IS 深海の探索者   作:雨夜 亜由

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第十三話 整備室

「沙良聞いたか? 隣のクラスに転入生が来るらしいぞ」

 

 一夏に話しかけられた沙良は、鈴のことを思い出す。

 一夏の言っている転入生とは十中八九、鈴のことだろう。

 しかし、黙っておくと言ったため、ここは知らない振りをするのがベストだろう。

 

「へー、転校生? こんな時期に」

 

「ああ、なんでも中国の代表候補生らしい」

 

 鈴だ。

 確実に鈴だ。

 沙良はそう確信した。

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら」

 

 同じ代表候補生として思うことがあるのか、セシリアは手を腰に当てるいつものポーズで話に入ってくる。

 

「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」

 

 箒も、いつのまにか自分の席から一夏や沙良の席に移動してきた。

 

「どんなやつなんだろうな」

 

 一夏はセシリアを見ながらそう言った。

 大方、代表候補生ということで似たところでもあるんだろうかと思っているのだろう。

 

「気になるの?」

 

「ん? ああ、少しはな」

 

「ふん……今のお前に女子を気にする余裕など無いだろう。来月はクラス対抗戦が控えているのだぞ」

 

「そう! そうですわ、一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実践的な訓練をしましょう。ああ、相手ならこのわたくし、セシリア・オルコットが勤めさせていただきますわ」

 

 その発言に、眉を顰める箒だが、自らが専用機を持っていないため、訓練に参加することは難しい。

 

「まあ、やれるだけやってみますか」

 

「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝っていただきませんと!」

 

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

 

「そうだよ。僕のフリーパスは一夏にかかってるんだからね」

 

 セシリア、箒、沙良が好き勝手言うが、一夏としては簡単に返事が出来なかった。

 

「織斑くん、頑張ってね」

 

「フリーパスのためにも!」

 

「でも、今年は専用機持ちが多いらしいからどうだろう」

 

「大丈夫だって、多いって言っても第三世代はそうそう居ないんだから」

 

 クラスメイトがわいわいとはしゃいでいると、水を差すような言葉がかかる。

 

「――その情報、古いよ」

 

 その声は教室の入り口から聞こえた。

 

「二組も専用機持ち、しかも第三世代機乗りがクラス代表になったの。そう簡単に優勝は出来ないから」

 

 そこには、鈴音が腕を組み、片膝を立ててドアにもたれていた。

 

「鈴……? お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

 トレードマークのツインテールを揺らし、鈴音は小さく笑みを漏らす。

 

「何、格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ?」

 

「……はぁ、あんたも相変わらずね。もう少し沙良を見習ったら?」

 

「どういうことだ、沙良」

 

「あぁ、転入手続きのときに挨拶は済ましたからね」

 

「なんで教えてくれないんだよ」

 

「そのほうが面白くなるかなぁって思ってさ」

 

「本当にあんたら、相変わらずね」

 

 呆れたように鈴音は肩をすくめる。

 

「まぁ私は早く戻るわ。沙良から担任が千冬さんって聞いてるし」

 

 そういい、教室に帰ろうと振り返ったのだが、

 

「残念だが、手遅れだ。もう少し早くに行動を起こせ」

 

「ち、千冬さん……」

 

 その名で呼んだ瞬間に、頭に出席簿が振るわれる。

 

「織斑先生だ。ほら、さっさと戻れ」

 

「すみません……」

 

 鈴音は、ドアを千冬に譲り、教室を出ると、一夏に指差して吼える。

 

「一夏、覚えてなさいよ! あんたが喋ってたから、入れる空気になるまで待つ羽目になったんだから! あんたのせいなんだからね」

 

 そう言って、ドアの向こうに消えていった鈴音に対して、皆が「そんな理不尽な」と感想を持ったのである。

 

「SHRだと言う事を忘れるな」

 

 千冬の一声で、クラスの意識は鈴音から千冬へと戻る。

 

「あいつ、IS操縦者だったのか」

 

 その一夏のつぶやきに、セシリアと箒が問い詰めようとしたのか、席を立とうとした。

 

「座れ、馬鹿共」

 

 しかし、その頭に出席簿が食い込み、それは叶わなかった。

 千冬の出現により、質問攻めを免れた一夏は、授業中に鈴音のことに思考を傾けるのだった。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

「お前のせいだ!」

 

「あなたのせいですわ!」

 

 昼休みになると、セシリアと箒は一夏に詰め寄る。

 

「なんでだよ……」

 

 身に覚えの無い罪で訴えられている一夏は、苦笑するしかない。

 

「鈴のことじゃないの?」

 

「それでなんで俺のせいなんだ?」

 

 一夏は怒られている理由がいまいちわかってないようだが、沙良に「女の子って言うのはそういう生き物なんだよ」と言われ、なんとなく頷いておいた。

 

「まあ、話なら飯食いながら聞くから」

 

「む……。ま、まあお前が言うのなら、いいだろう」

 

「そ、そうですわね。行って差し上げないこともなくってよ」

 

 そのほかクラスメイトが数名一夏たちについていく。

 

「じゃあね、一夏。また後で」

 

「おう、沙良も頑張ってな」

 

 沙良が、お弁当を持って、食堂と違う方向に向かい出すのを見て、箒が声をかける。

 

「おい、沙良はどこに行ったのだ?」

 

「ん? ああ、箒たちは聞いてないのか」

 

 セシリアと箒は「何がだ?」といった顔で一夏が話し出すのを待つ。

 

「まあ、それも一緒に話すよ。とりあえず学食行こうぜ」

 

 セシリアは、しぶしぶといったようすで一夏に付いていく。箒は納得は出来てなかったが、置いて行かれそうになっていたため、急いで、その後を追った。

 食堂に着くと、券売機で各自、自分の好きなものを購入する。

 食券を出そうと、集団を引き連れて移動しようとしたとき、その行く手に立ちふさがる影が一つ。

 

「待ってたわよ、一夏!」

 

 そこには鈴音の姿があった。

 しかし、一夏はその姿を見ても構うことはなかった。

 

「鈴、とりあえずどいてくれ。食券出せなくて後ろが詰まってきてる」

 

「う、うるさいわね。わかってるわよ」

 

 その手のお盆に鎮座したラーメンがのびかかっているのを見た一夏は、鈴に残念そうな顔を向けた。

 

「鈴、いつから居たんだ? 麺、のびるぞ?」

 

「わ、わかってるわよ! 大体、アンタを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!?」

 

「別に早く来る必要もないだろ。席空いてんだし」

 

「そういうことじゃないわよ!」

 

 一夏は、鈴音と会話しながらも食券を学食のおばちゃんに渡す。

 

「まあ、せっかく待ってくれてたんなら一緒に食べようぜ。悪いけど、席取っててくれないか?」

 

 一夏が、一緒に食べようと誘ったことにより、鈴音の機嫌は良くなったようだ。

 かわりに、一夏の後ろでは、箒とセシリアが殺気を放っているが。

 

「そ、そうね。せっかくだし、一緒に食べてあげるわよ。席取っとくから」

 

 鈴音は、一夏の後ろを見て、席が多めに確保できるテーブルを探す。

 鈴音が人数分の席を確保したところで、一夏たちがお盆を持ってくる。

 お昼の込みだす時間帯に、すぐにテーブルにつけたのは僥倖といえば僥倖だろう。

 

「本当、久しぶりだな。沙良はちょくちょく帰ってきてたけど、鈴は帰ってこれなかったもんな。そう考えると丸一年ぐらいか。元気にしてたか?」

 

「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」

 

「どういう希望だよ、そりゃ……。そういえば、鈴はいつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」

 

「質問ばっかしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」

 

 一夏は、丸一年ともあり、思いつく限りの質問をぶつけていた。

 

「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」

 

「ああ、悪い。つい話しに夢中になっちまった。こいつは凰鈴音。箒が引っ越した後に引っ越してきた俺と沙良の第二の幼馴染ってところか」

 

 箒の催促に、一夏は初対面同士を紹介する。

 

「で、こっちが箒。小学からの幼馴染で、ほら、前に沙良が言ってただろ? 沙良が一時期お世話になってた剣術道場の娘」

 

「ふうん、あんたが沙良の言ってた恋敵ね」

 

「な、何を言っている!?」

 

 鈴音の発言に慌てる箒だが、そこは聞こえないように考慮したのか、一夏には大した反応はない。

 

「始めまして。これからもよろしくね」

 

「ああ、こちらこそ」

 

 そう挨拶する二人には火花が散っていただろう。

 

「それで、こっちがイギリスの代表候補生のセシリア・オルコット」

 

「へー、アンタがBIT適正最高値のセシリアね」

 

 鈴音はセシリアを嘗め回すように見る。

 本来なら他の国に興味を持たない鈴音だったが、沙良が「イギリスの代表候補生が一夏の魔の手に墜ちるかもしれない」と笑いながら言っていたので調べていたのだ。

 

「あんたも将来的には恋敵になる可能性があるってわけだ」

 

「な、な、なっ!」

 

 顔を赤くするセシリアを見て、鈴音は改めて一夏のモテ具合を再認識したのだ。

 

「そういえば、見当たらないけど沙良はどうしたの? あんた達いつも一緒のイメージがあるけど……あんたが沙良を一人にするなんて珍しいわね」

 

 鈴音にとって、沙良は鈴音の恋心を知る理解者であり、協力者でもある。

 その沙良がいてくれればいいのにと思っていたのだが、どこにも見当たらない。

 それと同時に、あの沙良が他人と仲良くしている姿が想像できずに、一人でいるのかと不安に思う。

 

「そうだ、一夏。先ほど言っていたが、沙良はどこに行ったのだ?」

 

 箒も、先ほどから気になっていたのかすぐさま話題に乗ってくる。

 沙良の幼いころを知っている箒も、鈴音と同じ不安を抱いたようだ。

 

「ああ、最近訓練終わった後に良く整備棟に残ってただろ? とある縁で知り合った子に、整備棟で再会したんだってさ。で、その子が一人で作ろうとしてたISを作るの手伝ってるんだってさ」

 

 すると、周りで聞き耳を立てていたクラスメイトが、反応を示す。

 

「それって……」

 

「四組の……」

 

「知ってるのか?」

 

 一夏の問いかけに、噂程度ならと答えるクラスメイト。

 

「確か四組の更識さんだったと思う。でも、織斑君はあまり良い印象もたれてないからあんまり関わらないほうがいいかも」

 

「どうしてだ?」

 

「その子の機体の製作してた所が、織斑君の機体にかかりっきりになっちゃって、その子の機体の製作がストップしてるんだって」

 

 それを聞き、一夏は、どこか居たたまれなくなる。

 

「それで一人で作ろうとしてるわけか」

 

「そういう噂だけどね」

 

 どこか、静かになった場に、鈴音が話を変える。

 

「そういえば、一夏ってクラス代表なんだって?」

 

「お、おう。成り行きでな」

 

「ふーん……」

 

 鈴はどんぶりを持って、そのままスープを飲む。

 

「あ、あのさぁ。ISの操縦、見てあげてもいいけど?」

 

 その言葉に、一夏は難しい顔をする。

 

「そりゃ助かるんだけど、あまりにも申し出が多いから、訓練は沙良が管理してくれてるんだ」

 

「沙良……甘やかしすぎよ」

 

 鈴音の呆れたと言わんばかりの言葉に、一夏は笑うしかないのであった。 

 

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 沙良は一夏たちと分かれると、そのまま整備棟に向かう。

 連絡通路を抜ける途中、見知った顔が一つあった。

 

「フィーナ」

 

 フィオナが、沙良と同じようにお弁当を持って、整備棟へと向かっていた.

 

「あ、沙良さん。奇遇ですね。沙良さんも今からお手伝いですか?」

 

「そうだよ」

 

 フィオナは人の良さそうな笑みを浮かべて、沙良の隣まで寄ってくる。

 第一整備棟を抜け、目的である第四整備実習室へと向かう。

 行く先で沙良は声をかけられ、そのたびに手を振ることで返事としていた。

 

「今日はどこまで進みますかねぇ」

 

「そうだね、外部装甲は大方完成してるし、後はスラスターの配置やバランス考えて補助のジェットブースターを取り付けたら、戦闘はまだ無理だけど飛行ぐらいは普通に出来るようになるかなぁ」

 

「今日は戦闘に耐えられるところまで作り上げてしまいましょうか」

 

 沙良はそうだねと、朗らかに笑い返す。

 この二人がほんわかと会話しているところは、整備課の癒しとして注目を集めていた。

 

「つきましたね。じゃあ、わたしは整備課の先輩に声をかけてきますので、先にかんちゃんのところに行っておいてください」

 

「うん。じゃあ、また後でね」

 

 フィオナは整備室の奥へと駆けていった。

 その姿を見送り、目的の第四整備実習室へと、足を踏み入れる。

 すると、そこに居た少女が沙良に気づいたのか、顔を上げ、軽く微笑んだ。

 

「沙良、おはよう」

 

「うん、おはよう。簪」

 

 沙良は持ってきた弁当を顔の高さまで持ってきてお昼ご飯を促す。

 簪と呼ばれた少女は、その意図にすばやく気づき、自分のお弁当を広げた。

 そのタイミングで、フィオナが先輩方を連れてくる。

 

「あー、わたしをおいてご飯食べようとしてるー」

 

「……まだ広げただけだよ?」

 

「なんだ、そうだったんですね。では、わたし達もご飯食べちゃいましょうか」

 

 こうして、整備室では、お昼のお弁当の時間が始まったのだった。

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

「簪も丸くなったねえ」

 

 整備課の先輩に急に言われ、簪は反応に困ってしまう。

 

「そ、そうです……か?」

 

 その言葉は、はっきりと口に出たわけではないが、その瞳はきちんと相手の目を見ている。

 その反応に先輩は満足そうに頷く。

 

「少し前までは近寄りにくい雰囲気があったもんな」

 

「そ、そんなこと……」

 

「それが今では、簪がきちんと顔を上げて喋ってくれるようまでなったんだ。そりゃ嬉しくもなるわね」

 

 簪は、照れくさいのか俯いてしまう。

 

「それは……沙良のおかげ」

 

 沙良のおかげと言われ、沙良はキョトンとする。 

 

「確かにあの時はすごかったよなぁ」

 

 何のことを言っているのかに気づいた沙良はあわてて話を止めようとする。

 

「なんだったっけなぁ」

 

「ちょっと、やめてくださいよ!? 僕だって今思うと恥ずかしいんですから」

 

 沙良は、言葉に叫びを重ね、言葉を消そうとする。

 

『姉に対抗するため? そのお姉さんについて簪は何を知ってるの?』

 

『それは……何でも出来て……弱点なんかなくて』

 

『本当にそうかな?』

 

『え?』

 

『接することを避けて、相手のことなんかわかるはずがないじゃない』

 

『でも……』

 

『僕と、そのお姉さん。どっちがISについて詳しいと思う?』

 

『……沙良』

 

『でも、僕ですら一人っきりでISを作り上げるなんて出来ないよ? 一人きりでは出来ない作業だって山ほどあるしね』

 

『それは……』

 

『簪はただそのお姉さんの栄光だけを見て、その裏側の努力を見ていないだけじゃないかな。お姉さんもきっと壁にぶつかって、誰かの力を借りて乗り越えてきたんだと僕は思うなぁ』

 

『……』

 

『僕にも、手伝わせてくれるよね?』

 

『……うん』

 

「そのボイスレコーダーをよこせー!!」

 

 沙良はボイスレコーダーを取り出した薫子に手を伸ばすが、ここには沙良に味方をするものなどいない。

 既に沙良の体は取り押さえられ、その四肢は固定されている。

 

「ふっふっふ、取り押さえているわよ、沙良君」

 

「取り押さえてるのは二条先輩ですけどね」

 

「沙良くんのうなじ……」

 

「流石にぶん殴りますよ?」

 

「ふふふ」

 

 そのやり取りを見ていた簪がこらえられないというように笑みをこぼす。

 

「ふっ」

 

「ははは」

 

 それは周りに伝染して、大きな笑いを生みだす。

 整備室に笑いが響くというのはここ最近ではなかったことだ。

 これも、沙良が整備室に出入りするようになってからのことだ。

 

「あー、お腹痛いー。あ、京子。今回の実習当番って京子じゃなかったっけ」

 

 薫子が時計を見ながら横に座っている少女に話しかける。

 

「あ、やば。実習の準備しないと!」

 

 京子と呼ばれた女生徒は弁当を片付け、急いでカバンにしまう。

 

「ごめん、ちょっと時間ないから急ぐね」

 

「お疲れ様です」

 

 沙良はひらひらと手を振って見送る。

 その姿が見えなくなったところで、自然と全員がお弁当を片付け始めた。

 

「んー今日もやりますか」

 

 ご飯の時間は終わった。

 その顔は、先ほどまでの気の抜けた笑顔ではない。

 笑ってはいる。しかし笑顔の種類が違う。

 まるで、試合などの前に自然と笑みが浮かぶような、そんな笑み。

 

「簪、ディスプレイを投影してくれる?」

 

 簪は、空中ディスプレイを起動し、そのIS【打鉄弐式】の情報を全員に見えるように表示する。

 

「今回はスラスターの調節から入ろうか。たぶんこれは今日だけで終わると思うから、そろそろ武装に目を向けていってもいいと思う」

 

 沙良の言葉に皆が頷く。

 ここに集まるのは整備課の生徒。

 その生徒にとって、世界の第一線で活躍する開発者である沙良は有名人なのである。

 そのIS設計の第一人者の言うことに誰も否とは言わない。

 

「じゃあ、戦闘用の構想は僕と簪と、そうだなぁ、黛先輩とフィーナが手伝ってください。他の人はスラスターをお願いします。スラスターさえ終われば、こいつは、空を飛べるはずなんで」

 

 沙良がそう言うと、皆が言われたとおりに行動に移す。

 沙良は、自分の近くに集まった三人に向かって、話し出す。

 

「今、簪の機体に絶対的に足りないものが一つ」

 

「実働データ」

 

「正解。でも、それはスラスター系が終わってからだね。だからこそ、今の状況で扱えない武装の実働データはこれを使う」

 

「何、それ?」

 

 簪は、首をかしげる。

 沙良が持っていたのは一枚のディスク。

 

「僕と一夏の機体の実働データ」

 

「なっ、正気ですか!?」

 

 その発言に、フィオナが驚きの声を上げる。

 

「正気も正気。だって、手っ取り早いじゃん。一夏にも許可は取ってあるよ?」

 

「でも……いいの?」

 

「もちろん」

 

 簪が、遠慮がちに聞いてくるが、沙良は笑顔でそれを肯定する。

 

「今日のところは、このデータの取り組みで一日が終わると思う。もうすぐ、昼休みも終わりだし、そろそろ、教室に戻ろうか」

 

「うん」

 

「はーい」

 

「私は、このまま実習だからここでお別れね」

 

 薫子だけがただ頷くことをしなかった。

 

「それでは、また放課後に余裕があれば手助けをお願いできますか?」

 

「もちろんよ。報酬は貰ってるしね」

 

「……報酬って?」

 

 簪が不思議そうな顔をする。

 

「手伝ってもらう代わりに、一日密着取材を許可したんだよ」

 

「スペインの英雄に密着取材なんて、プロの記者でもしたことがない快挙よ。わたし、今から腕が鳴るわ!」

 

 沙良は、苦笑いをするが、その表情に嫌そうな感情は見当たらない。

 

「では、みんな、また放課後に」

 

 こうして、激動の昼休みが終わったのであった。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 放課後、沙良は整備室にいた。

 薫子とフィオナは稼動データの取り組みを担当している。

 スラスター組は、アイデアを貰いに沙良に話を聞きに来ていた。

 

「そうだなぁ、簪は機動型がいいんだよね?」

 

「うん」

 

「元々の打鉄が防御型だから、取り外せるところは取り外しちゃいましょうか。簪は、こんなのがいいってアイデアある?」

 

 元々が防御型のため、シールドや装甲など、取り外せるところはたくさんある。

 

「……ウィングスラスター……とか?」

 

「ありだね。よし、肩部のシールドを取り外して、大型のウィングスラスターを二つに纏めようか」

 

「でも、微調節難しくない?」

 

「それなら補佐ジェットブースターを前後二基搭載すればいい。装甲もよりスマートなラインに変更してるし、格闘戦における運動性を活かす構造に近くなると思う」

 

「OK。じゃあ、一回それでやってみようか」

 

「よろしくお願いします」

 

 スラスター組がもとの配置に戻ると、沙良と簪は元の話し合いに戻る。

 

「じゃあ、話し合いに戻ろうか。武装の話だけど元が第二世代型の機体ってことで、拡張領域を利用するから、専用武装は積めても多くても四個、バランスを考えるなら三個が限度だと考えといて」

 

「……近距離武装が一つと、狙撃武装が一つ……」

 

「あとはミサイルとか面制圧武装もあったほうがいいかな」

 

「そこは、任せる」

 

「了解。近距離とかなんかリクエストとかある?」

 

 簪は、少し考えるように、瞳を閉じる。

 

「薙刀……かな」

 

「薙刀かぁ、いいね! 僕のカイラにも薙刀型の武装があるからそれのデータを使おう。ただの薙刀はつまらないから、何かしらギミック付けたいね」

 

「私、力弱いから、そこを……」

 

「んー。あ、そうだあれを使おう!」

 

「あれ?」

 

「これだよ」

 

 沙良は、自らのパソコンから、一つのデータを取り出す。

 それは、最近発表された新しい技術。

 

「超高速振動機構……? これって……!?」

 

「そう、最先端技術の一つだよ。これによって、触れるだけでも絶大な切れ味を誇ってくれる」

 

「……超高速振動薙刀」

 

「そう、それを、接近武器にしよう。名前、考えといてね。じゃあ、狙撃はどうしようか」

 

「荷電粒子砲がいい」

 

 簪のリクエストに何の迷いもなく頷く。

 

「わかった。それでいこう」

 

 簪は、少し考えたような素振りを見せる。

 そして、口を開く。

 

「最後の武装は、沙良が考えて」

 

 それは沙良に託す言葉。

 

「いいの? 自分で言うのもあれだけど、相当馬鹿げた武装作っちゃうよ?」

 

 それは、オルコット戦でも利用した空中機雷等を見ればわかるだろう。

 

「決闘見たから、わかってる」

 

 簪もそれはわかっているようだ。

 

「わかった、任されたよ。あっと驚くような武装作ってあげるから」

 

 沙良は、今出たアイデアを、パソコンに打ち込む。

 

「簪は、粒子砲のプログラムをお願いするね」

 

 簪はこくりと頷く。

 

「薙刀は僕がやるよ。とりあえず三日後には形にしてくるから」

 

 簪は、その発言に恐怖すら覚える。

 それは、自らが一回、一人でISを作ろうとしたからわかる。武装を一人で三日だなんて、相当馬鹿げている行動だ。

 しかし、沙良ならやり遂げるのだろうと、根拠もなく思ってしまう。

 沙良は、先ほどのアイデアを既に形にしているようだ。今は、空中投影ディスプレイを見ながら、キーボードを叩いている。

 簪も、自分の仕事となった、粒子砲のプログラムを作り始める。

 これから、沙良も簪も、私語をすることなく、キーボードに向かうのだった。

 

 




一応無線は飛んでましたが、処理が遅いため執筆に時間がかかっています。

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