一日目。
◆ ◇ ◆
一夏は疾走。
その機体は真っ直ぐに、対戦相手のラファールに突進する。
試合開始のベルと同時に一夏は雪片弐型を展開していた。
一夏の機体は燃費がとにかく悪い。
長期戦になる前に倒さなければならない。
一日目、第一試合。
トーナメントの最初の試合に於けるもっとも有効な手段は開始と同時の奇襲だろう。
一夏の突進に虚を突かれた対戦相手は、その回避行動を遅らせてしまう。
その一瞬の遅れで一夏は充分だった。
剣は振らない。振るうのは拳だ。
――瞬時加速。
その強力な加速力を、全て拳に乗せる。それを懐に潜り込んだタイミングで放った。
ただの拳。だが、それは相手の装甲が砕くほどのエネルギーを持つ。
振り切った拳。そこで、攻撃をやめる筈がない。
拳により、ノックバックが発生している敵機に、身体を回し裏拳を打ち噛ます。その際に、最初に殴った拳で雪片を展開。身体の円回転につられる様にして剣を振るった。
零落白夜。
それは一撃必殺の煌き。
それを刃が当たる一瞬だけ発動させる。
斬る。
それはラファールの腹部装甲を砕き、シールドエネルギーを一瞬で一桁まで削り取る。
「浅いか」
一夏は、振り切った雪片弐型を手放し、その慣性を利用して後ろ回し蹴りを叩き込む。
「きゃあぁぁ!」
その蹴りは、最初に砕いた装甲部を寸分違わぬ正確さで打ち抜いていた。それが示すことはシールドエネルギーの枯渇。
「シャルル!!」
一夏はすぐさまペアの名前を呼ぶ。
「もうすぐ!」
シャルロットは、アサルトライフルで打鉄のシールドを削る。
近づこうとも距離を詰めれず、離れようとも距離を離せず。
打鉄に焦りの表情が見えた。
一夏はそれを好機と捉え、瞬時加速により、急速に接近する
それに気を取られたのか、打鉄に乗る対戦相手は、シャルロットから注意を逸らしてしまった。
それを、シャルロットは見逃さない。
「余所見してていいのかな?」
六一口径アサルトカノンを機体に押し付ける。
対戦相手の顔色が変わるのがわかった。
ゼロ距離射撃。
それは、残り少なくなっていた打金のシールドエネルギーを削りきった。
『試合終了。勝者――デュノア・織斑ペア』
◆ ◇ ◆
沙良は動かない。
それは動く必要がないから。
沙良はアリーナの壁にもたれて、腕を組んでいた。
アリーナの中央では簪がラファール二機を相手に悠々と薙刀を振るっていた。
「上手いもんだなぁ」
的確な位置取り、防御回避の判断、選択の迷いのなさ、何よりその技術の高さ。
沙良が端っこでサボっていても何も問題がない。
沙良には時々流れ弾が飛んでくるぐらいだ。
むしろ、「沙良はゆっくり休んでいて」とまで言われている。
なぜかやる気満々な簪に沙良は首を傾げるが、休んでていいなら休むに越したことはない。
元々、エキシビションしか出る気がなかった沙良は悠々自適に鼻歌を歌うのだった。
すると、一機が痺れを切らしたのか、簪がもう一機を墜とした隙に、沙良に強襲を仕掛けようとする。
沙良は、それを見ても、動こうともしない。
あろうことか、欠伸まで出る始末。
「馬鹿にしてるの!?」
その怒りを顕にした女生徒はその機体を吹き飛ばされることになる。
その射線上を見るとそこには『鳴神』を構えた簪の姿があった。
「シカトするなんて……良い度胸」
簪は、雷の如し砲撃を浴びせる。
そこに残ったのは、力なく膝を突いたラファールだけだった。
『試合終了。勝者――深水・更識ペア』
◆ ◇ ◆
一クラス約三十人
単純計算で一学年、百二十人。
ペアで考えると、六十組。
試合数で言うとシードを作り、三十四試合。
四つあるアリーナを使用しても、一つのアリーナにつき八試合。
そのうち一試合ずつがシードとなっているため、一試合二十分と計算すると、百四十分。
つまり、おおよそ、二時間である。
それが、一学年での一回戦にかかる時間。
それを三学年が行うのだ。
それは合計して六時間。
二、三年は整備科が試合を行わず、全員が試合に出ているわけではないため、時間は幾分か短縮される。
しかし、それでも食事休憩、機体整備、アリーナ修復などを挟むことを考えると、第一試合だけで一日が終わってしまう。
一年が第一試合を全て終えた時点で、二年生の第一試合が始まった。
アリーナごとにブロックが分かれているため、沙良たちはそのままBブロックの試合を見ることにする。
二年の試合は、見るまでもなかった。
優勝するペアは元々決まっていたようなものだ。
ソフィア・楯無ペア。
既にペアが決まっていたため、エキシビションを行った相手で急遽ペアを組むことになったため、学年で最強と名高い二人が組むことになってしまった。
対戦相手は、既に戦意を失っているようだ。
開始三十秒で勝負を決めるという最短記録を叩き出し、その試合は幕を閉じた。
◆ ◇ ◆
二日目。
◆ ◇ ◆
Bグループ第二試合。
開始直後に簪が『百千颪』をフル展開した。
発射。
その八機八門から放たれる六十四発ものミサイルが、敵機を襲う。
それは、圧倒的圧力を持って場を制圧する。
「わぁ……」
沙良は自分が作っておきながら、その威力に引いていた。
下手に介入するとフレンドリー・ファイアの危険性もある。
流石にあのミサイルの中を悠々と闊歩するほど神経は図太くないつもりだ。
煙が晴れると同時に、試合終了のブザーがなる。
『試合終了。勝者――深水・更識ペア』
沙良は特にすることもなく二回戦を勝ち抜いた。
◆ ◇ ◆
Aグループ二回戦。
一夏は瞬時加速を以って本音に斬りかかる。
「うわぁ、おりむー、手加減してよー」
「残念だけど、勝負に手は抜けない性質でね」
一夏は、打鉄のブレードを、雪片弐型で受ける。
そしてすぐさま斬り返す。
振り切る流れで横蹴りを放ち、蹴り足をそのまま相手の前足の横に下ろし、そのまま腰を入れる。
それは雪片弐型を腰で構えた状態での体当たりの形となる。
「わわわ、ちょっと待ってよ」
本音は、その体当たりの衝撃に、体制を崩す。
「もらった!!」
一夏はそのがら空きとなった腹部に雪片弐型を叩き込んだ。
「うわぁ!」
本音はアリーナの壁に激突する。
一夏はすぐさまシャルロットの方に注意を向ける。
そこには、癒子が必死にシャルロットの銃弾を避けていた。
「うひー!」
「ちょこまかと!」
シャルロットはブレードを展開し、癒子に斬りかかる。
ラファールを纏った癒子は同じくブレードを展開する。
「シャルル、スイッチ!」
すぐさま一夏は、入れ替わるように雪片弐型で癒子に薙ぎ払いを行う。
それは、癒子を背後に飛ばせる動きを作らせる。
そこにアサルトライフルを持ったシャルロットが銃弾を打ち込む。
「うはー!」
癒子はブレードを収納し、アサルトライフルに持ち替える。
ISを操縦しだして日の浅い癒子はその切り替えに時間がかかる。
その隙を一夏が狙う。
斬り上げの動きでは、ライフルで防がれてしまう恐れがある。
故に取った行動は雪片弐型による突き。
一夏は勝負が決まったと思った。
しかし、現実はそう甘くなかった。
癒子が急に目の前から消えたのだ。
「甘いよ織斑君!!」
癒子はいつの間に背後に回ったのか、一夏にアサルトライフルによる射撃を浴びせる。
そのシールドエネルギーは数多くの瞬時加速の使用により、潤沢にあるとは言いがたい。
その残りを削り取ろうと、癒子は弾幕を増やす。
「一夏!!」
シャルロットは一夏を助けようと、ブレードで癒子に斬りかかる。
一夏は見た。
その癒子の機動を。
癒子はブレードにライフルを添え、そのまま体を捻り、片足のスラスターだけを噴かすことにより、残した片足での回転運動を行う。
その急な旋回行動に目の前から消えたように錯覚するのだろう。
「伊達に、これだけ練習してきたわけじゃないよ!」
癒子は旋回の勢いを利用してシャルロットの背を蹴り飛ばす。
そして、アサルトライフルをシャルロットに向ける。
癒子は引き金を絞る。
「くっ!」
シャルロットはすぐさま距離を取ろうとする。
「いらっしゃ~い」
そこには、装甲の欠けた本音が待ち構えていた。
「しまった!?」
本音はブレードを腰の捻りを最大限に利用して叩き込む。
「――っ!?」
シャルロットはシールドで防ぐが、その衝撃は殺し切れない。
衝撃により、本音と距離が開く。
「色物だと思ってたけど、やるね!!」
シャルロットは吹っ飛びながらもライフルを展開する。
そして、体勢を整える前にライフルを、ぶっ放す。
それは、的確に本音の装甲が欠けている箇所に当たり、絶対防御を作動させる。
あと一撃で、本音のシールドエネルギーはゼロになる。
「一夏!」
一夏は、その声が発せられる前に既に行動を起こしていた。
すぐさまその接近し、その身を薙ぎ払う。
本音のシールドエネルギーがゼロになる。
「あと一人!」
一夏が、癒子に振り返り際に薙ぎ払いを行う。
背後から近寄ろうとしていた癒子は、そのライフルを弾かれてしまう。
「やばっ!」
癒子は一夏から、距離を取る。
「ようこそ」
そこにはシャルロットが居た。
「うはー」
癒子は咄嗟にブレードを展開する。
しかし、その背中に衝撃が走った。
『試合終了。勝者――デュノア・織斑ペア』
そこには、雪片弐型を投擲した一夏が、残心を取っていた。
◆ ◇ ◆
Bグループ三回戦。
沙良は、簪をアリーナの端で待機させると、すぐさまアリーナに機雷をばら撒いた。
「DIVE!!」
そしてあろうことか、その爆心地に向かって突っ込んで行った。
対戦相手は、下手に動くことも出来ずに、ただ戸惑うことしか出来ない。
開始三十秒足らず。
機雷が爆発する。
爆発音が鳴り響き、衝撃がアリーナを揺さぶった。
煙が晴れる間もなく再び爆音が響く。
二日目は二回戦、三回戦だけを行なうため、機体の損傷レベルを気にすることなく爆発を起こす。
土煙がアリーナを満たす中、高らかにブザーが鳴り響いた。
『試合終了。勝者――深水・更識ペア』
簪は、何もすることなく三回戦を勝ち上がった。
◆ ◇ ◆
Aグループ第三試合。
一夏は開始直後からシャルロットと共に一機を先に落とすことに専念する。
相手は、イタリアの代表候補生だ。
一夏はその相手に見覚えがあった。
それは沙良がクラス対抗戦で戦った相手。
二組の副代表だ。
「はあっ!!」
一夏は連撃を放つ。
斬り上げ、斬り下ろし、横斬り、薙ぎ払い、回し蹴り、後ろ回し蹴り、足払い、斬り上げ、横蹴り、突き。
その気迫の篭った連撃に気を取られたラファールに、シャルロットが背後から恐ろしいものを突き出した。
それはシャルロットが秘密兵器として隠していたもの。
沙良が好んで使う『禊』と同じ機構を持つ、大型の槍。
『祓』。
相手は代表候補生という強敵。
出し惜しみは敗北に繋がる。
「墜ちろ!!」
シャルロットは全力でそれを突ききる。
それはあらゆる運動量をその一点に集めた必殺の一撃。
その機構が作動し、衝撃がシールドエネルギーを貫通し、装甲に響かせる。
普通ならその衝撃に機体が吹っ飛んでもおかしくない。
しかし、衝撃が拡散して響いたため、その機体はランスに突き刺さったままとなる。
それは、身動きが取れないということを示している。
「うおおおおお!!」
一夏は零落白夜を発動する。
その雪片弐型にエネルギー刃が構成される。
エネルギー刃がラファールを斬り裂いた。
「シャルル!」
シャルロットはすぐさま残された形となっていたもう一人にライフルによる牽制射撃を行う。
一夏はその機体に後ろから回り込むように、位置取りをする。
その位置取りが完了したのを確認して、シャルロットが打鉄にブレードで斬りかかる。
その背後から、呼吸を合わせるように袈裟斬りを放つ。
二人から斬り付けられる形となる打鉄は捌き切ることが出来ず、刻一刻とそのシールドエネルギーを削られていく。
このまま、パターンから抜け出すことが出来ず、打鉄のシールドエネルギーはゼロになってしまった。
『試合終了。勝者――デュノア・織斑ペア』
◆ ◇ ◆
二日目は第二試合、第三試合を行い終了した。
これにて、各学年八組のペアが残ることになる。
準々決勝、準決勝、決勝は三日目に行われることとなった。
いけそうならもう一話上げます。
恐らくは十五時くらい。