IS 深海の探索者   作:雨夜 亜由

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第十六話 選べと言うなら

「りぃぃぃぃんっっ」

 

 一夏は鈴音の元へ急ぐ。

 先ほどの爆撃を受けてはシールドエネルギーなど残っていないだろう。

 急がなければ、鈴が危ない。

 一夏は目の前で鈴音が倒れたことで、気が動転していた。

 敵は、一夏が鈴音に駆け付けるのを黙って見ているわけが無い。

 その敵ISは一夏にその腕を伸ばし、銃口を突きつける。

 一夏は、ロックされて、自分が狙われていると気づいたのだろう。

 その直線的な動きは急に変えることは出来ない。

 遮断シールドを突き破るビーム砲撃。直撃したらただではすまない。

 万事休すか。

 

「くそっ」

 

 一夏は、必死に体制を整える。

 しかし、その短い硬直時間は敵ISにとっては充分なものだっただろう。

 その銃口が光を纏う。

 

「ちくしょおおぉぉぉ!!」

 

 光線がアリーナを貫いた。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 光線がアリーナを貫いた。

 ISの右腕が衝撃に吹き飛んだ。

 その光線に貫かれた右腕は、その照準を宙に移す。

 

「どうやら、間に合ったようですわね。一夏さん?」

 

 そのまま発射された敵機のビーム砲撃は、虚空を打ち抜いた。

 セシリアはスターライトmkⅢを構えたまま、開放回線で言葉をかける。

 

「セシリア!」

 

「早く、鈴さんを安全なところに」

 

 一夏は、すぐさま鈴音に駆け寄り、その身を抱いて戦線から離れる。

 鈴音の装甲はあらゆる所が融解し、破壊されていた。

 しかし、その身には絶対防御が作用したのか、命に別状はなさそうだ。

 それでも、安心は出来ない。

 一夏が鈴音を運んでいる間にも、セシリアはスターライトmkⅢによる狙撃を続ける。

 それは的確に敵ISを貫く。

 だが、敵ISの停止には至らない。

 それでもセシリアは撃ち続ける。

 しかし、それを露にも思ってないかのように、敵ISはセシリアに銃口を向けた。

 セシリアは、それを笑みで眺めていた。

 罠にでもかかったと言わんばかりに。

 

「わたくしだけに気を取られていてよろしいので?」

 

 その言葉が何を意味するのか、一夏は理解できなかった。

 しかし、すぐさまその意味を把握することになる。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 沙良がピットから薙刀を持って敵ISに接近したのだ。

 その薙刀は先ほど使ったものと同じ、『禊』。

 機構は一度作動しているため、その衝撃はシールドを貫通することはない。

 ゆえに、沙良はそれをダメージ目的ではなく、体制を崩させるために使う。

 沙良はこのISが無人機だと知っている。

 ゆえにダメージを与える目的では絶対に勝てないと分かっているのだ。

 やるからには破壊する。

 

「墜ちろ!」

 

 あれの落とし前は、自分が付ける。

 沙良は左足に目掛けて薙刀をなぎ払う。

 それは、セシリアに標準を合わせていた敵ISには避け切ることは出来ない。

 

 当たる。

 

 その一撃で、敵ISは体制を崩す。

 しかし、その際に振るわれていた敵機の腕部がカイラを殴りつける。

 

「沙良さんっ!」

 

「セシリア撃って!」

 

 沙良を気にするセシリアだが、その叫びにすぐさま照準を合わせる。

 体勢が崩れている敵機には避けるすべはない。

 光線が敵機ISを焼き、回避行動を取らせる。

 その隙を見逃す沙良ではない。

 沙良は『禊』を『収納』。

 新たに武装を『展開』する。

 

 それは採掘用器材を基に作られた武装。開発者の名をとって『ハリマー』と呼ばれている。

 

「吹っ飛べ!」

 

 衝撃を一点に集めるハリマーは、敵ISに当たると、その身を遮断シールドまで吹き飛ばす。

 結果を見るようなこともせず、すぐさまハリマーを『収納』、そして新たな武装を『展開』。

 追い討ちをかけるように沙良は重火器を手に持つ。

 

 ミサイルランチャー。

 

 それはATM。対戦車ミサイルである。

 

「当たれぇぇ!!」

 

 放たれた弾頭は、ゆっくりだが確かに敵ISへと向かう。

 吹き飛ばされた敵ISに避ける手段は無い。

 それは当たった瞬間、とてつもない爆発を起こす。

 

「まだまだぁ!」

 

 沙良は両手にロケットランチャーを『展開』し、多目的ロケット擲弾をばら撒く。

 多目的ロケット擲弾は、空中にその身を躍らせると、敵ISに方向を変える。

 それが爆発するまでに、沙良は次なる武装を『展開』する。

 

 岩盤採掘用レーザー。

 

 それは発射までに十秒かかるという欠陥品だがその分威力は抜群に高い。

 セシリアもサポートに入っている今なら十秒確保できる。

 

 十

 

 九

 

 八

 

 七

 

 六

 

 五

 

 四

 

 三

 

 二

 

 一

 

「発射」

 

 沙良の無情なる声に、全てを焼ききるレーザーは敵ISの下部を割断した。

 

「すげぇ……」

 

 一夏の呟きが聞こえてくる。

 まだだ。

 気を抜くな、終わってない。

 実際に、敵機がその腕を持ち上げた。

 

――ビーム、か……?

 

 沙良はその初動を見極めようと、気を張る。

 撃った。

 しかし、それはビームでは無かった。

 それは、連射性能に優れたガトリング砲。

 毎分6000発の弾丸を吐き出す暴君が、あろうことか左腕部に内蔵されていた。

 

――なんて物を……!

 

 それは紛れも無い、最後の手段。

 所謂切り札と呼ばれる物。

 まさしく豪雨。

 普段の弾幕が俄雨に感じるほどの質量差に、焦りを隠しきれない。

 ビームの一撃必殺ではなく、エネルギーを削ることだけに特化した狙い。

 エネルギーが無くなったISの脆さは、技術者である沙良には良く分かる。

 照準が沙良に向き続ける。

 カイラがロックされたとの警告を出し続けるが、今の沙良に対処できる方法はあまり多くは無い。

 

――(シールド)が無かったら危なかった……。

 

 物理シールドを前面に配置し、"DivingSystem"を作動。

 只管に弾幕に耐え続ける。

 状況は、あまり良くは無い。しかし、敵機をこちらに集中させることには意味がある。

 

『セシリア、一夏と鈴は』

 

『もう少しですわ』

 

 個人間秘匿通信(プライベート・チャネル)によって通信を交わす。

 沙良が偏に防戦に回ったのは、時間稼ぎが最大の目的だ。

 沙良とセシリアに注意を向けさせている間に、二人をアリーナから抜け出させる。

 今は、ピットAに逃げ出そうとしているため、セシリアの援護は期待できない。

 ここで、セシリアが援護に回ることで一夏と鈴音に照準が合わせられたら、憤懣やるかたない気持ちでいっぱいだ。

 

『早く、あまりもたないよ』

 

 既にエネルギーはレッドラインに到達している。

 

『急がせますわ、少々お待――!?』

 

『セシリアっ!?』

 

 急に通信を切ったセシリアに、嫌な予感を覚える。

 通信と同時に止んだ弾幕が、その答えを伝えている。

 既に使い物にならなくなっていたシールドを投げ捨てると、そこには敵機ISの照準から逃げる青い機体。

 それは、一夏と鈴音に被害が行かないように二人から距離を離す。

 行き着いた先は真逆のピットB。

 ピットAには敵機ISを挟む形となっている。 

 

――しまった、誘導されたか!?

 

 セシリアが、その位置に誘導された。それならば狙われているのは誰だ。

 その答えを、沙良は外れて欲しいと願いながら、声を張り上げる。

 

「早くピットに入れ!!」

 

 沙良は、自分がフォローに入らなければと、敵機を注視しながらも、ピットAにスラスターを噴かそうとイメージをする。

 しかし、その深い青に包まれた体は、輝きを失う。

 沙良の機体は、ガクッとその高度を落とし、多数の線を引いた。

 

具現維持限界(リミット・ダウン)!? こんなときに!?」

 

 その機体は絶対防御だけを残し、機能をストップさせる。

 先ほどの副代表戦後に、エネルギーの補給もせず戦闘を行ったツケが回ってきた。

 それでも、あの豪雨のような弾幕に耐えた。ここまでエネルギーを保てたのが不思議なくらいだ。

 最後に機能が止まりかける瞬間。

 沙良のハイパーセンサーはある動作を捉えた。

 敵が左手を一夏に向けて動かしていた。

 それは、遮断シールドを貫通する殺傷兵器。

 

 拙い拙い拙い拙い。

 一夏は気づいていないようだ。

 沙良は声を張り上げる。

 

「一夏ぁ! 逃げてぇ!」

 

 しかし、その一夏の機体は回避行動に移ることができない。

 そこには、ISを解除している鈴音が横たわっている。

 一夏が避けようとも、鈴音に当たっては話にならない。

 このままだったら、一夏と鈴音が死んでしまう。

 

「一夏さん!?」

 

 セシリアも、敵ISの動きに気づくが、逆位置のピットからでは間に合わない。

 間に合ったとしても、二人を運ぶのは無理だ。最悪三人とも撃ち落されてしまう。

 だからといって、狙撃特化のセシリアの機体で敵機に強襲をかけるわけにもいかない。

 

「動け、動け、動いて、……動いてよ!!」

 

 沙良は、反応を無くしたカイラを必死に動かそうとするが、その思いに反して、カイラは微動だにしない。

 沙良は意味無き叫びを上げる。

 

――何のためのISだよ! 誰も守れないようなISしか僕は作れないのか!

 

 自分が作った機体では一夏を助けられないのか?

 英雄だ何だ呼ばれても、大切な人は守れないのか?

 沙良は悔しさを滲ませる。

 その自分の弱さに、不甲斐なさに涙が零れる。

 

――僕に、力さえあれば。

 

 口元を隠すように両手を持ち上げると、黒いチョーカが手に触れる。

 それは、待機状態の『オルカ』だ。

 防犯のため、身から離すことなく持ち歩いているそれは、カイラを纏っている今でも沙良の首についていた。

 

――いけるのか?

 

 しかし、思い出す。オルカを使うときの注意を。

 その未完成ゆえの弊害ゆえに、戦闘で使用することは硬く禁じられている。

 死の文字が頭を過ぎる。

 

――でも一夏が、鈴が……!!

 

 葛藤している時間すら惜しい。

 他人と身内なら、迷いもせず身内を取る。

 それなら、自分と身内ならどうだ。

 

(ごめん、みんなっ!)

 

「【オルカ】!!」

 

 沙良は迷いも無く身内を取った。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 鈴音を背に庇うように敵機に向かい合う一夏は見た。

 沙良が叫びを上げた瞬間、具現維持限界(リミット・ダウン)を迎えたはずの沙良の機体が、光を取り戻したのを。

 その機体は、深い青から、蒼が混ざったような黒に色を変える。

 その装甲には白いラインが走り、蒼のラインがその姿を彩る。

 厚い装甲が、消え、その機体は洗練された形となる。

 

 エネルギーが無いはずのその機体は、敵ISを見据えると、そのスラスターを噴かせた。

 その機体は、一瞬でトップスピードに乗ると、敵ISに肉薄する。

 その動きはまるで、一夏たちを庇うかのよう。

 敵ISと一夏たちを分断するように、沙良は体を入れる。

 それでも構わず、敵ISは左手から溜め込んだ光を放出しようとする。

 

「沙良!」

 

 その直前に沙良は『禊』で左手を切りつけた。

 機構は作動しない。

 一度使ってしまっているから。

 しかし、それでよかった、目的は装甲の破壊だから。

 その刃は敵ISの左手に食い込む。

 方向は、ずらす事が出来た。

 

 しかし、それだけでは駄目だ。

 それは一夏でも分かること。ここで止めを刺さないと。誰も助からない。

 それを沙良も分かっていると言わんばかりに叫びを上げる。

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 沙良はスラスターを最大限に負荷し、禊を押し込んでそのまま左手を切り飛ばした。

 その瞬間、行き場をなくしたエネルギーが、光の渦となって沙良の身を包み込む。

 ただ、ビームのエネルギーだけとは思えない。

 

 自爆だ。

 

「サラァァァァァ!!!!」

 

 一夏の叫びを最後に、沙良は意識を手放した。




少し切りが悪かったので、今回は短いですがここで区切らせていただきます。

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