IS 深海の探索者   作:雨夜 亜由

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休日を利用して結構書き進められたので、本日は二話投稿してます。ご注意ください。


第十話 決闘

 アリーナ管制室。

 そこには二つの人影があった。

 記録やデータを取るため、モニターに座る山田真耶と、現場監督責任がある織斑千冬だ。

 

「はぁぁ……。すごいですねぇ、深水くん。ISに慣れているとしか思えない機動ですよ。それに、このデータ。IS全体のシンクロ率が並ではありません」

 

「慣れているとしかとしか思えないではなく、慣れているんだ。」

 

「深水くんは、織斑くんと同じで最近ISを動かせるようになったわけではない。そういうことですか?」

 

「山田先生。深水が使うISについて、何か知っていることは?」

 

「確か、スペインが作り上げた、第二世代機最後進機ですよね。たしか、その開発には天才科学者と言われる少年が関わっているという噂がありましたが……まさか!?」

 

「関わっているというレベルではない。スペインが開発しているシークエストシリーズは全て沙良が構想し先導して開発したものだ。私の知る限り、あいつは十年前の時点でISを動かすことに成功している」

 

「十年前と言いますと……」

 

「そうだ、『白騎士事件』が起きた年だ」

 

「このことは……」

 

「もちろんオフレコで頼む。他の先生にもな」

 

 真耶に伝えたのはいざという時に動きやすいようにとの考えだが、純粋に真耶を信頼しているということもある。

 

「わかりました。……どうりでシンクロ率が高いんですね。自らが作った機体に乗るって言うのはどういう気分なんでしょう」

 

 その言葉に千冬が一瞬顔を顰めたのに、真耶は気付くことはなかった。

 

「それにしても、なんで攻撃しないんですかね。深水くんの腕なら充分攻撃するチャンスはあると思いますけど」

 

「初めて相対する機体はこういう戦い方なんだ。あいつは」

 

「と、言いますと?」

 

「データ収集だ。研究職の血でも騒ぐのか知らないが、安全にデータが取れる機会があれば、あいつは決まって持久戦に持ち込む。もちろん勝つために罠なりを仕掛けているだろうな。相性で考えるのならば空中機雷か」

 

「織斑くんの時といい、さすが姉弟ですね。そこまで分かるなんて」

 

「まぁ、なんだ。あれも私の弟だからな」

 

「今回は、照れないんですか?」

 

「…………」

 

「いたたたたたっっ!!!!」

 

「先程の試合で学習したと思っていたが、そうではなかったようで」

 

「す、すみませんすみませんすみません!」

 

「私はからかわれるのが嫌いだ」

 

「はっ、はいっ! わかりました! わかりましたから、離し――あうううっ!」

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 何故、彼は攻撃してこないのだろう。

 先程から、攻撃できる隙はあっただろうに、彼は武器を手に持つことすらしない。

 だからといってワンサイドゲームになっているとは到底思えない。

 何故、絶対的な隙が出来ても、攻撃がこないのだろう。

 試合開始から十分。

 彼は避け続けていた。

 今ではセシリアは彼を打ち落とすために全力を使っている。

 それでも、それには至っていない。

 的確に回避し、少し被弾したくらいではビクともしない機体。

 

(いったい、なんなんですのあの機体は!?)

 

 セシリアは焦りが見えていた。

 

「そろそろ、いいや」

 

 彼はそういい、回避行動を止めた。

 

「もう諦めましたの?」

 

「いや、もう見飽きたってことさ。『カイラ』、Diving System解除」

 

 彼が何か言ったと思うと、急に彼のISが変化した。

 それは最初に見たときと同じ。今までの形態と違い、装甲が薄くなっている。

 

「わざわざ、やられやすくなるなんて、お馬鹿さんなのですわね!」

 

 セシリアは彼に主砲を向ける。しかしその引き金が引かれることはなかった。

 

「なっ――」

 

 狙撃された。それも的確に銃身を狙って。

 

「こっからは僕が指揮棒を振らせて貰うよ」

 

 彼の手に持たれたスナイパーライフルがこちらに銃口を向けていた。

 拙い。

 同じ狙撃者としての勘が訴えていた。

 避けきれない。

 

「くっ……」

 

 銃弾は右肩に当たり、装甲を地面に落としていく。

 

「負けませんわ!」

 

 セシリアはビットを動かし、抵抗の狼煙とする。

 先程までの装甲を解いたのだ。当たれば相当なダメージが期待できるはず。

 しかし、その光線が当たることはない。

 

「なぜ、当たりませんの!?」

 

「ビットは右後方に誘導、左前方がけん制。意識を後方から逸らすのが主流」

 

「あなた、まさか!!」

 

「ビットを操作してるときは本体がおろそかに」

 

 彼はセシリアにアサルトライフルを向ける。

 それは左足に被弾する。

 

「っ……!」

 

 セシリアはすぐさまスターライトmkⅢを構える。

 

「本体に気を取られると、ビットがおろそかに」

 

 いつの間にか持ち替えられたスナイパーライフルが三つのビットを打ち落とした。

 

「まだ一つ残ってましてよ!」

 

 スターライトを構えながら、あえてビットを操作する。

 装甲が薄くなった分、ビットでも充分エネルギーを削れる。

 だから、本体に気を引き付けてビットで撃ち抜く。

 そのはずだった。

 

「ビットは、僕の反応が一番遠いところから射撃を始める」

 

 セシリアが見たのは、ビットの方を向かずに、ライフルだけをそちらに向け、ビットを打ち落とす彼の姿。

 拙い拙い拙い。

 読まれている。

 自分の行動パターンが。

 いや、読んでいるというよりは、

 

「調べつくされている?」

 

 一度、体勢を立て直そう。

 セシリアは、ひとまず、宙に、上に逃げ場を求める。

 空中戦においては上を取ったほうが有利なのは明白だ。

 安全圏まで一度下がろう。

 

「きゃあぁ!!」

 

 しかし、そこは待っていたのは安全圏ではなかった。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 かかった。

 沙良はセシリアが上に逃げ場を求めたことに作戦の成功を確信した。

 そして、宙では、沙良が望んだとおりの光景が広がっていた。

 爆発だ。

 元は水中戦に用いていた機雷をIS用に改造したもの。

 それは、使用者の遠隔操作で爆発するものと、エネルギーの接触により、爆発するものの二つがある。

 それを、沙良は避け続けているときに、気付かれないように宙に設置し続けていた。

 それも、一つだけではない。

 一つの爆発が、また近くの起爆のきっかけとなるように幅広く。

 しかし、密度は濃く。

 これが今回用意した装備の一部。

 

 スペイン製、空中機雷。

 

 その威力は一発では小さいのだが、一斉に、多くが爆発すると先程までエネルギーが大量に残っていたはずのブルーティアーズの装甲を破壊し、シールドエネルギーを二桁まで削るほどの威力を誇る。

 初見相手にのみ使える兵装。

 一度使った相手にはもう通用しないであろう装備。

 それを沙良は惜しげもなく公開試合に持ってきていた。

 次に戦うときはどうするのか。

 簡単だ。

 違う武器を使えばいい。

 それが開発者としての顔を持つ沙良の戦い方だった。

 

「爆音の奏でるカルテットはお気に召したでしょうか?」

 

 沙良は、爆発の余波に晒されて動けなくなっているセシリアに問いかける。

 正直な話、これで墜ちてくれなければ勝ち目は薄い。これはセシリアがこちらの実力と戦い方を知らなかったから出来た技だ。最初から真っ向勝負をしていたならばとっくに負けていただろう。パッとみた感じ、派手で沙良が押していたように見えるがそうではない。セシリアの狙撃も避け続けたように見えるが、実際には相当数当たっており、攻撃しないのではなく避けるのに必死だっただけのことである。先ほどのブラフも成功しなければトラップにかけることはできなかっただろう。確信できるデータになるまでにはあと三十分ほど実戦を積みたいところだったが、成功したので結果オーライとしておこう。

 

「え、ええ。とても乱暴な音色でしたわ……」

 

 沙良の軽口に乗ってくれるセシリアだったが、そのシールドエネルギーは、口が言うほど余裕を見せてはいない。

 その数値は19。

 あと一撃、何らかの攻撃が当たった時点でエネルギーが無くなってしまうのは目に見えている。

 だが、むやみに突っ込んで行くこともできない。自らのエネルギーも154とかなり消費してしまっている。おそらくあの狙撃ライフルを受けてしまうとこちらの負けだ。

 だから沙良は、あえて隙を作るためにとある事を聞いてみた。

 

「ねえ、オルコットさん。一夏はどうだった? 好きになりそう?」

 

「な、なな何を言ってますの!?」

 

 そう言いながらも、沙良はライフルをセシリアに向けて発砲していた。

 急に予想外のことを言われ、反応が遅れたセシリアにそれは避けることができなかった。

 

「ん。脈ありとは言わないけど、気にはなっている、と」

 

 沙良は、わざとらしくため息をつくのであった。何ともしまらない勝ち方だ。

 

『試合終了! 勝者、深水沙良!』

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 セシリアとの戦いに勝利した沙良は、そのままピットに留まる。

 今はエネルギーを回復するために供給機に機体を任せている。

 エネルギーが回復しだい、一夏との試合が始まる。

 沙良は、一夏の試合はデータを取得することなく、試合開始直後に勝負を決める気でいた。

 おそらく、一夏には何かしら言われるとは思うが、自分の身が一番可愛いのは誰だって同じだろう。

 

――エネルギー残量850 MAX――

 

 カイラのエネルギーが回復したようだ。

 カイラのエネルギー量は他のISに比べ、格段に多い。

 普通のISは600に乗ればかなり多いほうだというのに、沙良のISは800を簡単に越している。

 沙良の機体だけではなく、シークエスト全般もエネルギー量が多く作られている。

 それが、シークエストの持ち味である長時間戦闘を可能にする。

 

「山田先生、こちらの準備は出来ました」

 

 通信で、呼びかけると、すぐに返事が返ってくる。

 

「わかりました。織斑くんは先にアリーナに出ています。出撃が可能ならもう出ちゃってください」

 

 沙良は、カイラを纏い、そのままピットを出た。

 そのまま、空に身体を任せると、ハイパーセンサーが一夏の姿を捉えた。

 始めて見たときとは違う形に、少しばかりの驚きを感じる。

 

――あの短時間でフィッティングを行ったってことか。

 

 その洗練された白は、機動性重視だと簡単に読み取れる。

 そして、手に持つブレードには心当たりがある。

 

(雪片に似てる)

 

 しかし、雪片であるわけがない。あれは千冬の武器だ。

 そうすると考えられるのは、雪片の後継武器。

 考えられなくもない。なんせあの機体を作ったのは束なのだから。

 

(姉さんのことだから、一夏の機体も、千冬姉と同じ接近に特化した機体を作ったんだろうな)

 

「よう、沙良。無事に勝ったみたいじゃないか」

 

「当然。一夏こそ勝ったじゃない。おめでと」

 

 宙に浮かび、先程の試合を思い出す二人。

 

『それでは戦闘を始めてください』

 

 その思考を遮るかのように、真耶の声が届く。

 そのアナウンスは試合開始を告げる。

 

「それじゃあ、行くぞ!」

 

 一夏がその手にブレードを構えて、沙良に一直線に向かっていく。

 

――速い。でも、何処を狙ってるかがバレバレだよ

 

 しかし、沙良はそれを避けようともせず、堂々と構えている。

 そして、一夏はありえない発言を聞いた。

 

「この試合、棄権します」

 

 それは、この試合の終わりを告げるもの。

 沙良はゆっくりと下降していく。

 

「……は?」

 

 一夏は振りかぶったブレードを止めて、呆けることしかできないのだった。

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

「沙良! いったいどういうつもりだ!?」

 

 ISを解除した一夏が、肩を怒らせて沙良を追及する。

 しかし、沙良はどこ吹く風と受け流している。

 

「どういうつもりだって言われてもねぇ。一夏、何のために決闘してたか忘れたの?」

 

 一夏はポカンとした顔をしている。

 

「ん? そりゃあ、クラス代表を決め……あぁぁぁ!!」

 

 一夏もようやく気付いたようだ。

 

「よかったね、一夏。二勝できたじゃん」

 

「さ、沙良、お前……」

 

「馬鹿だなぁ。さっきの試合で勝った方がクラス代表なんだから勝っちゃだめじゃないか。それに、一夏とは決闘する理由ないし、負けても何も言われないしね。おめでとう、クラス代表」

 

「うわぁぁぁ!」

 

 一夏は頭を抱えて叫ぶ。

 実際はデータを入手できるだけ入手してしまおうとも考えたのだが、あのような、見た目からして判断できるような接近戦特化型の稼動データは必要としてなかったため、呆気なく降参したわけだ。

 

「本当、馬鹿だなぁ」

 

 沙良の皮肉は、一夏に深く刺さるのだった

 

 

 

 

     ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 翌日の朝のSHR。

 

「では、一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

 真耶は嬉々として喋っている。そして、クラスの女子も楽しそうに盛り上がっている。もちろん沙良も盛り上がってるほうに属している。その中で、暗い顔をしているのは一夏だけだった。

 

「先生、質問です」

 

 一夏が挙手。

 

「はい、織斑くん」

 

「決闘において、棄権するなんて有りなんですか?」

 

「まだ根に持ってるの一夏?」

 

 沙良に押し付けようという魂胆はバレバレである。

 

「そうだぞ、勝ったのだからいいではないか」

 

「そうですわ、一夏さん。貴方は、このセシリア・オルコット相手にどんな形とはいえ勝利を収めたのですから、クラス代表になるのは当然ですわ」

 

 セシリアはいつの間に一夏を名前で呼び始めたのだろう。箒は、怖い顔でセシリアを睨んでいる。

 

「これは、一夏のためでもあるんだよ?」

 

「どういうことだ、沙良?」

 

「IS操縦は実戦を積むのが一番の上達する道だからね。その点、クラス代表は他の生徒と比べて圧倒的に実戦回数が多いからね。あと、面白いし」

 

「最後のが本音だな!? 本音なんだな!?」

 

「もう、そんなに興奮しないでよ。冗談だよ」

 

「だよな、面白いとかそんな理由じゃないよな」

 

「前半部分が」

 

「やっぱそんな理由か!!」

 

「もう、なにそんなに興奮してんの? 何かあったの?」

 

「沙良のせいだろ!?」

 

「一夏はわかってないなぁ」

 

 この状況が一夏以外には求められてるってことが。

 

「いやあ、深水君はわかってるね!」

 

「そうだよねー。せっかく世界で二人だけの男子がいるんだから、同じになった以上持ち上げないとねー」

 

「私たちは貴重な経験を積める。他のクラスの子に情報が売れる。一粒で二度おいしいね、織斑くんは」

 

 女子の発言が、一夏を追い詰めていく。

 

「ほら、諦めなよ一夏」

 

「持ち上げるなら沙良も持ち上げてくれよ……」

 

「何、呟いてんのさ」

 

 というより、

 

「僕だって、副代表なんだから、自分だけが面倒くさいと思わないでよね」

 

 そうなのだ。

 沙良が副代表になってしまったのだ。

 

「くそぅ、あの時に負けておけばよかった……」

 

 データを取るだけ取って負ける。

 

――それはそれで嫌だなぁ。

 

 結局、ちっぽけなプライドが働くだろう。

 

「そ、それでですわね」

 

 コホンと咳払いして、あごに手を当てているセシリア。

 

「わたくしのように優秀かつエレガント、華麗にしてパーフェクトな人間がIS操縦を教えて差し上げれば、それはもう、みるみるうちに成長を遂げるに違いありませんわ!」

 

「あぁ、一夏と一緒にいる理由が欲しいのか」

 

「沙良さん!!」

 

 何故叱られたのか分からない沙良は、一夏に慰めてもらう。

 

「僕、今なんで怒られたの?」

 

「気が立ってたんだよ、きっと」

 

 一夏も分からないらしい。

 

「あいにくだが、一夏の教官は足りている。指導は沙良が行うし、相手は私が直接頼まれたからな」

 

「あら、あなたはISランクCの篠ノ乃さん。Aの私に何かご用事かしら?」

 

「ら、ランクは関係ない! 頼まれたのは私だ!」

 

 箒が見ていて可哀想になってきたので、助け舟を出す。

 

「ランクで強さが決まるわけじゃないでしょ? 僕だって最初はランクはBだけど、オルコットさんには勝ったわけだし。それに訓練機で出した最初の格付けなんて大した意味は持たないよ」

 

「沙良……」

 

「座れ、馬鹿ども」

 

 千冬姉がすたすたと歩いていってセシリアと箒の頭をばしんと叩いた。

 沙良は最初から立ち上がっていないため、叩かれるようなことはなかった。

 

「一夏。何、下らなそうな事考えてるの? 顔に出てるよ?」

 

「その得意げな顔はなんだ。やめろ」

 

 出席簿が一夏の頭を目掛けて振り下ろされる。

 

「うわぁ痛そう……」

 

「お前たちのランクなどゴミだ。私からしたらどれも平等にひよっこだ。まだ殻も破れていない段階で優越を付けようとするな」

 

 そういう千冬だが、その瞳は沙良に「お前は例外だがな」と言ってくる。

 沙良のように何年もISに乗っていれば、ランクなど大した目安じゃなくなるだろう。

 もちろん、それが読み取れないような鈍さはしてない。肩をすくめることで返事としておく。

 さすがのセシリアも千冬には反論は出来ないようだ。何か言いたそうな顔をしながらも、黙り込んでいる。

 

「代表候補生でも一から勉強してもらうと前に言っただろう。くだらん揉め事は十代の特権だが、あいにく今は私の管轄時間だ。自重しろ」

 

――千冬姉も外ではしっかりしてるよなぁ。

 

 ドイツでも教官と呼ばれ慕われていた千冬も、部屋に入るとカリスマが一瞬で剥がれ落ちる。

 寮長室など、どうなっているのか想像すら出来ない。

 

「……お前たち、今何か無礼なことを考えていただろう」

 

「「いえ、滅相もありません」」

 

「……」

 

(一夏、なに棒読みで答えてんの!?)

 

(いや、沙良だって心こもってなかったじゃねえか!)

 

「ほう」

 

 頭に嫌な衝撃。それも今までのように面での打撃ではない。突きに近い。

 

「痛ったーい!! 角! 今、角で殴った!! てか、一夏? 一夏!? ちょっと返事して!?」

 

「何か言いたい事はあるか?」

 

 凄む千冬の前に、大人しく頭を下げる。

 

「す、すみませんでした」

 

「わかればいい」

 

「こうして、一夏は理不尽な暴力の前に永遠の眠りにつくのであった」

 

「死んでねえよ!?」

 

「静かにしろ」 

 

 もう一発、頭に重い一撃を頂戴する一夏を見て、けらけらと笑う。

 

「馬鹿だなぁ一夏」

 

「お前もだ」

 

「痛っ!!」

 

「全く、お前らは……。一番手の掛かるのが、身内だとはな」

 

 千冬は、教壇に出席簿を置くと注目を集める。

 

「クラス代表は織斑一夏。依存はないな」

 

 綺麗に揃った返事が、クラスに響く。

 それを、一夏だけが嫌そうな顔をして聞いているのだった。

 

 


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