ギャラクシーエンジェルⅡ ~失われた英雄と心に傷を負った天使~ 作:ゼクス
幾つかのキャラの立ち位置が変わっています。
ルクシオールの艦長に関しては悩みましたが、敵が敵なので彼に今のところはしました。
1-1
『
宇宙は無数に存在し、互いに交わらないように存在している。
トランスバール暦414年にその事実が判明した後、『
その後の調査結果の後、『クロノゲート』の先には別の平行宇宙に存在している事が判明したのだ。
そして調査を継続した結果『クロノゲート』の先には宇宙同士を繋ぐ場所が在った。その場所は、『
それによって他の平行宇宙への行き来も可能となり、こうして宇宙は新たな時代を迎えた。だが、平行宇宙への行き来を可能とする『
ーーージリリリリリリッ!!
「………ん?」
鳴り響く目覚まし音に机の上に頭と体を乗せて眠っていた腰まで届く長い黒髪の女性は目を覚まし、ゆっくりと体を起こしながら机から落ちている目覚まし時計に手を伸ばす。
ーーーカチッ!
「……また、調べている途中で眠ってしまったんですね」
此処数年ずっと続いて起き方に女性は苦笑を浮かべて、机の上に載っている資料に目を向ける。
どうやら眠りにつく前に調べていた事は終えていたのか、其処には女性が望む結果が記されていた。
「………やっぱり、先輩方から送られて来た情報をまとめると、この宙域内に現れる可能性が高い……この辺りにはまだ、海賊が出没すると言う情報も在りますし……でも、『
女性の顔には隠し切れない不安が浮かんでいた。
今のところ唯一自分が最も望んでいる願いを叶える事が出来る存在が、遠く離れようとしている事を漠然と女性は悟っていた。その存在を知ってから今日に至るまで、女性はずっと追い続けた。だが、幾ら追っても追いつけず、まるで会いたくないと言うようにその存在は女性の前から離れて行く。
胸中に浮かぶ不安と恐怖を振り払うように女性は顔を横に振るい、ゆっくりと立ち上がる。
「……そう言えば今日はフォルテさんが新しい新入隊員を連れて来る日。急いで身嗜みを整えないと!」
今日の予定を思い出した女性は、すぐさま部屋に備わっているバスルームへと移動した。
数年前からは考えられないが、此処数年の間はきちんとしていた女性の生活リズムはかなり崩れていた。調べ物をしていて途中で眠ってしまうのは日常茶飯事。食事をするのも忘れて研究に没頭する事は当たり前。そのせいで倒れた事は何度も在った。
その度に医者からは注意され、女性の先輩達からは怒られた。だが、それでも女性は止まれなかった。止まってしまったら、もう其処で居なくなった大切な人と永久に会えなくなるような強迫観念を女性は感じているのだ。
バスルームで身嗜みを整えた女性はすぐさま部屋の中に置いてある鑑の前に座り、濡れた髪の毛を整える。整え終えると共に支給された制服を身に纏い部屋から出ようとするが、フッと机の方に振り返って敬礼を行なう。
「烏丸ちとせ。行って参ります……タクトさん」
そうちとせが敬礼した机の上には、四年前に『
漆黒の宇宙の海を移動する巨大な戦艦の艦影が在った。
全長が1000メートルに達するのでは無いかと思われるその巨大戦艦は、『
その最新鋭艦に接近するシャトルの姿が一機在った。
「ウワァ~……教官? アレが噂のルクシオールですか?」
シャトルの窓からルクシオールを目撃した小柄で女性的な優しい顔立ち少年-『カズヤ・シラナミ』は、ルクシオールの大きさに驚きながら横に座っている軍服を纏い、軍帽を被った赤い髪の女性-『フォルテ・シュトーレン』-に質問した。
そのカズヤの様子にフォルテは苦笑を浮かべながら頷く。
「そうだよ。で、アンタの仕事場さ」
「じゃ、あそこに僕が入隊するエンジェル隊が居るんですね?」
「正確に言えば『ルーンエンジェル隊』さ。『エンジェル隊』って言う『
「は、はい!」
「良いかい。これからは『エンジェル隊』って言ったら、アンタが配属される『ルーンエンジェル隊』だって言われるようにしなよ。今のところ、『ルーンエンジェル隊』の知名度なんて、フォルテ・シュトーレンが教習を施した部隊って言う程度だ。だけど、それじゃ駄目だよ。“フォルテ・シュトーレンはルーンエンジェル隊の教官だった”なんて言われる様になりなよ」
「はい! 分かりました!」
「良し! 良い返事だよ! 期待しているからね!」
元気なカズヤの返答にフォルテは緩ませながら、カズヤの頭を撫でた。
カズヤは在る意味特殊過ぎる事情が在って、急遽ムーンエンジェル隊に入隊する事になった初の男性隊員。其処に至るまでの経緯も、本来ならば普通は在り得ないと断言するような経緯なのだが、とある理由でフォルテ達はその経緯が納得出来た。だからこそ、フォルテが直々に鍛え、今は『
この様子ならばルーンエンジェル隊のメンバーとも早く仲良くなれるとフォルテが考えていると、フッとルクシオールに居る人物の顔が脳裏に過ぎった。
「あぁ、そうそう……言い忘れていたけど、ルクシオールにはあたし以外の元ムーンエンジェル隊の隊員が居るんだよ」
「えっ? 誰ですか?」
「……『烏丸ちとせ』って言う名前の隊員さ。今は『白き月』の技術者で、ルクシオールに派遣されているんだよ…(表向きは)」
ちとせがルクシオールに派遣されている本当の理由を知っているフォルテは、内心で苦い思い抱く。
四年前に『アナザースペース』から帰還した後から、ちとせは変わった。そうなった経緯を知っているフォルテは、ちとせが目的を果たすまで止まらない事を嫌と言うほどに理解していた。
(……タクト……今のちとせを見たらアンタは……後悔するかい? ……もし生きていて帰って来れたら、そん時は覚悟しときなよ……あたしら全員でたこ殴りにしてやるからね)
フォルテは隣に座っているカズヤに悟られないようにしながら、自らが認めた最高の指揮官だった男に向かって内心で宣言するのだった。
そのままシャトルは何事も無くルクシオールに着艦し、格納庫内に入っていった。
カズヤとフォルテがシャトルから降りると共に、二人を出迎えるように男性と少女がシャトルへと歩いて来た。
男性の方は銀髪で右眼をメカニカルなアイパッチで隠し、厳格そうな雰囲気を発していた。逆に少女の方は優しげな雰囲気を発しているオレンジ色の髪の毛に両側に付いている髪飾りが似合っていた。初めて会う人物達にカズヤは緊張するが、フォルテは親しげに話しかける。
「久しぶりだね、二人とも」
「あぁ、久しぶりだな、フォルテ」
「お久しぶりです、フォルテ教官」
フォルテが差し出した右手を男性は握り返し、少女の方は嬉しそうに笑いながら頭を下げた。
男性はゆっくりとカズヤの方に目を向けて、自身の自己紹介を行なう。
「レスター・クールダラスだ。階級は大佐で、このルクシオールの艦長を勤めている。それでこっちが…」
「『アプリコット・
「カズヤ・シラナミ少尉です。“RA-000 ブレイブハート”のパイロットとして、ルクシオールに配属されました。よ、宜しくお願いします!!」
緊張で体が固くなりながらも、カズヤはレスターとアプリコットに挨拶を返した。
その姿にレスターは苦笑を浮かべながら、カズヤの肩に手を置く。
ーーーポン!
「そう緊張するな。新米だから緊張するのは分かるが、余り固くなり過ぎたら実戦での戦いに影響が出る。緊張感は適度に持つようにしておけ」
「は、はい!」
「お前が乗る『ブレイブハート』は『ルーンエンジェル隊』にとって重要な機体だ。期待してるぞ」
「はい! 精一杯頑張らせて貰います!」
「良い返事だ」
カズヤの返事にレスターは満足そうに笑いながら、再びフォルテに顔を向ける。
「それじゃ、レスター。カズヤの事は宜しく頼むよ」
「あぁ、存分に扱き使ってやるから安心しておけ」
「えぇっ!?」
レスターの発言にカズヤは声を上げた。
その様子にアプリコットは苦笑を浮かべながら近づき、カズヤを安心させるように語り掛ける。
「大丈夫ですよ、シラナミさん。レスターさんは厳しいですけれど、優しい人ですから」
「そ、そうなんだ……あれ?」
「どうかしましたか?」
「い、いや……レスターさんって? …上官をそう言う風に呼んで良いのかなって思って?」
「この艦では緊急時以外は今のリコのような接し方で構わん……ハァ~、と言うか『エンジェル隊』が居る艦だと、一般的な軍の船のような雰囲気では力が発揮出来んのだ」
「まぁ、そうだね。あたしらの時もそうだったし」
「こうして『エンジェル隊』の司令官になって良く分かった……アイツは最初からその辺りの事を理解していたんだろうな」
「それ以外にも自分が楽しむ事も在っただろうさねぇ」
「おかげで俺がどれだけ苦労を抱え込まされた事か」
(アイツって? ……一体誰の事だろう?)
レスターとフォルテの間だけで通じている会話にカズヤは疑問を覚えてアプリコットに視線を向ける。
向けられたアプリコットも二人の会話に出て来る人物が分からないのか、困惑したようにカズヤに視線を向けていた。昔話が始まりそうな雰囲気なり始めた事にカズヤとアプリコットがどうしたものかと悩んでいると、足音が近づいて来る。
「遅れてすいません!」
「あっ! ちとせさん!」
嬉しそうなアプリコットの様子に、カズヤは声が聞こえて来た方に顔を向ける。
其処には腰まで届くほどに長い黒髪を赤いリボンで結んだ女性-『烏丸ちとせ』-が走って来ていた。ちとせはアプリコットとカズヤの前で立ち止まり、荒い息を落ち着かせるように息を吐く。
「ハァ、ハァ、ハァ、ご、ごめんなさい。ちょっと頭に思い浮かんだ方法をノートに書いていたら、時間が経っていて、本当にすいません!」
(この人がフォルテ教官と同じ元『ムーンエンジェル隊』の烏丸ちとせさん! 綺麗な人だな……だけど、何か悲しそうに見えるんだけど)
僅かにちとせが発する雰囲気を察したカズヤは困惑したように見つめる。
すると、先ほどまで話していたレスターとフォルテの会話がピタリと止まり、フォルテは厳しい眼差しをちとせに向けていた。
「…………」
「お、お久しぶりです、フォルテさん」
「……また、痩せたね、ちとせ。それに化粧で隠しているけど、顔色もあんまり良くないね?」
「数日前に仕事が終わった後に廊下で倒れていた。幸い心配して後を追っていたココが発見したので大事には至らなかったが、モルデン先生から極度の過労だと診断されたそうだ」
「ク、クールダラス司令」
フォルテに知られたくない事を話されたちとせは、非難するような視線をレスターに向けるが、フォルテは構わずにちとせの腕を掴む。
「ちょっと来な!」
「フォ、フォルテさん!?」
「こうなっていると思って、少しだけ早めに来たんだよ。レスター、ちょっとちとせを借りるよ?」
「あぁ、構わんぞ。その為に今日のちとせの仕事は新入隊員の案内だけにしておいたからな。少しばかりフォルテに灸をすえて貰って来い」
そうレスターは厳しい眼差しをちとせに向けながら告げ、フォルテはちとせを引っ張りながらルクシオール内に消えて行った。
突然の事態にカズヤは口をポカンと開けて呆然とするが、ちとせの普段の勤務や生活内容を知っているアプリコットは頷いていた。
「ちとせさん。これで自分の体の事を気遣ってくれたら良いんですけど」
「……難しいだろうな……」
(一体何なんだろう? この暗い雰囲気は? 教官の様子も可笑しかったし…ちとせさんには何か在るんだろうか?)
何処と無くしんみりとした雰囲気を感じたカズヤは、事情が分からずに首を傾げる。
それを見咎めたレスターは雰囲気を変えるように首を振るい、次にアプリコットに体を向ける。
「さて、リコ。お前は当初の予定通り、シラナミに艦内を案内してやれ」
「はい、レスターさん」
「それじゃ、俺は仕事に戻る。またな、シラナミ。それと案内が終わったらブリッジにリコと一緒に来てくれ。渡す物が在るからな」
「は、はい!」
カズヤはレスターに返事を返した。
そのままレスターは格納庫を歩いて行き、残されたカズヤとアプリコットは顔を見合わせる。
「それじゃ行きましょうか、シラナミさん」
「う、うん」
アプリコットの微笑みにカズヤは顔を僅かに赤くしながら頷き、ルクシオールの艦内に向かって歩き出すのだった。
ルクシオールから少し離れた場所の宙域。
その宙域を航行する一隻の艦艇が進んでいた。その艦艇は『
その艦艇を操縦するアラビア風の衣服を着ている赤毛の少女-『アニス・アジート』-は、注意深くレーダーを見つめていた。そしてレーダーの一点に反応が現れる。
ーーーピコン! ピコン!
「よっしゃあ! 久々の反応だぜ! ……『
アニスはそう呟くと共に艦の操舵を操縦し、レーダーに映った反応が在る方向へと艦を向ける。
「……それにしてもこんな辺境の地方に大型艦の反応が現れるなんて、思っても見なかったぜ。まぁ、多分『
アニスは艦の操舵を操作しながら、艦の格納庫に収められている自らの愛機の事を考える。
性能に関しては今操っている艦などとは比べ物にならず、『
それはそれで良いのだが、アニスの懐事情にとっては大打撃を食らってしまった。『
少しでも懐事情を良くする為にアニスは艦の速度を上げようとする。しかし、フッとレーダーに目を向けて異常を発見する。
「ん? ……何だこりゃ?」
アニスが見つめるレーダーには、発見した大型艦の反応以外にもう一つの反応が出ていた。
其処までならばアニスは驚かない。だが、今出ている反応は何かが可笑しかった。明滅を反応は繰り返し、アニスが乗る艦に向かって来ている。敵かと判断してアニスは敵の姿を捉えようと艦に付いているモニターに姿を映し出そうとするが、レーダーに反応が出ているにも関わらずモニターには何も映らなかった。
「……ど、どうなっていやがるんだ?」
何も漆黒の宇宙以外に何も映らないモニター画面に、アニスは困惑しながら改めてレーダーに目を向ける。
すると、レーダーには既に艦の目の前までに反応が近づいて来ているが示されていた。にも関わらず何も姿を見つけられない事にアニスが恐怖を感じた瞬間、先ほどまで確かに在った反応が突如としてレーダーから消失する。
「……消えやがった……もしかして今のが……『ゴースト』なんじゃねぇだろうな?」
『ゴースト』。それは『
しかし、それだけの功績を残しながらその姿は確認される事が殆ど無く、突然レーダーに反応が現れたり消失する事から何時の頃からか、『
「……こりゃ、一応何か在った時の為に相棒の用意をしといた方が良いな。『ゴースト』の正体が何のか知らねぇけど、相棒なら負ける事はねぇ筈だ」
アニスはそう呟きながら、艦を自動操縦に設定して格納庫に仕舞っている愛機の準備を行なう為に格納庫へと急ぐのだった。
《『RA-005』を確認…及び同宙域に『RA-001』、『RA-003』、『RA-004』の反応を確認……戦闘の可能性を確認……このまま監視を継続する》
(う~ん。これで『
《不明……現状捜索していないのは、『
(……いや、悪いんだけど、暫らくはセルダール辺りに居たいんだ…何かキナ臭そうな匂いがするからさぁ)
《不許可……本機の目的とは一致せず………本機の乗り手を迎える事で要求の承認を推考する》
(……それはもっと認められない。俺は確かに協力する事を了承したけれど、彼女を巻き込まない事が前提だった筈だ。それが駄目だったら俺を排除して新しい誰かを迎えれば良い。出来るならね)
《………推考の結果、要求を承認する》
(…ありがとう…)
本来ならば自らをどうする事も出来る存在が、自らの要求を了承してくれた事を感謝した。
四年ほどの付き合いでは在るが、最初の頃は一方的に相手側は要求だけを述べて来た。其処を何とか上手く立ち回り、自分が望むような方向へと進めるように成れた。元々心理戦には長けていた事が助かった。
更に言えば相手側も今受け入れている相手よりも、新たに受け入れる存在が劣る可能性が在る事を危惧しているからこそ要求を呑んだのだ。
(………会えないよなぁ、やっぱり……ゴメンよ)
遠く離れた位置に存在するルクシオールへと向かうアニスが乗る艦を、宇宙の闇に紛れながら追跡するのだった。
最後に出て来た存在については何れ詳細を書きます。
まぁ、誰なのかは分かると思いますけど。