ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
2-1
カズヤがルクシオールに赴任してから六日後。
各宙域に在る中継地点や惑星が保有している軍から送られて来た赤い『紋章機』に関する情報と、『ゴースト』に関する分析が終わった事で、ブリーフィングルームでは会議が開かれる事になった。
既にカズヤを含めたエンジェル隊の面々は席に座り、司令官で在るレスターが来るのを待っていた。
そしてブリーフィングルームの扉が開き、レスターが入室して来る。
ーーーブゥン!
「待たせたな」
入室したレスターはエンジェル隊の面々が揃っているのを確認する。
ゆっくりと自らが座る位置に移動するが、レスターは座る事無く立ったまま全員の顔を見回すと共に口を開く。
「今日集まって貰ったのは言うまでも無く、先日襲撃して来た襲撃犯の身元が判明した事と、『ゴースト』に関する説明の為だ。待たせて悪かったな、カズヤ」
「いえ、大丈夫です」
「そうか……では、話を始める。先ずは武装艦に乗ってルクシオールを襲撃して来た犯人についてだが…かなり有名な人物だと言う事が分かった」
「どんな人なんですか?」
そうリコが質問すると、レスターは手元のコンソールを操作する。
すると、モニターに先日ルクシオールを襲ったアニスの画像が展開される。
「名前は『アニス・アジート』。トレジャーハンターの仕事をしているらしいが、同時に海賊狩りも行なっていたらしい」
「では~、この前にルクシオールに通信をして来た時の言葉は~」
「…カルーアが考えているとおり、本気で言っていたと言う訳だ。頭痛がするような事実だがな」
レスターは額に手をやりながら溜め息を吐き、カズヤ達も乾いた笑みを浮かべるしか無かった。
てっきり挑発の類か何かでアニスは言って来たのだとレスターは考えていたのだが、実は全て本気で言っていた可能性が出て来たのだ。今でも思い出すだけで頭痛がして来るような気持ちを抑えながら、レスターは話を再開する。
「話は戻すが、『
「『紋章機』の力ですね?」
「あぁ…カズヤの考えている通り、アニス・アジートは『紋章機』を使って海賊退治を行なっていたようだ。有名さでは『ゴースト』以上に有名だが、『
「どう言う意味なのだ?」
「簡単だ。アニス・アジートが生業としていた仕事の大半が『
現在の『
その調査によって現在ルクシオールに在る『紋章機』も各惑星から発見されている。アニスの乗る『紋章機』もまた、ロストテクノロジーの一つ。そしてアニスが生業としているトレジャーハンターとしての行ないは、『
「こんな辺境に居たのも、軍から逃げ延びた海賊を狙っての事だろう」
「あの…アニスさんはどうなるんでしょうか? 流石に軍の船である、ルクシオールを狙った訳ですから」
「…今までの功績とルクシオール自体に被害が無かった事も在るから情状酌量の余地は在るかも知れんが、流石に事情聴取は免れん」
流石に勘違いで軍の船を襲ってしまったでは済まされない。
乗っていた『紋章機』を何処で手に入れたかも聞く必要が在る。取り合えずアニスを発見したら事情を聞くようにとだけは、レスターは各方面に打診した。遠からずアニスの件に関しては解決するだろうとその場に全員が考える。
「…さて、アニス・アジートに関しては此処までだ。次は全員が最も気になっている『ゴースト』に関してだ」
(遂に来た!)
ずっと気になっていた事が遂に話される事に気がついたカズヤは、より真剣さに満ちた顔をしながら居住まいを正す。
何故『
『ゴースト』に対する謎を少しでも知る為に、カズヤは真剣さに満ちた顔をしながらレスターの説明に耳を傾ける。
「先ずはカズヤが一番気になっているだろう、『
「あの黒い穴のようなモノに『ゴースト』が消えたのですか?」
「そうだ……これは極秘事項に分類される事だから他言は絶対にするな。もしも誰かに許可無く話せば厳罰処分どころか、軍法会議に掛けられるぞ」
(ぐ、軍法会議ぃー!? そ、そんなにまで!? だから皆教えてくれなかったのか!?)
カズヤは、どうして自分よりも『ゴースト』に関する事を知っている筈のエンジェル隊の面々が話してくれなかったのか納得した。
同時にこれからレスターが語る事は本当に重大な事実で在る事もカズヤは理解する。そしてレスターもカズヤ同様に真剣さに満ちた顔をして説明を続ける。
「『ゴースト』が使用した移動法は、俺達が使用している長距離宇宙移動法である『クロノ・ドライブ』と全く違う移動法だと言う事は既に理解しているだろう?」
「はい。『クロノ・ドライブ』だったら、ドライブ反応が出る筈なのに『ゴースト』が移動する時は出てませんでしたし」
「そうだ。あの移動法が『クロノ・ドライブ』と同じ長距離宇宙移動ならば問題は無かった。ただの技術の違いで済んでいた筈だった。だが、違った……『ゴースト』が使用した移動法。アレは”平行宇宙間での移動すら可能とする方法”だと判明しているんだ」
「…えっ? …ええぇぇーーーー!!!!!」
知らされた事実にカズヤは驚愕に満ちた叫びを上げ、同意するようにエンジェル隊の面々は神妙な顔をしながら頷く。
そしてレスターは手元のコンソールを操作し、モニターに三つの円のような者が出現する。
左の円の中央には『
「通常『
モニター画面に映る『
「だが、『ゴースト』は『
新たに『
「今の図は『ゴースト』の平行宇宙間での移動法を簡単に説明したモノだ」
「ちょっと待って下さい! 今の話が本当だとしたら『ゴースト』は『
「あぁ、奴は『
そうしてレスターはゆっくりと語り出す。一番最初に『
《トランスバール暦414年》
その年は『
『アナザースペース』からシャープシューターを帰還させる術を探している最中に、六百年前は多次元文明で物資のやり取りが行なわれていた事が『
そして『クロノゲート』を開く事が出来る人物が、『ムーンエンジェル隊』に所属しているミルフィーユ・桜葉で在る事も調査によって判明した。その結果、本当に平行宇宙が存在しているのかを確かめる為に、ミルフィーユに寄る『クロノゲート』の起動が行なわれた。
「そろそろ時間ね」
『クロノゲート』起動の瞬間を見る為に、『エルシオール』に乗って経過を監視していたノアは真剣な面持ちでモニターを見ていた。
モニター画面には『クロノゲート』に向かって接近するラッキースターが映し出され、それを護るように他の『紋章機』が周囲を経過していた。これまでの調査結果で必ず成功する事は判明しているが、何かしらの不足の事態が起きる事も考えられるので逐一情報はエルシオールに送られて来ている。
ノアはその情報を自身の横でコンソールを操作して整理しているちとせに目を向ける。集中しているのかちとせは真剣さに満ちた顔で送られて来るデータを整理して行く。
『アナザースペース』に現状行く手段が無い今、ちとせは平行宇宙に方法を賭けた。シャープシュータは修復不可能だと告げられ、『
幸いにもちとせはパイロットとしてだけではなく、他の面でも優秀な成績を出しているのでノアも快くちとせを助手として受け入れた。ノア自身も出来る事ならばタクトを『アナザースペース』から助け出したと考えている。
だからこそ、その切欠になるかもしれない今回の『クロノゲート』起動を誰もが固唾を呑んで見守っていた。それは現場に居る『ムーンエンジェル隊』の面々を含め、エルシオールのブリッジに居る誰もが思っている事だった。
そしてブリッジに居る誰もが固唾を呑んでモニターを見つめていると、ラッキースターが接近すると共に『クロノゲート』が反応し、ゲートの中心に光が発生する。発生した光は徐々に広がって行き、遂に『クロノゲート』は六百年の時を超えて平行宇宙への扉を開いた。
「『クロノゲート』起動を確認! ラッキースター及び周辺への異常は観測出来ません!」
「報告ご苦労様。それじゃ司令官? 『クロノゲート』の内部に突入するわよ。ライブラリの情報だと、あの先には『
「分かった。エンジェル隊及びエルシオール! 『クロノゲート』内部に前進だ!」
現エルシオールの艦長であるレスターが号令を発すると共に、ラッキスターを先頭にして各『紋章機』が移動を開始し、エルシオールも『クロノゲート』へと前進する。
これから向かう未知の世界に誰もが固唾を呑む。しかし、その覚悟を遮るように突如としてブリッジ内部に接近警報が鳴り響く。
ーーーピコン!!
「あっ!」
「どうした、ココ?」
「『クロノゲート』に向かって高速で接近する機影の反応を確認しました!」
「何だと? 映像は出せるか?」
「はい。最大望遠で捉えていますので、モニターに映します」
レスターの指示に従ってココはコンソールを操作して、全員の目がモニターに移ると共に接近する機影の姿が映し出される。
『ッ!?』
モニターに映し出された機影の姿に、ブリッジ内部に居る誰もが息を呑んだ。
『クロノゲート』に向かって接近する機体。それは今、『クロノゲート』のすぐ傍に待機している『紋章機』と同じ形状をしていた。機体のカラーはダークブルー。武装は両脚部にそれぞれ大口径の大型ロングバレルレールガンが右側に、左側には中型レーザー砲が装備されている。更に両翼部分には小型のミサイルポットが装着されていた。
だが、武装以外は間違いなく『ムーンエンジェル隊』が乗る『紋章機』とその全てが一致している機体だった。
「馬鹿な!? 『紋章機』だと!?」
「えぇ、形状は間違いなく『紋章機』ね。でも、『白き月』ではあんな『紋章機』は発見されていないわ」
「だったら、アレは一体? ……取り合えず、何故此処に来たのか知る必要が在るな。アルモ、あの『紋章機』と通信が繋がるか調べてくれ」
「了解です」
レスターの指示に従ってアルモはコンソールを操作し、接近する『紋章機』らしき機体と通信を試みる。
だが、アルモが幾ら呼び掛けても『紋章機』らしき機体とは通信が繋がらず、ただ真っ直ぐに『クロノゲート』に向かって前進し続ける。
「駄目です! 此方の呼びかけに答えてくれません」
「チッ! こんな重大な時に……仕方が無い! エンジェル隊に連絡! 『クロノゲート』に接近する『紋章機』らしき機体に接近して対処を…」
「待って下さい!」
レスターの指示を遮るように突然ココが声を上げ、全員の視線がココへと集まると、ココは信じられないモノを見つけたかのように震えながら報告を行なう。
「あの『紋章機』らしき機体のスキャンをしたんですが…生命反応が出てないんです。あの機体は無人機です!」
「何だと!?」
「無人機ですって!? ちとせ! 『クロノゲート』の観測に使っていたセンサーを使用して、今の報告が本当かどうか調べて!」
「は、はい!」
ノアが発した指示をちとせはすぐに実行し、『紋章機』らしき機体をスキャンする。
その結果判明したのは、ココが告げた事が正しかった事を示す表示だった。
「ノ、ノアさん。…ココさんが言っている事は事実です。あの『紋章機』は無人です!」
「……ノア? 覚えが在るか?」
「『紋章機』に似た無人機……そんなの私は知らないわ。第一『紋章機』は『白き月』が考えた機体よ。『黒き月』が前に作った機体は『紋章機』と形状が違う機体だし」
「ならば、アレは一体? ……こうして居ても分からんか。フォルテと通信を繋げ!」
「は、はい! 此方エルシオール! フォルテさん、応答をお願いします!」
ーーーブゥン!
ココが呼びかけると共にメインモニターにフォルテが映し出された。
『此方フォルテ・シュトーレン。こっちでも確認したけど、ありゃなんだい? 『
「あぁ、そうだ。此方のスキャン結果であの機体は無人で在る事が判明したところだ」
『『紋章機』に似た無人機って訳かい?』
「どうやらそうらしい。今のところ此方に対して何もして来ていないが、『クロノゲート』の起動と共に現れたところから防衛機構の可能性も在る。接触には充分に警戒して当たってくれ。最悪の場合は撃墜も視野に入れて構わない」
『…了解したよ。これよりエンジェル隊は接近する『紋章機』に似た機体に接触を図る』
「頼んだぞ」
ーーーブゥン!
レスターが言い終えると共にモニター画面からフォルテが消え、変わりに『クロノゲート』に接近する『紋章機』に似た機体の映像が映し出されたのだった。
「んじゃ、皆聞いていたね」
四番機ハッピートリガーに乗りながらフォルテが呼びかけると、モニターに映っているそれぞれの『紋章機』に乗っているエンジェル隊の面々が真剣な顔で頷いた。
「相手はどうやら無人機らしい。『クロノゲート』の起動と共に現れたところから防衛機構の可能性が高い。接触には充分注意してあたりな」
『了解よ、フォルテさん!』
『はい、分かりました!』
『『紋章機』に似た機体…気になりますわね』
『敵対して来ないのが一番です』
ランファ、ミルフィーユ、ミント、ヴァニラはそれぞれ呟きながら、自らが乗る機体を操作してゆっくりと『紋章機』に似た無人機に接近する。
映像から見たところ、相手の武装は遠距離から中距離を主に戦う事に装備されている。近距離の武装はバルカン砲だけしかなく、近距離には弱いとフォルテは判断し、ランファに呼びかける。
「ランファ。先ずはアンタが接近してみな。相手の武装から見てカンフーファイターとは相性が悪そうだからね」
ランファの乗るカンフーファイターは『紋章機』中で随一のスピードを誇り、近接戦闘が出来る機体。
故にカンフーファイターならば例え相手が攻撃して来たとしても、持ち前のスピードを活かして懐に飛び込む事が出来る。フォルテが発した指示にランファは頷き、他の『紋章機』を追い越して相手の機体に接近する。
「さぁ~て、アンタが何なのか知らないけれど、私達の邪魔をするなら容赦しないわよ!」
カンフーファイターは真っ直ぐに無人機に接近し、何が在っても即座に対応出来るに集中する。
真っ直ぐに相手側は接近し続け、ランファが訝しげに顔を歪めた瞬間、接近していた機体が突如として宇宙空間に溶け込むように消え去る。
「えっ!?」
消えた機体にランファは慌ててセンサーを確認するが、何も反応を示して居なかった。
「ちょっと! どう言う事!?」
『落ち着きな! ランファ! ミント、何か反応は無いのかい!?』
フォルテは慌てるランファを落ち着かせるように叫ぶと、即座に偵察が得意な機体である三番機トリックマスターに乗っているミントに声を掛けた。
「…レーダーに反応は在りません。本当に突然に消えたとか思えませんわ」
『トリックマスターでも捉えられないって言うのかい!? だったら何処に!?』
『フォルテさん! 上の方を見て下さい!!』
ミルフィーユの呼びかけに全員が上の方に目を向けてみると、悠々と消えた筈の機体がレーダーに反応を写さずに飛んでいた。
『なっ!? 何時の間にあたしらの上に!?』
「いえ、フォルテさん。それよりも今のあの機体の反応がレーダーに出ていませんわ」
『此方でも同じです。こうしてモニターに映っている姿だけでしか確認は…あっ!』
ヴァニラが乗るハーベスターが旋回して追い駆けようとしたと同時に、再び『紋章機』に似た無人機はヴァニラ達の目の前から消え去った。
しかし、今度は逆にレーダーの方に反応が映り、まるで何かを確かめるように辺りを動き回っていた。
「……どうやらあの機体。ステルス能力を有しているようですわね」
『…ミントの言うとおりだね。さしずめ自分の性能テストの為にあたしらで遊んでいるってところかね?』
『舐めたまねしてくれるわ。あたし達でテストですって…覚悟は出来ているんでしょうね!!』
ランファの言葉に答えるように再び『紋章機』に似た無人機は姿を現した。
即座にエンジェル隊、そしてエルシオールは今度こそ相手を見逃さないというようにレーダーとセンサーを起動させる。この場に在る全てのセンサーが無人機に向いていた。
再び消える前に捕まえると思いながら全ての目が無人機に集まった瞬間、無人機の前方の宇宙空間が歪む。
「…なんだい、ありゃ?」
『空間が歪んでいる?』
『ちょっと、何が起こるの?』
フォルテ、ミント、ランファは目の前で起きようとしている現象が分からず、困惑した声を上げた。
ミルフィーユ、ヴァニラも不安そうに歪んだ空間を見つめていると、歪みは空間に罅を作り上げ、黒く輝く穴が出現した。
『ッ!?』
『まさか!? あの穴は!?』
エルシオールから状況を見ていたノアは、無人機が発生させたと思わしき穴を目撃して叫んだ。
その場に居る誰もが似たような黒く輝く穴を目撃した事が在るのだ。まさかと言う思いに誰もが取られた瞬間、出来なかった無人機との通信が繋がる。
《『
男とも女とも判別出来ない合成音が通信機から発せられると共に、無人機は黒く輝く穴へと飛び込み消え去った。誰もが無人機と穴が消え去った空間を見つめ、言葉が出せなかった。
先ほど無人機が発生させたと思わしき黒い穴。その穴を彼らも造り上げた事が在った。
最初にエルシオールに乗るノアが我に返り、慌ててデータを収集していたちとせのコンソールを操作して、自らの判断が間違っていないかを確認し始める。誰もが固唾を呑んでノアの言葉を待っていると、ゆっくりとノアが呟く。
「……これって…やっぱり……」
「何か分かったのか? ノア」
「…あの無人機が発生した穴は…データを見る限り…『アナザースペース』に繋がっている可能性が在るわ……信じられない事だけどね」
『………………』
告げられた情報に誰もが言葉を出せなかった。行く事は現状では不可能だと判断されていた『アナザースペース』への道。其処に辿り着く術が突然現れた事態に言葉が出せなかったのだった。
「と言うのが、『ゴースト』と俺達が一番最初に接触した時に起きた出来事だ」
四年前の出来事を語り終えたレスターは一息吐きながら、カズヤ、リコ、ナノナノ、カルーアの顔を見回した。
「…え~と…『
「い~え~、それでは可笑しい点がありますわよ~、カズヤさん」
「えっ?」
突然カルーアから声を掛けられたカズヤは、疑問に満ちた視線をカルーアに向けた。
「だって~、『ゴースト』が『
「あっ! そう言えばそうだ」
カルーアの指摘にカズヤは納得したように頷いた。
『ゴースト』が『
集まって来る情報にカズヤが納得していると、レスターが更なる情報を伝える。
「更に言えば『ゴースト』は惑星セルダールでも一度だけ、その姿を捉えている。これは『
レスターがそう良いながら手元のコンソールを操作すると、モニターに映像が映し出された。
『
必死になって『ゴースト』に当てようと放たれる艦砲は、容易く最小限の動きに寄って回避され、逆に『ゴースト』が放つ攻撃は正確に相手の武装を破壊して行く。人が乗っている場所には攻撃していないが、寧ろ一思いに沈めた方が楽になれるだろうと言えるのが『ゴースト』の戦い方だった。
カズヤは今見ている映像と、先日接触した『ゴースト』が本当に同一機なのか疑問を覚える。前回の時に『ゴースト』は攻撃らしい攻撃を行なわなかったが、本格的に戦う時になった時には映像に映る『ゴースト』と戦わなければならないのかもしれないと、カズヤを含めたエンジェル隊全員の背中に冷や汗が流れる。
「この映像と『
「はい…(そうか、だから、ちとせさんはあの時に『ゴースト』の事を呟いていたのか)」
カズヤは何故ちとせがパーティーの時に『ゴースト』の存在を呟いたのか納得出来た。
もしも『ゴースト』を捕縛し、『
リコもその事が在って『ゴースト』の力を望んでいた。そしてカズヤはどうして『
『ゴースト』が持つ移動法は現状では『
今のところは『ゴースト』は『
「これが『ゴースト』を『
「……納得出来ました。どうして『ゴースト』を追っているのか良く……だけど、司令? 司令はこの前僕に『俺の親友の安否を知る為に』って、言っていましたけど…アレはどう言う意味なんですか? 差し支えなければ教えて欲しいんですけど?」
「……『ゴースト』がどう言う理論で平行宇宙を渡っているのか正確なところは分からん。だが、『ゴースト』が発生させる穴の先に在る空間の名称は分かっている。俺達は其処を『アナザースペース』と呼んでいる」
「『アナザースペース』?」
「時間も空間も無い空間らしいが、詳細は不明だ。だが、本当に時間も空間も関係ない世界だとすれば、『ゴースト』が『
そう告げるレスターの顔には僅かな悲しさと後悔が浮かんでいた。
あの時にレスターがちとせを、そして親友であるタクトを送り出した判断は間違っていない。二人が行かなければ、再び宇宙は未曾有の災害に襲われていたのだから。だが、それでもやはりタクトが戻って来れなかった事はレスターに後悔を抱かせていた。
「……一度目に開いた時に『アナザースペース』には二人の人物が飲み込まれた。一人は今ルクシオールに居るちとせだ」
「ちとせさんが!?」
「あぁ…そしてもう一人が俺の親友であり、『
「じゃぁ、タクト・マイヤーズさんは殉職したんじゃなくて?」
「『アナザースペース』で生死不明と言うのが真実だ…(実際のところは死亡している可能性が高いのだがな)」
カズヤにはまだ話していない事実、『アナザースペース』内部に存在する謎の勢力『ウィル』の事が脳裏に過ぎったレスターは内心で苦い想いを抱く。
『アナザースペース』は確かに時間も空間も関係ない世界。実際に行った事が在るちとせの証言に寄れば、辿り着いてから一日時間は経っていなかった。レスター達の感覚からすれば数ヶ月も経過していたにも関わらず。だが、タクトは負傷を負っている。更に言えば『ウィル』がどのような連中なのかも分からない。死亡している可能性は高いが、生きている可能性も在る。
ちとせやレスター達はその僅かな可能性に賭ける為に『ゴースト』を追っているのだ。
「……さて、これで『ゴースト』に関する説明だ。次はこれからのルクシオールの行動について説明する」
「これからどうするんですか? やっぱり、このまま『ゴースト』の捜索を行なうんですか?」
「リコの質問は最もだが、現状のルクシオールの備品状況を考えたところ、一度『
「それじゃ、『ゴースト』の捜索は一度止めるのだ?」
「あぁ、既に『ゴースト』はこの宙域には居ないだろう。奴の目的は今だ不明だが、自分を狙っている連中が居る場所に何時までも居るとは思えんからな…エンジェル隊は別命が在るまでは通常通りにしていて構わん。では、会議は終わりだ」
『了解(です~)(なのだ)』
会議が終わり、リコ、ナノナノ、カルーアはブリーフィングルームから出て行く。
カズヤもそれに続こうとするが、ブリーフィングルームから出る前にレスターが呼び止める。
「待てカズヤ。すまないが、俺と一緒に艦長室に来てくれ。お前に渡しておきたいものが在る」
「? 分かりました…(何だろう? 僕に渡したいモノって?)」
疑問を覚えながらもカズヤはレスターと共にブリーフィングルームから出て、艦長室へと向かうのだった。
次回レスターがカズヤに渡す物は、原作で出たものです。
誤字などがあればご報告お願いします。
出来るだけ早急に修正いたします。