ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
戦闘終了後、カズヤ達はレスターの指示に従ってルクシオールの格納庫へと帰還した。
四人とも自らが乗っていた機体から降り立ち、先ほど起きた出来事に難しげな表情を浮かべている。海賊と思っていた赤毛の少女が『
カズヤは難しそうに顔を歪めながら、同じように難しげな顔をして考え込んでいるテキーラに質問する。
「…ねぇ、テキーラ? 最後の『ゴースト』が消えた事だけど、もしかして『魔法』って事は?」
「無いわね。消える瞬間にも魔力は感じられなかったし…第一に魔法の発動の気配を感じていたら、私が即座に注意を発していたわ」
「そうだよね」
「……ただね」
「うん?」
何かを思い悩むような声を発したテキーラにカズヤが首を傾げる。
「……『ゴースト』……アレは多分危ない存在だと思うの。シラナミは感じていなかったようだけど、アイツを追い駆けている時に、何か得体の知れない雰囲気を感じたわ」
「…私もです」
「ナノナノもなのだ。何て言えば良いのか分からないのだけど……怖く感じたのだ」
「怖く? …桜庭さんも?」
「…は、はい。私、『ゴースト』の前を先行していて、まるで観察するかのような気配を背後から感じていたんです……無機質で、殆ど感情が感じられない視線で見られているような」
「う~ん…僕は何も感じなかったんだけど…どうしてだろう?」
同じように『ゴースト』に対してアプローチを仕掛けたのに、アプリコット、ナノナノ、テキーラが受けた印象を感じなかったカズヤは更に首を傾げる。
そのカズヤに対してアプリコットがカズヤが乗っているブレイブハートと、自分達が乗っている『紋章機』の一番の違いを考えて言葉を発する。
「多分ですけど、シラナミさんが乗っているブレイブハートには『
「『
「『紋章機』が『ゴースト』を警戒?」
「そっ……あくまで仮説だけどね。それよりもそろそろブリッジに行って報告しましょう。司令官さんも帰還報告を待っていると思うわよ」
「あっ! そうだね。すぐにブリッジに向かおう」
テキーラの指摘にカズヤは頷き、急いでブリッジに向かおうとする。
だが、ブリッジへの直通エレベーターにカズヤ達が辿り着く前に、整備員の服を来た壮年のガタイの良い男性がカズヤ達を呼び止める。
「おう、ちょっと待ちな!」
「あっ! 班長さん!」
呼び止めた人物が整備班の班長を務めている『クロワ・ブロート』だと気がついたアプリコットが振り返った。
クロワはゆっくりとカズヤ達に近づき、アプリコットに何らかのデータが入った電子機器を手渡す。
「ブリッジに行くならコイツをちとせの嬢ちゃんに渡しておいてくれ。今回のブレイブハートの戦闘データが入っているやつだ」
「はい。分かりました」
「頼んだぜ……それと、新入り」
「は、はい!」
声を掛けられたカズヤは緊張しながらも返事を返した。
クロワはカズヤの顔を真っ直ぐに見つめるが、すぐさま楽しげに顔を歪めてカズヤの背中を叩く。
ーーーパン!
「おめえさん、初の実戦にしちゃ中々やるじゃねぇか!」
「あ、ありがとうございます!」
「何か機体の事で異変を感じたら、すぐに俺達整備班に伝えな。バッチリ整備してやるからよぉ!」
「はい! 宜しくお願いします!」
「んじゃ、リコ。ちとせの嬢ちゃんに頼むぜ!」
「はい! 必ず届けます!」
クロワはアプリコットの返事に笑みを浮かべながら頷くと共に、ブレイブハートと『紋章機』の調整を行なっている他の整備班の下へと戻って行った。
カズヤ達は直通エレベーターに乗り込み、ブリッジへと辿り着く。
ブリッジの中は先ほどの戦闘での検証で忙しいのか、慌しい気配に満ちていた。その中でレスターは艦長席に座り、オペレーター達から送られて来るデータに逐一目を通していた。カズヤ達はレスターにゆっくりと近づき、艦長席の傍で立ち止まり敬礼を行なう。
「『ルーンエンジェル隊』!! 帰還しました!」
「あぁ、戦闘はご苦労だった。今丁度戦闘記録をある程度取り纏め終わったところだ」
「もう、終わったんですか?」
「まぁな。『ゴースト』との戦闘は全て記録しながら解析を行なっていたからな」
レスターはそう言いながら、自らのオペレーター席で少しでも『ゴースト』に関するデータを得ようと解析を続けているちとせに僅かに視線を向ける。
アプリコット、ナノナノ、テキーラはレスターの視線が何処に向いたのかを悟り、気まずそうに表情を歪めた。ちとせがどれだけ『ゴースト』に対して執着しているのか、三人とも理解しているからこそだった。唯一事情が分かっていないカズヤは疑問の表情を浮かべる。
すると、ゆっくりとレスターが四人の顔を見回し、カズヤとアプリコットに最初に声を掛ける。
「カズヤ、リコ。武装艦との戦闘は見事だった。初めての合体だったにも関わらず、コンビネーションは出来ていたぞ。特にカズヤは初の実戦で在りながら、緊張せずに行動出来ていたようだな。おかげでクロスキャリバーのエネルギーを思っていたよりも消費せずに済んでいた。良くやったぞ」
「は、はい! ありがとうございます!」
「シラナミさんのサポートのおかげですよ」
「……だが、武装艦から『紋章機』が現れた後の行動は別だ。二人して同時に固まってしまった事で危うく相手に攻撃されそうになった。流石に『紋章機』が現れるなどと予測出来なかったせいだろうが、それでも今後は注意しろ。一歩間違えば、お前達二人ともあそこで撃墜されていた可能性も在るんだからな」
「あっ……はい、すいませんでした」
「……申し訳ありません」
レスターの言いたい事を悟ったカズヤとアプリコットは顔を僅かに俯かせた。
『ゴースト』の介入で助かったが、アニスが乗るレリックレイダーは必殺技を放とうとしていた。『紋章機』の必殺技がどれほど強力なのか知っているカズヤとアプリコットは、レスターの言葉に同意するしか無かった。
厳しい表情で二人をレスターは見つめるが、フッと表情を柔らかくして話し掛ける。
「まぁ、今後は注意してくれれば良い。俺達もあの『紋章機』には驚いたからな」
「やっぱり、あの赤い機体は『紋章機』だったの?」
「あぁ、テキーラの言うとおりだ。アレは『
「と言う事は、五番目の『紋章機』と言う事になるのだ?」
「そう言う事だ。あの『紋章機』とそのパイロットに関しては調査する事になるだろう。だが、それ以上に問題なのは『ゴースト』の方だ」
その言葉にカズヤ達の顔は無意識に引き締まり、真剣な表情でレスターを見つめる。
「……『ゴースト』に関しては逃げられはしたが、ペイントが付いた事は良かった。アレは特殊な溶液を使わなければ消える事は無いからな」
「つまり…今まではステルスのせいで発見出来なかった『ゴースト』が、今回の件で付着したペイントのおかげ発見し易く成った訳ですね」
「カズヤの言うとおりだ。とは言ったものの、『ゴースト』にはステルス以外にもう一つ、最後に見せた『クロノ・ドライブ』とは違う移動法が在るからな。やはり容易には捕捉出来ないだろう」
「何か移動法に関しては分からないんでしょうか?」
「今は調査途中だ。憶測で話す事は出来ない」
推測は出来ているが『ゴースト』に関しては機密に分類される情報も在るので、レスターはある程度の調査が終わってからしか、カズヤ達には話せなかった。
カズヤには後で『
「『ゴースト』に関しては後日、カズヤに『
「分かりました」
「はい」
「ゆっくり休ませて貰うのだ!」
「んじゃ、そろそろ戻りますか」
レスターの言葉にそれぞれが頷きながら返事を返し、最後に答えたテキーラが言い終えると共にその体は光に包まれた。
光が消えた後にはテキーラではなく、何時もの姿であるカルーアの姿が在った。元に戻った事でカルーアは目を瞬かせていたが、すぐに柔らかい笑みを浮かべる。
「戦闘が終わったみたいですね~」
「はい、終わりましたよ、カルーアさん」
「ハァ~、こうして何度見ても人が姿形を変えるのには信じられん」
「あっ! やっぱり司令も最初は驚いたんですか?」
「あぁ…俺は占いや魔法とは一切信じていなかったからな…『
現実主義者のレスターからすれば、魔法とは御伽噺や眉唾物でしか無いと思っていた。
その魔法が現実に存在している事を知り、『ルーンエンジェル隊』に魔女が入隊すると聞いた時の衝撃は人生においてベスト10以内に入るほどのモノだった。
カズヤとレスターが雑談を行なっている間に、アプリコットは真剣な表情でコンソールを操作しているちとせに近寄ってクロワに渡された機器を差し出す。
「はい、ちとせさん。クロワ班長からブレイブハートの戦闘データだそうです」
「ありがとうございます、リコちゃん」
差し出されたデータをちとせは受け取り、即座に自らのコンソールに繋げて操作し出す。
「ブレイブハートの実戦投入は初めてですから、貴重なデータになります」
ちとせのルクシオールでの仕事には、『ブレイブハート』の機動データ及び戦闘データの収集及び調査も在る。
『ブレイブハート』は他の『紋章機』とは違い、六百年前に作成された『ブレイブハート計画』と言う設計図から現代で造り上げた機体。それ故に不具合が無いかどうかの調査もカズヤの派遣が告げられた時にノアからちとせは受けていた。リコから渡されたデータをちとせは注意深く見つめ、クロスキャリバーとスペルキャスターとの合体では不具合は出ていない事を確認する。
「……問題は無いようですね。でも、今回だけでは判断出来ませんし、クロワ班長には今後もデータをお願いしないと」
「分かりました。班長にはそう伝えておきますね」
「お願いします」
柔らかな笑みを浮かべるちとせの姿に、アプリコットは内心で漠然とした不安を感じる。
ちとせが『ゴースト』に対して深い執着心を抱いている事はアプリコットも理解している。とある事情でアプリコットも、出来る事ならば『ゴースト』には力を貸して欲しいと願っている。だが、先ほどの『ゴースト』との接触で不安を抱いた。
『ゴースト』には自分達が知らない何か途轍もない秘密が在る。クロスキャリバーだけではなく、ファーストエイダー、スペルキャスターが警告を発するほどの秘密なのだから、その秘密はきっとちとせにとって良くない事なのではないのかとアプリコットは考えていた。
(でも……ちとせさんに取っては『ゴースト』さんが本当に最後の希望…私が『ゴースト』さんに力を貸して欲しいと願っていたのとは違う)
「? …リコちゃん? 顔色が悪いですけど、どうかしましたか?」
「いえ、何でもないです!」
様子が可笑しいアプリコットを心配したちとせに、慌ててアプリコットは答えた。
その様子にちとせは首を傾げてアプリコットを見つめるが、アプリコットは曖昧な笑みを浮かべるだけだった。すると、レスターがアプリコットに近寄って来て話し掛ける。
「そうだ、リコ。今日行なわれる予定だったカズヤの歓迎パーティだが、準備の方はどうなっているんだ?」
「あっ! そう言えば戦闘の方で忙しくて忘れていました。すぐにランティさんに確認して来ますね!」
「えっ! 僕の歓迎パーティー!?」
話を聞いていたカズヤは思わず叫び、レスターはゆっくりとカズヤに向かって振り返る。
「あぁ。今日お前が来る事が決まってから計画されていた催しだ。最初は『エンジェル隊』内だけの催し程度だったんだが、他の乗員も知って盛大にやる事になったんだ……これを俺が知った時は、今も昔も『エンジェル隊』はやはり変わらんと思ったぞ」
「フフッ、そう言わないで下さい、クールダラス司令。親睦も深めるには良い事です。私も先輩方と本格的に仲良くなれたのはピクニックをしてからでしたし」
「あぁ、分かってる…だが、もちろんお前にも出席して貰うぞ、ちとせ。『ゴースト』の情報を寄り調べたいだろうが、それとは別の話だからな」
「…はい。出席はしますから安心して下さい」
(素直に聞いてくれたか。フォルテの説教だけではなく、『ゴースト』が明確に自分が求める存在だと分かったからだろうな)
レスターはちとせがパーティーに出席してくれる事を内心で安堵した。
今回行なわれるパーティーはもちろんカズヤの歓迎も在るが、同時にちとせに少しでも栄養を取って貰い、体調を良くする事も含まれている。気を抜けば本当に倒れるまでに研究を続けてしまうちとせ。
これで仕事に影響が出ていればレスターも司令として注意出来るのだが、ちとせの場合は与えられた仕事以上の事もやり通してしまうので注意は余り出来なかったのだ。
今回の『ゴースト』との接触で、少しは自分の体調に対する気遣いも戻って欲しいと内心でレスターが願っていると、恐る恐るカズヤが声を掛けて来る。
「あの~」
「何だ、カズヤ?」
「…歓迎してくれるのは本当に嬉しいんですけど、僕からも何かお礼がしたいので、パーティーに出すスィーツを作っても良いでしょうか?」
「お前が? ……あぁ、そう言えばお前はパティシエを目指していたと資料に書かれていたな」
「はい。皆と少しでも親睦を深めたいですから…駄目でしょうか?」
「…お前を歓迎する為のパーティーなんだが……まぁ、食堂のコックが赦せば構わんぞ」
「ありがとうございます!」
了承を貰えたカズヤはレスターに向かって頭を下げた。
すると、アプリコット、ナノナノ、カルーアが楽しそうに笑みを浮かべながらカズヤに近寄って来る。
「シラナミさんがお菓子を作ってくれるんですか! 楽しみです!」
「ナノナノも楽しみなのだ! クッキーとか作れるのだ?」
「うん!」
「あらあら~、これはパーティーの楽しみが増えましたわ~、それじゃ~、私もナノちゃんのようにリクエストをしても大丈夫でしょうか~」
「構わないよ、カルーア。桜庭さんも何かリクエストが在ったら言って良いよ」
「そうですか、それじゃぁ…」
アプリコット、ナノナノ、カルーアは楽しげにカズヤにリクエストを告げて行く。
その様子をレスターは、意味深な瞳でアプリコット達と楽しそうに話しているカズヤを見つめるのだった。
三時間後の食堂室。其処には多くのクルーが集まり、これから始まる歓迎パーティーが開始されるのを今か今かと待っていた。
既にルクシオールは長距離宇宙移動である『クロノ・ドライブ』へと移行しているので襲撃などに襲われる心配は無く、ブリッジの乗員も最小限の人数を除いて集まっている。そして歓迎パーティーの開始を告げる為に、代表としてレスターが手にコップを持ちながら立ち上がる。
「…それでは、今日よりルクシオールの一員となったカズヤ・シラナミの着任を祝って、乾杯!」
『かんぱーーい!!』
レスターがコップを掲げると共に食堂に居た全員がコップを掲げて、カズヤの事を祝した。
祝されたカズヤはレスターの横で頭を下げる。それと共にそれぞれの場所で食事が開始された。
パーティーの形式は立食式なので、賑わいながら楽しそうに食事を取っている。中でも主賓で在るカズヤが作ったお菓子には注目は集まり、多くの者達がその味に絶賛していた。もちろんその中にはカズヤにお菓子のリクエストを頼んだエンジェル隊の面々の姿も在った。
「うわ~、このフルーツケーキ、美味しいです!」
「クッキーも美味しいのだ!!」
「えぇ~、本当に美味しいですわ~。こんなに美味しいお菓子を作れるなんて、カズヤさんは凄いですわね~」
アプリコット、ナノナノ、カルーアもカズヤの作ったお菓子を絶賛する。
それを聞いたカズヤは嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。やはり自分が作った物を喜んで食べて貰えるのは嬉しい事だった。頑張って作ったかいが在ったとカズヤが内心で喜んでいると、食事をよそった皿を持っているちとせとココが近づいて来る。
「すいません。一緒に相席させて貰って良いでしょうか?」
「あっ! はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「ありがとう、カズヤ君」
許可を貰ったちとせとココは椅子に座り、手に持っていたお皿をテーブルの上に置く。
ちとせは椅子に座って真っ直ぐにカズヤを見つめると、改めて自己紹介を行なう。
「改めて自己紹介をさせて頂きます。ルクシオールに『白き月』から派遣されている烏丸ちとせ大尉です。戦闘の時などは敵の解析を主に行なっています。今後とも宜しくお願いします」
「本日付けで『ルーンエンジェル隊』の一員になったカズヤ・シラナミです。此方こそ宜しくお願いします」
「えぇ…カズヤ君と呼んで構いませんか?」
「はい、構いませんよ」
「先ほどの戦闘は見事でした。初陣であれだけ戦えて、ブレイブハートと他の『紋章機』との再合体もスムーズに行なえたのは素晴らしかったです」
「ありがとうございます!」
賞賛してくれたちとせにカズヤは嬉しそうに頭を下げた。
ちとせとココはその様子を微笑ましげに見つめ、ココはテーブルに持って来ていたカズヤが作ったお菓子を口に含む。
「アムッ……本当に美味しいわね。これって、もしかしたらミルフィーさんに匹敵するかも知れないわ」
「ミルフィー……もしかしてミルフィーユ・桜葉さんの事ですか?」
「えぇ、そう…」
「はい! お姉ちゃんです!」
ココの言葉を遮るように、突然にアプリコットが興奮しながら割り込んで来た。
何時もの気弱で真面目な様子が見えないアプリコットにカズヤは面を食らうが、すぐにアプリコットの言葉の意味を理解して驚く。
「お姉ちゃんって……そう言えば苗字が同じ…もしかしてミルフィーユさんって、桜葉さんの!?」
「あっ! シラナミさん。私の事はリコで良いですよ。皆からそう呼ばれてますし」
今更ながら自分が桜葉と呼ばれ続けていた事に気がついたアプリコット-以降『リコ』-は、カズヤにそう告げた。
「う、うん……それでミルフィーユさんがお姉ちゃんって事は、やっぱり桜葉、じゃなくてリコのお姉さんなの?」
「はい! お姉ちゃんは『ゲートキーパー』でお菓子作りが上手で、優しくて格好良くて可愛くて優しくて笑顔がステキで、世界で一番のお姉ちゃんなんです!!」
「アハハハッ、リコはお姉ちゃんが大好きなんだね?」
「大好きです!! お姉ちゃんは良く私がお勉強をしている時に休憩しようっておやつのケーキを焼いてくれたんです。その時以外にも美味しいケーキを作ってくれるんですけど……」
元気だったリコの喜色満面だった笑顔と声は徐々に萎んで行き、遂には声から力が失われて行った。
その様子にカズヤが疑問を覚えるが、事情が分かっているちとせ達はリコ同様に僅かに顔を暗くしながら、ココがカズヤに事情を説明する。
「ミルフィーユさんは、今は『
「今のところ、『
「あっ…(そうか。それでリコに元気が無くなったんだ)」
今のところ『セントラルグロウブ』の機器を操作出来るのは、ミルフィーユしか発見されていない。
『
「ミルフィー先輩以外に、『ゲートキーパー』の素養が在る人物を捜索しているのですけど」
「今のところ発見されていないの。何とかミルフィーユさんにも自由を上げたいのだけどね」
「……その為にも『ゴースト』の力が必要なんです」
(ん? どうしてちとせさんは『ゴースト』の事を言ったんだ?)
今の話に繋がらない言葉を発したちとせにカズヤは疑問に満ちた表情を向ける。
自らに向けられている視線に気がついたちとせは、曖昧にカズヤに微笑み返すと共に話を戻す為に口を開く。
「リコちゃんは本当にミルフィー先輩と仲良い姉妹なんですよ。ミルフィー先輩もリコちゃんの事をプライベートの時には良く話してくれていましたから……そう言えばカズヤ君がエンジェル隊に入隊する切っ掛けを作ったのもミルフィー先輩なんです」
「…それは知りませんでしたよ。僕が入隊する事になったのは殆ど偶然でしたし」
「その偶然を呼んだのがミルフィー先輩なんです。ミルフィー先輩は強運の方ですから」
「そうよ、カズヤ君。ミルフィーユさんが十枚のコインを同時に投げるとね、十枚全部表や裏で揃うなんて当然なんだから」
「えぇーー!! それは凄いですね! 普通だったらバラバラになる筈なのに!?」
「えぇ、だからミルフィー先輩に選ばれたカズヤ君には何か在るかも知れないと言う事で入隊の合格通知が発行されたんです」
「そうだったんですか…(僕の入隊にリコのお姉さんが関わっていたなんて…何か運命のようなものを感じちゃうな)」
そうカズヤは内心で呟きながら食事を取っていると、突然リコがハッとしたような顔になり、カズヤの顔を見つめる。
「あっ! 分かりました! シラナミさんはお姉ちゃんに似てるんだ!! 雰囲気とお砂糖の匂いとかが!!」
「えっ?」
突然突拍子も無い事を叫んだリコに、カズヤだけではなく話を聞いていたエンジェル隊面々に、ちとせとココも目を見開いて首を傾げる。
「ミルフィー先輩にカズヤ君が?」
「う~ん…私はそう思えないけど…強いて言えばお菓子作りぐらいじゃ無いかしら」
ミルフィーユの事を良く知っているちとせとココは、リコが言う似ていると言う場所が殆ど見出せなかった。
天真爛漫を地で行っているミルフィーユに対して、カズヤは真面目な性格をしている。強運も持っている気配は無く、ココが言うとおり共通点はお菓子作りが上手いぐらいしか見出せなかった。しかし、妹であるリコは何かを感じたのか、カズヤの傍によって思わず手を握ってしまう。
「きっと、お姉ちゃんがシラナミさんを選んだのは、雰囲気が似ている人だったからですよ!」
ーーーギュッ!
『……えっ?』
リコがカズヤの手を握っている事に気がついた面々は、思わず呆気に取られた表情を浮かべた。
男性恐怖症であるリコが男性に触れた場合、その相手は小柄な体格をしているリコからは考えられない怪力が発揮され、投げ飛ばされてしまう。しかし、今リコがカズヤの手を握っているにも関わらず、リコは普通に接している。
「あらあら~、リコちゃん? 男性恐怖症が治りましたの~?」
「…へっ?」
カルーアの指摘にリコは漸く自分がカズヤの手を握っている事実に気がついた。
「…えぇーー!! 何で私! シラナミさんの手を握っても平気なんでしょうか!?」
「いや…僕に聞かれても…」
「原因は分かりませんが、これでリコちゃんの男性恐怖症が治る見込みが出来たかも知れませんね…(私と違って)」
ちとせは困惑しながら話しているカズヤとリコを微笑ましげに見つめていたが、フッと自らの手に険しい視線を向けた。しかし、すぐに表情を戻して新しいエンジェル隊とカズヤを微笑ましげに眺めながら食事を再開するのだった。
「……時は来た…今こそ全てを取り戻し、『唯一神』として君臨する時…『
何処とも知れない場所で平和を壊そうとする者は動き始めていた。今宇宙に新たな戦いが起ころうとしている。それによって起きる結末を知る者は、まだ誰も居ないのだった。
《第一章『新入隊員』終了・第二章『事態急変』に続く》
次回から第二章突入です。