IS 深海の探索者   作:雨夜 亜由

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第十五話 クラス代表戦

 試合当日。

 沙良はカイラを纏って、空に居場所を作る。

 その前には鈴音にクラス代表を奪われた元クラス代表がラファールを纏っていた。

 その目は意欲に燃えている。

 確か、イタリアの代表候補生だったはずだ。

 専用機は持っていないが、実力者に違いはない。

 一夏と沙良がIS学園に入学が決まってから、たくさんの代表候補生や専用機持ちがIS学園に送り込まれてきているらしい。

 目の前の彼女もそういった部類なのだろう。

 気を抜くことは出来ない。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 鳴り響くブザー。

 それが鳴り終わる瞬間、沙良と二組の副代表は動いた。

 彼女が取ったのは前進。

 セシリアとの戦いから、沙良が射撃主体と見切りを付け、後方に下がって様子を見るだろうと推測したのだろう。

 それに距離を取ると搦め手を打たれる危険性もある。その判断は間違っては居ない。

 しかし、それは最善でもなかった。

 

「なに!?」

 

 沙良はすぐ彼女の目の前まで迫っていた。

 そう、沙良もすぐに前進していた。

 それは、彼女が前進するだろうと推測しての行動。

 それが見事当たったわけである。

 沙良は、手に持っていたアサルトライフルを『収納』し、新たに近接武器を『展開』する。

 

 それは薙刀。

 それは、ISを装着している沙良よりも長く、ゴテゴテしい機殻がその存在感を主張している。

 沙良はその薙刀を、向かってきているラファールの腹部目掛けて、振るう。

 その動きは体の「伸筋の力」、「張る力」、「重心移動の力」だけを利用し、力むことはない。

 そして、そこで得た運動量を、接触面で作用させる。

 

「かはっ……」

 

 そのカウンターによって威力を増した一撃は、装甲に衝撃を通し、絶対防御を作用させる。

 その衝撃は機体を後方に吹き飛ばすことなく、その機体を薙刀に食い込ませて止まっている。

 衝撃は、体に響かせるようにして伝わった結果だろう。

 これが、薙刀型武装『禊』の効果だ。

 シールドエネルギーに接触した瞬間に機構が自動で作動し、衝撃を貫通させるのではなく全体に響かせる、対IS用武装。

 これは、絶対防御を作動させ、相手のシールドエネルギーを削ることに特化した武装である。

 しかし、欠点もある。

 それは、機構が一回しか作用しないこと。

 つまりは、一回機構を作動してしまうと、整備しない限りただの薙刀でしかなくなるわけだ。

 沙良はその薙刀を体を回転させることによって、食い込んだ機体から取り外し、そのままの勢いでラファールのスラスター部をなぎ払う。

 今度は機構が作動しなかったため、ラファールはその身を吹き飛ばされることとなる。

 

 それを傍観するような者は代表候補生にはいない。

 彼女はすぐさま体勢を整え、ライフルを展開。照準を沙良に合わせる。

 それと同時、沙良も薙刀を『収納』、アサルトライフルを『展開』する。

 

「遅い!」

 

 しかし、銃弾が届くのは沙良のほうが早かった。

 ラファールはあれよあれよという間にシールドエネルギーを減らしていく。

 しかし、そのエネルギーを減らしているのは彼女だけではない。

 それは同じように銃弾の雨の中に身をおく沙良とて同じことだ。

 この撃ち合いは防御型に設計されているシークエストに分がある。

 それを分かっているであろう、副代表の少女は顔を顰めながらも、弾幕のリズムを転調、少しでも被弾させるように動き回る。

 しかし、それも沙良とて同じ。

 お互いが持てる技術を発揮しての銃撃戦。

 その勝敗は、お互いのシールドエネルギーを見れば明らかだった。

 

「――っ!」

 

 そのエネルギー残量に気を取られたのか、一瞬だけだが沙良から注意が離れる。

 それを見逃す沙良ではなかった。

 

――瞬時加速

 

 すぐさま接近し、体を捻り踵落しを決める。

 

「きゃああああ!」

 

 地面に向かって蹴り落とされたラファールに、無慈悲に弾丸を浴びせ続ける。それでも飽き足らず、墜落していく機体に蹴りをぶち込むと、そのまま地面目掛けて加速していく。途中、反撃の一手とライフルを向けられるが、沙良はそれを完全に無視し、エネルギーを削りきることを最優先とした。その結果、二組の副代表の悲鳴を伴いながら、地面にクレーターを作ることに成功した。

 無情にもブザーが鳴り響き、お互いに肩の力を向く。

 

『試合終了。勝者――深水沙良』

 

 沙良は、倒れている彼女に手を伸ばすのだった。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 沙良はピットに戻ると、入れ違いのように一夏がカタパルトにつく。

 

「お疲れ、沙良」

 

「頑張って一夏」

 

 お互いが自然に手を伸ばし、ハイタッチする。

 一夏は前を向き、アリーナに意識を向ける。

 向こうのピットでは、鈴音も同じように気持ちを高ぶらせているのだろう。

 沙良は、邪魔するのも無粋だろうと、無言でピットのドアセンサーに触れる。

 開放許可が下りるとドアが音を立てて開いた。

 そのドアをくぐり、最後にピットを見ると、アリーナに飛び立つ一夏の姿が見えた。

 

「頑張って、二人とも」

 

 対抗戦は副代表戦を行ってすぐに代表戦を行うため、副代表はその試合を見ることが出来ない。

 急いで向かえばまた別だろうが、勝つことを信じるならば、体力の回復に努めるべきだろう。

 沙良は男子にあてがわれた更衣室で着替えを片手に持つと、軽い足取りでシャワー室に向かう。

 エネルギーも多く使ってしまった。専用機は持たずとも、流石は代表候補生といったところか。

 そうこう考えながらシャワー室の扉を開き、上着を脱いでハンガーにかける。

 一夏はどうなってるだろうか。そう沙良が考えたとき、校内にブザーが鳴り響いた。

 

「な、この鳴り方は緊急ブザー!?」

 

 沙良は急いで上着を着ると、そのまま飛び出した。

 そこには慌しく動く教員と上級生の姿。

 その顔色には戸惑いと焦りが見て取れる。

 

「何が起こったんだ?」

 

 沙良はアリーナが見える場所へと走る。

 しかし客席に入ろうとした瞬間、驚愕の事実が沙良に突き刺さる。

 

「扉がロックされている……」

 

 それはただの非常事態では済まされない。

 扉の向こうからは、混乱している生徒の悲鳴が聞こえてくる。

 

「くっ、IS学園のシステムをクラックできる存在なんてそうそういないぞ!?」

 

 それか、IS学園の内部に敵が侵入したか。

 

「今は考えてる場合じゃない」

 

 沙良は状況を把握できるであろう場所へと駆けるのであった。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

「先生! わたくしにISの使用許可を! すぐに出撃できますわ!」

 

 沙良が、管制室に到着すると、セシリアが千冬に迫っているところだった。

 

「織斑先生! 一体全体どうなっているんですか?」

 

「深水か、良い所に来た。――これを見ろ」

 

 ブック型端末の画面を数回叩き、表示される情報を切り替える。その数値はこの第二アリーナのステータスチェックだった。

 

「遮断シールドがレベル4に設定……しかも、扉が全てロックされてる……」

 

「あのISの仕業ですの?」

 

「あのIS?」

 

「沙良はまだ見てないのか、あのISを」

 

 何時の間にか傍に来ていた箒は、リアルタイムモニターを指差す。

 そこに映るは異様に手が長く、深い灰色をした『全身装甲』

 沙良は背筋に寒いものが走るのを感じた。

 あれは、あれは、

 

「――ゴーレム」

 

 沙良は、唇を噛む。

 なぜ、あれがここにいるのだ。

 あれは束と沙良が思索し、製作したもの。

 

 だが、あれは盗まれたはずだ(・・・・・・・)

 

 それに、束が作った人工AIではあんなことは出来ないはず。

 あれは探索を目的として開発したものだ。また、戦闘に応用できるほどのAIが開発されたという話を聞いた事がない。

 

――なら、何で動いて……。

 

「……まさか」

 

 その思いを打ち消そうと頭を振るが、出てくるのは、それを裏付ける物ばかり。

 束は確かに言ったのだ。論文ごと盗まれたと。

 窃盗者は束が超えることのなかった一線を越えたのだ。

 

「脳を、人間の脳を繋げたのか……?」

 

「さ、沙良?」

 

 沙良の状態に気がついた箒は、恐る恐る声をかける。しかし、その声に沙良が答えることはない。

 

「織斑先生、状況は」

 

「あ、ああ。今は三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除できればすぐに部隊を突入させる」

 

 言葉を紡ぎながら益々募る苛立ちに千冬の眉がぴくっと動く。沙良はそれを危険信号だと受け取った。

 沙良が今からハッキングに加われば、確かに遮断シールドは解除できるだろう。

 しかしそれは、一夏と鈴音の犠牲の上に成り立つ。

 沙良はそんなことする気は更々無い。

 沙良は優しいと言われてきたが、それも状況による。

 沙良は少数の身内と、大勢の他人を秤にかけたとき、迷わずに身内を取る。

 

「はぁぁ……。結局、待っていることしかできないのですね……」

 

「何、どちらにしてもお前は突入隊に入れないから安心しろ」

 

「な、なんですって!?」

 

「お前のISの装備は一対多向けだ。多対一ではむしろ邪魔になる」

 

「そんなことはありませんわ!このわたくしが邪魔だなどと―――」

 

「では連携訓練はしたか? その時のお前の役割は? ビットをどういう風に使う? 味方の構成は? 敵はどのレベルを想定している? 連続稼働時間――」

 

「わ、わかりましたわ!もう結構ですわ!」

 

「ふん。わかればいい」

 

 このまま放っておくと一時間は続くであろう千冬の指導をセシリアは降参とばかりに両手を揺らして止める。

 しかし、セシリアには予想外のところから助けが入る。

 

「この際、連携訓練は必要ない。後方からの射撃をメインにバックアップを担当。あくまで射撃に徹するなら、セシリア一人ぐらい、何とかなるかもしれない」

 

「沙良、さん?」

 

「出来るのか?」

 

 千冬はそれだけを聞く。

 それは可能かどうかを聞いたわけではない。

 見せていいのか?

 そう聞いているのだ。

 沙良は頷く。

 

「あれの落とし前は僕がつける」

 

 その目は決意に燃えていた。

 

「……やってこい」

 

「はい」

 

 沙良はセシリアを伴い、管制室を出て行く。

 向かう先は――

 

「ピットに行きますの?」

 

「そう、ピットに使われている遮断シールドは、アリーナを囲う遮断システムとは別に動いている。クラックにかかる時間は少なくてすむ」

 

 沙良たちはピットに向かって走る。

 しかし、目的地は同じではない。

 

「セシリアはこのままピットAに向かって」

 

「わかりましたわ」

 

 沙良はそのまま、ピットBへと向かう。

 セシリアをピットAに向かわせた理由は、単純にゴーレムの死角を付く事が出来るから。

 沙良はピットに着くと指紋・静脈認証を経て、ピットの入る。

 

「カイラ!」

 

 沙良はすぐさまカイラを纏い、遮断シールド管理システムへとカイラをつなげる。

 同時に、空中投影ディスプレイを出せるだけ出し、カイラの処理能力を使い、システムへと侵入する。

 ハッキング自体は管制室でも出来た。

 むしろ、管制室の方が良かっただろう。

 しかし、沙良は他人に見られることを拒否した。

 それは、沙良のISの根本に関わることだから。

 それは沙良の唯一仕様の特殊能力(ワンオフ・アビリティー)

 

「『絶対的管理者』」

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 鈴音は青竜刀を円の動きで振るう。

 青竜刀を振りぬくは足首の高さ。バランスを崩すことが出来れば幸い。

 あわよくば転倒を狙う。そんな一撃だ。

 しかし、その一撃は防がれる。

 元々上手くいくとは思ってなかった鈴音は続けさま二発目を放つ。

 それは右へと突っ込み、すれ違いざまに振りぬく。

 当たった。

 それに続くように、鈴音は三発目、四発目と放っていく。

 その連続した斬撃に、敵ISはその巨体に似合わぬ速度で鈴音の猛攻を防ぐ。

 しかし、ここで、戦っているのは鈴音だけではない。

 鈴音の攻撃を捌ききった一瞬。

 その隙を突いて一夏が後ろから切りかかる。

 

「うおおぉぉぉぉ!」

 

 一撃必殺の間合い。

 しかし、その躱せるはずの無い斬撃は、尋常ではないスラスターの出力を持ってして、簡単に離脱されてしまう。

 

「くっ、鈴!」

 

「わかってる!」

 

 敵ISは攻撃を避けた後は決まって反撃に転じる。

 それは、まるでコマのように高速回転しながらビーム砲撃を行ってくる。

 その回転状態での砲撃は有効射程が通常の半分になるため、一夏と鈴音はギリギリで射程範囲を抜けることが出来る。

 

「くそっ、埒が明かない」

 

 一夏は苛立ちを抑えることなく言葉に乗せる。

 

「こんないたちごっこじゃ、こっちのエネルギーが先に切れちゃうわ」

 

 鈴音もこの状況に焦りを感じていた。

 なんとか打開策を見つけないと。

 しかし、先に行動に起こしたのは敵ISだった。

 高速回転からのビーム砲撃を行う。

 

「同じことなんて通用しないわよ!」

 

 鈴音はこれをチャンスと見たのか、空間圧作用兵器・衝撃砲を持って、砲撃を行う。

 しかしそれが仇となった。

 意識の集中の必要な第三世代兵器。その砲撃による一瞬の隙。

 そこを付かれた。

 未だ回転している敵ISの肩部から鈴音にミサイルが放たれる。

 

「えっ!?」

 

 それは衝撃砲では落としきれない数量を持って、鈴音に襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

 すぐさま回避行動に移るが、遅い。

 数発を衝撃砲で墜とすが、それでも鈴音の視線には多くの弾頭が向かってきている。

 被弾。

 その衝撃は身体の自由を呆気なく奪い去り、動きの止まった鈴音は爆風に暴虐される。

 爆炎の中、叫びを上げこちらに向かう幼馴染を最後に、鈴音の視界は暗転した。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

「りぃぃぃぃんっっ」

 

 一夏は鈴音の元へ急ぐ。

 先ほどの爆撃を受けてはシールドエネルギーなど残っていないだろう。

 急がなければ、鈴が危ない。

 一夏は目の前で鈴音が倒れたことで、気が動転していた。

 敵は、一夏が鈴音に駆け付けるのを黙って見ているわけが無い。

 その敵ISは一夏にその腕を伸ばし、銃口を突きつける。

 一夏は、ロックされて、自分が狙われていると気づいたのだろう。

 その直線的な動きは急に変えることは出来ない。

 遮断シールドを突き破るビーム砲撃。直撃したらただではすまない。

 万事休すか。

 

「くそっ」

 

 一夏は、必死に体制を整える。

 しかし、その短い硬直時間は敵ISにとっては充分なものだっただろう。

 その銃口が光を纏う。

 

「ちくしょおおぉぉぉ!!」

 

 光線がアリーナを貫いた。


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