風の聖痕 新たなる人生 作:ネコ
いつも、自分を鍛えていたのが誰なのか。和麻は薄々と気が付いていた。それでも、普通はここまでやるものなのかと、疑問を持っていたために、確信には至っていなかった。
神凪厳馬。神凪宗家の中でも二番目の強さを誇っている。いや、現在では宗主の足が悪いため、実際の戦闘となれば一番だろう。
その事を聞かされたのは、神凪の宗主自らの呼び出しを受けたことから端を発する。始めに、目の前に座るように促された後に黙していると、宗家、分家などの説明を、何も言わなくとも、ひとりで勝手に話し始めてきたのだ。和麻にとっては、聞きたいことを勝手に言ってくれる上に、自分自身が余計な事を言わないで良いため非常に楽であった。
「時に、厳馬……父親とはうまくやっておるか?」
急な話題転換に、和麻は瞬き、宗主……神凪重悟を改めて見つめる。今までの話は、ただの前置きで、重吾としての本題はここからだったのだ。和麻としては、前置きにこそ聞きたいことが山ほどあったのだが……。
いきなり、神凪の宗家、分家の話から始まり、生業へと繋がって、自分の父親の性格や強さなどを説明されて、最初は何が言いたいのか不明であったが、ここに繋げたかったのだと知る。しかし、内容が内容だけに、そう簡単にはその話の内容を信じることはできないでいた。それでも、相手の目は真剣そのもので、嘘を言っている気配はない。それ以前に、このような子供を、一族の長がわざわざ呼び出してまで騙す理由が見つからなかった。
「うまく……と言うのがどう言うことか分かりませんが、稽古はつけていただいています」
「そうか」
和麻の言葉に、ホッとひと安心しながら重悟は続ける。心配だったのだ。和麻は一族の中で初めて炎の精霊の加護を持たずに産まれた子だったため、周囲の子供、果ては大人まで、和麻に対し、厳しいを通り越して虐待をしていたのだから。もし、親までそうなのでは……と、一族の長であると同時に、親友の子供としても心配していた。
「いつもどのようなことをしているのだ?」
それは何気ない質問だった。会話を繋げるためのほんの些細な質問。
「ひたすらに、父上の攻撃を避ける訓練です」
「……それだけか?」
「はい」
「…………」
それを聞いた重悟は黙り込んでしまった。それは訓練と呼べるのか。そのようなことが頭の中を駆け巡る。そして、それをなんの表情も崩さずに言い切る和麻をじっと見つめた。
特に今の訓練になんの不満もない和麻は、自分を見つめてくるだけで、何も言わない重悟の事を、逆に不審に思ってしまう。
生業の話で、霊体を祓う仕事をしていると自分で言っておいて、この訓練内容に不満があるようだったからだ。
和麻に炎を自在に操ると言う感覚はないし、操れない。理由は不明と言うことで、その説明も受けた。通常であれば、邪なものは、神凪の炎で浄化することが出来る。しかし、自分にはそれが出来ない。祓うことが出来ないのだ。それならば、足手まといにならないよう、避けることへ重点を置いた訓練に、疑問など挟もうなどとは思わなかった。
「辛かったらいつでも言うのだぞ。無理をする必要はないのだからな」
「御心使い感謝します」
心から言っているであろう重悟に、深々とお辞儀をする。そして、先ほどの説明であったことが本当の事かを確認するために、失礼に当たることを知りながらも尋ねた。
「もしよろしければ、先程言われました神炎を御見せ願えますか?」
「それは構わんが、お主の……いや。よかろう」
重悟は自分の父親に見せて貰えと言おうとしたのだろう。しかし、先程の訓練内容を聞いた後では、厳馬に見せてもらうのは、逆に危険であると判断し、途中で言葉を飲み込み、自ら見せることを了承する。未だに見たことのないであろう神炎を。
重悟が集中し出すと、次第に和麻の周囲……というよりも部屋自体が暑くなってくる。この状態であれば、炎の精霊の声が聞こえるとのことだが、和麻には全く何も聞こえない。聞こえはしないが、炎が目の前で具現化し、それが金の炎から紫の炎へと変化していく様に、和麻は一時魅了されていた。実際に見るまで話半分なところもあったのだ。それがこうして見せられれば、前置きで話された内容を肯定せざるを得ない。
部屋の熱はその炎が吸収してしまったかのように納まり、宙を螺旋を描きながらはしる。それは、初めて見る者には幻想的な光景だろう。和麻が魅入ったことからもそれは窺える。
「これが神炎と呼ばれる炎だ。
精霊の声が聞こえる……ということはないか?」
「……残念ながら精霊の声は聞こえません。御手数をお掛けして申し訳ありませんでした」
「要らぬことを聞いたな……。
なに、遠慮することはない。この程度で良ければいつでも見せるぞ」
重悟が空中を見据えると、宙に浮かび動いていた炎が一瞬にして消え失せた。それは本当に一瞬のことで、まるで何もなかったかのように思わせる。重悟は和麻が炎に魅入ったことに顔を満足したように綻ばせた。
「長らく引き留めて悪かったな。もう、戻ってよい」
「こちらこそ、貴重な御時間を割いていただきありがとうございます」
座して礼を述べてから立ち上がり、再び礼をして部屋を出て行く。それを重悟は黙って見送っていった。
和麻が去った部屋に居たのは、重悟だけではなかった。もう一人いたのである。そのもう一人へと重悟は声を掛けた。
「周防」
「ここに」
重悟の呼びかけに応じて、何も無かった空間に突如としてスーツ姿の男が現れる。重悟はそれが当然であるかのようにして、その現れた男へと話し掛けた。
「どうも以前と違うように見えるのだが……気のせいだろうか」
「不審な点がいくつかあります」
「何だ?」
重悟は周防と呼んだ男へと顔を向けて続きを促す。気に掛けていた子供が、変わったように見えるのだ。気になるのは仕方ないだろう。
「まず一点目。炎に対する嫌悪感が無いように見受けられます。炎によって火傷が絶えなかった日がないほどだったにも関わらず、です。
そして二点目。まるで神凪の事を何も知らないかのようでした。更に言えば、炎術師という言葉自体も、知らなかったように見受けられます」
「……記憶が無い……ということか?」
考えたくはない可能性を口に出す。否定して欲しいという思いが込められていた。
「厳馬様が訓練を施す切欠ですが、火傷と打ち身による重傷を負っています。
もしかすると、それが原因かもしれません」
「あの者たちは……」
否定ではなく肯定的な言葉に、重悟は右手で顔を押さえて、分家の者たちのことを嘆く。
神凪の一族は炎術師として誇り……プライドを持っている。そのような中で例外が発生したのだ。それが分家なら未だしも、宗家の者が炎術師としての才が無い。分家の者にとって、それは汚点でしかなかった。その炎術が使えない一人のせいで、自分たちまで貶められると考えるようになってしまったのだ。それが子にまで浸透するのに、そう時間も掛からなかった。
そして、大人が直接手を下すことは、親が厳馬であることなどからなかったが、子供は違った。練習と言っては炎を当て、それを見て笑い合う。炎の加護があるため、子供たちには炎による火傷や、それに伴う痛みは分からない。ただ、火達磨になって転げまわる和麻を見て笑っているだけだった。
重悟としても、親に注意を促すが、親は恐縮しながらも、「子供のすることです」と言って受け流してしまう。和麻と同年代の子供に対して処罰もし難く、見かけては注意するようにしてはいるが、全く効果は無かった。それは、和麻の親である厳馬が、黙認してしまっていることが、一番の原因ではあるのだが……。
「そして三点目。学園に関してです。
成績優秀で模範的な生徒だったのですが……」
「まさか……学園で何かあったと申すのか?」
重悟は驚きの言葉と共に確認する。先ほどの口の聞き方や対応などは、以前とそう変わりはないように重悟には見えたからだ。
「成績は優秀です。しかし、授業中の態度は、あからさまに変わっておりました……。まるで別人です」
数日、周防は和麻の観察をしていた。理由はもちろん、重悟に頼まれたからだ。以前の状態をそれほど知らないため、他の者から事情を追求するなどして、情報収集の結果を説明していく。
「見たところ、なにか悪霊に取り憑かれたわけでもない……やはり、記憶喪失の件が濃いようだな……」
「どこまで失っているか分かりませんが……調べますか?」
「いや、様子を見るだけに留めておけ。
厳馬がおるのだ。そこまで、こちらが手を出すこともあるまい」
子供の状態くらいは、親である厳馬の方がよく理解しているという考えのもと、話は進められる。記憶喪失などではなく、全くの別人だということを、その能力ゆえにあり得ないことと断定してしまったがために、それ以上調べようとはしなかった。
ある程度厳馬の攻撃を避ける事ができるようになった頃。神凪の生業である祓いの仕事に、同行することとなった。
移動の最中、厳馬は何も語らず、また、和麻も何も話さない。車中は重苦しい空気に満ちていた。一番居心地が悪かったのは、運転手だろう。厳馬は明らかに話し掛けるなといった気配を醸し出しており、かといって、厳馬を差し置いて、その息子である和麻に話し掛けるというのも難しかったし、話し掛ける気もなかった。
和麻は、到着するまで、終始窓の外の景色を眺め、地図を頭の中に入れていく。
仕事の現場にたどり着いてみると、そこには男が待ち構えており、和麻たちに気が付くと慌ただしく駆け寄ってきた。
「お待ち申し上げておりました」
男は焦っているのか、ハンカチ片手に顔に浮き出た汗を拭き取りながら、厳馬へと話し掛ける。その顔には何故か、恐怖の感情が客観的に見て分かるほど浮かんでいる。
祓う相手が怖いのか、それとも神凪が怖いのか。恐らくは後者だろう。対応は運転手が行い、その内容から推察できた。
「この度は、神凪宗家の方、それも厳馬様直々に祓われる。失礼のないように」
「それはもちろんでございます!」
恐縮する相手に満足したのか、運転手である分家の者は案内をするよう促す。そうしてついて行った先には、豪華な一軒家が存在していた。家と言うよりも屋敷だろう。塀が屋敷を取り囲み、その高さも軽く二メートル以上はある。案内していた男は、恐る恐るといった感じで、門を開けて後ろに下がる。案内はここまでしかできないことを言わずとも表していた。
「この先におります。敷地内からは出ないようなので、範囲としては、この門からとなります。御注意ください」
「余計な心配などしなくともよい。
お前は帰って沙汰を待て」
案内役の男の心配など不愉快だと言わんばかりに、分家の者は高圧的に言い放つ。案内役の男は、頭を何度も下げ謝りながら、もと来た道を急いで戻っていった。
「それでは、私はここにて厳馬様をお待ちしております」
分家の者が言ったその言葉には、自分は何もしないと明言している他にも、和麻を意図的に無視する類いのものだったが、厳馬はその言葉に特に反応などせず、和麻へ先に行くよう促した。
「和麻。中へ入れ」
「───? 分かりました」
厳馬自ら祓うのではないのかと、疑問に思いながらも、和麻はなんの躊躇もなく門を潜り中へと入っていく。未だに霊体を祓う場に居合わせたこともなく、その危険度についても全く知らないのだから無理もない。
それは唐突に感じ、反射的に避けた。
自分の身に何が起こったのか……と、避けた先から元の場所を見てみる。元居たその場所には、門を潜ったときには無かった物───細い木の破片が地面に突き刺さっている。避けたのは正解だったのだ。もし、あの場にそのままいたのであれば、木の破片が身体に刺さっていたことだろう。
(危なかった……)
和麻は冷や汗を掻きながら、木の破片が飛来してきたと思わしき方向へと顔を向ける。そこには、無数の物体が宙に浮かんでいた。それは、木に限らず石や砂、果ては人の身体まで浮かんでいる。その浮かんでいる人の顔に生気はなく、ところどころが腐敗しているところから、死んでいるのが分かった。おそらくは、ここに足を踏み入れて死んだものの姿なのだろう。
それらが次々と飛来し、和麻は懸命に避ける。避ける事ができたのは、厳馬の訓練の賜物だった。
それまで、楽観的に考えていたことを和麻は後悔し、すぐにこの場へ入る前の案内役の男の言葉を思い出す。
敷地内からは出ないという言葉が本当であれば、潜った門を戻ることで、この危機からは逃れることができるのではないか。そう思い扉の方を向いた。しかし、その考えを嘲笑うかのように、門は目の前で完全に閉まってしまう。
但し、残されたのは和麻一人ではなかった。父親───厳馬がいたのである。宗主からの話や、先ほどの分家の対応……いつもの訓練で実力があるのは分かる。しかも、その顔には微塵も怯えたような表情など浮かべていなかった。それを見て和麻は落ち着きを取り戻す。この場には、神凪一族最強と言われる厳馬がいるのだから。
再び、浮かんでいる物体へと目をやると、今度は一斉に浮かべた物を飛ばし始めた。今度は避けられないように一気に、だ。その攻撃には避ける隙間などない。
被害を最小限にするために、頭を腕で庇い、身体を縮めて当たっても致命傷の少ない方へと避けて耐えるが、その攻撃で受けた傷は、そう何度も受けられるようなものではなかった。
(痛い!! 父親は何をやってるんだ!?)
痛む身体を立たせながら厳馬の方を窺うと、そこには入った時と同様に、無傷で、いつものように腕を組む厳馬の姿があった。その周囲には、金色の炎が薄すらと膜を張るようにして佇んでいるのが見える。
何故なにもしないのか……そのような考えが表情に出ていたのだろう。厳馬から突拍子もない事を伝えられる。
「この場に憑いている悪霊を滅してみせろ。
ここで見ていてやる」
「───は?」
何度も言わないとばかりに、厳馬は口を閉ざしてしまい、微動だにしない。この時ばかりは、さすがに痛みを忘れて、口を出さずにはいられなかった。
「倒す手段が無いのでそれは無理です!!」
それでも厳馬は、何も言わず、動こうともしない。常日頃の立ち居振舞いから、行動を起こさないことは明白だった。しかも、出入り口を塞ぐ形で立っているため、門から外に出ることも叶わない。
取り敢えず、次の攻撃が始まる前に移動するべく、今いる位置と周囲を確認する。場所は屋敷の庭で、石像や樹木などが少々ある。樹木は細く、和麻を庇えるような面積は無い。となると、目指す目標は石像の影。その石像はなかなか大きく、和麻が隠れるには十分な大きさだった。
敵の攻撃には物を浮かせるまでに時間が掛かるようで、ゆっくりと石などが浮かんでいく。それに加えて、重量のある物は浮かせることができないようだった。これは、石像を動かせないことからも分かる。しかし、一度浮かせてしまえば、厳馬の攻撃ほどではないが、その物体を飛ばす速度は浮かべるのに比べて早い。
和麻は石像で攻撃を避けた後、すぐに屋敷の周りを走り始めた。門から出す気はないだろう。しかし、他の場所ならばどうか……。
屋敷を一周するが、登れそうな場所も、裏口らしき場所も見当たらず、ただ一周するだけで終わってしまう。
ただ、無駄にはならなかった。この場所に憑いている悪霊が、和麻へと狙いを定めたのか姿を表したのである。
薄い霧状の悪霊に対して動揺はしたが、既に物が独りでに浮遊する状態を見ていたことと、重吾に神炎を見せてもらっていたことから、固まったのは数瞬ですんだ。
逃げられないのなら───と、石を拾い投げつけるが、悪霊の霧状の身体を素通りしてしまう。
そして、それを嘲笑うかのように悪霊は和麻へと近付いてきた。和麻は悪霊から逃れるために、再び走り出すが、その速度は和麻より少し遅い程度。悪霊に体力があるのか分からないが、先に和麻の体力が切れるのは明白だった。しかし、和麻は諦めずに走り続ける。
悪霊が和麻しか気にしないように、ギリギリのラインを保ちながら目標へと然り気無さを装いながら走って行く。
捕まるまであと少し───そう見えたところで、一気に横へ飛びすさった。悪霊はそのまま突き進み、和麻が目標としていた場所に当たって燃え尽きる。
和麻が利用したのは厳馬であった。厳馬が動かないのをいいことに、悪霊の意識を和麻へと集中させて、わざとギリギリのところで追わせ、厳馬に当たる寸前で避けたのである。
和麻には、それ以外に、死ぬことを除き、この場を切り抜ける手段がなかった。
(やっと……終わった……)
荒々しく息を吐く和麻を、いつもの冷めた目で見た厳馬は、何も言わずに門を開けて外へと出ていった。
置いていかれては堪らないと、和麻は疲れた身体に鞭打って後に続く。外では厳馬が、分家の者に終わった旨を告げていた。
「終わった。後の手続きをしておけ」
恭しく頭を下げる分家を余所に、厳馬は車に向けて歩き出す。分家の男は慌てて車へと先回りし、扉を開けて厳馬が車に乗り込んだことを確認すると、扉を閉めて電話を掛け始める。
先ほどの案内役の男に連絡するためだろう。その合間に車へと乗り込みひと息つく。この日は訓練もなく一日を終えた。
悪霊の一件から明くる日。和麻は気を練るやり方について簡単に厳馬から教わっていた。
厳馬のできるのが当たり前という言い方に、言い返したくなるところを我慢してやり方を教わる。余計なことを言って、折角の機会を台無しにしたくはなかった。
気を習得するのに、結局は長い期間を要した。元々、やり方も分からなければ、その存在もあやふやなものだったのだ。それをいきなり覚えろというのには無理がある。
習得できたのも、組手を交えた実践形式で、身体に対して直に気を宿した拳を叩き込まれる……という訓練を延々と繰り返した結果だった。ある意味、自分の命が掛かっていたのだ。覚えなければ、死……とまでは言わないまでも、簡単に吹き飛ばされ意識を失ってしまう。軽い拳にも関わらず、だ。
意識を失っては水を掛けられて起こされ、組手という一方的な攻撃を受けては意識を失う。最終的に時間になると終わるが、気を習得するまでそれは延々と続いたのだ。通常の神経であれば耐えられない。
習得してからは、それを交えた組手が行われる。それまでと違うのは、今までゆったりとした動きだったのに対して、その速度が徐々に上がってきたことだろう。最終的には、足払いを避けていた時の速度まで達していた。それで速度の限界ではないのだろうが、ある程度の満足を得たのか、神凪の屋敷で執り行われる訓練自体はそこで終わりを迎える。
但し、訓練が終わったわけではなく、内容が本番に近い実践へと変わっただけだが……。
弱い悪霊や妖魔であれば、気を用いた戦闘により、時間を掛けることで辛うじて倒すことができた。気が有るのと無いのとでは雲泥の差である。もし、始めの祓いの仕事の時に使えていれば、恐らく一人で滅することも可能だっただろう。
(もしかして、以前のやつなら使えていたのか?)
もし、を考え出せば限はないが、そう言うことであれば、あの時の厳馬の言葉も頷ける。
「気とはそのままの意味。気の持ちようで全てが変わるといっても過言ではない。それは精霊術を用いる上でも一緒だ」
気合いだけでなんとかなるのであれば苦労はしないと、その時の自分は思っていた。今ならば違う。もっと使えるようになるような……ためになる話を聞かせろと叫びたいところだ。
結局は感覚的に覚えるしかないため、厳馬の言っていることも間違いではないのだが……。
そして訓練自体も文句があった。わざわざこのような危険なやり方で覚える必要もない。近道ではあったが……。
そうして日々実践にて和麻の戦い方は磨かれていく。気は有限であるため、周囲のもので利用できるものは何でも利用する。そうすることで徐々に鍛えられていった。神凪の炎が使えぬままに……。