別の部屋だ」

 

 その発言に、一夏は眉を顰める。

 

「へー、山田先生とですか?」

 

 一夏は顔を繕わずに、千冬に質問を重ねる。

 

「…………個室だ」

 

「なら、俺と沙良が同じ部屋で良いじゃないですか」

 

 千冬は諦めたように、ため息をつく。

 その表情は、色々な感情が複雑に混ざり合って読み解くことができない。

 

「一夏、わかってるなら聞くな」

 

「千冬姉!」

 

 一夏と呼ばれる。それは教師と生徒との話じゃなく、姉が弟に言い聞かせるということ。

 

「日本政府は、本格的にお前と沙良を一緒にさせたくないようだ」

 

 一夏はその表情に怒りを見せる。

 

「第一、お前と沙良が同じ部屋になれたのも、デュノアの騒動で部屋割りがどうしようも出来なかったからだというのを忘れるな。この臨海学校の間に部屋割りが動き、お前と沙良はまた個室に戻るだろう」

 

 無意識に拳を強く握る。

 必死に体を鍛えても、強さを求めても、権力の前には何の役にも立たない。

 それでも、剣を振る事しか出来ない一夏は、そのやる瀬のない怒りを拳に溜めることしか出来ない。

 その一夏の姿に千冬は悲しい表情を作る。

 

「日本政府は、スペインに所属している沙良とお前が行動を共にすることで、お前がスペインに取りこまれることを強く恐れている」

 

「巫山戯るな! 俺と沙良は家族だ! 千冬姉だってそうだろ!? なんで他所からちょっかい出されて黙ってるんだよ!!」

 

「私だって手は尽くしている!」

 

 その千冬の剣幕に、一夏はハッと冷静に戻る。

 そうだ。家族というものを人一倍大事にする自らの姉が、動いていないわけがない。

 世界最強という冠をとったとしても、今ではただの教師に過ぎない。出来る最大限をやってくれているのは弟である一夏が一番わかっている。

 

「……ごめん。千冬姉に言うことじゃなかった」

 

「いや、私も怒鳴ってすまなかった」

 

 お互いの間に、気まずい空気が流れる。

 その空気を打ち消そうと、千冬が声を張り上げる。

 

「さぁ、今日は一日自由時間だ。遊んでこい」

 

「千冬姉は?」

 

「織斑先生だ」

 

 それはもう家族としての話は終わりということ。

 軽く拳骨が落とされた一夏は、それが話しの切り替えだということに気付いた。

 

「私は他の先生との連絡なり確認なり色々とある。しかしまあ――」

 

 千冬は取り繕うように一度咳払いをする。

 

「軽く泳ぐくらいはするとしよう。どこかの弟がわざわざ選んでくれたものだしな」 

 

「そうですか」

 

 一夏はそっけなく答えるが、千冬の心遣いに少し嬉しさを感じる。

 

「さて織斑、私はこれから職員会議だ。どこへでも遊びに行ってこい」

 

「はい。それじゃあ早速海にでも」

 

「羽目を外しすぎないようにな」

 

 一夏は千冬の声にもう一度返事を返すと、予め分けておいたリュックサックを手に部屋を出た。

 

「……あいつも聡くなったものだ」

 

 千冬の呟きは一夏には届くことはなかった。


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